戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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37話 《フロンティア》

 

 

「……っ……」

 

目が覚めるとまず目に入るのは見覚えのある天井。 どうやら律はまたこの病室のお世話になってしまったようだ。

 

加えて体がとても重く感じ、律は力を振り絞りながらゆっくりと起き上がる。

 

「一体何が……確か、俺は……」

 

『◼️◼️◼️◼️server Access?』

 

絞るように記憶を思い出す。 あの時、死を間近かにして突然聞こえた電子音……一体自分はこの質問にどう答えたのか、それ以降の記憶がスッポリと抜け落ちていた。

 

ふと、側にあったギアペンダントを手に取ると、

 

「ギアペンダントが……紅く!?」

 

黒かったギアペンダントが赤くなっていた。 本当に何が起きたのか……そう思っていた時、病室に奏が入ってきた。

 

「よお、目が覚めたか」

 

「奏。 一体何があったんだ? 未来に殺されそうになって、それからの記憶が曖昧で……」

 

「それについては旦那たちと集まってから話す。 今は身体を休めるんだ」

 

「そう……いや、そうだ! 調は!?」

 

「あの子は緒川さんが保護した。 ちょっと悪いがギアを押収した上で独房に入れてある。 まあ悪いようにはしねえから安心しろ。 リューツも気になったのか一緒にいるようだし」

 

「そうか……」

 

仕方ないとはいえ、妹が捕虜となり手錠をかけられるのはやはり良い気はしなかった。

 

「あー、それとな。 お前に聞きたい事があるんだが……」

 

「ん、なん——」

 

そう言って奏が突き出したのは……首根っこ掴まれてプラーンと揺れるセレナだった。 思いがけない登場に驚いたが、気を取り直してなんとか誤魔化そうとする。

 

「あ、あーそれねー。 リューツが駄々をこねるから仕方なく持ってきたんだよねー」

 

「こいつさっき廊下で歩いてたぞ」

 

「…………リューツが背中に乗せていたのを勘違いしたんじゃないかな?」

 

「捕まえたら「ギャー食べられるー!」って叫んでたぞ」

 

「………………」

 

「ご、ごめんなさ〜い……」

 

手詰まりになったところでセレナの謝罪が入り完全にアウトとなった。 律はセレナがいつの間にか家に置いてあった日から今日までの経緯を奏に説明した。

 

「なるほどなぁ……どうして動いているのかはともかく、セレナ自身もどうしてそんな姿になったのか分かってねえのか」

 

「はい……それ以外の記憶もまだ断片的にしか思い出せてません」

 

「とはいえ……絶唱、ねえ。 私たちと全く無関係とも言えなさそうだな」

 

シンフォギアの機能の1つである絶唱……装者の負荷を省みずにシンフォギアの力を限界以上に解放する歌。 しかし装者への負荷も生命に危険が及ぶほどに絶大で、響のような例外がいない限り使えないような歌である。

 

ともかく、今重要なのはセレナが絶唱を歌ったことにある。 つまり、セレナも装者だったのか、少なくともシンフォギアに対する関係者だったのは間違いなかった。

 

「全く、もっと早くに行ってくれればやりようはあったのによお。 《フロンティア(あんなの)》が出てきた以上、もう手遅れかもな」

 

「ご、ごめん……セレナにも人には話さないでってお願いされてたし」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

誰にも相談しなかった2人は軽率だったと謝罪すると、別に良いという風に奏は手をヒラヒラさせる。

 

「とはいえセレナ、お前の存在は切り札になり得るだろう」

 

「そ、そうなんですか? ぶっちゃけ私、役に立ちませんよ?」

 

「重要なのはお前という存在だ。 奴らの主力である残り2人の装者を切り崩す事ができれば、残りの戦力はノイズのみ……じゃ、ないか。 ともかく! 少なくともこちらの有利な状況になるだろう」

 

「……言ってることは分かるが、切り込み方がエグいな」

 

「うっせえ」

 

確かにセレナの存在が少なくともマリアの心を動かす事になれば、状況は多かれ少なかれ好転するだろう。

 

とはいえ《フロンティア》という大陸を前にどう戦うか考えていると……唐突にドアが開いた。

 

「………!(コテン)」

 

セレナは一瞬で固まり人形のフリをして奏は自然体の流れでセレナを律の側に起き、続いて病室に未来と友里が入ってきた。

 

「未来! 無事でよかった!」

 

「それはお互い様ですよ、律さん。 本当に良かったです……」

 

「意識もはっきりしているようですね。 本当に無事でよかった」

 

近寄ってきた未来は律の手を取って握りしめ、無事を確認した友里は備え付け受話器で律の様子を連絡する。

 

「そういえば、響は?」

 

「響も無事だよ。 逆に有り余るくらい」

 

「そうなんですか? でも確か響は……」

 

「ええ、無事よ。 加えて響ちゃんの身体を蝕んでいた《ガングニール》も律くんの攻撃で完全に除去されたようなの。 それにあの強すぎるノイズも侵食を遅らせる効果があったようで……制限時間を少しオーバーしても無事だったみたい」

 

「ノイズも悪いことばかりじゃなかったわけだ。 まあ、随分と都合のいい攻撃をしたもんだな」

 

「は、はあ……?」

 

「それと律さん、実は見てほしいものがあって……」

 

自分が響と未来を都合よく救ったと言われ、身に覚えのない律は気の抜けた返事をする。

 

そして未来が言いづらそうにそう言うと、友里が隣に寄って手を差し出し、その手の平には1つのギアペンダントがあった。

 

「このギアは……」

 

「《神獣鏡》です」

 

「え!?」

 

先刻、未来が使っていた《神獣鏡》シンフォギア。 それがどうしてここにあるのか。

 

「さっきも言ったけど、響ちゃんの中から《ガングニール》の破片は完全に除去されたわ。 けど、同じ攻撃を受けたにも関わらずどういうわけかその《神獣鏡》のギアは綺麗に残ったのよ。 この結果からどうして《神獣鏡》だけが残されたのか全く検討がつかないの」

 

「ちぃっとばかし、良い意味でも悪い意味でも厄介なものが転がり込んだな。 これが知られたらまた上から突っつかれるのが目に見える」

 

「あ、あはははー……」

 

実際、完全聖遺物《デュランダル》も不積の担保か何かで国家間の交渉の材料に使われていたり。 《ソロモンの杖》も米国政府から密約で“フィーネ”に譲渡されたりしていたのだ——結局、フィーネの目的に利用されただけに終わり。 今現在もロクな使われ方をしてないが——欠片といえど手に入ったら入ったで困るのだろう。

 

(あ、そういえば回収した《ネフィリム》の亡骸……俺が持ちっぱなしだった)

 

「ともかく。 一度ギアとして纏ったからって今後もそうなる訳じゃない、“LiNKER”込みだった事だしな。 まあ少しばかり検査はする必要はあるがな」

 

「……例え結果がどうであれ。 未来を戦わせるのは反対です。 それは譲れませんよ」

 

「わぁってるよ。 お前も中々愛されてるな」

 

「も、もう奏さん!」

 

キッパリと言い切る律、奏はニヤニヤしながら肘で小突くと未来は顔を真っ赤にする。

 

「そういえば、翼とクリスは?」

 

「……翼は響と旦那たちとで会議中だ。 クリスは……」

 

「……………」

 

クリスがどこにいるのか聞くと……奏は言い淀み、未来は暗い表情になって俯く。 どうやら何かあったようだった。

 

「とにかく動けるのなら来い。 まとめて詳しく説明してやる」

 

「あ、ああ……」

 

少しふらつき、未来の手を借りながらも立ち上がり。 律たちは指令室に向かった。 そこには弦十郎たちと顔にいくつもの絆創膏を貼った響、頭に包帯を巻いている翼がいた。

 

「あ! 律さん! 無事で良かったです!」

 

「お互い様にな」

 

「君たち、まだ安静にしてなきゃいけないじゃないか!」

 

「ごめんなさい……でも、居ても立っても居られなくて」

 

「クリスが居なくなったと聞いて、おみおち寝てもいられませんよ」

 

「……確かに、響くんとクリスくんが抜け、律くんも出撃できないことは、作戦遂行に大きな陰を落としているのだが……」

 

「え、ダメなんですか?」

 

「はい。 律くんの身体の調子もそうですが、それ以外にも容認できない点が多く出撃は許可できません」

 

「むぅ……」

 

緒川の説明を聞くも納得できない律。 身を案じていることは理解できるが、もう少し説明をして欲しかった。

 

「でも、翼さんに大事がなかった本当によかった。 致命傷を全て躱すなんて……流石です」

 

「……………」

 

(……翼?)

 

友里からの賞賛を受けたが、当の翼は腑に落ちないような表情を見せる。

 

「それより弦十郎さん。 一体俺の身に何が起きたのですか? 俺が響と未来を救ったと聞いているんですが全然身に覚えがなくて……」

 

「……うむ。 それは見てもらった方が早いだろう」

 

そう言って映し出されたのは律が未来の一撃を受け、赤いシンフォギアに姿を変えてからの暴走振りを見せられた。

 

余りの滅茶苦茶な好き勝手振りに律は目も当てられなかった。

 

「これって……!」

 

「こちらの測定結果から何らかが原因で《クラウソラス》シンフォギアから《イペタム》シンフォギアに変わった……というのがこちらの結論だ。 暴走も、響くんに似た症例だと思うが……一体何があったんだ?」

 

「……分かりません。 あの時死を覚悟したら、いきなり通信が入って……」

 

「通信だと?」

 

「戦闘時間内で、我々以外に律くんのシンフォギアに通信が入ったログはありませんが……」

 

藤尭はすぐさま履歴を調べるも記録に残ってはいなかった。 他の装者と米軍間にやり取りされた通信も同様に。

 

「とはいえ、これ救ったと言えるのか? 一歩間違えれば俺が響と未来を手にかけてる事になるだろう。 素直に全然喜べないな」

 

「そんな細かいこと気にしなくていいんですよ、律さん!」

 

「はい。 私と響は律さんに救われました。 私はそう信じてます」

 

全然細かくないが、終わりよければ全て良しの2人は結果は気にせず律を励ました。

 

「《フロンティア》の接近はもう間も無くです!」

 

そこで藤尭がそう告げメインモニターに映された《フロンティア》。 映っている部分だけでも氷山の一角、相手にする敵の大きさを文字通り表しているようだ。

 

「あれが《フロンティア》……」

 

「マリアたち《F.I.S》が求めていた新天地……一体何があるってんだ?」

 

「………! フロンティアに動きが!!」

 

《フロンティア》が動き出し、1番高い建造物から発射された3つのエネルギーは天高く、絡み合うように螺旋を描きながら宇宙まで登り……まとまって1つに集約するとエネルギーがヒモのような役割を果たして釣り上がるように《フロンティア》が浮上した。

 

その影響で海流が乱れ、潜水していた二課仮設本部は荒波に揉まれる。

 

「一体、何が!?」

 

「広範囲に渡って海底が隆起! 我々の直下からも迫ってきます!」

 

「それって……!」

 

すると潜水艦は大きな衝撃を受けながら海底に落下、いや衝突した。 まるで海底が上がってぶつかってきたように。

 

「まさか……」

 

「《フロンティア》が浮上してんのか!?」

 

律と奏はこの状況が《フロンティア》が浮上したことを予想する。

 

すると、《フロンティア》近海にいた米軍艦隊の第二陣が《フロンティア》に向けて攻撃を開始した。 だが、余りの質量の差に戦艦の砲撃といえど無力だった。

 

そして《フロンティア》下部の装置が起動、全ての艦隊は重力から解き放たれたような浮上し……強力な圧力をかけられペシャンコに、そして爆発した。

 

「そ、そんな……」

 

「どこのラ◯ュタだよ」

 

「さしずめウェル博士はム◯カ大佐ってとこか。 「見ろ! 人がゴミのようだ!」って叫んでるんじゃないのか?」

 

「………バ◯ス……(ボソッ)」

 

「聞こえてるぞ」

 

「……ジ◯リは専門外だ」

 

「気にするところ、そこですか?」

 

そうこうしている内に潜水艦は海を出て《フロンティア》に上陸した。

 

「下から良いのをもらったみたいだ」

 

「計測結果が出ました!」

 

「直下からの地殻上昇は、奴らが月にアンカーを打ち込む事で——」

 

「《フロンティア》を引き上げた!?」

 

「はい! それだけでなく……」

 

「結論から、月の落下が加速しました!」

 

自分から月の落下から人類を救済すると言っておきながらの奇行振りに、律たちは比喩でも頭痛が起きだす。

 

「月から世界を救うと言っておきながら何考えているんだあの男は?!」

 

「……自分の都合の良い人間だけを生かす、ということなんだろうな」

 

「……私もあの人の甘く優しい言葉に唆されてあんな事になっちゃいましたけど……やっぱり狂ってる……」

 

 

 

もう予断は許さない事態となったため二課もすぐさま作戦行動に移る事になり、ライダースーツを着てヘルメットを持つ翼がいた。

 

「翼、行けるか?」

 

「無論です」

 

「翼さん!」

 

出撃しようとした翼を響が呼び止める。

 

「案ずるな! 1人でステージに立つのは慣れた身だ」

 

「寂しいこと言うねぇ」

 

「なら、早く私のいるステージに戻ってくることだ」

 

「そうだな……考えておく」

 

奏から翼にとって1番の激励をもらい、翼はバイクで出撃しそのまま聖詠を口にする。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

バイクに騎乗したままシンフォギアを身に纏い、ウェルによって放たれたノイズに向かって疾走する。

 

翼はバイクの前方部分に巨大な刃を突出させ、一気にアクセルを回す。

 

【騎刃ノ一閃】

 

バイクの刃で突進しながら刀ですれ違い様にノイズを斬り捨てて進んでいく翼。 相変わらずとんでもないドライブテクである、どうやったら蛇のようにクネクネと走らせる事ができるのだろうか。

 

「流石翼さん!」

 

「こちらの装者はただ1人、この先どう立ち回れば……」

 

「いえ、シンフォギア装者は1人じゃありません」

 

「ギアのない響くんを戦わせるつもりはないからな。 律くんもギアの変質が明らかでない以上、使わせる訳にもいかない」

 

「おい響、まさか……」

 

「はい、そのまさかです!」

 

律と響以外でシンフォギア装者であるのは1人しかいない。

 

そして、呼び出された調と一緒にいたリューツ。 緒川はかけられていた手錠のロックを解除して外した。

 

「捕虜に出撃要請って……どこまで本気なの?」

 

手錠が付けられていた部分を摩りながら調は冗談で言っているのかと質問する。

 

「もちろん全部!」

 

「……あなたのそういう所、好きじゃない。 正しさを振りかざす“偽善者”のあなたが……」

 

「んー……私、自分がやっている事が正しいだなんて思ってないよ」

 

調の率直な物言いに響は困った表情を見せる。

 

「私以前、大きな怪我をした時、家族が喜んでくれると思ってリハビリを頑張ったんだけどね……私が家に帰ってからお母さんもおばあちゃんもずっと暗い顔ばかりしてた。 それでも私は、自分の気持ちだけは偽りたくない。 ……偽ってしまったら、誰とも手を繋げなくなる」

 

「手を繋ぐ……? そんな事本気で?」

 

「だから調ちゃんにもやりたい事をやり遂げてほしい。 もしもそれが私たちと同じ目的なら……少しだけ力を貸してほしいんだ」

 

響は調の手をとりお願いするように握りしめる。

 

「……私の、やりたい事……?」

 

「ガウ!」

 

「やりたい事は、暴走する仲間たちを止める事……でしたよね?」

 

調は響の手を振り解くと律の背に隠れてしまう。

 

「お、おい……」

 

「みんなを助けるためなら手伝ってもいい」

 

背中から少しだけ顔を出しながら答える。 そんな調の頭を律は苦笑いしながらポンポンと撫でる。

 

「やれやれ、俺も言いたいことは全部響に言われちゃったな」

 

「……だけど信じるの? 敵だったんだよ?」

 

「敵とか味方とか言う前に、子どものやりたい事を支えてやれない大人なんて……かっこ悪くて叶わないんだよ」

 

「師匠!!」

 

大人の許可ももらい、最後に調は腰を落として足元にいたリューツに問いかける。

 

「あなたも、そう思うの?」

 

「ガウ!」

 

そうだ、と言う風に元気よく鳴く。 心が決まり、調は立ち上がりながら頷いた。 そして弦十郎は押収していた《シュルシャガナ》のギアペンダントを調に返した。

 

「こいつは可能性だ」

 

「……相変わらずなのね」

 

「それが旦那の……いや、この二課の良いところさ」

 

「甘いのは分かってる。 性分さ……——ん?」

 

(調?)

 

まるで以前から弦十郎のことを知っている言い方だったが、その前に響は調の手を取る。

 

「ハッチまで案内してあげる!」

 

「あ……」

 

「急ごう!」

 

「待て! お前は——」

 

引き止めようと手を伸ばしたが、その前に響が半ば強引に調の手を引きながら階下に降りていった。

 

「律さん? どうかしたんですか?」

 

「いや、ちょっとな……ん? ちょっと待て、もしかして響……」

 

「……かも、しれねぇなあ……」

 

律と未来、奏は響が案内したことにある疑問を抱き、ほぼ同じ予想をする。 その予感はすぐに的中する……ハッチから出ていった調の背に響が同乗していた。

 

「あーー……」

 

「やっぱり……」

 

「何をやってる!? 響くんを戦わせるつもりはないと言ったはずだ!」

 

『戦いじゃありません! 人助けです!』

 

「減らず口をうまい映画など、見せた覚えはないぞ!?」

 

「行かせてあげてください。 人助けは——1番響らしい事ですから」

 

「趣味とも言ってましたしね。 元々の性分、映画の影響じゃない……あれが《立花 響》なんです」

 

人助けをするのが立花 響なのだ……そう言われて弦十郎は苦笑する。

 

「……こういう無理無茶無謀は、本来俺の役目だったはずなんだがな」

 

「あたしもな」

 

「弦十郎さんに奏さんも?」

 

「まあぶっちゃけ言えば、未来も含めた全員だがな」

 

「ええっ!?」

 

「帰ったらお灸ですか?」

 

「特大のをくれてやる! だから俺たちは!」

 

「バックアップは任せてください!」

 

「私たちのやれる事でサポートします!」

 

「子どもばかりに良い格好させてたまるか……!」

 

弦十郎は拳を鳴らしながら気合を入れた。 今の一連を翼に連絡した。

 

『了解です。 ただちに合流します』

 

捕虜を出撃させたりギアもないのに着いて行ったりと、突拍子のない報告に翼は苦笑しながら了解し通信を切る。

 

「このまま何事もなければいいが……」

 

「奴さんがそれを許してくれるかねぇ?」

 

「あの博士が暇じゃなければな」

 

「……! 前方に第二波ノイズ軍、進行してきます!」

 

言うな否や、ノイズの集団が二課に向けて進行してきた。 翼が撃ち漏らすとは思わないので、恐らく別ルートから進行してきたのだろう。

 

「くっ! やはり防ぐ術がない事を見抜かれているか……!」

 

「まあ予想できた展開だが……行けるか?」

 

「問題なし!」

 

奏の質問に即答する。 もう二課に装者がおらず、ノイズが進行してきた以上出張らずにはいられない。

 

「……分かった。 だが無理はするなよ」

 

「補償はしかねます」

 

「律さん、どうか気をつけて……」

 

「ああ」

 

彼我の戦力差も明らか、無茶しなければ先ず勝てない相手だろう。 律は手をヒラヒラさせながらその場を後にし、潜水艦から《フロンティア》に降り立ち迫ってくるノイズを見据える。

 

「さて、どうなることやら……」

 

ピンッと赤くなったギアペンダントを指で上に弾き、落下してきたのを掴みながら構える。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️」

 

以前のように完全にノイズだらけの聖詠を口にし、シンフォギアを身に纏う。 それは黒ではなく赤……《イペタム》のシンフォギアを装着した。

 

「これが……《イペタム》のシンフォギア……」

 

両手を上げ感覚を確かめながら身体を見回す。 《クラウソラス》と違って全体的に重鈍な感じで、あまり素早く動けなさそうと思った。

 

その間にも第二陣のノイズが接近。 律は右腕を上げると意志に反応して自動で腕部一体型の大砲となり、大きめの光弾を発射すると着弾と同時に破裂、一気にノイズを倒した。

 

「お、おおー……!」

 

余りの威力に感嘆の声を上げる律。 クリスはいつもこんな感じで撃ちまくっていたのかと思うと羨ましくなってしまった。

 

続けて両肩のジェネレーターを分離、丸鋸のように回転しながらノイズに向かって左右から挟み込む飛来し直接ノイズに衝突して切り裂き。 切り裂きながら中央によると面の部分を見せながら頭上を取りそこから砲撃を照射、ノイズを薙ぎ払い一層する。

 

「す、凄まじいですね……」

 

「見た目と色もそうですが、戦い方がクリスちゃんの《イチイバル》と似ていますね」

 

「だが、威力も規模も律の方が上だ……」

 

「あの威力の要は恐らくあの背中の装置……色は違うが間違いない。 あの粒子、あれは《クラウソラス》の光……」

 

奏は律の背にあるNドライヴに目をつけ、あれが《クラウソラス》に由来するものだと推測する。

 

そして、律は腕の大砲で攻撃を続けながら移動を開始する。

 

「う、動きにくい……空も飛べないし、性に合わないなぁ……」

 

見た目通りの重鈍なシンフォギア……今まで飛び回っていた律にとってはやり辛くて仕方なかった。

 

(あ。 そういえば映像で見た時は飛ぶまではいかなくても浮いていたような……)

 

そう思い出しながら浮くようなイメージを思い浮かべると……フワッと浮き上がるように足が地面から離れた。

 

「っと……行けそうかな」

 

速度はまだまだ足りないが、徒歩で進むよりはマシだった。

 

「さて、次は謳を試すか!」

 

ノイズもまだまだいる事もあり、試しとして思い浮かんだ謳を紡ぐ。

 

「——()(うてな) けわいに心足らい ()正真(しょうじん)音柄(ねがら)

 

謳い出すと2つのジェネレーターが両肩に戻り、回転を始める。

 

「さしぐみに気取(けど)らんを 心の(ほしきまま)うたく……」

 

謳い続けるのに比例してジェネレーターも徐々に加速、加えて振動し出し、

 

健気(けなげ)(しか)()うた!!」

 

音波の初弦(サーパス・レンジ)

 

両肩のジェネレーターから前方にノイズの衝撃波を放った。 衝撃波は広範囲に広がり、衝撃波に煽られたノイズは吹き飛び一掃した。

 

「ふぅ、問題はなさそう、だけど……」

 

息つく暇もなくノイズの第三波がやってきた。

 

「キリがないな……」

 

ここまで来ると意外にウェルも暇なのかと思い始める。 もう面倒になった律は一気に片付ける事にした。

 

右腕の大砲を構えながら両肩のジェネレーターが正面を向き、両脚部からアンカーが降りると背中のNドライヴから大量に粒子が放出され、3つの砲門にノイズが収束して行く。

 

バイザーに表示されたノイズ圧縮率のメーターが90%を超え、次いでターゲットをロックし、

 

「圧縮ノイズ——解放!!」

 

三葉(ミツバ)大砲(メガキャノン)

 

引き金を引くと……三門の大砲による巨大な赤黒い砲撃が発射され線上のノイズを一掃する。

 

「おおおおおおおっ!?」

 

余りの威力と、反動によりアンカーが降りているにも関わらず大きく後退しながら驚きのあまり声を上げる律。

 

「はぁ、はぁ……」

 

数秒にも満たない砲撃……それだけで律の体力は消耗してしまった。 主にこのシンフォギアに慣れていない事にある。

 

「これが《イペタム》の力……原型留めてないじゃん……」

 

この有様に律は思わずツッコんでしまう。 もはや《妖刀》でもなければ魔喰らいでもない……一体どうやったらこんな力になるのか不思議で仕方なかった。

 

歌やクリスの《イチイバル》の通り、多少は装者の心象によって変化するのは分かっているが……これはあまりにも原型を留めてはいなかった。

 

「ギリギリ刃物と言えば2つのジェネレーター(コレ)くらいだし……なんだか扱いづらいなぁ。 う〜〜ん〜〜……」

 

ペシペシとジェネレーターを叩きながらボヤく律。 このまま使い方も分からずに決戦に向かうのは危険過ぎる……びっくり箱のようで奇襲にはもってこいだがウェル相手となればまだ弱く、律はどうすればいいかと腕を組みながら唸る。

 

「ふぅ、とりあえず移動するか。 弦十郎さーーん、ヘイバーーイク」

 

『君は二輪免許を持ってないだろう……』

 

「ここ日本領土でもないし市有地みたいなものですしてセーフじゃないんですか?」

 

『大人からの観点で言おう、ダメだ』

 

「じゃあタクシーで」

 

『そんなものはない』

 

「ケチ」

 

せっかくなのでバイクに乗ろうとしたがやんわりと断られ顔に似合わず律は拗ねる。

 

「ガウ!」

 

「律!」

 

「お、リューツに奏」

 

と、そこへ潜水艦からリューツと奏が出てきて駆け寄ってきた。

 

「ここは任せたぞ。 みんなを守ってくれ」

 

「ガウ」

 

「あんまり無茶すんなよ、ほれ」

 

そう言いながら手渡されたのは……微動だにしないセレナだった。

 

「連れてくのか?」

 

「切り札を持っていかなきゃ切り札って言わねえよ」

 

律は奏からセレナを受け取り、どうやって持ち運ぼうか悩み……腰に提げる事で落ち着いた。

 

「それじゃあ、行ってくる!」

 

「気をつけろよー!」

 

「ガウゥーー!」

 

奏とリューツに見送られながら律は移動を開始した。 だが《クラウソラス》と違って有効な移動手段はなく、地道に徒歩で進んでいくしかなかった。

 

「うへぇ、またノイズかぁ……あ、そうだ!」

 

しかし、またすぐにノイズの軍勢が現れた。 流石に面倒になった律は何か手がないかと考えて……何かを閃いた。

 

雑音(ノイズ)強襲(パニック)

 

両砲門と展開した脚部から光線が拡散し、ノイズに直撃すると……ノイズ軍は進行方向から反転、ノイズをジャックして操作権を奪い取り《フロンティア》中央に向かって進行を始める。

 

「ふはははは!! いざ、進軍だぁ!!」

 

「……どこの魔王なんだよ……」

 

律は大きめのノイズに飛び乗り、腕を組みながら高笑し腰に提げていたセレナは思わずツッコんだ。

 

「……相変わらずやる事滅茶苦茶だな、あいつ」

 

「ふふ……でも、とっても律さんらしいです」

 

「むぅ、俺も戦国物の映画を見ておけば……」

 

「そう言う問題なのですか、司令?」

 

将軍気分になっている律を見て未来たちは微笑ましそうに笑った。

 

「ちょっと律! 目的ちゃんと分かってるの!?」

 

「分かってるけど、このギアはそんなに早く走れないし……」

 

「何のためにそんな趣味の悪い世紀末みたいな肩パッド付けてるの!?」

 

「これ別にファッションで付けてるんじゃないんだけど!? って……ああ、そうか」

 

そういえば4人の装者の中で1番機動性のないクリスは自分で発射したミサイルに乗って飛んでたりしていたのを思い出す。

 

浮く事自体は出来るので後は推進力……両砲門を後ろに向け、広範囲に拡散するように砲撃を放射すると……律は空に向かって吹っ飛んだ。 その勢いで地上にいたノイズが吹き飛ぶ。

 

「どわあああああっ!?」

 

「きゃあああああっ!?」

 

軽めに放射したはずがかなりの勢いがついてしまい、故障したように縦横無尽にあっちこちに飛び回る。

 

滅茶苦茶に飛び回りながらなんとか放射を止め、徐々に勢いを失い地面に向かって落下する。

 

「わあああっ!? ぶつかるぶつかるぅ!!」

 

「ええっと、防御防御……」

 

「今から考えてるの!?」

 

戦闘を開始してから攻撃一辺倒だったため防御のやり方など分かるはずもなく、手探りで色々試していると、ノイズで構成された球状のバリアフィールドが展開し……律たちは地面を削りながら勢いよく不時着した。

 

「ってて、加減が難しいなぁ……」

 

「し、死ぬかと思った……」

 

2人は横に並んでだらしなく地面に突っ伏してホッと一息つく。

 

「もう律!! あなたってなんでいつもいつもそんな無鉄砲で考えなしなの!!」

 

「ごめんごめん」

 

ご立腹のセレナは起き上がってゲシゲシと律に蹴りを入れるが体格差のせいでこそばゆいだけで全く痛くもなかった。

 

「——お兄、ちゃん?」

 

「そ、それ、なんデスか……?」

 

「「……あ……」」

 

いつの間にか切歌と調が戦っている場面に突っ込んでいたようで、今の一連の会話を見られてしまった。 律は「あははー」と笑いながらセレナの首根っこを掴み……背を向けて逃げ出した。

 

「待って!!」

 

「そのちっこいセレナを説明するデス!!」

 

「ち、ちっこくないやい!!」

 

追われながら律はチラリと背後を、切歌と調を見比べる。 先程の調の違和感……ここに来て切歌にも感じられる。

 

(でもこの感じ……まるで1つだったものが分けられて2人に宿ったような……)

 

「律、追いつかれるよ!」

 

(ああ、もう! どうすればいいんだよ〜!!)

 

律は浮きながら今度は最低出力のブースターで地面をスレスレで滑空しながら逃げる。 最低出力でもかなりの速度を出しており、とにかく良い考えがないかと模索しながら逃げるのだった。

 

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