戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
「待つデェース!!」
「止まって……!」
「そう言われて止まる奴が——あっぶね!?」
2人の戦いに水を差してからセレナを見られ、物理的に追求されるように背後から丸鋸やら鎌やら飛んでくる。
「ちょっと律? どうする気なの?」
「どうもこうも……どうしよう?」
本当は教えるべきなのだが、残念ながら今はそんな時間はない。 しかしこのままでは振り切る事は出来ず悩んでいると、
『——私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ』
突然、通信からマリアの声が聞こえて来た。
「これは……!」
「姉さん!?」
どうやらあのフロンティアの中核から世界中に放送しているようだ。 飛行音と背後から襲ってくる2人のおかげでよく聞こえないが、何やら世界に向けて演説しているように聞こえる。
『——米国国家安全保障局と“パヴァリアの光明結社”と共に月の落下を隠蔽し……』
(パヴァリアの……光明結社?)
サラッととんでもない事を言っているが、この切羽詰まっている状況で推理している余裕も最後まで聞いている余裕もない。
(とにかく、一度整理しないと。 今の俺の目標は….…!?)
自問自答し自分のやるべき事を再確認する。 やらなければ何も残せない切歌と、やってしまえば何も残らない調……この2人の間を取り持つのは不可能、彼女たち自身で解決しなければならない。
次にクリスと翼……翼の目的は明快、この異変を止める事。 ならばクリスは? 裏切ってまで敵に組みするクリスの目的は……?
(答えは、そこに行けばある!)
目標は決まり、とりあえず追いかけてくる2人をどうにかしなければいけない。 であれば、答えは決まった。
「セレナーーーッ!!」
「な、何ーー!?」
「ちょっと覚悟しろーーーッ!!」
有無言わさずセレナの胴体を思いっ切り鷲掴みし、大きく振りかぶって、
「え!? あのちょっと——」
「飛んでけーーーッ!!!」
全力で投げた。
——いぃぃやぁぁぁぁ!!!
セレナは悲鳴を上げながら大きな弧を描いて《フロンティア》中枢に向かって飛んでいった。
「あっ!?」
「セレナが……って、いない……!?」
切歌と調の視線がセレナに向いた隙に、律は全速力でその場から離脱するのであった。
◆ ◆ ◆
響は立ち止まらず、ただひたすらに走っていた。
(誰かが頑張ってる……!)
——……ぁぁぁ……!
(私も負けられない!)
——ぁぁぁ!!
「ん?」
「あああぁぁぁ!!!」
意気込んでいると何が頭上から聞こえて来て、響は振り返ると同時に顔を上げると、
——ゴチーンッ!!!
——ギィィャァァァァーーーッ!!!
鈍い音に続いて、2つの悲鳴が鳴り響いた。
◆ ◆ ◆
ところ変わり、クリスと翼は1人以外にとっては不毛な戦いを強いられていた。
「ククククッ……面白くなって——」
「ほいさぁ!!」
「グフォッ!?」
そんな高みの見物をしていた例外の背後から律が現れ、容赦なく拳を頬にぶち込んで上空にかち上げた。
例外……ウェルは放物線を描きながら落下し、律は遅れて落ちて来た《ソロモンの杖》を掴んだ。
「グフッ……! お、お前は……!?」
「魅入ってるからって目の前のステージばかり気にしちゃ駄目だよ……博士?」
突然現れた律に、翼とクリスはポカーンとした顔で戦いの手を止めていた。 そして律は《ソロモンの杖》を眺める。
「クリスはこれが目的だったのか。 全く無茶をするな」
「そんな格好に変わってるお前に言われたくねえ!」
と、そこで律はクリスの首にチョーカーが巻いてあるのに気が付き。 下まで降りて首筋に手を当て、ノイズを流して故障させてから砕いた。
「さ、サンキュー……」
「もっと他にやりようがあったんじゃないのか?」
「……これはあたしの罪だ。 言われるがまま《ソロモンの杖》起動させちまった背負うべき十字架だ。 それを誰かに肩代わりさせるなんざ……」
「アホ」
——ビシッ!
どんどん声量が落ちて行くクリスの額に思っ切りデコピンをした。
「痛っ! 何しやがる!?」
「馬鹿な事言ってるからだ。 何でもかんでも1人で背負い込もうとするな……俺たちは仲間なんだから。 俺も、自分と響たちを守るために罪を犯した。 守るためとは言えど正当化できないものだ……だが後悔はしてない。 罪を背負ってでも生き続ける」
「そうだぞ、雪音。 私にも奏を失いかけ、そして2年前に多くの犠牲を出してしまった……私も同じものを背負っているのだ、今更増えたところで何ら問題はない」
お互いにさらけ出すように罪を告白し、クリスはむず痒そうに頭をかいた。
「クソ! クソ! クソォォ!! どいつもこいつも邪魔しやがってえ!!」
自分の顔を掻きむしりながらイライラしながら錯乱し狂乱するウェル。 そんなウェルを見て律は怪訝そうな表情をする。
「…………? あんた誰?」
「……ハアァッ!?」
律はジーッとウェルの顔を観察し、ポンと手を叩いた。
「ああごめん、
「おい、眼鏡がってなんだ……僕を馬鹿にするな——」
「まあそんな事は放っておいて……こんな事をしてもあなたは“英雄”にはなれない。 これはもはや悪魔の所業だ」
「なれたとしても“魔王”くらいだろうな」
「そもそも英雄なんて称号、欲しくないんだよ。 と言うわけでお前が英雄になるなんて無理無理」
「そーだ、最初から無理なんだよ!」
「ええい、子どもじみた真似はやめろ!」
「黙れええええ!!!」
はっきりと分からせた方がいいと思い似合わない真似をして子供っぽく煽ってみたが……当然、理解してもらえる訳もなく逆ギレしてしまった。
「……!? 《ネフィリム》の亡骸が!」
すると、ウェルの変異した左腕に反応したように、律の懐からネフィリムのギアペンダントが飛び出しウェルの元に転がって行った。
ウェルはペンダントを掴むと歪んだような笑みを浮かべる。
「——フヒッ!! そうかそうか、お前が持っていたのか!!」
ウェルはペンダントを地面に埋め込むように沈めると……地面が隆起し、ネフィリムが再び姿を現した。
「なっ!?」
「復活しただと!?」
「さあネフィリム!! お前を殺したそのガキを喰い殺せ!!」
そう捨て台詞を残すとウェルは情けない姿を見せながら逃げて行った。 追おうとするもその行手をネフィリムが塞ぐ。
「チッ! 後生大事に持たずにとっとと処分しとけばよかった! 俺もすっかり忘れてたけど」
「忘れてたのかよ!?」
あの時は響が重傷を負ったりしてバタバタしていたため、深夜で頭が回らなかったりですっかり忘れてしまっていた。
とはいえ、これで3回目だというのにこうして明るいうちにネフィリムと対面するとかなりリアル味が増しているように見えてしまう。
「厄介なのを残して行きやがって……!」
「相当お腹を空かせてそうだな」
「話は後にしろ、来るぞ!」
——グワアァァァァッ!!
ネフィリムは天に轟くような咆哮をする。 空気が震え、ビリビリとした衝撃が3人に襲いかかる。
「へっ! 今更そんな奴にビビるかよ!!」
【BILLION MAIDEN】
怯まなかったクリスが両腕にそれぞれ二門のガトリングを展開し、集中砲火で撃ちまくって行く。 だが元々素早い動きをするネフィリム、ジグザグに左右に避け的を絞らせないようにする。
「相変わらず知恵が回るこった!!」
クリスは牽制させながら移動させ、右から接近してきた翼は飛び上がり、刀を大剣に変形させながら斬り下ろし。 左に回った律は右腕を大砲に変形させ光弾を撃つ。
「やあっ!!」
【蒼ノ一閃】
「そこだ!」
右から蒼い斬撃、左から光弾が迫る。 だがこれも避けられてしまい、さらに外れた光弾は地面に着弾して破裂すると大きな衝撃を生み、近くにいた翼はその余波に煽られてしまう。
「ッ! 律、火力が高すぎだ! もっと抑えられないのか!?」
「まだそんな細かい加減は出来ないよ!」
《イペタム》のギアは動きが鈍い分とにかく威力が強い。 ノイズにぶつければ炭素も残さずに風化させる程だ。
1人で戦うのならまだしも、いきなり仲間と共に戦うのは無茶であった。 武器や戦い方を把握できていないため、お互いに合わせることが出来ない。
「面倒な事になったもんだ……私と組んで蜂の巣にするか?」
「それは最後の手段にしよう。 クールではない」
「今更クールさを求めるのかよ」
よく分からない理由だがとりあえず納得し、律は今度は両腕を大砲に切り替え光弾を乱射する。 無策である以上、当然当たる訳もなく。
逆に接近を許してしまい、飛びかかって噛みつこうとし、
「外っれー」
【
「おーまけ!!」
【MEGA DETH PARTY】
「はあっ!!」
【千ノ落涙】
ネフィリムが噛み付いた律は分身、間髪入れずに無数のミサイルと無数の剣の雨を叩き込んだ。
だが効き目は薄かったようで、まるで弱った様子もなく高らかに咆哮するネフィリム。
「相変わらずタフなことだ」
「また心臓を抜き取るしかねぇのか?」
「このギアじゃ無理だし、そもそももうやりたくない」
あの一件以来、手にあの生々しい感触が全くならなかった。 今まではノイズ相手に無双ゲームの雑魚キャラを倒すような調子で戦っていたが、ネフィリムの心臓を抉り取った時はまるで初めて殺しをしてしまったかのような感じになってしまい……律はもう二度とやりたくなかった。
「とにかくこっちから行く!」
「あ、おい!」
嫌な記憶を振り払うように、痺れを切らした律が砲撃のブースターで加速しながら一気に接近し、潜り込むように懐に入り、
「うおおおお!!!」
ガッシリと掴んでフルブースト、力任せに相撲のように押しながら持ち上げ、
「どりやぁあああ!!!」
思いっきり地面に叩きつけた。 さらに続けて片足を掴み、ジャイアントスイングのように全力で回す。
「せいやあああ!!!」
最高速度に達した瞬間放り投げ、ネフィリムは勢いよく壁に衝突、崩落が起きて瓦礫の中に埋もれてしまった。
「ふぅ、ふぅ……どうだ!?」
「おい、油断するな!」
「大丈夫だよ。 思いっきりやったんだ、少しくらい——」
力任せに、自分を奮い立たせるように律は声を荒げる。 そして律は問題ないと言いながら振り返り……ネフィリムは瓦礫から飛び出し、背後を取られてしまった。
「やばっ……!」
「律!!」
痛みを覚悟し、ネフィリムの爪が律を斬り裂こうとし、
『…………!?』
突然、律が消えネフィリムの爪は空振りした。 代わりに周囲には背にあったコーンスラスターから放出されていた黄色い粒子が拡散していた。すると、
「んなっ!?」
ネフィリムの背後で拡散していた黄色い粒子が集まってまとまり、
「____おおおりゃあっ!!」
律を形取るとネフィリムの振り返り側に顔面を思いっきり殴り、大きく吹き飛ばした。
「な、何が起きたんだ……?」
「まさか……装者を含めたシンフォギアの粒子化、だと!?」
「んな出鱈目な!?」
簡単に説明すれば装者が元々着ていた服が粒子化してから再構成される原理を、人間に置き換えて行ったと同じ事である。
見た目から無事に見えるが、心配したクリスは急いで律に近寄る。
「お、おい律! 無事なのか!?」
「あ、うん……なんか変な感じだった。 上手く説明出来ないけど、みんなと繋がったような不思議な感覚だった……」
自分の両手のひらを見下ろし不思議な感情に浸る律。 クリスもペタペタ触って確かめるが特に異常はなかった。
「これも《イペタム》の力なのか?」
「……もう何もかも関係ないだろう……」
「クリスにだけは言われたくないかもね」
そんな軽口を言っている場合ではなく、不意打ちを食らってもネフィリムはピンピンしている。
「さて——あれこれ試したが動きも素早くタフと来た。 生半可な策や攻撃では奴を倒せない……ゆえに律、お前が倒すんだ」
「俺が!?」
「お前のバカみてぇな火力ならあいつもひとたまりもないだろうな。 誘導してやるから上手くやれよ」
バカみたいな火力と言われたが、もしかしなくても響と未来を吹き飛ばして《フロンティア》を浮上させるきっかけとなったあの一撃の事を言っているのだろうか。
(色々やったけどあそこまでの出力出すと勢い余って吹き飛ぶんだよなぁ……どうやって撃ったんだ?)
実際アンカー込みでなければ軽々と吹っ飛んでいただろう。 意識がなかったとはいえ、どうやって撃ったのか不思議で仕方なかった。
律はどう攻撃するか考えている間、翼とクリスはネフィリムを牽制しながら策を練っていた。
「策はあるか?」
「可能性があるならあんたの《影縫い》だな。 あたしが煙幕で撹乱する。 日が差すように疎らに撃つが、その中で影を見つけるのは困難だ……できるか、
「——! いいだろう、完璧にこなしてみせよう!」
クリスの含みのある作戦と言い方に翼は一笑し、2人はネフィリムに向かって走り出す。
「はあっ!!」
少なめのミサイルを撃ち、ネフィリムを取り囲むように煙幕が張られる。 クリスは拳銃を両手で持ちながら煙の中に入り、ヒット&アウェイでネフィリムの動きを抑え込む。
翼は短刀を取り出し刃を持ちながら構える。 煙幕の切れ目からはネフィリムが見え、その中は縦断が飛び交っている。
そして、一陣の風が吹き、
「はあっ!」
その一瞬を逃さず投擲。 煙幕の合間を縫い、ネフィリムの影に短刀が刺さった。
【影縫い】
「今だ! 撃て!!」
(とにかく! 再生出来ないくらいの攻撃を喰らわせればいいこと!!)
あーだこーだと悩んでいた律、もうヤケクソ気味になり。 威力がダメなら数で押す……2つのジェネレーターが無数に分裂、ノイズを充填しながらネフィリムを取り囲んで行く。
最後に律本人からの砲撃を撃ち、1枚のジェネレーターに当たる事でノイズが他のジェネレーターに行き渡り、
「原初に還れ!!」
【
全方位からの砲撃による飽和攻撃……逃げられる隙間も与えず圧殺し、放射し過ぎて飽和したノイズがさらに大きな爆発を呼んだ。
「「うわああああ!?」」
「なんとおおおお!?」
その爆発は、フロンティアを揺るがすほどだった。 爆発の瞬間に律たちは爆発地点に足を向けながら頭を抱えて倒れ爆発に耐え……収まってから爆発地点を見ると、大きなクレーターだけが残されネフィリムは影も形も残って無かった。
「……弱めにしたんだけどなぁ……」
「どこかだよ!?」
弱めにしたつもりだったが、思いがけない威力に横にいたクリスにバシンと叩かれてしまう。
火葬ならぬノイズ葬、もしくは砲撃葬によりネフィリムを滅した律は、せめてもの供養として合掌した。
「何をしている?」
「……今にして思えば、ネフィリムもまた被害者だったんだなあって思って。 あいつも目覚めてなければ、こんな事にはならなかったんだろうに」
「……かもしれねぇな。 馬鹿の腕を喰ったのは許せねぇが……それも本能によるものだったんだろうし。 そう考えれば利用されただけで何の罪もないんだよな……」
「ああ。 かの獣の汚名を雪ぐためにも、本当の元凶を止めねば」
「……何はともあれ、何個かあるうちの一つが一件落着だな」
「あ……」
そう言いながら持っていた《ソロモンの杖》をクリスに手渡す。 すると、クリスは罰が悪そうな顔をして俯く。
「……1人で飛び出して、ごめんなさい……」
「気に病むな。 私も1人では何もできない事を思い出せた。 何より……こんな殊勝な雪音を知ることができて行幸だ」
「それはよかった。 素直に謝るクリスってあんまり見ないからね」
2人のそんな恥ずかしい感想を言われ、クリスは顔を赤く染める。
「……それにしたってよ、なんで私の言葉を信じてくれたんだよ?」
「雪音が“先輩”と呼んでくれたのだ。 信頼する理由はそれで事足りる、雪音なら必ず私の望む位置に影を呼び込んでくれるとな」
「それだけか?」
「それだけだ。 さあ、立花と合流するぞ」
あっけらかんと言うそう言い切り、翼は足早く進んでいく。 その背を見ていたクリスは呆れながらも苦笑する。
「全く、どうかしていやがる」
「でも、悪くないだろう?」
「かもしれねえな」
律も後に続き、クリスも一息溜息を吐きながらその後を追う。
(だからこいつらの側は……どうしようもなく——あたしの帰る場所なんだな)
◆ ◆ ◆
「つまり、あなたはマリアさんの妹さん……?」
「はい……セレナです」
「ほえー、マリアさんの妹さんがまさかお人形だったなんてビックリだなー」
「いえ、私は元々人間でした」
2人は揃って額に大きなたんこぶを作り、お互いに正座しながら向かい合って自己紹介をしていた。
「私はお姉ちゃんを止めたいです。 でも、今の私ではお姉ちゃんの元には行けませんし何もできません……ですから立花さん! 私をお姉ちゃんの元に連れて行ってください!!」
「うん! いいよ!!」
2つ返事で了解してくれ、清々しいまでの返事振りにセレナはキョトンとした顔になる。
「信じて、くれるんですか? こんな、人形の私を?」
「もちろん! マリアさんの妹さんというのは驚いたけど……律さんの友だちなら、私とも友だちです! 友だちを信じないわけには行きません!」
響は立ち上がるとセレナに手を伸ばす。
「一緒に行こう! そして——」
「はい!」
2人は揃って片手を頭上に上げ、拳を握り締めながら胸の前に下ろすと、
「「律(さん)をブン殴る!!!」」
額に血管を浮かばせながら“オーーッ!!”と海に向かって叫んだ。
ところ変わり、中枢に向かっていた律一同。 不意に律が悪寒を感じ震え上がった。
「——!? 何だ、急に寒気が……」
「なんだ、風邪か?」
「気をつけろよー」
◆ ◆ ◆
月を正しい軌道に戻すため独り……マリアは歌い続けていた。 しかしそれはとても孤独な戦い、歌えども目標に届かず心も身体も挫けかけていた。
『マリアもう一度月遺跡の再起動を……!』
「無理よ! 私の歌で世界を救うなんて……」
『マリア! 月の落下を食い止める、最後のチャンスなのですよ!』
檄を受けてマリアは再び立ち上がろうとしたが、
「——バカチンがっ!!」
「っぁ!!」
戻ってきてしまったウェルの異形の左腕に殴り倒されてしまう。
「月が落ちなければ好き勝手できないだろうがッ!」
『マリア!!』
「あぁ!? やっぱりオバハンか……」
ナスターシャが大人しくしている訳がないと予想していたウェルは、左腕を端末にかざして起動させる。
『お聞きなさい、ドクターウェル! 《フロンティア》の機能を使って収束したフォニックゲインを照射し《バラルの呪詛》を司る遺跡の再起動できれば、月を元の軌道に戻せるのです!』
「そんなに遺跡を動かしたいのなら! あんたが月に行ってくればいいだろう!?」
ナスターシャの話しなど微塵も聞いていないウェルは端末を叩きつけるように操作すると、
——ドオオオオンッッ!!!
《フロンティア》にあった1つの建造物がロケットのように下部から轟音と共に火を噴き上げ、そのまま空高く昇って行く。 どうやら今飛ばしたのがナスターシャがいたエネルギー制御室のようだ。
「マム!!」
「有史以来! 数多の英雄が人類支配を成し得なかったのは、人の手に余るからだ! だったら……支配可能なまでに減らせばいい!! 僕だからこそ気付いた必勝法ッ!! 英雄に憧れる僕が英雄を超えてみせる!! ふへはは、うわはははははははぁッ!!!」
ロケットのような機能を持っていたとしても、あの古い建物自体に対真空や対放射熱等の対宇宙用の処置が施されているとは思えない。
加えてご老体であるのと病に侵されている今のナスターシャでは、大気圏離脱時の衝撃すら耐えきれないだろう……実質殺したようなものだ。
狂いながら笑うウェルに、マリアは怒りを露わにしながら立ち上がり、アームドギアの槍を展開して立ち向かう。
「よくもマムをっ!!」
「手にかけるのか? この僕を殺す事は、全人類を殺す事だぞ!?」
異形の左腕を持っていたとしてもウェルに勝ち目はないだろう。 しかし殺せるわけがない……そう思い込んで信じ込んでいるウェルは余裕の表情を見せ続ける。
そんな余裕すら今のマリアにとって神経を逆撫でする以外の何者でもなかった。
「殺すッ!!」
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!?」
「——ダメッ!!」
全力で槍を突き出そうとした時……その間に響が割って入り、両腕を広げウェルを庇った……のではなく、マリアに人殺しをさせるのを止めた。
「そこを退け、融合症例第一号!! 」
「違う! 私は立花 響、16歳! 融合症例なんかじゃない! ただの立花 響がマリアさんにとお話ししたくてここに来てる!!」
「お前と話す必要はない! マムがこの男に殺されたのだ!! ならば私もこいつを殺す! 世界を守れないのなら……私も生きる意味はない!!」
妹同然だった調と切歌は仲違いし、母親同然だっまナスターシャも死んでしまい、最後の肉親だったセレナはもういない……誰もおらず、独りぼっちの世界を生き続ける意味も救う意味もなくしたマリアは自暴自棄になる。
「——だったら、私となら話してくれる?」
「———……ぇ……」
その時、突然聞こえてきた声がマリアを話を聞く程度には正気が戻る。 ゆっくりと下を向くと……そこには人形の姿をしたセレナが立っていた。
「久しぶり、と言えばいいのかな。 マリア……姉さん」
「セ……レナ……?」
「あ……あぁん……?」
突然現れたセレナに錯乱していたウェルは睨みつけるように見下ろし。 少しの間生きていたのかと感情に浸り……ハッとなったマリアは顔を大きく左右に振って気を取り直し、槍の矛先をセレナに突きつける。
「こんな姿を似せた人形で私を惑わすか!? セレナは死んだ! もういない!! こんなもの……!」
「——リンゴは浮かんだ お空に……」
槍を振り上げて薙ぎ払おうとした時……セレナは歌い出す。 その歌を聞きマリアは大きく目を見開いて動揺する。
「そ、その歌は……」
「リンゴは浮かんだ お空に……」
もう一度、セレナは同じ場所を歌う。 まるで誰かを待つように。 力を無くしたように振り上げた槍をダラんと下ろし、
「リンゴは浮かんだ お空に……」
「……リンゴは落っこちた 地べたに……」
セレナの歌詞に続くように、マリアが歌い出す。
「星が」
「生まれ「て」」
「「歌」が生まれて」
そこまで歌い、セレナは手の平を見せてから閉じ、歌うのを止めた。 そして、響がマリアに向かって歩み寄り、
「意味なんて後から探せばいいじゃないですか」
「ッ!? お前、何を!?」
槍の穂先を素手で掴んだ。 穂先の刃によって手の平は裂け、血が槍伝って行く。 そんな奇行をしているのにも関わらず響は笑顔のままだった。
「だから……生きるのを諦めないでッ!!
Balwisyall Nescell gungnir———trooooooon!!」
「聖詠ッ!? 何のつもりで……!?」
《神獣鏡》の一撃を受けた事やここに来るまでシンフォギアを使用していないことから、立花 響の体内にあった《ガングニール》の欠片が消失、もうシンフォギア装者でなくなった事は容易に推測できる。
にも関わらず、もう何も持っていない彼女が今更歌ったところで何になるのだろうか。
その時、響の歌に反応するように握っていた槍が輝きだし……槍が消え出すと同時にマリアが纏っていた《ガングニール》のシンフォギアも消えてしまった。
「きゃあっ!?」
ギアは光り輝く粒子となってこの場所を、そして《フロンティア》全体を包み込む。
「何が起きているの……? こんな事ってあり得ない! 融合者は適合者ではないはず……これは、あなたの歌……? 胸の歌がしてみせた事……!?」
心臓の、命の鼓動が聞こえてくる。 その音は、目の前にいる少女から聞こえてくる。
「あなたの歌って何——何なのッ!?」
心臓の鼓動が大きく、速くなっていくのと同時に粒子が響に集まり、形作って行く。 そして、立花 響のシンフォギア、
「撃槍! ガングニールだああああぁ!!」
《ガングニール》のギアを、もう一度纏うのだった。