戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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39話 遥か彼方、星が音楽となった…かの日

 

フロンティア制御室——

 

狂気と悲しみといった感情がこの場で錯綜する中、そこには真の意味で《ガングニール》の装者となった立花 響が立っていた。

 

「ガングニールを……適合、だと……?」

 

「——ぬおおおおお!!」

 

すると、ウェルが奇声を上げながら逃げ出し、階段から降りようとすると足を滑らせて滑落する。

 

「こんな所で……終われる、ものか!!」

 

階下に落ちたウェルは左腕で床に穴を開け逃げ道を作る。 響は後を追おうとするが、側にいたマリアが力無く倒れようとする所を抱き止める。

 

丁度そこへ弦十郎と緒川がこの場に突入してきた。

 

「ウェル博士!」

 

呼び止めるも応じる訳もなく、ウェルはその中に潜り尻尾巻いて逃げていった。 逃したと顔を顰めるが、2人は響が再びシンフォギアを纏っている事に驚愕する。

 

「響さん! そのシンフォギアは!?」

 

「マリアさんの《ガングニール》が、私の歌に応えてくれたんです!」

 

——ゴゴゴゴ……

 

その時、鈍い音と共に地面が振動を始める。

 

「これは……!」

 

『重力場の異常を計測!』

 

『《フロンティア》、上昇しつつ移動を開始!』

 

二課からの報告を受け、どうやら《フロンティア》は真上に上昇を始めてたらしい。 こんな事が出来るのはウェルしかいない。

 

「ッ……」

 

「今のウェルは、左腕を《フロンティア》と接続する事で意のままに制御できる……」

 

「姉さん!?」

 

マリアがまるで懺悔するようにこの事態について話し始める。

 

「《フロンティア》の動力は《ネフィリム》の心臓……それを停止させればウェルの暴挙を止められる。 お願い……戦う資格のない私に変わって、お願い……!」

 

今更自分が頼める立場でないのは分かっている。 だがそれでもマリアは響たちに頼る他なく、頭を下げて懇願するしかなかった。

 

「——調ちゃんにも頼まれてるんだ、マリアさんを助けてって。 だから心配しないで!」

 

調に頼まれたのもそうだが、響は当たり前のように笑顔で引き受ける。

 

——ドガンッ!!

 

また轟音が響き渡る。 階下では弦十郎が拳を振り下ろして地面を大きく左右に割っていた。

 

「師匠!」

 

「ウェル博士の追跡は俺たちに任せろ。 だから響くんは——」

 

「ネフィリムの心臓を止めます!」

 

「フッ……行くぞ!」

 

「はい!」

 

お互いに役割分担をし、弦十郎と緒川は割れた亀裂の中に飛び降りウェルの追跡を開始する。

 

「待ってて、ちょーっと行ってくるから!」

 

気安くウィンクを交わし、響は一直線に走り出した。 後に残されたマリアは彼女の背を呆然と眺める。 そんな彼女の前にセレナが近寄る。

 

「私もまだ会って間もないけど……響さんはどこまでも真っ直ぐな人だよ。 1つの目標に向かって、ただ一直線に……」

 

「セレナ……」

 

「信じよう、姉さん」

 

自分を見上げるセレナ。 その眼は昔と変わらない眼だった……マリアは俯くように頷いた。

 

そして飛び出て行った響は宙に浮かぶ岩石群の上を飛び移り、待機していた律たちの元に降り立った。

 

「律さん! 翼さん! クリスちゃん!」

 

「立花!」

 

「どうやら答えは出たようだな?」

 

「はい! もう遅れは取りません、だから!」

 

「ああ、一緒に戦うぞ!」

 

「はい!」

 

と、そこでクリスが《ソロモンの杖》に持っていることに気がつき、響は嬉しそうに彼女の両手を取る。

 

「ぅぉ……!?」

 

「やったねクリスちゃん! きっと取り戻して帰ってくると信じてた!」

 

「お、おう……ったりめぇだ!」

 

「やれやれ。 響の中じゃ最初から“裏切り”の言葉は無かったらしいな」

 

「実に立花らしい」

 

裏切られようが嫌われようが、最後には必ず帰ってくると信じているんだろう。

 

「って、あれ? 律さん、なんかシンフォギアが変わってませんか?」

 

「いやこうなった時を見てたし、その後にも説明受けてただろう。 どういうわけかこんな風になったんだよ、元に戻る方法もよく分からん」

 

「ほへー、不思議ですねー」

 

「不思議で済ませられるのかよ……」

 

緊張感もなく和気藹々と会話を交わしていると、律たちのギアに通信が入ってくる。

 

『本部の解析にて、高質量のエネルギー反応地点を特定した! 恐らくそこが《フロンティア》の炉心——心臓部に違いない! 装者達は本部からの支援情報に従って急行せよ!』

 

「——行くぞ! この場に槍という……そして剣を携えているのは私たちだけだ!」

 

翼が号令を出し、律たちは本部から誘導に従い行動を開始した。

 

その様子を動力部にいたウェルが憎たらしいそうな目で見ていた。

 

「人ん家を走り回る野良猫め……! 《フロンティア》を喰らって同化した《ネフィリム》の力を……思い知るがいぃ!!」

 

左腕を操ってフロンティアを操作すると、動力部に埋め込まれていた心臓が大きく鼓動する。 すると、律たちの進行方向の地面が隆起を始め律たちは足を止める。

 

「な、何……?」

 

「今更何が来たって!」

 

地面が盛り上がって形作り……巨大な怪物が出現すると同時に咆哮、さらにミサイルを飛ばしてきた。

 

飛来してくるミサイルを律たちは難なく避けるが、その怪物の姿に驚きを見せる。 大きさは全然違うが、まず間違いなくネフィリムであろう。

 

「あの時の……自立型完全聖遺物なのか!?」

 

「ついさっき倒したばかりだろ!?」

 

「いくらでも作りたい放題ってわけか!」

 

「にしては張り切り過ぎだ!」

 

規模も威力も大きくなった地面を融解させる程の火球を避けながらクリスは愚痴を吐く。

 

「喰らい尽くせ……! 僕の邪魔をする何もかも……暴食の二つ名で呼ばれた力をぉ……示すんだ! ネフィリィィィム!!!」

 

ウェルの枯れることの無い欲望に当てられたように《ネフィリム》が咆哮する。

 

そして、フロンティアの制御室にいたマリアは意気消沈しへたれ込んだままだった。

 

「……私では、何もできやしない……セレナの歌を、セレナの死を……無駄なものにしてしまった……」

 

「——姉さん」

 

理由は不明だが人形として戻ってきたとはいえど一度セレナは死亡している。 それに加えて月の遺跡の再起動すら出来ない不甲斐なさといった自負の念で意気消沈しているマリアの前に、セレナが歩み寄ってくる。

 

「姉さんが、今やりたい事はなに?」

 

座り込むマリアを見上げながら、セレナは真っ直ぐマリアの目を見つめる。

 

「……歌で、世界を救いたい……月の落下がもたらす災厄から、皆を助けたい……」

 

「そんなありきたりで義務的な事を聞いてるんじゃないの!!」

 

「ブフッ!?」

 

意気地なく言うマリアにセレナは飛び上がって容赦なく頬に張り手をして張っ倒した。

 

「言葉にも行動にも、心にも飾りを付けない!」

 

「セ、セレナ……」

 

呆然とするマリアにセレナは小さな手を差し伸べる。

 

「さあ、歌を歌おう。 ありのままに、あるがままに」

 

マリアはゆっくりと顔を上げ、セレナの小さな手をとる。 するとセレナが目を閉じて息を吸い歌い始める。

 

「リンゴは浮かんだ お空に……」

 

「リンゴは落っこちた 地べたに……」

 

——星が生まれて 歌が生まれて

ルルアメルは笑った 常しえと

星がキスして 歌が眠って

 

また、光が溢れ出し2人を取り囲む。 そして、2人が歌う場所はまだ世界に繋がっている……2人の歌が、祈りが世界に広がる。 歌が世界に届き、そして人の心に届き広がって行く……その歌は宇宙に飛ばされたエネルギー制御室にいたナスターシャにも届いていた。

 

ナスターシャは自分の車椅子を変形させて鎧として身に纏わせ、大気圏離脱の衝撃や瓦礫の崩落にも何とか耐える事が出来た。 だが無傷とはいかず、血を流しながらも力を振り絞って立ち上がった。

 

「世界中のフォニックゲインが、《フロンティア》を経由してここに集束している……これだけのフォニックゲインを照射すれば、月の遺跡の再起動させ、公転軌道への修正も可能……しかし、私の命も残りわずかのようね……あの子の歌まで聞こえてくるなんて……」

 

聞こえてくる姉妹の歌……しかしセレナは既に死んでいると思っているナスターシャは、セレナの歌が幻聴として聞こえてくると勘違いしてしまう。

 

『——マリア! マリア!』

 

「……! マム!?」

 

ナスターシャは通信を繋げマリアに呼びかける。 マリアはナスターシャが生きていたことに喜ぶが、喜ぶ暇もなくナスターシャは告げる。

 

『あなたの歌に、世界が共鳴しています。 これだけフォニックゲインが高まれば、月の遺跡を稼働させるのに十分です! 月は私が責任を持って止めます!』

 

「マム!」

 

「ダメだよ、マム!!」

 

『……!! ……いえ、そうですね……そこにいるのですか、セレナ?』

 

研究者として、そして彼女を看取った1人としてあり得ないのは分かっている。 だがナスターシャは敢えて受け入れ、セレナの言葉に耳を傾ける。

 

「うん! いるよ、ここに! どうして生きているのかさっぱりだけど、ここにいるよ! マム!! 私はマムを恨んでなんかいない、だって……マムはマム(お母さん)なんだから!!」

 

『セレナ……』

 

母親でもなければ母親の代わりにもなれなかった自分を母と呼んでくれる……それだけでもナスターシャはここまで足掻いてきた意味があったと思いだす。

 

『マリア、もう貴女を縛るものはありません。 行きなさい、セレナと共に。 行って、私に貴女の歌を聴かせなさい……!』

 

「マム……」

 

母親のようにマリアに優しい声をかけ、マリアは涙を流す。 そして、ナスターシャの最後の願いに応え、マリアは涙を流しながら笑みを浮かべる。

 

「OK、マム!」

 

気を取り戻して立ち上がりながら身を翻し、まるでマントを払うかのように腕を横に振り払った。

 

「世界最高のステージの幕を開けましょう!」

 

「わーい!」

 

復活したマリアは世界に見せつけるように声高らかに見せつけ、セレナはどこからか取り出したサイリウムを笑顔でブンブン振るった。

 

 

律たちは《ネフィリム》と交戦を開始していた。

 

「はあああぁ!!」

 

律が無数の光弾で、クリスが矢の弾幕で引きつけながら響と翼が先行。

 

翼が大剣で右腕を斬り落とそうと振り下ろすが、あまりの硬さに弾かれ。 懐に入った響の拳もビクともしなかった。

 

「なら——全部乗せだあぁ!!」

 

「ほいさー」

 

クリスが4門のガトリングとミサイルを発射、律は気の抜けた掛け声で両腕の大砲と両肩のジェネレーターから砲撃を放射する。

 

全弾命中し、黒煙が立ち上りながらクリスはニヤケ顔を見せる。

 

「へっ、どうだ?」

 

「効くわけないだろ!」

 

《ネフィリム》のタフさは身に染みており、律はクリスの手を掴んで走り出すと……黒煙を払って出てきた《ネフィリム》は口から巨大な火球を放ち、律たちは間一髪のところで回避できた。

 

「無事か!?」

 

「問題なし!」

 

「翼さん!」

 

次は翼に襲い掛かり、翼は危なげなく避けるも続けて左腕を鞭のようにしならせ今度は響に向かって襲い掛かる。

 

「ッ……!」

 

「響!」

 

腕が響に向かって迫り……その腕にワイヤーが絡み付いた。

 

「デェース!!」

 

ワイヤーを引いて切歌がギロチンの刃の上に乗ってブースターで加速しながら滑り降りるように突進、ネフィリムの腕を切り落とし、

 

「ッ!」

 

背後から現れた鋸の車輪に乗った調が通り抜け側にネフィリムの脇腹を切り裂く。

 

そして切歌と調は響の前に降り立ち、この窮地に駆けつけてくれた。

 

「《シュルシャガナ》と」

 

「《イガリマ》! 到着デェス!」

 

「来てくれたんだ!」

 

「とはいえ、こいつを相手にするのは……結構骨が折れそうデスよ」

 

「——だけど歌がある!」

 

その勇ましい声と共に振り返ると……そこには浮遊する岩の上に堂々と胸を張りながらマリアが立っていた。

 

「マリア……」

 

「マリア!」

 

律たちは浮遊する岩の上に飛び降り、マリアの腕の中にいたセレナは軽く手を挙げる。

 

「久しぶり、2人とも。 大きくなったねー、マリア姉さんだと若干分かりにくかったけど、2人を見たら時間の流れを実感するよ」

 

「ちょっとセレナ、それはどういうことかしら?(グイ〜)」

 

「ひはいひはい!」

 

「あ! やっぱりこの人形、セレナデス!」

 

「どうなってるの……?」

 

「あはは、まあ詳しいことは落ち着いてからで」

 

「もう迷わない。 だって……マムが命懸けで月の落下を阻止してくれてる」

 

空を見上げながらあの空の向こうで戦い続けるナスターシャを思うマリア。

 

再びネフィリムが攻撃を開始し、巨大な火球を放つ。 火球は律たちのいる足場に飛来し……直撃する。

 

「うあはははははは!!」

 

直撃し、ウェルは狂い笑う。 しかし、

 

「——Seilien coffin Aigrtlam tron」

 

「んんっ!?」

 

歌と共に煙の中に一筋の光が見え、光が煙を払うと……そこにはシンフォギアを起動させようとしているマリアがいた。

 

(調がいる。 切歌がいる。 マムもついている、そしてセレナも……皆がいるなら、これくらいの奇跡——)

 

「安いもの!!」

 

「装着時のエネルギーをバリアフィールドに!? だがそんな芸当、いつまでも続くものではなぁい!!」

 

苦し紛れだとウェルは叫び、ネフィリムは火球を放つ。 その火球に向かって律が飛び出し、2つのジェネレーターを前に突き出し、半球状のバリアを展開して塞いだ。

 

「はぁ……ノイズだらけの我が身、当たり前だけど仲間外れにされてこう言う役回りになるな……」

 

「嫌なの?」

 

「どんとこいだ!!」

 

マリアと響たちが歌を重ね、フォニックスゲインの輝きが高まっていくのを感じる。 だが、その光は律にとって毒のようなもの、光を浴びた部分がピリピリと焼けるような感覚を覚える。

 

「フォニックゲインの光……俺には眩しいな」

 

フォニックゲインを出せなくもないが、他の装者と比べて微々たるもので自身も傷つけかねない。 やはり仲間外れな気分になりながらネフィリムを睨みつける。

 

「八つ当たりだけど、付き合ってもらうよ……ネフィリム!!」

 

肩部に戻したジェネレーターを背後に向けてブースターとして放射、一気に真下に潜り込んでアッパー気味に殴り上げる。

 

「おおっと! 律選手、ネフィリムを吹っ飛ばし頭を下に向けながら抱え込み……!」

 

律の動きを見ながらセレナがサイリウムをマイクに見立てながら捲し立てるように叫ぶ。

 

律は逆さまになったネフィリム背を掴み、螺旋回転をしながら一気に落下し、頭からフロンティアに叩きつけた。

 

「決まったぁ、ローリングドライバーだあ!!」

 

(なんかあのちっこいの、実況を始めたぞ?)

 

いきなり熱く実況するセレナをクリスは不思議そうな目で見る。

 

「さらに続けて飛び上がりぃ……サマーソルトプレス!!」

 

再び飛び上がった律は全身にバリアを纏いながらブースターで加速しながら突進、さらにネフィリムを地面に叩き込む。

 

「だがネフィリム! 全く効いていない! 何というかタフだ!」

 

地面を砕きながら起き上がるネフィリム。 完全に律に狙いを定め、両腕を鞭のようにしならせる。

 

「ネフィリム! 出鱈目にチョップ! チョップの連続! しかし当たらない! 的が小さ過ぎる!」

 

指先がないだけに加えて出鱈目に振り回しているのをチョップと言い切るセレナ。 そんなチョップを避けながらネフィリムの足元の地面を持ち上げ、転倒させながら大岩を持ち上げる。

 

「おおっと! 砕けた地面から岩を持ち上げ……殴りつけたぁ! 壊れたらまた次の岩! ヒール! ヒールです! パイプ椅子殴りならぬ岩殴り! ヒールと化した律選手! これは酷い!」

 

「喧しい!!」

 

転んだネフィリムに向かって岩を殴りつけ、それを何度も繰り返す。 横からの実況がうるさくて咆えるも手は止めず、何度も叩きつける。

 

だがただ岩がそんなに効くわけもなく。 ネフィリムは起き上がるのと同時に頭突きで岩を砕き、さらに腕で律を薙ぎ払った。

 

「しまっ——ぐあっ!」

 

「律!!」

 

咄嗟にノイズのバリアを張るもその威力当然凄まじいもので、フロンティアの中心部まで吹き飛ばされてしまった。

 

「痛てててて……」

 

「——お、お前は!?」

 

瓦礫をどかして起きあがろうとすると、目の前にウェル博士がいた。 どうやら彼がいるフロンティア炉心部まで飛ばされたようだ。

 

「おやウェル博士。 こんな所で何を?」

 

「そ、それはこっちの台詞だ! 何故貴様がここに!?」

 

「あなたのネフィリムのせいですよ。 見てたのなら分かるでしょう。 お……」

 

ウェルが律たちを見ていた宙に浮いていた映像を見ると、6人はエクスドライブとなってた。 どうやらギリギリの所で間に合ったみたいである。

 

「さて、ネフィリムはあっちに任せるとして……丁度いいからこのまま拘束させてもらいますね」

 

「く、来るなぁ!! ぼ、僕は……英雄になるんだぁ!!」

 

「まだそんな世迷言を……」

 

まだ英雄を諦められないウェルに、律は呆れて何も言えなかった。 と、そこで一際大きな振動がここまで伝わってくる。 律は映像を見ると、響たちがエクスドライブによってネフィリムを倒した。

 

「——ウェル博士!」

 

それと同時にこの場に弦十郎と緒川がやってきた。

 

「律くん!? どうしてここに!」

 

「あはは、ちょっとしくじりました。 まあ結果的に良かったです。 この人はネフィリムよりも厄介ですし」

 

「否定は出来ませんね」

 

「くっ!!」

 

不利だと判断したウェルは制御盤に手を伸ばそうとし……その前に緒川が抜き側に発砲された銃弾はあり得ない軌道を描いてウェルの左腕に差した影に着弾した。

 

【影縫い】

 

「ぬあっ!?」

 

(ありえねー……)

 

影縫いは翼に教えた事から使えるのだと分かっているが、あんな銃弾の軌道は実際に目の当たりにしても信じられなかった。 もはや“異能”とも呼べるだろう。

 

「あなたの好きにはさせません!」

 

ビクともしなくなった左腕を動かそうとするウェル。 異形の腕から血が噴き出るほど無理矢理動かし、

 

「奇跡が一生懸命の報酬なら——僕にこそぉぉ!!」

 

制御盤に左腕を当てた。 そして命令を送ると、炉心が輝く始める。

 

「な、なんて人だ……!」

 

イカれ、狂っているとはいえど紛れもないその執念には驚きを禁じえない。

 

「何をした!?」

 

「ただ一言……ネフィリムの心臓を切り離せと命じただけ……!」

 

「「ッ!?」」

 

「こちらの制御から離れたネフィリムの心臓は、フロンティア全体を喰らい……糧として暴走を開始する! そこから放たれるエネルギーは——1兆度だあぁぁ!!」

 

ウェルの言う通り、輝いていた炉心がネフィリムの赤黒い光に呑み込まれていく。 自分の思い通りにならなければ全てなくなってしまえばいい……ウェルは再び狂ったように笑う。

 

「僕が英雄になれない世界なんて蒸発してしまえば——」

 

「ふんっ!!」

 

血涙を流しながら笑うウェルを他所に、弦十郎は制御盤を拳を振り下ろし破壊した。 だが、淡い希望を消すかのように暴走は止まらなかった。

 

「壊したところでどうにかなるような状況では、なさそうですね」

 

「ここまで来ると、下手に手も出せませんしね。 どうすれば……」

 

「簡単さ——宇宙(そら)でやればいい」

 

緒川はウェルに手錠をかけると、弦十郎が首根っこを掴んで担ぎ上げる。

 

「うへっ!?」

 

「この状況を翼たちに連絡、俺たちはウェル博士を二課に連行する! すまないが、後のことは任せたぞ」

 

「了解です! 任されました!」

 

2人は崩落が開始したフロンティアから脱出し。 律は炉心を一瞥した後、入って来た穴から飛び出した。

 

フロンティアの外はとうに成層圏を超えて大気圏外になっており、それと同時に暴走が限界まで達し……フロンティアが壊滅するほどの大爆発が起こった。

 

「うわああああ!!」

 

爆心から近かった事もあり律は爆風に煽られ、明後日の方向に吹き飛ばされてしまう。

 

「うわぁ!! うわ、うわわ!!」

 

全く足元が定まらずジタバタと手足を動かすも、制動がまるで効かない。 少ししてからブースターを作動させて制動を取り、ようやく周囲を確認する。

 

「って、ここ宇宙じゃん!?」

 

通りで制動が効かないと納得する。 だがそれ以前になぜ呼吸が出来ていることに疑問を持つ。

 

しかし、そんな事を考えている暇もなく……ネフィリムの心臓がフロンティア全てを飲み込み、今までより数倍巨大な怪物となって復活した。 もはやネフィリムというより、ネフィリムの心臓そのものがネフィリムを形作っているようだ。

 

「ネフィリム……いや、それよりももっと強大な! これなら1番最初のがマシだ!」

 

すぐに響たちと合流するために飛ぼうとしたその時、律の視界に宇宙を漂う建造物を発見する。

 

「あれは……!」

 

あれはウェルによって切り離されたフロンティアのエネルギー制御室。 そして今もなお大量のフォニックゲインを月遺跡に送り続けている。 つまり、あそこにナスターシャがいる。

 

(……ごめん、みんな!)

 

一瞬の考え込んだ後……心の中で謝りながらも、こんな大事な時に律は私情に走ってしまう。 響たちなら必ず無事だと信じ、律はナスターシャの元に向かった。

 

律は制御室前まで近寄ると透過し、壁をすり抜けて侵入した。 そして直ぐに中枢に出ると……そこには吐血したナスターシャがおり、ふらりと倒れようとした所を抱き止めた。

 

「ナスターシャ教授!!」

 

「ッ……あ、あなたは……」

 

ナスターシャは口からだけではなく、頭や目からも血を流している。 もう、長くないだろう。

 

「な、ぜ……ここにいるのですか?」

 

「こんな非常時に場違いな真似をしているのは重々承知です! それでも、俺はあなたにどうしても会って起きたかったんです! 俺に当時の記憶は持っていませんが……それよりも!」

 

律はマリアと会ってからつのっていた自覚のない思いを打ち明ける。

 

「あなたはこれでいいんですか!? 独りで戦い、独りで死ぬ! それが本当に正しいと思っているのですか!? 世界をから否定されながらも世界を救うことが……本当に、正しいと思ってるんですか!?」

 

「……正しいとは、思ってないわ……でも、それが私の運命、この罪が許されるとは思ってはいない……けど、これは私が命を賭してでもやらなければならない……」

 

「それでも、俺は……俺たちはあなたに育てられていた! あなたのおかげで強くなれた!」

 

記憶はない。 だが心が理解している……彼女もまた律の母親だと。 律が律である基板を作った人だと。

 

「私は……あなたが思っているような、誇れる人間ではないわ……」

 

「今なら分かります。 あなたは厳しく、ただ厳しかった。 それでも、俺たちはあなたに愛されていた……まだ戦うには早過ぎる調と切歌が欠けずにいるのがその証拠。 だから信じることができた!」

 

「……ただ実験を効率よく行うための処置に過ぎない。 感謝される言われはないわよ」

 

「それでもいい!! それでも俺は……」

 

「——人は、獣にあらず……」

 

否定的なナスターシャを肯定しようと言葉を続けようとした時、その前にナスターシャが言葉を重ねる。

 

「人は、神にあらず……人が、人であるために……」

 

「……今一度、考えるのだ……人とは何かを……何を、すべきかを……」

 

その言葉を聞き、律は脳裏に浮かんだ言葉を流れるままにその続きを口にし、ナスターシャは微笑んだ。

 

「強情なのは、変わらないのね……」

 

すると、ナスターシャは車椅子に手を伸ばそうとする。 律はそれを支え、腕掛けにあったパネルを操作すると……律のシンフォギアにデータが送信され始める。

 

「こ、れは……」

 

「ソロモンの杖のデータです。 通常なら不可能ですが、エクスドライブによって大きく開かれた扉は閉じた後もその場に揺らぎとして残ります。 あなたのシンフォギアなら、それをこじ開ける事が出来る……カフッ!」

 

「ナスターシャ教授!!」

 

再び吐血し、右手は真っ赤に染まる。 律は汚れるのも構わずそんな震える手を握りしめる。

 

「——生きなさい。 私のことを恨むかもしれない……でも……生きて、()きなさい……立ち止まらず、歩き続けなさい……」

 

「そんな……勝手な事を言わないでください……」

 

「……許して欲しい……あなたとは、もっと……もっと……!」

 

ナスターシャは後悔と懺悔を口にしながら最後の力を振り絞り、律の手を握る力を込め震えながらも律の頬に手を添える。

 

律は頬が血で汚れるのも厭わず、添えられた手を重ねる。

 

(調……切歌……マリア……セレナ……律……私の、望みは……ようやく、叶ったわ)

 

心残りはもうない。 ナスターシャはゆっくりと瞼を閉じ……律の頬に添えていた手がするりと落ちてしまった。

 

「——マム! マムーーッ!!」

 

脳裏に自然と思い浮かびその名前を呼ぶも……ナスターシャがそれを聞き、答える事は2度となかった。

 

独り残された律はナスターシャを抱きしめ、静かに歯を食いしばり肩を振るわせて涙を流し、涙は下に落ちず宙に漂う。 そして、ナスターシャを静かに横たわせ、ナスターシャの目元と口元の血を綺麗に拭い取ると律は涙を拭いながら立ち上がる。

 

「……マム、ごめん——俺、行くよ……!」

 

覚悟が決まり目に闘志を宿し、再び透過して宇宙に飛びなしながら二課と連絡を取る。

 

「本部! ソロモンの杖によって開かれた扉の地点を送ってください!」

 

『律くん!? 今までどこに……』

 

「急いで!!」

 

『……藤尭、送ってやれ』

 

『りょ、了解しました!』

 

すぐさま座標が送られて、最高速度で目的地に向かう。

 

『気をつけろよ』

 

「分かってます!」

 

弦十郎の言葉に答えながら律は移動しながら焦る気持ちを抑えつつも謳を紡ぐ。

 

「——ひたひしる 弥猛(やたけ)こころに

交じりて雨夜(うや)と掛かり」

 

謳を詠いながらフォニックゲインを高めていき、目標座標地点に到着すると両手を組んで巨大な大砲へと換装する。

 

「されど(すずろ)なりに……」

 

肩部の2つのブースターを作動させて身体を固定し、まるで地球に狙いを定めながら大砲の砲口にエネルギーが集束していき、

 

(はだ)かりて()(こも)らん!!」

 

燎火の咆哮(バニシングカノン)

 

大砲から巨大な砲撃が螺旋を描きながら発射され、砲撃は一直線に地球に向かい……その途中で空間を突き破ってその中に入って行った。

 

律はすぐさま割れた空間に飛び込むと……そこは広大な異空間だった。 様々な古代建造物や宝石類があったが、それ以上に1番多かったのは多種多様なノイズだった。 このどこまでも広がる空間の中にかなりの数がひしめき合っていた。

 

「多過ぎるだろ……!?」

 

「——律さん!」

 

そこへ、律の存在に気が付いた響たちが集まってくる。

 

「ソロモンの杖を使わずどうやってここに!?」

 

「遅れてごめん。 さっきの砲撃でこじ開けて何とか来れたんだ」

 

「ソ、ソロモンの杖無しでよくやるぜ……まあ、さっきの砲撃は援護になって助かったが……」

 

「……! お兄ちゃん、顔から血が……怪我してるの!?」

 

調が律の頬についた血を見て心配する。 指摘され、律は悲しそうな表情をしながら右手で血がついた左頬を撫でる。

 

「ああ、これはな………さっき、俺はナスターシャ教授のところに行って……そこで、マムを看取った」

 

「——!!」

 

「そんな、マム……」

 

「……分かって、いたけど……」

 

元々長くないとは分かっていた。 だがこうしてナスターシャの死去を聞き、マリアたちは心を痛め悲しみに暮れる。

 

「みんな、私だって悲しいけどそれは後!!」

 

だがそんな暇を周りが許してはくれず、セレナの叱咤で律たちは気を引き締め、マリアたちは涙を拭う。

 

「そうね……先ずはここから脱出するのが先決よ!」

 

「それじゃあレッツゴー! ハイヨー、律ーー!」

 

すると、マリアにくっ付いいたセレナが律の頭に飛び移った。

 

「……俺は馬じゃないぞ」

 

「私、まだ許してないんだからね?」

 

「イタタタタッ!? 髪は手綱でもなければ操縦桿でもないからな!」

 

「……さっきもそうだったけど、セレナってあんな感じだっけ?」

 

「驚きデース……」

 

「もっとこう……穏やかというか、落ち着いていたと思うんだけど……」

 

マリアたちは記憶の中の過去のセレナを思い出しながら、熱く実況していたり律の頭の上でわんぱくしているセレナを見て唖然とする。

 

「全く、こんな時に忙しない」

 

「たっく、バカは1人だけでも手に余るってのによお」

 

「そうだね、クリスちゃん!」

 

「オメェだよオメェ!」

 

「ええぇ!?」

 

——うるちゃいうるちゃいうるちゃい!! バーカバーカ!! 禿げちゃえ!!

 

——それが許されるのは手乗りサイズだけだ! お前は重量オーバーだ!!

 

世界が終わるかもしれない瀬戸際で緊張感のない2人のじゃれつく姿を見て、響たちは少しばかりの希望が持てた。

 

「時間を稼ぐ……行くぞ!」

 

「ああ!」

 

「マリアさん! その杖でもう一度宝物庫を開けることに集中してください!」

 

「何ッ!?」

 

「外から開くなら! 中からでも開ける事だって出来るはずだ!」

 

「鍵なんだよ、そいつは!」

 

律たちが時間を稼ぐため戦闘を再開し、マリアはソロモンの杖を構え、

 

「——セレナァァァーーーッ!!」

 

「やめて姉さん! 恥ずかしいから!!」

 

杖から緑色のエネルギーを放ちながら妹の名前を掛け声として叫ぶマリアに、セレナは顔を真っ赤にして両手で覆い隠す。 だがその妹への思いは確かなものらしく、再び開かれた扉の先にどこかの島の砂浜が映し出された。

 

「脱出デスッ!!」

 

「ネフィリムが飛び出す前に!!」

 

「行くぞ、雪音!」

 

「おう! 吹っ飛びやがれー!!」

 

エクスドライブによって展開した重装備をパージし、パージした装備から無数の赤い光線が全方位に照射、周囲にいたノイズを一掃する。

 

ここのまま宝物庫を脱出しようとし……大きな影が先回りし、律たちの行手をネフィリムが立ち塞がる。

 

「……迂廻路は無さそうだ!」

 

「ならば、往く道は唯一つ!」

 

「手を繋ごう!!」

 

「露払いは任せろ!」

 

「律って結局こういう役回りだね!」

 

「やかましい!!」

 

セレナのツッコミを一蹴しながら律は右腕を掲げ、響たちが手を繋ぐ間に腕と一体化している黄色い六角形の結晶で構成された剣を展開し、謳を紡ぎ出す。

 

「——刹那に(はや)し 矢風のさまに そこり開き むくつけしき すまいにて……」

 

ブースターで加速しながら剣を青眼に構え、

 

「すずどけなく過ぐさ!!」

 

()

 

神速の如き速度で放たれた突き。 そこから突きと同じ速度で刃のように鋭い黄色い閃光が放たれネフィリムを貫く。

 

「せりゃあああああ!!」

 

さらに続けて目にも止まらぬ速さで連続で突き、響たちの準備が整うまでの時間を稼ぐ。

 

そして、セレナの《アガートラーム》がマリアに応えるように胸から白銀の剣が生まれ響たちと手を繋ぐ。

 

「この手——簡単には離さない!」

 

6人は手を繋ぎ、そして響とマリアが繋いだ手を掲げる。

 

「「最速で、最短で、真っ直ぐにッ!」」

 

すると上昇しながら響とマリアのシンフォギアの装甲がパージし、それぞれが集まって一つになると……金の右腕と銀の左腕となった。

 

そして2つの腕は手を繋ぎ、響たちを覆い隠しながら一直線にネフィリムに向かって行く。

 

『一直線にいいいいいッ!!』

 

そのまま腕は回転し、さらに加速。 ネフィリムが反撃に出るも止める事は出来ず、

 

『おおおおぉぉぉーーーーッ!!!』

 

【Vitalization】

 

ネフィリムを貫き、その勢いのまま扉から出て元の世界に戻り……勢いよく砂浜に突っ込んだ。

 

「みんな、無事か!?」

 

後から砂浜に降りてきた律は身もギアもボロボロになった響たちに駆け寄る。

 

——ゴアアアアァァァァ!!!

 

すると、世界を揺るがしかねないような咆哮が真上から轟く。 律たちは頭上を見上げると……胸元に風穴が空いたネフィリムは吼えながら扉の枠を掴み、こちらに出てこようとする。

 

「まだ動けると言うのか……!」

 

「こっちはもう、ヘトヘトだってのによ……!」

 

「くっ! ここは、俺1人だけでも……!」

 

もう響たちは疲労困憊、律は刺し違えてでも止めよう決死の覚悟で飛び立とうとすると……その手を響が掴んだ。

 

「ダメだよ律さん! そんなのダメなんだから!!」

 

「だが、このままじゃあ世界は……!」

 

「——大丈夫だよ、律」

 

絶対絶滅かと思われた時……頭に乗っていたセレナが飛び降り、律の事を見上げる。

 

「セレナ!?」

 

「シンフォギア装者の皆、律のために、この世界に生きる人々のために、力を貸して……!」

 

セレナはまるで懇願するように両手を組んで願う。 すると、地面から溢れるように光が立ち上り周囲を明るく照らす。

 

「こ、これは……!」

 

「何と暖かく、力強い力だ……」

 

「心の中に、溢れる気持ち……これは……もしかして……」

 

「セレナ、あなたは……」

 

「そのシンフォギアには多くの鍵がかけられている。 そのひとつ……“枷”を外すよ。 さあ、歌を歌おう……」

 

「鍵……? 枷……? 何であなたがそんな事を知っているのかは不思議だけど、とにかく歌えばいいのね?」

 

まだ手はある……それだけで希望は出てくる。 もう二度も挫けたりしないマリアは再び立ち上がる。

 

「みんな、歌いましょう! もう一度、歌をひとつに!」

 

「で、でもマリア……こんなギアもあたし達もボロボロの状態でどうするのデス……って、あ、あれ?」

 

「どうしてなんだ……心の中から、歌が湧き上がって来やがる」

 

もうギアも機能せず歌も歌えないような状態だったが、まるでギアからではなく彼女たち自身から歌が溢れ出てくるような感覚を覚える。

 

恐らく、6人の胸の内から同じ歌詞が溢れてきているのだろう。

 

「鍵と枷……つまり歌が鍵で、この歌の歌詞が枷というわけか」

 

「だったら、この鍵で開ける!」

 

「みんな、声を合わせよう!!」

 

世界を救うためかもしれない、ネフィリムを止めるためかもしれない。 だが、今だけは律のために……響たちは手を繋ぎ、歌を歌う。

 

——運命も未来も この手で掴もう

この胸に熱く揺れる、衝動

止める術など知らない、要らない

 

「「「「「「光、解き放て……!」」」」」」

 

歌によって、律のシンフォギアが反応を示しギアから光り輝く黄色い粒子が放出される。 そしてその粒子が律の元に集まって行く。

 

(歌の力が、みんな想いが注ぎ込んでくる……みんなの祈り、みんなの心……確かに受け取った!)

 

右手を掲げ、その右手に光が収束し……そこに刀身が金色に輝く身の丈程の太刀が握りしめられた。

 

「お前も、本当はそんな姿ではないんだろうな。 お前また被害者だ……」

 

ネフィリムを見据えながらそう律は呟く。 ウェルによって狩りに使われただけの獣。 罪はない、だが人類に仇なす存在……放置は出来ない。

 

「——だから!!」

 

『◼️◼️◼️◼️server Access?』

 

またあの電子音が聞こえると同時に金色の粒子が律の身体を覆い隠し、

 

「ギアチェンジ——《クラウソラス》!!」

 

腕を横に振り払うと、そこには《クラウソラス》の黒いシンフォギアを身に纏う律がいた。

 

「この終わらない螺旋に終止符を打つ!」

 

背のウィングバーニアを展開、ギア内にある全てのノイズを外に放出した。

 

さらに律は続け様に《SG-D》を起動し、その右手に黄金に輝く金色の太刀を両手で握りしめた。

 

そして、ネフィリムに向かって一直線に飛んでいく。 その際に、歌と共に声が聞こえてくる……世界中の、みんなの想いと声が。

 

胸を熱く滾らせ、さらにその胸の内から歌が……そして問いかけるような言葉が聞こえてくる。

 

内からも外からも力が溢れ出しながら、律はネフィリムに向かって行く。

 

『頑張れ、律くん!』

 

『君ならやれると信じてるわ!』

 

『世界を、お願いします!』

 

『ここが踏ん張り所だ……気合いを入れていけ!!』

 

『……好きにやればいいさ、今まで通りな』

 

「大人の期待に応えるのもまた、子どもの役目だってな!!」

 

——人と人は、支え合って生きている

 

刀を青眼に構え、目にも止まらぬ速度で突く。

 

『世界中……みんなの思い、みんなの希望を……!』

 

『私たちの力と共に、歌声に乗せるデス……!』

 

『だから律! 絶対に勝ちなさい!!』

 

「みんなの想い、みんなの心……確かに受け取った!」

 

——人を慈しみ、愛する心

 

自分ごと持ち上げるように、バク転する勢いで斬りあげる。

 

『律、お前のおかげで私は前に進む事ができた。 そしてそれはお前もだ……自分を信じ、思っ切りやるがいい!』

 

「ありがとう、翼! 一緒に剣を握り、研鑽を積んだ一振りを見せてやる!!」

 

——人は強くなれる、守るために

 

上段に構え、押し潰し叩きつけるように斬り下ろす。

 

『お前に預ける……私の罪を、私の悲しみを、私の歌を……一緒に、お前に……半分こだけ貰ってくれるか?』

 

「ああ! 一緒に背負おう!そして赦そう……誰が赦さなくても俺がクリスを赦す! 共に歩いて行こう!!」

 

——人は、何度でもやり直せる

 

納刀、鞘を盾にしてぶつかり擦りつけるように抜刀する。

 

『私がみんなの陽だまりであるように、みんなもまた私の陽だまりなの。 太陽が1人だって誰が決めたの? だから戻ってきて、ひとつも太陽を欠けないように!!』

 

「想いは受け取るだけじゃない。 返して、繋がって、広がっていく……必ず未来に返そう、みんなと一緒に!!」

 

——人は迷う、正しい道を進むために

 

柄頭で突き、一転して斬り払う。

 

『律さん……私も未来も律さんがいたから救われたんです。 でもって、まだまだやりたい事はいっぱいあるんです! 律さんとなら……どんな事でも!!』

 

「響……ありがとう! お前の気持ち、そしてお前の力……全て受け止める!!」

 

——あなたと手を繋ぎたい、さあ……手を伸ばして

 

納刀、抜刀し斬撃が飛来し斬り裂く。

 

「終わりにしよう……愛を知らぬ悲しき獣よ!!」

 

八相の構えを取り、全力で振り抜くと巨大な団扇で仰いだかのような突風が巻き起こり。 ネフィリムを宝物庫に押し返して行く。

 

すると、徐々にネフィリムの身体が崩壊を始めボロボロと崩れ始めた。 恐らく臨界点までもう間もない。

 

「まだまだぁーー!!」

 

踵を返して一転、響たちの元に向かう。 それを見ていた響はニヤリと笑みを浮かべ、律に向かって思いっきりジャンプした。

 

「響ーーーッ!!」

 

「律さーーん!!」

 

2人はお互いに呼び合い、伸ばした手を掴み取る。

 

()の心 立ちゆく花と……」

 

「「契り結ばん!!」」

 

謳を紡いで同契(リアクト)を結び、律の右脚に白い装甲で構成されたジャッキが付いた右脚を覆う程のプロテクターが装着され、幻影となった響が背後霊のように律の両肩に手を置く。

 

「それだけではダメよ! 早く杖を!」

 

「問題、ねぇよ……」

 

「我々には、まだ頼れる仲間がいる……!」

 

「仲間……?」

 

『私の——親友です』

 

すると、みんなの期待に答えるように不時着した潜水艦から未来が全速力で走って来た。

 

「(ギアだけが戦う力じゃないって響と律さん、みんなが教えてくれた……!)私だって、戦うんだ!!」

 

未来は砂浜に突き刺さっていたソロモンの杖を掴み、

 

「お願い——響、律さーーーんッ!!」

 

そして大きく振りかぶり、空を飛んでいた律に向かって投擲する。

 

「っと! すごい肩してるな!?」

 

『未来ってば怪力ー♪』

 

「もうからかわないで!!」

 

まさか届くとは思っていなかった律は驚きながらも飛んできた杖を掴み、響がからかうと未来は憤慨する。

 

「『——遅遅(ちち)せずと むくりこくりに 霊早(ちはや)ぶる (みだ)(やから)(しら)まして……』」

 

だが軽口を叩く暇もなく続け様に謳を詠いながらジャッキを上げて接近し、最高速のまま右脚をネフィリムの腹部に向け、

 

「『まぶる(みさお)を打ち調(ちょう)ざん!!』」

 

鎮魂の刺突(ギムレット)

 

蹴りを叩き込むと同時に下ろされたジャッキを撃ち込んだ。 するとネフィリムの腹部にアウフヴァッヘン波形のような聖痕が撃ち込まれ、抗う力を無くした今にも飽和寸前のネフィリムは勢いよく《バビロニアの宝物庫》に押し込まれ、

 

「——閉じろーーッ!!」

 

すぐさまソロモンの杖を扉に向かって投擲し……一瞬、空の色が暗く変化しながら扉は閉められて行った。

 

「……どうか、安らかに……」

 

『……………』

 

ネフィリムを最後まで見送った後、律は胸に手を当て黙祷し、響もそれに続いて黙祷する。

 

数秒の間その状態が続き、先に律が黙祷をやめ口を開いた。

 

「……なあ、響……」

 

『……何ですか、律さん?』

 

「——変身解けた」

 

「へ?」

 

いつの間にか同契(リアクト)が解除され、シンフォギアも溶けるように霧散した。 宙に浮かんでいる状態で解除すると……2人は重力に従って落ち始める。

 

「いやああああぁぁぁ!? これ死ぬ!! これ死んじゃいますって!!」

 

「いやー、死んじゃうねー」

 

「何でそんなに冷静なんですか!?」

 

「もうガス欠だし、一周回って冷静になっちゃってるからねーー……」

 

響は意識が朦朧とし黄昏気味の律の胸倉を掴みガックンガックン揺らす。 そして目前まで地上が迫り……急に何が割って入ったらバフンと、律と響は柔らかいクッションの上に落ちた。 そしてすぐにクッションは萎み、1枚の布になって地面の上に乗った。

 

「……あ、あれ?」

 

「……生きて、る?」

 

「——お2人とも、ご無事ですか?」

 

「お、緒川さん!? もしかして、緒川さんが助けてくれたのですか!?」

 

「ええ。 間に合って良かったです」

 

地に足ついてようやく正気に戻った律。 よく観察すると、布は大きな風呂敷のようだった。 もしかしたら本来はこれで空を飛んだりするのかと、あり得なくもない想像をする。

 

「良かった……2人とも無事で本当に良かったよ!」

 

「結構身体にガタが来て無事とは言えないけどな……」

 

「ふはー、律さんとの同契(リアクト)は疲れるなー」

 

「律、よくやったわ。 これでマムの望みも叶ったでしょう……」

 

「そうだね……そうだと、いいな……」

 

「——それより、律。 アレをどうにかしろ」

 

「アレ?」

 

クリスが指を刺した方向を見ると……そこには数個の赤黒い結晶のような球体が浮遊していた。

 

「……何アレ?」

 

「こっちが聞きたいわ」

 

「どうやら律くんが放出したノイズが霧散、自然消失せずにまとまった……ものだと思われます」

 

「……とりあえず回収するかな」

 

放置する訳にも行かずノイズと言うのならギアペンダントを掲げると……吸い込まれるようにノイズの球体がギアペンダントに吸収されていった。

 

「これでよしっと」

 

「何だったんだろう?」

 

「まあ、便利になったからいいかな」

 

「それでいいのかよ?」

 

バビロニアの宝物庫が無くなった事でこれ以上のノイズの配給は無くなった事になる。 《イペタム》の時はどういう訳か自分でノイズを生成できるが、《クラウソラス》の時はできないので使い分けが必要になる。

 

ともかく……こうして事件は解決となり、二課は政府の協力のもと事後処理を開始した。 確保していたウェルは薄気味悪く笑いながら到着した自衛隊に連行されて行った。

 

「月の軌道は正常値へと近付きつつあります。 ですが、ナスターシャ教授との連絡は……」

 

「……………」

 

二課は何度か連絡を試みるも、当然ナスターシャからの応答はなかった。 そして律はナスターシャの血が塗られた右手で、同様に血塗られた左頬を撫でる。

 

「マムは……」

 

「——言うな」

 

宇宙でナスターシャが死去してしまった事を伝えようとすると……奏が律の言葉を止める。

 

「それ以上は、言うな」

 

「……はい」

 

空を見上げながら奏は強くそう言い、律は静かに頷いた。

 

そして戦いも目的も終えたマリアたちも同様に空を見上げ、その先にいるナスターシャを思いながらさらに破損してしまったアガートラームのギアペンダントを撫でる。

 

「マムが未来を繋げてくれた。 ありがとう……お母さん」

 

「マリアさん」

 

響はマリアを呼びかけると、響は取っていたガングニールのギアペンダントをマリアに返そうとするが、マリアは首を振った。

 

「ガングニールは君にこそ相応しい」

 

マリアから正式に譲られ、響はギアペンダントを握りしめる。 そして再び月を見上げる。

 

「だが、月の遺跡を再起動させてしまった……」

 

「《バラルの呪詛》か……」

 

「人類の相互理解は、また遠のいたって訳か……」

 

「——平気、へっちゃらです」

 

誰もがこの先の未来について悩ませている中、いつもと変わらぬ響はいつもの台詞を大きな声で言う。

 

「だってこの世界には——歌があるんですよ!」

 

「響……」

 

響らしい答えに、未来たちは笑い合った。

 

「歌、デスか……」

 

「いつか人は繋がれる……だけどそれはどこかの場所でも、いつかの未来でもない。 確かに、伝えたから」

 

「……うん」

 

「——立花 響」

 

そして、マリアは響に名を呼び、

 

「君に出会えてよかった」

 

微笑みながらお礼を言うようにそう言った。

 

それから弦十郎たちもやって来て、マリアたちの処遇について話し出す。

 

「君たちの身柄は、日本政府で預からさせてもらう。 今後の事態収拾に協力して欲しい」

 

「分かってる……」

 

「きっとまた……会えますよね」

 

「…………」

 

「姉さん……」

 

弦十郎も強硬手段を取ったとはいえマリアたちにはまだ釈明余地がある。 無罪とまではいかなくても可能な限りの減刑は望めるだろう。 直ぐにとまでは行かずとも必ず、また会えるだろう。

 

「そしたらいっぱいお話しましょうよ。 私達ずっと、きっと、もっと……仲良くなれるはず」

 

「なれるの……かな……」

 

「なれるさ。 俺たちだって最初から仲が良かった訳じゃない。 翼は文字通り刀みたいに刃を尖らせてたし、クリスなんてな……」

 

「……私はそんな感じではなかったぞ……」

 

「お、おい!? こんな時に何を!?」

 

「いや〜、見せてあげたいねぇ。 知らない人たちには《ネフシュタンの鎧》姿を〜」

 

「うう……おい、ちょっ……!」

 

「——では、皆さんこちらに」

 

クリスが慌てふためく中……準備が整い緒川が案内し、マリアたちは響の会話を横見しながらその後に続く。

 

「トゲトゲのって感じのトゲトゲしてるし……あ、言ってることもトゲトゲしてたけど、これは今のクリスちゃんもそう変わらないかぁ〜」

 

「いや、ちょって……ぁぁあああ!! GO TO HELL!!」

 

「スーパー懺悔タイム!」

 

「もう滅茶苦茶だな」

 

響は意味不明な事を叫びながらクリスに張っ倒される。

 

「マリアさん」

 

「…………?」

 

倒れながらマリアを呼び止め、顔を上げ打たれた頭を撫でながら笑顔を見せる。

 

「とまぁ、こんな風ですよ。 だから——」

 

「……ありがとう。 また、いつか……」

 

「またね、マリア——姉さん」

 

「すぐに会いに行くからね、マリア姉さん」

 

「——ああ、そうでした」

 

——ガシャン!

 

「ほえ?」

 

いつの間にか背後に回り込んでいた緒川が鳥籠をセレナに被せ捕獲した。 呆けてしまうセレナに緒川は鳥籠を持ちながら説明する。

 

「彼女についても詳細を説明していただきますので……律くん、ご同行をお願いします」

 

「は、はい……」

 

笑顔なのに目が笑ってない……両手に手錠をかけられる前に律もマリアたちの後に続き、「だせぇーーー!」という鳥籠の中で暴れながら叫ぶセレナの声が無常にも響いた。

 

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