戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
数日後——
冬休みの一件でたっぷりとお仕置きされ、その後も色々ありながらも数日が経ち……律はあの聖遺物と現在月がどうなっているかを確認しに二課の潜水艦仮設本部、指令司令室を訪れていた。
月はナスターシャ博士の尽力のおかげで落下軌道から元の公転軌道に戻ったが、その後の調査が急ピッチで行われていた。
フロンティアの機能は全てネフィリムによって吸収された。 だが、ウェルによって分離されたエネルギー制御室は別だ。 今だに宇宙を漂いながら稼働しており、残された先史文明期の異端技術とも言えるだろう。
近々、シャトルを飛ばして調査を行う予定で。 その際、残されたナスターシャ博士の遺体を回収する意味でも律たちにとっては重要な計画となっている。
まだ未定だが、早くても3月末に一度ナスターシャ博士を連れて地球に戻る事になってる。
「失礼します」
司令室に入るとそこには緒川と弦十郎がいた。
「おや、どうしたんだ律くん?」
「前に見つかった聖遺物についてと月の軌道がどうなっているのかを確認しに。 そう言うお2人は?」
「先日、海に墜落した彼女たちが使用していたエアキャリアが発見され、その報告に。 せっかくですし律くんも聞いていかれますか?」
「ええ、ぜひ」
「では——フロンティアの崩壊に伴い、海中に没したエアキャリアより事件の裏側を窺い知る証拠品を多数引き上げました」
「とは言え、あの状況だからなぁ」
「はい。 そのほとんどは破損し、証拠品として機能していなかったのですが……」
緒川は手元のパットを操作し、メインモニターにしわくちゃになった1枚の手紙のような画像が表示された。 文字が書かれてあり、ひらがなで“てが”、その次に逆さになった“み”が書いてあった。
(手紙……?)
「これは?」
「海水に揉まれてボロボロになった上、文字も滲んで耽読不能な状態だったのですが……二課情報部、科学部班の先端技術を結集させて元の状態にまで復元しました」
「金かけたな!」
「もっと別のところで使いましょうよ……」
次に表示されたのは手紙の内容……ほとんどが意味不明な内容だが、一部分だけ読むことが出来た。
「一読する限りでは、意味不明の謎ポエムにも思われるのですが……高度な暗号である可能性がある為、専門チームを編成して解析に当たってみたのですが……」
(ええっと……は、い、け、い……拝啓。 By……き……い? きい……き、り? きり……切歌?)
この手紙が切歌が書いたと分かると、この手紙が専門チームを編成してまでことに当たる価値がないと分かってしまう。
「あの、これって……」
「そうか……《F.I.S》の背後関係を暴くきっかけになればと期待するのは、少々虫が良すぎたな」
「特殊性はないと判断しましたので、これは私物という事で彼女たちの元に戻るよう手配しておきます」
「うん、そうしてやってくれ」
(……何だろう……途端に無駄に金かけてしょうもない事をしていると思ってしまうけど、言い出せないよ……)
言い出せるタイミングを失い、律は独り苦笑いし、
——デデデデデデデーーース!!!
どこからともなく、律の耳に切歌の悲鳴が聞こえるのだった。
その後、報告を終えた緒川は退出し。 律は当初の予定通り月の軌道を確認し、問題ないことを確認した。
「さて、それであの聖遺物については何か分かりましたか?」
「そうだな……検査の結果からアレらは聖遺物ではない事が分かった。 加えてだ……あの楽器、と言えばいいのだろうか。 ともかく、あの楽器は生物の体組織から作られている事が判明した」
「生物の、体組織で? それってつまり、モン◯ンの武器や防具みたいな?」
「その映画なら俺も見たぞ」
トゥー◯レイダーもそうだったが、勧めているとはいえ意外とカンフー映画以外も見るんだなと思った律。 特にモン◯ンは狩り映画と言うより序盤は完全にバ◯オだった。
「だが聖遺物ではないとも言い切れなくてな。 臨床試験としてあの楽器の前で翼に歌ってみたのだが……微かだがフォニックゲインに反応を示してな」
「適合しなかったのか、それともフォニックゲインが足りなかったのか、他に理由があるのか……まあ、起動したらしたで面倒ですがね」
「全くだ。 《神獣鏡》でも厄介だと言うのに、またとんでもない物を持ち込んで来たものだな」
「ご、ごめんなさい……」
「気にするな。 あのまま放置する訳にもいかないしな」
《神獣鏡》だけでも頭を悩ませているのに、それ以上の代物を6つも転がり込んだのだ。 まだ使えないとはいえどより一層上からの圧力が酷くなりそうだと弦十郎は頭を抱える。
(そういえば……)
そこでふと、律は思い出した。 今の今まで忘れていたが、先のフロンティア事変の時に弦十郎たちがウェルを確保していた事に。
色々あり過ぎてすっかり頭から抜け落ちていたが、確保された後どうなったかは気になる。 むしろ知っておかないと気になって落ち着いて夜も寝られなくなる。
「弦十郎さん。 確かフロンティア事変の際に、緒川さんと共にウェル博士の身柄を確保したんですよね? その後はどうなったのですか?」
「あ、ああ……それは、だな……」
律の質問に、弦十郎は顔を顰めながら少し言いづらそうにする。 その顔からして相当困った扱いになったのだろう。
「……国際取引の結果、ウェル博士は異端技術の管理特区“深淵の竜宮”に監禁された」
「“深淵の竜宮”?」
聞いたこともない名前に首を傾げる律。 名前からして乙姫はいないだろうと思いながら弦十郎は続ける。
「ウェル博士の左腕は見ただろう?」
「ええ、なんかバ◯オの爪なしのタナ◯スっぽくなってましたね」
「そのゾンビ映画なら俺も見たぞ。 とにかくだ、ウェル博士の状態と罪状も込みで決定された判決は……ウェル博士から人権を剥奪、モノとして扱われ海底に建造された異端技術に関連する危険物や未解析品を収める管理特区、通称“深淵の竜宮”に監禁される事になった」
「それは……」
作品は同じだが律はゲーム、弦十郎は映画と微妙に違うが話は通じているので良しとした。
ともかく、今までの行いから無実になるとは思っていない。 しかし、人として扱われず光も届かぬ深海に投獄されるのは……同情まではせずとも少し複雑な気分になってしまう。
「……判決が決まった以上、色々考えても仕方ないですね。 願わくばあの人が罪を意識して悔い改めるのを……」
そう言いうと、律の脳裏に「うえぇーへッへッへッ!! 英雄になるんだぁぁぁ!!」と笑い狂うウェルが映る。 律は何度も懺悔して悔いるウェルを思い浮かべようとするも、
(……思い、浮かばない……!!)
「お前が気に病む事はない。 うん、気に病む事はない」
大事なので2度言い、打ちひしがれる律の肩を叩く弦十郎。
「はぁ……もうそれはいいとして、次に《神獣鏡》はどうなりましたか?」
律は溜息を吐きながら次に聞きたいこと、6つの遺物もそうだが、また別の問題も残しながらも都合よく残ってしまった《神獣鏡》について質問した。
「《神獣鏡》は二課の預かりとなり、現在も解析を続けている。 何事もなければこのままになるだろうな。 だが……」
「……未来、ですね」
弦十郎も懸念していたのか「ああ……」とゆっくり頷いた。 他の遺物と違って《神獣鏡》には適合者の可能性がある。
「LiNKER込みだったとはいえ未来くんは装者として《神獣鏡》のシンフォギアを起動させた。 そのせいで一部の連中から装者として運用する案も出てはいる」
「やっぱりそうなりますか……」
翼1人しかいなかった装者は今や4人に増えた。 とはいえ、上層部としては増やせるものなら1人でも増やしたいのだろう。
「俺は未来を戦いに巻き込みたくありません。 仮に未来が望んだとしても、俺は反対したいです」
「ああ、それは同意見だ。 そもそもこの案が通る事はないだろう。 現在の二課で装者を調整できる程の設備と技術、それを運用するための優秀な技術者は居ない。 LiNKERがあったところでもう一度未来くんが装者になるのは不可能だろう」
「……ですが。 それってつまり調整されている調たちは、運用される可能性があると?」
「………………」
まさに今独房にいるマリアたち3人がそれだ。 今までの戦闘記録から奏以上の稼働時間があると分かっており、罪からは逃れてもみすみす見逃す事はしないだろう。
「未来ももちろんですが、あの子達にももう戦ってほしくありません。 しかし、また戦いになれば……あの子達は戦うでしょう」
幼い頃からシンフォギア装者として訓練し続けてきたマリアたち。 過程は違えどそれは兵士を育てているのと同じ……敵が現れれば、恐らく戦いに繰り出すだろう。
彼女たちの思考に最初から逃げる、隠れるといった選択肢がないのだ。 染み付いたものは取り除くのは難しく、戦いが彼女たちの一部になっている。
言っても止められないだろう。 それは響に人助けを止めろと言っているのと同じ事だ。 そう考えていた所で、弦十郎が律の頭を撫でる。
「なに、心配するな。 そうならないためにも俺たちがいる。 お前は彼女たちに日常の楽しさを教えてやればいいさ。 もちろん、映画鑑賞もその一つだ!」
「……そうですね。 うだうだ考えるより、あの子達と何をして遊ぶか考えている方が有意義です」
「そういう事だ」
「——という事で、ちょっとお願いがあります」
◆ ◆ ◆
「ふぅ……」
「お疲れ様です、司令」
弦十郎が律の提案を受け入れた後、退出した律と入れ替わるように藤尭がコーヒーを差し入れにきた。
「言わなくてよかったんですか? あの楽器が翼さんの歌よりも、別の反応を示した事例があることに」
「これ以上、俺は無関係な人を巻き込みたくないのさ。 特にそれが、若者であるのならな」
藤尭も同じ気持ちなのか「そうですね……」と返事をし、自分の席に座ってコンソールを操作してモニターに1枚の画像を表示した。 そこには……律を含め新しくファナを加えたバンド“レゾナンス”の面々が写っていた。
◆ ◆ ◆
《フロンティア事変》から2週間——
日常に戻った律たちは、落ち着く暇もなく学生の領分である2学期の期末考査の対策に追われていた。
既に期末考査は前日に控えており、律とクリスはテーブルを囲んで血気迫って勉強をしているあたり、なんだか先のフロンティア事変以上の気迫を見せているように感じる。
「だあぁ……だりぃ……」
決して頭は悪くないクリスだが一夜漬けとなれば話は別。 そこへお茶が乗ったお盆を両手で頭上に持ち上げているセレナが差し入れを出す。
「大変ですね、あんな事があったばかりなのに」
「オメェはいいよな、気楽で。 アタシらより歳上なんだからお前も勉強しろよ」
「歳は奏さんと同じですけど心は13歳なので!」
「リューツ」
「ガウ」
これ以上騒がれたくない律はリューツを呼び、セレナはリューツに首根っこを咥えられ「あ〜れ〜」と連れて行かれた。
「ふぅ、勉強をやるのはいいけど……もっと猶予が欲しかったかもな。 冬休みを削ってもいいから期末考査の日にちをズラしてもらうとか」
「うへぇ、それはそれで嫌だなぁ。 だったら今頑張った方がいいな」
「その意気だ」
休みを削ってまで試験に望みたくはなく再びペンを取ろうとすると、ふとクリスは響の事を思い出す。
「この調子ならアイツも根を上げてるんだろうな。 でも、未来は大丈夫なんだろう?」
「ああ。 巻き込まれたとはいえど本土に戻ってきた翌日には復学してからな。 俺たちは色々あって5日も遅れたし、その後も一昨日まで慌ただしかったからなー……」
逆にあれだけ派手にやって1週間と少しで落ち着いた方が凄いだろう。 二課の大人たちは普段活躍できない分、こういう事後処理や後始末に本気というか本領を発揮するので大いに助かっている。
「そういや、マリアはともかくあの2人はどうなんだ? 確か来年リディアンに入学するんだろう? 少なくとも中学レベルの勉強が出来ないとまずいだろ?」
「その点は緒川さんと相談している。 軽くテストしてみたけど、普通科目はちょっと遅れているみたいだ。 フィーネとして活動していた時は勉強する暇がなかったから仕方ないけど……まあ、入試までには何とか形になるだろう」
(それって入試まで勉強漬けって事か……?)
酷くないのは恐らくナスターシャ博士の手解きを受けていたのだろうが、ここ半年は敵同士だったり共闘したりで忙しく完全に手付かずだったのだろう。
今の状態が後2、3ヶ月と思うと、クリスは気の毒に思いながら戦慄してしまう。
「不幸中の幸いとして音楽関係は問題ないな。 シンフォギアの訓練=音楽の勉強みたいなものだからな」
「それはまあ、確かに。 アタシもフィーネに発声練習やら裏声の出し方やら教えられたからな。 勉強も……一応、天才から教わってたしな」
フィーネの表の顔は天才と自称していた櫻井 了子、そんな彼女から手解きを受けていたクリスの成績はかなり良いと言える。 何も与えられなかったと思っていたクリスは、実はフィーネから色々と貰っていた事に今更気づき苦笑してしまった。
それからも勉強は続き……しばらくして小休止する事になり、律はホットココアを淹れてベランダに出た。 もうすっかり寒くなり、一服しながら空を見上げる。
考えるのは今後の事……律はこれで終わり、とは思っていなかった。
(パヴァリアの、光明結社……)
マリアが口にした名前……米国国家安全保障局と共に月の落下を隠蔽した組織。 そんな組織がこのまま平穏無事になりを潜める訳がない。
だが、先だって軽く調べてみたが辺りも掠りもしない。 期待してなかったがインターネットは当然として、情報通である緒川の弟の捨犬——字面だけ見るとdogの方の捨犬になるのは気のせいだろうか——通称ワンさんに聞いても分からないときた。
正体不明の組織……予想できる事と言えば、普通ではないのだろう。 シンフォギアや聖遺物、ノイズに似た超常的な何かを有しているはず。
「ふぅ……」
そこまで考え、悪い方向ばかりに考えが進むのは悪い癖だと、律は頭を振り払う。 今勉強以外のことを頭に詰めても意味はないので、休憩を終わりにして再び席に着くのだった。
◆ ◆ ◆
期末考査後——
この前、翼がクリスが先輩と呼んでくれなくなったと愚痴を聞いてから早数日……ようやくテストは終わり、一時的とはいえど勉強から生徒たちは思い思いに過ごしていた。
「んーー! 可愛い〜〜、スリスリ〜〜」
「…………………」
テスト後もあるが、久しぶりにバンドメンバーで集まっていると、満面の笑みの鈴が為す術なくされるがまま少女の頬をすりすりしていた。
鈴に拘束されて動けない彼女は《ファティナ・ル・シエナ》、通称ファナ。 小柄な体格で肩で揃えられたクリスとは色合いが違うパールブロンドに、特徴的な琥珀色の目をした少女だ。 彼女は来年からリディアンに来る予定のピアニストだ。
きっかけは唐突で、コンクールに出ていた鈴が“可愛いから”という理由で半ば無理矢理に引き込み、さらに彼女も律たちのバンドにも参加している。
といっても、律とファナ自身も預かり知らない所で勝手に入れられたようだが。
「というか鈴先輩、学院まで連れて来ちゃまずいでしょう。 まだ部外者なんですから」
「部外者じゃないよ!」
「バンドとしてはそうですが、学院側としては部外者ですよ」
このままでは話にならず、ファナから鈴を引き剥がし由叉に預けた。 とにかくリディアンに入学するにもバンドにも本人の意思を確認しなくては。
「ええっと、ファティナちゃん?」
「ファナでいいよ」
「そ、そうか……ファナはどうしたいんだ?」
「僕は別にいいよ。 面白そうだし、バンドにも入ってみたかったから」
(ぼ、僕っ子だ……)
一人称が僕である事に戦慄する錦。 そこは傍に置いておき、律は簡単な質問をする。
「得意な楽器はピアノの他にあるか?」
「キーボードもできるよ」
「お、良いじゃねえか。 なんだがやっとバンドらしくなってきたな」
「ベースはいませんし、色物のヴァイオリンやトランペットが居ますけどね」
「それを自分で言うか普通?」
バンドでヴァイオリンやトランペットを使う事もあるが、ボーカル兼指揮者も含めればかなり物珍しい方だろう。
と、そこで錦が何かを思い出して、律に歩み寄ってくる。
「そういや律、さっきまで期末考査で忙しかったから聞かなかったが……期末のギリギリまでどこ行ってたんだ?」
「…………!(ギクッ)」
「そうそう! 日本近海に超巨大な建造物が現れて大変だったんだよ!!」
とうとう聞かれてしまったと律は顔に出さぬよう内心焦り出す。 何せ当事者でその渦中の真っ只中にいたのだから。
「あ、あー、その時は海外で俺は指揮の、未来たちは歌の勉強をしていてな。 帰国直後にその事件が起きて帰国が伸びたんだよ」
なんとか冷静になりながら二課が用意したアリバイを言い切り、律は困った顔を見せて「あはは」と笑いながらなんとか誤魔化す。
「……その事件の際、世界中にライブ配信されていたんですけど……マリアと一緒に響ちゃんを見たんですけど」
「何、そうなのか……?」
「気付いて無かったんですか!?」
堂々と名乗りを挙げていたが、どうやら由叉は気が付いていないようだった。 だが気づいていないのが1人だけで、他は確実に怪しんでいた。
実際、復学後は吹聴や情報の拡散は確実に防いでいても、響はクラスメイトたちには根掘り葉掘り聞かれたと未来から聞いていた。
「怪しいなぁ……何か隠してない?」
「ま、またまた〜、何もありませんよー」
「ジーーーッ」
——ガブッ!!
「痛ぁぁぁ!?」
いきなり鈴が悲鳴を上げると、足首にリューツが噛み付いていた。
「あ! コラ、リューツ!!」
急いでリューツを落ち着かせて引き剥がした。 鈴も赤くなっていただけで怪我はないようだ。
「もうダメだぞ、ほらごめんなさいしろ」
「ガウ」
「あ、あはは……大丈夫大丈夫。 リューツちゃんも一緒にお話ししたかったんだよね?」
「ガウ!」
鈴は涙目になりながらリューツを撫で、リューツはそうだと言わんばかりひと鳴きする。
「あ、そうだ。 ファナちゃんは初めましてだよね? この子はウチのマスコットのリューツちゃんだよ!」
「勝手にマスコットにしないでください」
「大きい猫だね」
(猫じゃないんだけどな……)
仮にシンフォギアの事がバレる事になろうともリューツの事は話すまいと違う律。 そのような事を考えているとファナはリューツを抱きしめ、その感触を確かめる。
「モフモフ……」
「キャーーー可愛いぃ!! もっと、もっと視線を上目遣いにぃ!!(パシャパシャ!)」
(ホッ……何とか誤魔化せたか。 ナイス、リューツ)
偶然かもしれないがリューツの機転のおかげで律は命拾いをした。 それと同時にいたたまれない気持ちになる。
(響たちも仲間だけど、このレゾナンスもまた仲間なんだよな……)
響たちも共に戦う仲間だが、レゾナンスとして一緒に演奏する彼らもまた仲間だ。 容易に話せる内容ではない事は百も承知だが、律はそれでも彼らに不義理と感じてしまった。
(いつか、話せる時が来るのだろうか……)
「——律。 おい、律!」
「え……」
呼ばれている事に気付き慌てて顔を上げると、錦が手を招いて呼んでいた。
「ボーッとすんな、ファナと早くセッションをやりたくって鈴先輩が行っちまったぞ、早くこいよ」
「久しぶりですし、肩慣らしで合わせましょう」
「ファナがどれくらいの腕か見ものだな」
「ふふーん、僕の演奏について来られるのかな?」
「……今行くよ!」
先に行く彼らの背を見ながら律は一笑し、駆け足でその後に続いた。
(いつか、話せるといいな……)
簡単ではないだろう。 でも、必ず話そうと律は心に誓うのであった。