戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
時は戻りQUEENS of MUSICから4日後——
事件後、律達は待つことしかやる事がなくもどかしい気持ちのまま日常を過ごしている中、何か進展があったのか弦十郎から招集を受けた。
律とクリスは並んで二課に向かう途中、何度かパトカーが横切る。 遠くからもサイレンの音が聞こえてきて、ここ数日ずっとこの調子だ。 “武装組織フィーネ”を探しているにしては随分となり振り構ってない風に見える。
「なんかいつにも増して騒がしくないか?」
「あの騒動の後だから、と言いたいけど……確かに妙だな」
「——聞きました? また銀行強盗ですって」
その時、道端で会話をしている主婦の方々の会話が聞こえてきた。
「これで4件目ですって。 警察は一体何をしているのかしら?」
「その前に起きたライブでの事件も追っているそうだし、あんまり人手を割けないんじゃないかしら?」
「いやぁねぇ、安心して眠れもしない」
そんな会話に聞き耳を立てながら横を通り抜け、しばらくして口を開く。
「どう思う?」
「あのフィーネのパクリ共に便乗しての犯行か、それとも……ま、アタシらの出る幕じゃないがな」
「少なくともマリアたちとの関係性は無さそうだ(しかし、4件か……)」
同一犯だと思われるが、この日本で4件の銀行を襲撃して易々と金を盗めるのだろうか……律はそう疑問に思ってしまう。
そのようなことを考えながら近隣の川に停めてあった二課仮設本部である潜水艦に到着すると、
「あれ? 律さんとクリスちゃん?」
その入り口の前で響と出会した。
「2人も呼ばれていたんですか?」
「装者全員招集されたんだから当然だろ」
「無駄口叩いてないで行くぞ」
潜水艦に乗り込み、ブリーフィングルームに向かうと先に弦十郎と緒川の2人が待っていた。
「よく来たな、3人とも」
「あれ? 翼さんと奏さんは?」
「翼さんは番組の収録を。 奏さんは私に変わりマネージャーをしてもらっています」
「それで? アタシらを呼び出したって事は、アイツらに関して何か進捗でもあったのか?」
「いいや。 無関係ではないが、今回は別件だ」
不審に思いながら3人は席につき、今回呼ばれた件について説明を聞く。
「——実は先のマリアの宣戦布告や領土割譲……通称《アイドル大統領宣言》にかこつけてある組織が動き出してな」
「ある組織?」
「これを見ろ」
そう言って弦十郎は懐から1枚のお札を取り出し、律に手渡される。 特段珍しい物ではないが、電子マネーが普及して以来余り目にしないような物だ。
電子マネーに着いていけない高齢者や、律のような好き好んで使う人も少数のため数は減りつつある。
「1万円札?」
「これがどうしたんですか?」
「百聞は一見にしかず。 とにかく見てみろ」
見てみろと言われ広げてみると、パッと見て何の変哲もない普通の1万円の紙幣だが。 ある一点だけ、決定的に違っていた。
「これは数日前から出回っている偽造紙幣です」
「透かしは勿論特殊インク。 凹版印刷、パールインク、ホログラム、潜像模様、マイクロ文字、隠し文字まで……隅から隅まで完璧にまで偽装されている」
「「………………」」
律とクリスが無言になる。 そこにあったのは……妙に貫禄のあるライブ衣装姿のマリアの横顔が印刷されている1万円札だった。
「諭吉以外は完璧に偽造されている」
「手触りもまるで本物です。 見分ける方法がありませんね、諭吉以外」
「諭吉じゃないなら一目瞭然だろ!!」
色んな意味で人間を辞めている緒川と弦十郎がそう言うのだから完成度は高いのだろう。 諭吉以外は。
「近年、日本政府が1万円札を福沢諭吉から渋沢栄一に変更する事を先んじての犯行と予測されています」
「先んじてと言う割には既に手遅れでは?」
「つーか今時、偽の現ナマで犯罪を起こそうだなんて古いにも程があんだろう!」
「よし。 乗り込んで響の1万円札を作ってもらおう。 未来も喜びそうだ」
「わぁ! 私、偉くなれるんですか!?」
「おーい、帰ってこーい」
「なんだ、クリスは5千円がいいのか?」
「んな事はどうでもいい!!」
だが悪い気はしないのか、ちょっと顔を赤くするクリス。 気を取り直し、律はこの偽1万円札について考察する。
「しかし、これでは偽札と言えないのでは……? 使い物になりませんよコレ。 しかも本気でマリアを担ぎ上げるつもりですか?」
「ああ、この紙幣が実際に使われたと言う報告はない。 加えて、この組織が彼女たちフィーネを支援している訳でもない」
「こんなので騙されるの老眼のジジババくらいだろうよ……」
「問題はその偽札の不正使用ではないのですよ」
「と、言うと?」
こんな使えない紙幣に一体何があるのかと、律は思わず聞き返す。
「政府の見解によれば偽札は宣伝広告。 自分たちの高い印刷技術の誇示と、現金さえ積めばいかなる依頼も受けると我々、そして上層部も示唆している」
「地味に世界規模の犯罪者!?」
「って言うか偽札作る依頼料も現ナマオンリーかよ!?」
「犯人は分かっているのですか?」
響が質問し、緒川が手に持つパッドを操作してモニターに名前が表示される。
「——兎 正宗?」
「これを作っているのは古くから東日本を裏から牛耳っている指定暴力団体だ」
「……あの、それってつまりヤク——」
「元々、偽札作成技術で高い利益を得ていていました。 しかし、近年の経済成長で電子マネーが普及し現金での売買が減少して以来、目につくような活動をせず壊滅したと思われてたのですが……」
「あのライブ以来……と言うより、マリアが芸能界で活動を開始した辺りで姿を見せ始めた」
「しかし、何だってマリア顔なんだよ?」
「もしかしてファンだったりして?」
「そもそも偽札作れるんだから、銀行襲って本物の現金を集める理由が分からないんだけど。 最初から最後まで矛盾しているぞ」
「そこが我々も疑問に思っている点です。 資金調達でもなく、宣伝でもない……では、何が目的なのか。 今回、皆さんに調査してもらうのはその点です」
「……すみません。 ノイズ相手にならまだしも完全に専門外なんですけど……」
「子ども相手なら油断するだろうという上層部の見解だ」
「——よし、帰ろう」
何とも浅はかな考えに頭に来た律は席を立つと、やれやれと首を振る弦十郎が制する。
「まあ待て。 今後二課で活動する以上、こう言った人間を相手にする機会も増える。 これはその練習みたいなものだ」
「だからっていくら何でも無茶振りですって。 相手が銃とか持っていたらどうするんですか?」
「銃で君たちが止められるとでも?」
「あ、あははー……ま、まあでも! 映画で銃の避け方はバッチリマスターしてますし、大丈夫ですよ!」
「それはマト◯ックスじゃないよな?」
危険はあるだろうが仕方なしと、律たちは緒川に率いられて目的地に出発した。
◆ ◆ ◆
緒川の先導の元、律たちは犯人が潜伏しているアジトに到着した。 そして律たちは潜伏している家を茫然と見上げる。
「……あの……犯人の組織ってヤクザ、でしたよね?」
「ええ、その通りです」
緒川に確認をとりもう一度家を見上げる。 形は簡単に言えば立方体の上に三角形の積み木が乗り、さらに煙突が立っている。 平たく言えば、
(ミッ◯ィーの家……)
「……メッチャ外国の家ですね……(・×・)キュゥ」
「……確かにある意味、一家だな」
「いいのかよ!? ヤクザの一家が! こんなオモチャみてえな家で!? つうかテメェはその顔やめい!」
かなりの規模の組織だった筈が、蓋を開けてみれば張りぼてのような家を見て思わずクリスはツッコミを入れる。
「ごめん下さ〜い(カンカン)」
「馬鹿! そんな堂々とノックするやつあるか!」
響はドアに付いていたドアノックを使って遠慮なく鳴らし、しばらく待っても返事はなかった。
「……逃げたのかな?」
「いえ、中から話声は聞こえます」
「とりあえず響、もう一回」
「はーい」
再びカンカンとノックする。 すると、中から話し声が聞こえた後、ドンドンと怒ったような足音を立てながら玄関まで迫り、
「——セールスはお断りだぁ!!」
扉が勢いよく開かれ……目の前には誰もいなかった。 そして律たちは視線をゆっくり下に下げると……そこにはマントを着た二足歩行の二頭身程の兎がいた。
「私はこういう者です」
「いや兎じゃねえか!? いつもの安い顔より値上げしたマジもんのミッ◯ィだろこれ!?」
いつもの調子で緒川が表向きの身分証を見せる中、クリスはあり得ないものを見たように兎を指差す。
すると、兎は勢いよく踵を返して文字通り脱兎の如く逃げ出す。
「警察だ! クマよ! 我が腹心のクマよ!!」
「——Yes Boss」
「あ、カワイイ」
「カワイイで済むか!?」
次に現れたのは女子ウケするようなクマの着ぐるみが、流暢な英語を喋ってイカつい自動拳銃構えていた。 しかし、
「……oh……(カタカタカタ)」
丸太のような太い手では引鉄は引けず、さらに持ちずらそうに震えている。
——パンッ!
「危なっ!?」
「気をつけてください!」
震えたまま発砲し、あらぬ所に銃弾が飛ぶ。 続いて緒川も銃を抜き威嚇で1発発砲、動物?2匹は家の中に引っ込んだ。
「皆さんは隠れていてください」
追撃がないことを確認し、緒川は律たちを庭の茂みに隠れるようにする。
「わぁー、緒川さん凄ーい」
「凄い通り越してありえねえー」
「早く帰って来てください——って、頭から血が出てますよ!?」
「流れ弾が飛んできました」
「何で平気なんですか!?」
体の頑丈さも人間を辞めているのではないのかと戦慄する律たちだった。 そうこうしている内に緒川は銃を構えながら土足で家に突入、コミカルな2種類の動物の足跡が台所に向かっていた。
「ふむ?」
足跡は台所前の床下の入り口で途切れており、緒川は追おうと床下に入ると……別の場所に隠れていた兎と熊が現れ床下の扉を閉めさらにその上に冷蔵庫を乗せて閉じ込めてしまった。
「緒川さん!?」
「やったぞ! これで残りのガキどもを——」
「ほいさー!」
「ぶほっ!」
「Boooss!?」
続いて意気揚々と調子に乗った兎が律たちの方を向き……その顔面に大きな石が飛んだ。
「何をする!?」
「タダでやられる訳にはいかないからねぇ」
鼻血を流す兎に律は石を片手にあっけらかんとする。 そこで律はテーブルの上にあった偽札束の山に目を向ける。
「それにしても、やっぱり分からないなぁ……こんな高精度の偽札が作れるのなら本物の紙幣なんて必要ないだろうに」
「クックック、浅はかなり。 我が高尚なる計画は子ども如きには理解されないのだ!」
言うや否や兎はテーブルに着く。
「クマよ、メシにするぞ!」
「shut up」
「意外と高圧的!?」
いつの間にかエプロン姿の熊が台所から皿を片手に出て来て、その皿を兎の前に置く。 そして、その皿の上には……一万円札の札束に胡麻だれがかけられていた。
兎はそれを当たり前のように口にする。
「「「……………」」」
「やはり日本円札の胡麻和えは実に美味だ(ムシャムシャ)」
「Be excuse me Boss」
すると、札束を食べ終えた兎の背後にクマが立ち。 いきなり耳を鷲掴みにすると、
「Yaaaaaaaaa!!」
全力で引っ張った。 すると兎の口から札束がまるで印刷されるように出て来て、続けて全力で引っ張るたびにそれがいくつも出て来た。
「これが我が愛しのマリアを模した偽札の完成——」
「死に晒せぇぇーーーッ!!」
【QUEEN's INFEAND】
「「うぎゃあああああ!!」」
いつの間にかギアを纏っていたクリスが遠慮も容赦もなく大量の矢を2匹にぶち込み、舞い上がった札束と矢が室内で飛び交う。
「うわぁ、クリスちゃん容赦ないね……」
「ゴミ作ってるようなものだし、クリスはお金の大切さを人一倍知ってるからな」
お金の事もあるが、あのゲテモノ2匹が犯罪者である事もあるのだろう。
しばらくして銃撃が止み、クリスは疲れたのか肩で息をする。 すると兎は矢の蜂の巣になり頭に刺さった矢から血を流しながらも何故が生きており、シュタッと庭に降り立つ。
「クッ、末恐ろしい痴女だ。 だが、あの男を封じただけでも——」
「残念。 それは身代わりです」
「うわっ!? いつの間に!?」
いつの間にか、当然のように緒川が律と響の背後に立っていた。
「流石は緒川さん」
「でも何ですぐに出てこなかったんですか?」
「その方が面……先にこの家にあった証拠を集めていまして」
(今この人面白いって言いかけたよ)
人間辞めているが基本は真面目な緒川の意外にお茶目な一面を見た。
「Japanese Ninja」
「こ、これは旗色が悪い……撤収だ!」
状況が不利だと感じた2匹は外に飛び出すと……いつの間にか用意されていた馬車に乗り込んだ。
「覚えていろーー!」
「ここ日本だぞ!?」
「今時、外国でも見るの稀だぞ」
馬車に乗って逃げる信長一味、それを律たちは呆然と見送るしかなかった。
「……追わなくていいんですか?」
「証拠品に犯行手口が書かれた資料や次の襲撃予定の銀行が書かれた資料がありました。 今後の対策を取れる点とすればこれで十分でしょう。 後は本職の警察の仕事です」
「……すっごく釈然としませんけど、これ以上首を突っ込むのは藪蛇のようですし、大人しく引くとしますかね」
「チッ、全身の毛を剥いで丸焼きにして食わずに捨ててやろうと思ったのに」
「クリスちゃん、流石に口悪過ぎだよぉ……」
ギアを解除しながら悪態を吐くクリス。 流石の彼女もあの兎の蛮行を容認出来なかったようだ。
「それにしても、クマはまだしもあの兎って一体……」
「不思議ですねー」
「——はぁ……なるほど、分かりました」
生命の神秘に驚いていると、緒川から似合わない要領を得ないような生返事をしながら連絡を取っていた。
「どうかしましたか?」
「いえ、どうやら先程の一味——高速道路で無免許運転で取り締められたそうです」
「「何がしたいんだよ!?」」
◆ ◆ ◆
「——という事があったんだよ」
「「へぇ〜」」
律とクリスはマリアたちと面会しており、律は以前にあった奇妙な事件について話していた。
「わ、私の知らない所でそんな事があったなんて……」
「不思議デスねー」
「喋るうさぎ……会ってみたいかも」
「やめとけ、後悔するぞ」
思い出すだけでも嫌なのか、クリスは頭を抱える。 と、そこで律が財布から2つの紙幣を取り出す。
「ちなみに、ここにマリアの一万円札(ガングニールVer)があります。 これを2人にプレゼントします」
「うわあ! やったデス!」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「やめて律、恥ずかしい!!」
調と切歌は喜んで受け取る中、マリアは顔を真っ赤にしながら止めようとするも……2人はヒラリと交わして紙幣を受け取った。
笑顔でマリアの紙幣を眺めていると、こっそりと近寄ったクリスは調と切歌に耳打ちする。
「ちなみにその万札。 当然だが普通には使えねえが今じゃ希少価値とかプレミアムとかがついて、今の査定額だとざっと(コショコショ……)くらいだ」
「「!?」」
小声で値段を話すと……調と切歌は電撃を受けたような衝撃を受ける。 すると、2人はフラリとマリアの前に近寄る。
「ど、どうしたの、2人とも?」
「ねぇマリア……お札を作ろうよ」
「調!?」
「大丈夫デス……あたし達が作るのは偽札じゃなくてマリアのお札デース……なんの問題もないデース……」
「切歌まで!?」
「ダメだよ2人とも」
そこで律が待ったをかける。 マリアは止めてくれるんだと嬉しそうな顔を見せ……律は新たに取り出したマリアの万札をピッと人差し指と中指で挟みながら、
「そんなんじゃ売れない——オークションにかければ売れる」
「「それだ(デス)!!」
「いい加減にしなさぁーーーいッ!!!」
マリアは恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしながら叱るのだった。
◆ ◆ ◆
「——と、言う夢を見たんだー」
「夢オチかい!」
「お前らのボケに対してツッコミが追いつかないんだよ!」
それは響の新年の初夢であった。