戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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幕間 求む決裁

 

 

某日——

 

「しっかしなんかあったのか? いきなり装者全員呼び出すたぁ、穏やかじゃねえな」

 

「まあ、ドッキリでもない限り何らかの騒動が起こっているんだろうな」

 

「ドッキリはドッキリでやめてほしいがな……」

 

平日の朝、本部から呼び出しがあり学院の1時限目を終える事なく早退した律たちは本部の潜水艦が接岸されている一般人は立ち入り禁止の川辺にある基地に向かうと、関係者全員が慌ただしく動いておりどこか騒がしかった。

 

「何だぁ?」

 

「いつもより騒がしいな」

 

律たちは二課で1番知られている関係者だが、忙しいのか誰も会釈すらせず慌ただしかった。

 

邪魔しないように進むと、基地前にトレーラーが停められておりその前に弦十郎達がいた。

 

「あれ? 珍しいですね中にいないなんて」

 

「こりゃ一体何の騒ぎだ?」

 

「緊急事態だ。 すぐに仮説本部のトレーラーに乗ってくれ」

 

「トレーラー?」

 

そう言われて2人は目の前にある物を見上げる。いわゆるトレーラーハウスの様な感じで、後部の屋上には消防車に取り付ける様な横広の梯子の様な物が取り付けられている。

恐らく射出用のカタパルトだと思われる。

 

その後、響も合流するや直ぐに乗り込みトレーラーは目的地に向かって出発する。 翼は番組の撮影があり、急遽中断して現場での合流となった。

 

「おおー、凄いなぁ」

 

「でも狭いですね」

 

「陸上移動用の急拵えだ、贅沢を言うな」

 

「とりあえず皆さん、座ってください。 直ぐに出発します」

 

「そう言えば奏さんは?」

 

「本部の方で電話対応中だ」

 

「電話?」

 

奏からはあまり想像出来ない仕事をしているが、弦十郎はそれを横に起き本題に入る。

 

「新型パワードスーツが強奪されたー!?」

 

「ええ。 実は先日、異端技術開発研究所から新型パワードスーツ通称“ウェア”が強奪されたの」

 

「そんなもん作ってたのかよ」

 

「櫻井さんの異端技術が世界に流布した影響で、各国で独自の開発が取り組まれている結果ですね」

 

「それで、なぜその話が特機部二に? あまり、と言うか完全に関係が無さそうですが」

 

「その新型パワードスーツはとても高性能で出力が高いようで。 人工筋肉を使用したアクチュエーターによって現代兵器では効果が薄く歯が立たないそうです」

 

「つまり、上層部は俺たちシンフォギア装者を使って止めて欲しいと?」

 

「遺憾し難いが、そう言うことだ」

 

「一応、ココ秘密組織だよな?」

 

「機密組織です」

 

「ですので、出撃の際は身元がバレない様にギアの顔の部位の装甲をフルフェイスでお願いします」

 

「今更な気がしますけどねー」

 

「……理由は分かりました。 それで現在の状況は?」

 

友里がコンソールを操作しモニターに現状を表示し報告する。

 

「本日9時16分、さいたま市大宮区の研究施設で新型パワードスーツを着用した2体が侵入しました。 以後2体は“ウェア”と呼称します」

 

「って、もしかして昨日の今日でもう悪用されたんですか!?」

 

「しかも2体か……」

 

「ベースは同じですが、1体に特殊装備が付けてあるそうです」

 

藤尭がそう言って続いてモニターに表示したのはどこかの金庫の画像。 そして金庫はまるで金属が液体のように焼き爛れて出来た巨大な大穴が開けられており、見るも無惨な姿になっていた。

 

「2体のウェアは金塊250kgを強奪後、首都高に入り東京方面に平均時速50kmで逃走中」

 

(遅っ)

 

思わずその速度に忌憚のない感想を言ってしまうが、車ならいざ知らず人型の大きさで重機並みのパワーが出せるのならこの速度は速い方だろう。

 

「研究所の防犯カメラの映像から特殊武装の詳細が判明しました。 超振動による液体化です」

 

「随分と派手な兵装だな。 一体何の目的で作ったんだか」

 

「これが輻射波動だったら当たればシンフォギアでも一発でアウトだな」

 

「これでも充分アウトだと思うんですが……」

 

「しかし犯人の目的はなんだ? 金塊、金銭目的ならその新型パワードスーツを海外で売り捌けばゆうに億は稼げると言うのに、わざわざ騒ぎを立てて」

 

「目下、捜索中です」

 

金が目的ならここまで日中の天下往来で堂々と犯行とをする必要はない。 そこにパワードスーツの盗用も相まって犯人の意図が余計に訳が分からず混乱する。

 

「埼玉県警より入電! 進路上の料金所を封鎖するとの事です」

 

「東京に入る前に止めるつもりだな。 だが……」

 

「ああ。 この動き、犯人はワザと人目につくように動いている。 そのせいで近隣の人間が集まってきている」

 

「それにしては広るのが早過ぎる気が……」

 

「2機のウェア、首都高から外環道に降りました!」

 

「これ以上は被害が拡大する。 到着までに警察が足止めで銃撃くらいでも……」

 

「……どうやら、難しいようですね」

 

緒川が牽制のために警察に出動要請するように進言するが、それが困難だと言う友里が説明する。

 

「たった今判明しました。 犯人は16歳の男、2人です」

 

「嘘ぉ!?」

 

「確かか?」

 

「はい。 SNSで犯行実況をしてます」

 

いくら現行犯で犯罪行為に走っていても未成年相手では発砲は出来ず、さらにモニターにメッセージアップリの画面が表示された。 そこには……

 

——税金泥棒、天誅!

 

——俺たち史上、マジwktk!

 

——ケーサツ超よえーwww

 

——おまけにバカ

 

——金ゲト!

 

犯人の男2人の頭の悪そうなやり取りが惜しげもなく流されていた。

 

「つまり、犯行をしているとは言え未成年に発砲すると外聞が悪くなるので……」

 

「というか自分達でわざわざネットに書き込むとか……」

 

「移動しながらで打ち込むなんて器用ですね〜」

 

「もはや愉快犯だな」

 

「っていうかルパンじゃあるまいし、これだけの証拠残して悠々自適に暮らせるとでも? 逃げ切れても痕跡残しまくっているしすぐ捕まるだろ」

 

「恐らく、何も考えてないのでは?」

 

「バラルの呪詛は言語どころか知能すら奪ったってーのかよ!?」

 

「犯人の思惑はどうであれ、東京に入られれば逃走ルートは一気に増える。 何としても埼玉県内で確保する」

 

「では、到着しだいシンフォギアを装着し現場に急行します」

 

「あー、それなんだが……」

 

すると弦十郎は申し訳なさそうな渋った様な顔をする。 その理由を緒川が答える。

 

「実はその……安保理や作戦区域の区長などの各方面からの決裁が降りてないんですよね……」

 

「え……」

 

「特機部二はあくまで対ノイズ部隊でノイズに対しての運用のみ独自の判断で動くことが出来るのですが……」

 

「今回は異例中の異例で各方面からの決裁が降りない限り、出動すらできなくて……」

 

「テメェから頼んでおいてそりゃねえだろう!?」

 

「生々しいなぁ……」

 

二課にいるとあまり実感は薄いが……大人の社会では当然だが、改めて目の当たりにすると生々しくて現実を突きつけられているようだった。

 

と、そこで首都高を走っていたトレーラーは非常停止用の脇に止まり。 丁度そこへ翼がバイクを走らせて到着した。

 

「待たせたな。 今どうなっている?」

 

「色々ややこしい事になってますよ」

 

翼はヘルメットを取りながら律の話を聞きトレーラーに入り、中ではまだ複雑な話し合いをしていた。

 

「決裁は区域ごとの区長にも必要で、常に移動されると決裁が間に合わん」

 

「つ、つまり決裁が降りた区から出ると……」

 

「それ以上は追えない、とまでは言わないが強攻手段は取れないだろうな」

 

「め、面倒くせぇ……」

 

「もしかして、奏が電話対応中ってまさか……」

 

「ええ。 その決裁を取って回ってくれています」

 

「今日の奏は損な役回りをしているな」

 

「あ、翼さん」

 

律は恐らく慌ただしく電話をかけ交渉している奏のため、後でお詫びの品を持っていこうと思った。

 

「ま、まあ、とりあえずいつでも出れるようにシンフォギアを装着して待機します」

 

「——あー、張り切っているところ申し訳ないのですが……作戦中止になりました」

 

『はいぃ!?』

 

まるで冷や水をぶっかける様な藤尭の発言で、誰もが声を揃えて驚愕する。 事情を聞くと、それは呆れても仕方ないものだった。

 

「杉並区からの中止要請って……今の現場は板橋ですよね?」

 

「それが杉並区にあるアニメ会社で納品が危ない作品があって、そこで使う3Dのレンダリングを板橋の会社でやってるそうなんです。 あの一帯を停電させたら放送に穴が空くと、議員の方も賛同してしまって……」

 

「アニメと政治に何の関係があるんだよ!?」

 

「そのアニメの代理店が近々放送される都知事選で、議員の参謀役を務めてるようなんです」

 

「何でもかんでも手を出し過ぎでは……」

 

「選挙って大変なんですねー」

 

「だーもう! ノイズ相手するよりややこしい!!」

 

「たった今、犯人のフォロワーが1万人を超えました」

 

「そんな情報いらん!」

 

「落ち着け、雪音」

 

「つまり、杉並区を過ぎないと作戦は決行できないと……世知辛いと言うか何と言うか……」

 

「どうするか……」

 

「現在、犯人は池袋方面に向かっています」

 

「——あ、承認おりました。 ただしシンフォギア1機のみです」

 

「律くん、出撃準備を!」

 

「何だかやる気出ねぇーー!!」

 

「それと作戦中は名前の呼び合いはダメよ! シンフォギアの呼称で呼ぶ様に!」

 

「コードネームってやつですね!」

 

出だしを諸事情で挫かれたり犯人が未成年だったりと気落ちするような事ばかり起きて気は進まなくなるが、それでもお仕事なので律は渋々出撃準備に入る。

 

『犯人は再び首都高に上がった。 高速道路上で犯人を足止めをするんだ。 なるべく早く残りを出撃させるから無理はするなよ』

 

『それと出力の高い技は決裁が降りるまで控えてください』

 

「走っている一般車両はありますか?」

 

『全て規制済みです』

 

「少しは暴れても問題なさそうですね。 一応、可能であれば俺が終わらせてもいいんですよね?」

 

『もちろんだ』

 

トレーラーの屋根の一部が開き、そこからシンフォギアを装着した律が迫り上がってくる。

 

急拵えだがこのトレーラーにはカタパルトがついており、まるで消防車の用な形になりながらも発射スタンバイを取る。

 

『クラウソラス、出撃許可確認!』

 

『決裁確認! 出撃許可願います!』

 

『出撃良し!』

 

『出撃良し!』

 

『出撃します!』

 

普段はしない出撃の確認を取り律は弾丸の様に勢いよくカタパルトから射出、街の上を飛び出した後スピンをしてウィングを展開し現場へと飛翔する。

 

「大変ですねー……」

 

「これも防人の勤めだ」

 

「絶対に違うと思うぞ……」

 

いつものは違う規則に雁字搦めになった二課を見て響たちはそれぞれ感想を言うのだった。

 

「あれ? そういえば所属は何と言えば? と言うか俺が犯人を逮捕する権利ってあるんですか?」

 

『とりあえず警察と言っておけ』

 

「ここに来て適当ですね!?」

 

「あぁぁん?」

 

「んだぁアレ?」

 

そうこうしているうちに現場に接近し。 犯人は接近する物体、律の姿を捉えると……

 

「——よいしょっ!!」

 

『ぶあああ!?』

 

着陸と共に犯人2人の間を抜け、広げた両腕が犯人の顔面に直撃。 いわゆるラリアットをかました。

 

「犯人AとB、拘束しますね」

 

『問答無用だなお前!?』

 

「馬鹿に構う余裕はない」

 

「っ……てめえ! 俺たちは未成年だぞ!」

 

「奇遇だな、俺も未成年だ。 と言う訳で何の問題もない」

 

「ふざけんな!」

 

どうやら馬鹿は馬鹿なりに未成年と言う盾を持っていた事を自覚しているようだが、結局は馬鹿なので簡単に煽られ逆上し、1体が側にあった道路標識をもぎ取ると飛び上がり、真横を向いて振り上げる。

 

「ッ! まさか!」

 

投げようとする先には建物が、しかも保育施設があり中に人や預けられている子どももいた。

 

「させるか!」

 

「——引っかかった!」

 

光線銃で標識を破壊するが、その隙を狙い特殊兵装を搭載していたもう1体が高速道路に超振動を放ち、コンクリートが沼の様になり律は足を取られてしまう。

 

「ぐぅ!」

 

「どりゃあ!」

 

「でやぁ!」

 

2体のウェアは律を足場にして向こう岸に渡りそのまま首都高を走って行く。

 

「逃すか——」

 

飛び上がりぬかるみから脱しって逃げて行く背中を狙おうとするが……引き金は引けなかった。

 

「ダメだ、撃てない!」

 

『な、何でですか!?』

 

「あれを見ろ」

 

シンフォギアから送られる映像がモニターに映し出されると……そこには首都高の上にかけられた歩道橋に、橋を埋め尽くすほどの野次馬がいた。

 

「野次馬だらけだな」

 

「この為に実況をしていたようですね」

 

「何て卑劣な、日の本男児の風上にもおけん……!」

 

「——決裁確認! シンフォギア装者、もう1人出撃可能です!」

 

「私が行く!」

 

「が、頑張ってください、翼さん!」

 

翼も出撃準備に移り、2機は首都高を南下して逃走していた。律は上空から追跡していると2機は背中合わせになって合体し、

 

「「合体ー! ひゃっはーー!」」

 

直結による出力の増幅で馬力が上がり一気に加速する。

 

「汎用性高いなぁー。 迎撃しても大丈夫ですか?」

 

『ごめんなさい、近くに元総理ゆかりの建造物があって……——』

 

「……どうかしましたか?」

 

『現場に急行する翼さんの反対方向から別の飛行物体を確認!』

 

『2人とも、注意して!』

 

どうでも良い理由で制圧出来ずにいると、レーダーで接近する翼の反対方向から別の機影が接近していた。

 

その前にフルフェイスのシンフォギアを纏った翼が到着し、刀を2機に向けて突き付ける。

 

「あ?」

 

「またか?」

 

「そこに直るがいい! これ以上の蛮行、天が赦せでもこの防人は赦しはしない!」

 

「何だあの貧乳?」

 

「エロい格好しても貧乳には用はねぇよ!」

 

「んなっ!?」

 

シンフォギアの見た目はハイレグの上から装甲を装着している格好なので、どうしても際どい格好になってしまうが……2機の不敬極まりない物言いに翼は酷く狼狽してしまう。

 

その瞬間、隙を狙って翼と一緒に接近してきた機影……目の前に小型のプロペラ機が高速道路スレスレで急降下、2機はそれに飛び乗った。

 

「「ひゃほーーい!!」」

 

「あっ!?」

 

「プロペラ飛行機!?」

 

「そこまでするか普通!?」

 

「しかし、どうやらただの愉快犯でもなさそうですね」

 

「ああ。 そもそも厳重なセキュリティが施された研究施設からウェアを盗み出せるような人間にも見えん」

 

「つまり、第三者に利用されていると……」

 

「新型パワードスーツのデータ収集か、それともこの騒ぎに乗じた陽動か……推察は多々ありますが、少なくとも彼ら2人は囮にされている事でしょうか」

 

普通に考えればただの一般人が盗み出せる様な代物でもなく、いくら操作が容易だとしても調整もなしには動かない。 必ず背後関係があるはずである。

 

と、そこで顔はフルフェイスで見えないが、恐らく鬼の形相になっているだろう翼は刀で飛んでいく飛行機を指す。

 

「飛べ、クラウソラス!! あんの不届き者共を成敗してくれるわ!!」

 

「は、はーい……」

 

下手なことを言えば藪蛇になりかねないので怒髪天を衝く程に激怒する翼に頷くしかなかった。

 

「安保理からの決裁を確認しました!」

 

「ならアタシが行く! 蜂の巣にしてやるよ!」

 

「あ、クリスちゃん! 私が行きたかったのに!」

 

2人を追う様にクリスも出撃準備に入り、律と翼は次の作戦を考えながら犯人を乗せた飛行機を追う2人。 しかし、フォニックゲインとノイズは相性が悪く、仮面の下にある翼の表情に苦悶が浮かぶ。

 

「ッッ! 流石に、ノイズが……!」

 

「やっぱり俺のノイズがシンフォギアの運用の妨げになるか。 翼は地上から追えるか?」

 

「……いや、それなら私に名案がある」

 

翼の作戦を聞き……律は翼の足を持つと身体全体で周り始める。

 

「行っくぞおおおおお!!」

 

「おおおおおおおぉぉ!?」

 

いわゆるジャイアントスイングで飛行機に向けて翼を投げる。

 

「あん?」

 

「んだぁ?」

 

「はああっ!!」

 

「「うわああああ!!」

 

驚く間も無く勢いよく翼が乗り込み、飛行機は大きく揺れる。

 

「降りろビッチが! テメェみてぇな貧相な身体で迫られたって勃つものも勃たねぇってーの!!」

 

「貴様っら……! 言うに事欠いてぇぇ!!」

 

『この地点に解体工事予定のビルがあります。 そこに落としてください。 くれぐれもビルから出ないように』

 

「分かりました!」

 

男の失礼な物言いいに翼はさらに逆上するが、振るう刀は冷静に振り落とされないように掴んでいた飛行機の一部を切り落とす。

 

「落ちろぉぉ!!」

 

「「うわああああぁぁ!!」」

 

「お前も続け!」

 

合体したままの2機を真上から廃ビルめがけて大剣の峰で叩き落とし、律が前に回り込んで飛行機のプロペラと主翼を斬り一緒に同じ廃ビルに落とした。

 

飛行機は廃ビルの1階まで落ち、男2人は屋上で四つん這いになって倒れており。 そこへ律と翼が降りてくる。

 

「改めて言うが、大人しく直るがいい」

 

「あと少しで逃げられたのに……!」

 

「湾岸方面にか?」

 

「なっ!?」

 

律の指摘に、自分たちの目的がバレている事に思わず声が漏れる。

 

「ここまで派手にやったんだ、逃げられるとしたら海から国外にしかない。 既に海に続く港は網を張られて閉鎖されている。 SNSの投稿で誘導していたようだけど、無意味だったな」

 

「テメェら……!」

 

「そこまでにしやがれ!」

 

「来たのかクリ……イチイバル」

 

そこへクリスが到着しボウガンを2機に突き付け、律は一瞬名前を言いかけたが何とか押し留める。

 

「チェックメイトだ、大人しくねんねしな!」

 

「うほぉ! ハイレグでかパイ乙!」

 

「え!? なになにどこどこ!?」

 

「ど、どこ見てやがる変態共!?」

 

「——なんてな!」

 

意外にも策士だった男は手で体を隠し狼狽するクリスの横を抜け両手を律に向けて突き出し、ゼロ距離で超振動を放つ。

 

「直結したウェア2つ分のパワーだ! 溶けちまいな!!」

 

後先考えず殺す気で超振動を放つ。 男達は悲惨な光景を想像し……しかし一向に律に液状化などの求めていた変化はなかった。

 

「うぎぃぃぃぃ!!」

 

「な、何で溶けねぇ!?」

 

「いつまでやっても無駄だ」

 

「散々見せびらかしていたんだ。 もう解析し逆位相を放射して無効化くらい余裕で出来る」

 

「そう言う事!」

 

効果がない事を説明し、律は蹴りで手を弾くと回し蹴りの要領で2機を思いっきり真上に蹴り上げる。

 

「くそ、この野郎!」

 

「手加減はしておけ。 相手は素人だ」

 

「了解っ、とっ!」

 

翼の提案を了承しながら落下してきた2機を両手の掌底で吹き飛ばす。 2機は勢いよく屋上に転がり、八つ当たりで屋上を何度も叩き逆上する。

 

「もう知らねぇ! マジで溶かすからな! お前らが悪いんだから——ぐはっ!?」

 

「させるかバーカ」

 

「お、俺らは未成年だぞ!?」

 

「盾になるのが未成年しかないのか? それにおあいにく、アタシも未成年だ!」

 

本来ならそんな単純な理由で攻撃が出来るわけもないがお互いにそんな事はお構いなしにクリスは撃ち続ける。 たまらず男は両腕で顔を覆うと矢は装甲で防がれ、そのまま膠着状態になる。

 

「チッ、手を抜いているとはいえシンフォギアの攻撃に耐えてやがる……」

 

「流石は最先端技術の結晶と言うわけか」

 

「しかし、このままだとジリ損だな。 これ以上高い威力の技が出せないのがなぁ……本部、まだダメなんですか?」

 

『ただ今、最終確認中です』

 

制圧するとなるとそれなりの威力の攻撃をする必要がある。 その決裁を未だに取れておらず、仮設本部では奏に代わって緒川が決裁を取っていた。

 

「そうですか、新宿区としては許可できないと。 困りましたね……このままでは区長がよくご存知の“秘密クラブ殺法”が……」

 

『あっ、あなたっ!? わ、分かったわよ! 好きにしなさい!』

 

「——決裁完了しました」

 

(忍者、恐ろしい……)

 

恐らく弟の伝手からの情報かと思われるが、それを息をする様に使う辺りに藤尭は軽い恐怖を覚える。

 

「決裁良し!」

 

「決裁良し」

 

「決裁確認しました」

 

「確認よし! と、言うわけで——」

 

「おおおおりゃあああああ!!!」

 

——ドガアアァァッ!!

 

「「うあああぁぁーーーーぐべっ!!」」

 

決裁の受諾、そして響がいきなりの登場ともに先頭の1機に上げられたジャッキと一緒に拳を振り下ろし、屋上の床を抜くと続け様に床を抜いていき、1階まで落ちて行った。

 

地上に叩きつけられ土煙が舞い上がる中、穴から覗き込むと……パワードスーツが脱げ伸びている男2人が地面に伸びていた。

 

「来るの早すぎないか?」

 

「まさか決裁待たずに来たんじゃねえだろうな?」

 

「あははーー」

 

「笑って誤魔化すな」

 

恐らく決裁を待たずに独断で出撃してしまったのだろう。 それについて後でお叱りがあるなと思いながら開いた穴から階下を覗き込む。

 

「どうなった?」

 

「完全に伸びているな。 もう大丈夫だろう」

 

「……はぁ、せめて1発は入れておきたかった……」

 

——わああああああ!!!

 

「うわっ!?」

 

犯人を制圧し一息ついていると、いきなりどこからか一斉に歓声の声が上がる。 直ぐ横を見るとそこは学校で、窓際には騒動を見に来た生徒たちで埋まっていた。

 

「って、隣学校かよ!」

 

「どーもどーも、どーもでーす」

 

「早く撤収するぞ。 顔バレしないとはいえ長居する訳にもいかない」

 

「階下で伸びている、犯人は餅屋に任せよう」

 

廃ビルから足早くとびおりて撤収する。 と、降りる前に律は歓声止まぬ学校から不審な点を見つける。

 

(何で頭しか出してない人が多いんだ?)

 

なぜか窓から目線より下は隠し頭だけを出した生徒……恐らく男子生徒が多く見受けられたが、意味がわからなかったのでそのまま退散する事にした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「——んっ! んっ! んっ——ぷはぁっ!!」

 

作戦終了後、犯人ごと後始末を任せた……と言うよりはそれ以上の関与を許さないと言わんばかりに奪われ。 律たち一同は珍しく宴会の席にいた。

友里はビールジャッキを豪快に呷り、ガツン、と軽快な息と共にジョッキをテーブルに置いた。

 

「友里さん、ワイルドォ……」

 

「一気飲みは身体に悪いですよ」

 

「飲まなきゃやってられないわよ! それが仕事とは言えいつもは厄介ごと(ノイズ)の処理を押し付けてロクに協力もしないで、自分の面倒事の尻拭いさせておいて犯人を渡したらそれ以上不干渉とか舐めてんのかしら!? もう一杯!!」

 

(やっぱり、ストレス溜まるんだね……)

 

(今度何か差し入れしないと……)

 

友里の意外すぎる一面に律たちは面食らってしまう。 律たち装者も命の危険があるので大変だが、それを支える大人たちもまた大変なのだと認識を改める。

 

「しかし、何だかんだ初めてですよね。 二課一同、外で飲み会だなんて」

 

「個人同士ではそれなりにやっているんだが、いかんせん主力全員が未成年だからな。 主役を差し置く訳にはいかないし、呼び辛いのもあった」

 

「おじ様、もう私は未成年ではありませんよ」

 

「じゃあ飲めよ翼! 大人への第一歩だ!」

 

「って奏さん酒くさ!?」

 

「こっちももう出来上がってんのかよ!?」

 

「ほら飲め飲め〜」

 

「んぶおぶっ!?」

 

「ちょっ、奏!?」

 

「アルハラはダメですよー!」

 

こっちも既に酒に呑まれており、からみ酒で肩を組んだ翼に押し込む様にビールを飲ませる。

 

「アイツら決裁取ろうにも「しかしですねぇー」、「ですがねぇー」で延々と出し渋りやがるんだよ!! 引き伸ばせばいいってもんじゃねぇんだぞ! こちとら時間がねぇってのに無理なら無理ってハッキリ言いやがれってんだ!!」

 

「こっちもこっちでストレス溜まってる!?」

 

「仕方ないとは言え、奏には慣れない役回りをさせてしまったな。 今日は飲んで大いに盛り上がるとしよう!」

 

『おおーー!!』

 

それから本格的に飲み食いし、今日の鬱憤を食欲で晴した。

 

「わらしらってなぁ! 好きでこんな体型でいるんじゃないんらぞ! それをあんの品性のカケラも無い者どもに……!!」

 

「こっちも酔った!?」

 

「しかもキレ上戸かよ!?」

 

美味しい料理を食べ、その最中に何度か酒によるハプニングがありながら満喫して行く律たち。 それからしばらく時間が経ち、腹も膨れ酔った3人を横に置き落ち着いた所で少し真面目な話をした。

 

「それにしても後の事をすんなり引き継ぎましたね。 友里さんは激オコでしたけど、そのおかげでこうしてられるんですけど」

 

「恐らく二課がウェアの技術関連や犯人とその背後関係に首を突っ込まれたくなかったんだろう。 結果として捜査権は別に委譲され関与は許されなくなったわけだ」

 

「素行不良とはいえ一般人に犯罪教唆をして、それがバレたら困る人なんて……」

 

「少なくとも事件の裏には政府関係者が数名いるだろうな」

 

「それで自分たちの不祥事を隠したかった、と言うわけか」

 

「そりゃあ友里さんもキレるわけだ」

 

それから真面目な話を切り上げると同時に飲み会もお開きとなった。

 

酒は呑んではいないが外の空気を吸って気分を変え。 奏と友里は酔い潰れる程に呑んでしまい。 翼は少し酔いから覚め酔った際の言動も覚えているのか、それとも酒の影響なのかずっと赤面したままだった。

 

「はぁー! 食べた食べたー!」

 

「そう言えば翼ってバイクで来てたよな? 酒を飲んだんだから乗れるわけないし、帰りはどうする気だ?」

 

「いくら先輩でもバイクの飲酒運転とか洒落になんねえぞ」

 

「うっ……そうであった……」

 

「バイクは後程、部下の者に自宅まで回収させます。 翼さんは僕が送りますのでご心配なく」

 

「友里さんは不肖、この藤尭が家の前までタクシーで責任をもって送りますのでご安心ください」

 

「奏は一緒のマンションに住んでる俺とクリスが送りますね」

 

「おい起きろよ、帰んぞ」

 

「うっへ〜〜い」

 

「うるさい?」

 

「はーい、じゃない?」

 

酔い潰れた奏にクリスが肩を貸し、酒も入っていたので安全のためにそれぞれの帰宅方法を確認し解散となった。

 

「さてと……じゃあ早く帰るとしますかね」

 

「明日もあるし、早くベットで横になりたいぜ」

 

「それは確かな。 明日から始末書に追われるから今のうちに休んでおかないとな」

 

「……今なんて?」

 

「……始末書?」

 

早く帰って休もうと決めていると、弦十郎から聞き捨てならないことを聞き思わず足を止める。

 

「な、何かしちゃいましたっけ?」

 

「今回は外の管轄での行動故に規則も厳しくてな。 今まではお目溢しをしていたが、お前達の命令違反も今回ばかりは適応されてしまった」

 

「……え……」

 

「律くんは初接敵における停止命令、武装解除等の勧告の無しによる武力行使。 翼さんは基本標準語を使用した勧告をしなかった事と同僚のパワハラの疑いが。 クリスさんは発砲承認が降りないまま発砲と公然わいせつの疑いが。 響さんは決裁を待たずに出撃と推定危険度Aの攻撃を承認なしで行使し、さらに隣にあった学校の校舎に破片が飛び破損させた疑いがあって……全部始末書ものですね」

 

「ええええぇぇ!?」

 

「マ、マジですか……」

 

「わ、私はパワハラなど……」

 

「追いかけるときに律くんを脅してたぞ」

 

「っていつか私のは何だよこれ!? アレは許可とってなかったのかよ!? というか私だって好きであんな格好……! それに私もだったら先輩と馬鹿もそうだろ!?」

 

「何でもクリスちゃんの方がその……大きかったそうだからと、学校生徒の男子生徒達がみんな前屈みになって動けなくなったとかで……」

 

「ああ、なるほど……あの頭のだけの集団はそういう」

 

「納得すんな!!」

 

クリスの惜しげもない山脈を見せられれば若い男子生徒の布地が隆起するのも仕方ない事なのだろう。

 

「……今までシンフォギアで結構好き勝手してたけど一応れっきとした社会人な訳だし、ちゃんと勉強しておくんだったなぁ……」

 

「わ、私の言動は……標準ではなかった、だと?」

 

「……フルフェイスには出来たんだし、マントかローブとか出せねぇのかな……」

 

「それはそれでマニアックだね、クリスちゃん」

 

「うっせえ、この馬鹿!!」

 

「……うっ……うるさい……揺らすな……」

 

「あ!? ちょっと奏!?」

 

「うわぁぁぁぁーー!? 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁぁぁぁぁーーー!!」

 

顔を青くする奏に伝染するように一同の顔も青くなり、夜のとばりに悲鳴がこだまするのであった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「——と、言う夢を見たデース」

 

「また夢オチ!?」

 

「現実でも起こりそうで生々しいね」

 

それは切歌の新年の初夢であった。

 

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