戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
翌日——
「聖遺物……剣……うーん……?」
昼休み時……律は教室の席に座り、ノートパソコンの前で腕を組みながら頭を悩ませていた。
昨日聞いた奏の説明が正しければ、律のペンダントも聖遺物になる。 律はシンフォギア装着時の情報でネット上の情報で該当する物がないか探していた。
「剣……長剣……鞘に収められた剣…………ハァ、ダメだあ、何にも分かんねえ」
「何やってんだ、律?」
そこへ、ウンウンと唸る律に興味を持った錦がやってきた。
「ちょっと歴史上の剣について調べててな。 でも中々そういうのが見つからなくて……」
「ふうん……作曲にでも使うのか? だったらえらくファンシーな作曲になるな」
勝手に勘違いしてくれ、律はそのままそういう話にする事にした。
「伝説上、架空上ねぇ……エクスカリバーとか、コールブランドとか?」
「それ同じ剣」
「カラドボルグとか、魔剣グラム、フルディングとか」
「うーん、どれもピンと来ないなぁ」
出される名前を検索するも、どれも該当するものは無かった。
「もっとマイナーなのはないのか?」
「後はなぁ、戦女神ザババの双刃《イガリマ》と《シュルシャガナ》」
「マイナー過ぎるわ!」
「どうしろってんだ」
錦はやれやれと肩をすくめる。 怒鳴っても仕方なく、律は溜息をつく。
「ふぅ……地道にやるしかないか」
「——それが一番でしょうね」
そこへ、後ろからアルフが律の考えに同意しながら歩いてきた。
「アルフ」
「次は移動教室よ。 調べ物は後にして、行くわよ」
「あ、ああ」
「あ! おい待てよ!」
既に荷物をまとめていた律はパソコンを片付けてすぐにアルフと教室を出るが、駄弁っていた錦は慌てて準備してから追いかけるのだった。
◆ ◆ ◆
1ヶ月後——
あれから
介入時にシンフォギアでフォローする事もあれば、ノイズに潜り込んで《変異体》として追いかけ回させる事もあった。 時折、翼とも剣を交えたりも。
そしてその時に響の様子も見ていたのだが……それが酷いの一言。 本来なら装者の先輩である翼が指導すべきなのだが完全無視。 結果、響は何の考えもなくがむしゃらにノイズと戦う1カ月となっていた。
「ふぁ……」
今日の授業が終わると同時に律は大きな欠伸をし、身体をうんと伸ばしてから脱力して机に倒れ伏す。
「律。 あなた、最近だらしがないわよ」
そんな律をアルフはやれやれと言うような顔をしながら注意する。
「ごめんごめん。写譜をやってたら深夜を過ぎててな」
「写譜なんかもう辞めちまえばいいだろう。 もう十分描いたんだしさ」
「前よりは描く枚数は落としている。 それでも100枚くらいはやっておきたいんだ」
「うへぇ、聞くだけでうんざりしそう」
「錦の場合はやらな過ぎよ。 たまに楽譜の読み方を間違えるのなら、少しは描きなさい」
「俺は手順通りより、アレンジを加えた方がいいんだよ」
互いに演奏で足りない点を容赦なく言い合えるのが、この学校のいい点である。 そこでふと、律は時間を見ると席を立ち上がった。
「——さて。 それじゃあ、俺はこれで」
「ええ、また明日」
「そう言えばお前、最近この日は帰るの早いよな? なんか外でやってんのか?」
「まー、少しな」
少し誤魔化しながらも席を立ち「じゃあな」と言って教室を後にする。
この日、律はノイズやそれにまつわる情報を得るため隔週で奏と会談をしており、場所は再び喫茶《アークスター》を訪れていた。
「これがこの1カ月、ここら一帯のノイズの出現箇所だ」
「……多過ぎやしないか?」
目の前に差し出されたパソコン、その画面に表示された地図、さらに無数にある点の数に律は驚きを通り越して無心になる。 明らかに避難警報が出ている以外の出現も多々ある。
「ノイズの出現は月にあるかないか……それを踏まえれば明らかに異常だ」
「ああ。 人為的なものを感じると、二課もそう判断している」
このノイズの異常発生は人為的なものだと既に断言は出来るだろう。 方法や目的は定かではないが。
「ここしばらくは律に時々の介入をさせていたが、今後は出来ればアタシが出動要請をかけたら現場に行ってもらえないか? そろそろ何かが動き出しそうなんだ」
「……つまり、この騒動の主犯が出てくると?」
「可能性は高い」
それはそうと、律は以前から思っていたあることを指摘する。
「というか、これ完全に情報漏洩……というかリークしてるような……いいのか? バレたら面倒ごとになるぞ」
「いいんだよ。 実はここだけの話、二課に情報をリークしている奴がアタシ以外に居んだよ。 しかもお前のような味方じゃねえ——米国政府だ」
「マジか」
「そいつを炙り出すためにもアタシ自身を囮にして、律に協力してもらいたいんだ」
奏も乾坤一擲な想いなのだろう。 律は少し思案した後、口を開いた。
「分かった。 そういう事なら喜んで協力させてもらう」
「サンキューな。 それで、考えはまとまったのか?」
奏の言う考えとは本格に二課に協力するかどうか。 律の正体を明かせばより密な協力を得られるが、
「俺が基本見ているのは響か風鳴 翼の方だからな。 まだよく分からん。 それに内通者もいる以上、まだ本格に協力はできない」
「ま、そりゃそうだな。 アタシもまだ反対だし……気長に待つさ」
律の言い分に納得して、「さて」と奏は席を立つ。
「あらー? もう帰っちゃうのー? もっとゆっくりしていけばいいのにー」
「他に用事もあるし、あまり長居するのも悪いんでね。 これで失礼させてもらうわ」
「じゃあ俺も」
「えー? もっとお姉さんとお話ししましょうよー」
「「働け」」
ブーたれる店長を背に2人は喫茶店を後し、一応奏が変装しているとはいえ、人目がつく通りに入る前に別れた。
近くのスーパーで買い物を済ませた後、帰宅すると、白い子猫のリュートが元気よく出迎えに来てくれた。
「にゃー」
「よーしよし、リュート、元気してたか?」
「にゃー!」
元気よく鳴きながら足元に擦り寄るリュートの頭を撫で、必要な物だけ残しながら買ってきた物を片付け。 そのまま1人と1匹の夕食を用意した。
「………………」
「………………(ジーーッ)」
「…………………………」
「……………………(ジーーーッ)」
「——ほらリュート、召し上がれ」
「にゃー❤︎」
お預けをさせる律と、ご飯をただジッと見つめるリュート。 そして食べる許可をした律はねこまんまが入った皿を床に置くと、リュートは美味しそうにがっつく。
それに続き、律も自分の夕食を食べようとすると……スマホの着信が鳴った。
「もしも——」
『お兄ちゃん!!』
あまりの大声に律は思わずスマホを耳元から離し、キーンとする耳を抑えながら返事を返す。
「はい……お兄ちゃんですよ……」
『さいきんどーして帰って来てくれないのー!? しずか寂しくてつまんなーい!』
「退屈なだけだろう」
静香も律同様、両親から音楽の指導を受けているのだが……どうやら才能が有り余っているらしく、難なくこなせるようでここ最近、退屈しているそうだ。
「今度どこかに連れて行ってやるからそれで勘弁しろ」
『じゃあぁ……風鳴 翼のライブにつれてって!』
「無茶振りな上に高い要求だね妹よ……」
そもそも風鳴 翼は2年前の事件、ツヴァイウィングの解散以降は活動を控えており。 現在も月末にしか活動はしていない。
「分かった分かった。 出来る限りやってみるよ」
『約束だからね!!』
半ば強引……いや完全に強引に約束され電話を切られる。 しばらくして通話を切り、溜息をついた後、箸を取ろうとすると……再びスマホが鳴り出す。
「(またか)はい、もしもし?」
『もしもし、律さん?』
少しうんざりしながらも通話に出ると、今度は未来からだった。
「未来? どうかしたのか?」
『ええ、ちょっとお誘いしたいことがあって……今お時間いいですか?』
「ああ、大丈夫だ。 それで?」
『実は——』
なんでも明日の夜に“こと座流星群”が見れるそうで、響と未来は一緒に見る予定で、どうやら律にもそのお誘いが来たようだ。
『それで、律さんも一緒に流れ星を見ようって事になったんです』
「こと座流星群かぁ……それで、当の本人はレポートの山に追われていると」
『そうなんですよ……それに最近、どこかに出かけることが多くて。 これじゃあ終わるものも終わりませんよ』
だが、当の響は学校からの提出物がまだ終わってなく。 このままでは見れる物も見れなくなってしまう。
「じゃ、俺も行くって流れで。 場所はいつもの高台でいいんだな?」
『はい、いつもの高台です』
「なら、また次の夜に。 それと響に伝えておいてくれ。 急ぎすぎて字が汚くならないようにって」
『ふふっ……はい、伝えておきますね』
通話を切り、一息ついてから窓の外……夜空に映る星々を見上げる。
「行けるといいな……」
明日にはあそこに無数の流れ星が見える。 それを本当に期待しながら、律は少し冷めた夕食を取るのだった。
◆ ◆ ◆
翌日——
「ヌウオオオォーー!! 終わらねぇーー!」
「叫ぶ前に頭と手を動かせ愚か者」
放課後、もう夕方になる事に律と錦はクラス内に残っていた。 その目的は……錦の未完了の課題の手伝いである。
「はぁ……何だって今日提出の課題をやって来ないのかなぁ」
「いやぁ、ゲーセンでドラム系のゲームにハマってたらつい……」
「この馬鹿者め」
すでにアルフは見限っており、律は錦の拝み倒しで渋々付き合っている。
ふとスマホの時刻を見る。 集合には遅れそうだが、星を見る時刻には間に合うだろう。
(……まぁ、流星群は夜からだし、余裕で間に合うだろうな)
軽く溜息を吐きながら、律は確認のため錦が急いで書いているレポートに軽く目を通す。
「そことここ、間違えてんぞ。 それと急ぎながら正確に書け。 字が造形文字になってんぞ」
「ヌッ……ウオオオッ!!」
間違いと字の汚さを指摘し、錦は野太い声を上げながらペンを走らせる。
その後、半ば渋々ながらも担当の先生は造形文字はおろか象形文字になったレポートを受け取ってもらえ。
こうしてお役御免となった律は急いで集合場所の高台へと急いだ。
「な、なあ未来……機嫌直せって、響だって残念がっているだろうし」
「………………(ムスッ)」
高台に到着すると……未来は最初から不機嫌だった。 律は何とか機嫌を直しもらうよう努力する。
どうも響が来れなくなったのがそんなに残念だったのか、合流してからムスッとした顔をし続けていた。
「えっと……未来は俺と一緒じゃ嫌か?」
「!? そ、そんなんじゃありません! ただ……最近、響がよそよそしいとか……ボランティアだって言ってるのに、凄く疲れたような顔をして帰ってきて……」
どうやら二課に協力して疲れを見せている響を心配しているようだ。
「よし! 心配させたお詫びに、今度は美味い店に行って響に奢らせよう!」
「え……ええっ!?」
「心配かけたんなら詫びるのが筋ってもんだろう?」
「で、でも響だってワザとじゃ……」
「それに、響だって俯いて心配そうな顔をしているより……笑ってた方が嬉しいだろうよ」
「律さん……」
律の言葉を聞き入れ、未来は笑顔を見せながらコクンと頷いた。
そして星を見ようとレジャーシートを敷いたり、響のために光量のあるカメラで撮影の準備をしていると、
——ピロンピロン! ピロンピロン!
いつもと違う着信音。 この着信音は緊急時に奏から来るものである。 律は一言「ごめん」と未来に謝りながら離れ、どうやら奏でからのようで通話に出る。
「もしもし、何かあったのか?」
『〇〇地区の地下鉄“塚の森”でノイズだ。 すぐに行けるか?』
「おいおい今からかよ。 それに珍しいな、ノイズ討伐の電話を寄越すなんて」
『頼む』
「………………」
悪いとは思ってる。 だがそれ以上に大切なことなんだろ……奏はただ一言そう言う。 律は電話越しに頷く。
「分かった。 すぐに行ってみる」
『……ありがとうな』
通信切り。 未来の元に向かうと、物言わず先に律は頭を下げる。
「済まない未来、ちょっと用事が出来ちまった」
「………………もう、律さんまで? 流石に1人で見る星は寂しいですよ?」
「今度、ちゃんと響と一緒に埋め合わせするから許せ。 それに出来るだけ早く終わらせられれば戻ってこられるから」
「………………」
「あとこれ、夜空を撮れる光量が出せるカメラ。 それで直接見られない響のために見せてくれ」
何とかお詫びを対価とするも未来は無言のまま。 これ以上遅れるわけにもいかず……カメラを渡した律は「ごめん」とまた謝り、踵を返して走り出そうとすると、
「っ!」
「………………」
後ろから未来に抱きしめられてしまった。 腕はがっちりとお腹まで回されており、顔も背中に埋もれて微動だにしない。
「未来?」
「律さん。 私、最近分からなくなってきました……」
「……ああ、俺もだ。 なんでこうなってしまったのか……響の言う通り、呪われているのかもしれない。 知らない誰かになっていくのが怖い、大切な人に見られるのが怖い。 守りたいからこそ背を向ける。 それはとても、お互いに傷つく行為だ」
まだ星降らない夜空を見上げながら、律は自分の心のままに、未来に思いを告げる。
「こんな俺と響が未来にどう映るのか分からない。 今やっていることが正しいのか、悪いのか……けど——必要なんだ」
「………………」
ありのままの心を言葉に表し、少しして未来がゆっくりと手を離し、律を半回転させて向かい合わせてにする。
「行ってらっしゃい」
「……ああ、行ってきます!」
快く送り出してくれた未来に応え、律は走り出す。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️」
山を降り走りながら聖詠を紡ぎ、その歌に首のギアペンダントが反応し……シンフォギアを纏い夜空に向かって飛び上がる。
「朝飯前に……いや、星降る前に終わらせてやる!」
律が出せる最大速度で飛翔し、数分でノイズ発生地点上空に到着すると、
「あれって……」
空から見下ろすように地上を覗き込む。 シンフォギアの目元のバイザーには高性能の望遠機能がついており、確認されるターゲットを定めながら姿を確認する。
「誰か他の装者がいる? それにあのギアは……」
『——あれはネフシュタンの鎧! 気をつけろ!! あれはお前の使うシンフォギアの1パーの欠片と違って、100パーの完全聖遺物だ!』
「冗談だろ!?」
話には聞いていた完全聖遺物の存在。 なんの策もなく正面からぶつかり合えば勝率は限りなく低いだろう。
因みにどういう原理か、以前に奏は律のシンフォギアと通信できるように設定し、こうして通信できるようにして戦闘中のサポートを受けることができるようにしていた。
「……で、どーすんだ? そもそも俺はまだどっちの敵でも味方でもないんだが」
『鎧の方は翼に任せておけ。 律はあの子のフォローを。 はっきり言って見ちゃいられねえ』
「だろうな」
翼とネフシュタンの少女が戦っているのを尻目に、拘束を解こうと四苦八苦している響の元に降り立った。
「おーい、大丈夫か?」
「わっ!? 黒い人!」
突然の登場に当然の反応をする響。 何故響が律の事を“黒い人”と読んでいるのかと言うと、響たちは律の正体はまるで分からない……なので便宜的に、響のみ黒い人と呼んでいる。
「助けてほしいか?」
「はい! 助けてください!」
「素直でよろしい」
【
敵なのか味方なのかも分からず、こんな状況でもあんまり変わらない響に苦笑する。
律は両翼を広げ無数の細長い紅い光線を拡散させ、ノイズに直撃させると……律はノイズをジャックし、ノイズを操ると出していた粘液を千切り、縛っていた響を解放した。
それにより体勢を崩した響を律は抱きとめる。
「おっと」
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして」
少し顔を赤らめながらお礼を言い、そのまま地に立たせる。
「あ! 翼さんを助けないと!」
「やめておいた方がいい。 戦い方はおろか、対人戦や連携もロクにやってない状態で乱戦に入ったらすぐにやられる」
「うっ!」
当然、図星なのでぐうの音もでない。 ここはこれ以上事態が急変しないように待機するのが一番だ。
「ここは成り行きを見守るしかないな。 ほれ、座るか?」
「え、遠慮します……」
『お前も大概だな……』
首の長い水鳥のような身体が細長いノイズを平伏させ、その頭の上に座る律。 響は、例えノイズで無くとも座りたくはなかった。
「——お高く止まるな!」
そこで、ネフシュタンの少女は、翼の足を振り回し地面に向かって叩き付ける。叩き付けられた勢いで、翼は地面を跳ねながら転がり、その先に回り込んだ少女によって顔を踏み付けられた。
「逆上せ上がるな人気者! 誰も彼もが構ってくれると思うんじゃねえ!」
煽るように汚い言葉を並べて罵倒するネフシュタンの少女を、翼は顔を踏み付けられながら強く睨み付ける。
「この場の主役と勘違いしているなら教えてやる。 狙いは端っからコイツを掻っ攫うことだ」
親指で響を指差し、目的を明かす。 だがそこでようやく響が解放されている事と、律がいる事に気がついた。
「! って、テメェ、いつの間に!?」
「こんばんわ」
「わ、私が……?」
驚くネフシュタンの少女に律は軽く手を挙げる。 その横で、狙いが自分だと思っても見なかった響が自分に指差しながら呆然とする。
「あ、こっちはお気になさらず、どうぞどうぞ」
「ッッ……な、舐めてんじゃねえ!」
律の態度が気に食わなかったのか、少女は杖によって大量のノイズを律と響の周囲に発生させた。
「うわぁ!」
「あらら」
響は慌てふためき、律はどこ吹く風のようにノイズを見る。 その間、少女は何も行動を起こさずジッと律の事を見つめている。
「………………」
「——ふっ!」
【千ノ落涙】
その隙を翼は見逃さず、踏みにじられた状態から大剣を空にかざし、自身に当たらぬよう調整しながら短剣の雨を降らせる。
少女は落ちる前に足をどかして距離を取って避け、再び激突する。
律は2人の戦闘を一瞥すると、周りを取り囲んでいるノイズをひと睨みし、剣を頭上に掲げる。
「俺の前じゃ、ノイズはただの餌だぞ」
【
頭上に掲げてた長剣を手放すと高速に回転を始め、輪型の刃となって投擲。 ブーメランの軌道のようにノイズを斬り裂き、吸収しながら戻ってきた所を掴む。
すると掴んだ手から吸収したノイズのエネルギーが本体に送り込まれ、背中のウィングバーニアが強く紅い光を放出し出す。
「ふぅ……ちょっとお腹が……」
「——出ろ! アームドギア!!」
「ん?」
少し苦しそうにお腹をさすっていると、響が右腕に必死に投げ掛けていた。
「奏さんの代わりになるには……私にもアームドギアが必要なんだ!」
『響……』
(違うぞ響。 お前に必要なのは、そんなものじゃない)
だが、今それを指摘したところで伝わらないだろう。 それでもなお、響は必死に腕のパーツな語りかけるも変化はない。
と、そこでネフシュタンの少女はさらにノイズを出現させ、翼に向かわせた。
「おっとまずい。 お前はここで待ってろ」
「あ……はい」
「それと……」
数歩で響の目の前まで歩み寄る。 響はいきなり眼前に来られてビックリし、たじろぐと……その隙に律の左手が伸び、
「イタッ!」
「お前は決して天羽 奏に代わりになれない。 お前はお前だ、立花 響なんだ」
「あ……」
中指で強く響の額にデコピンをした。 ジンジンと痛む額を抑える響に背を向け、律は戦闘現場に向かって走る。
(……私の名前、教えてたっけ?)
自分の名前を教えていたか不思議に思ったまま立ち尽くす響。
律はノイズを斬りはらいながら中心に飛び込み、翼と背中合わせにして立つ。
「貴様は……!」
「間引いておいてやる。 早く行け」
「……礼は言わない」
信用はされていないが、良し悪しを好んでいられるような状況でもなく。 翼は刀を構え直しネフシュタンの少女に向かっていく。
「さて、夜食と洒落込みますか!」
大きく意気込みながら律はノイズの群れに飛び込む。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!」
ノイズだらけの歌を歌いながら長剣を縦横無尽に振るい、時には投げノイズを次々と炭にしていくが、一向に数は減らない。
「うーん、ちまちまやっても時間がかかるし、かと言って大技を使えば巻き添いにしそうだし……」
『全部吸い込んじまえばいいんじゃねえか?』
「そろそろパンクしそうだから却下。 でも……」
律のシンフォギアにもノイズを取り込める許容量があり、もう全体の8割は埋まっており。 奏の提案を断りつつ上空に飛び上がり、
「一気に決める!」
【
翼を大きく左右に広げ、放出されている紅い閃光から無数の紅い光線が放たれる。 光線は時折カクカク曲がりながら全方向に拡散していき、地上のノイズに降り注いだ。
今回はシンフォギアの力とノイズの力を同時に放出し、力の節制を図った。
「ふぅ、これで全部かな……」
「——おらっ!!」
一掃して軽く小休止していると、翼と戦っていたはずの少女が律に向かって攻撃してきた。
「あっぶな! いきなり何するんだよ!」
「お前も捕獲対象に入ってるからなぁ。 少し痛みつけてから回収してやるよ!」
少しと言いながらも本気で鞭を振るう少女。 律は右手の長剣と、さらに左手に腰に懸架していた鞘を逆手に持ち襲い掛かる鞭を防いで行く。
だが、どう言う訳かネフシュタンの少女は律の方を見ようとせず、顔を俯かせたまま鞭を振るっている。
「私を無視するな!」
「ハン、人気者から目を逸らすなってか!?」
背後から斬りかかる翼。 その瞬間、少女の足元の地面から鞭が飛び出し、振り返らずに翼を弾き飛ばした。
「お前なんか端から眼中にないんだよ! いい加減諦めろ!」
「クッ!」
「それはこっちの台詞!」
意識が翼に向けられた隙に距離を詰め、横に振りぬかれた剣を鞭で受け止め押し合い、鍔迫り合いとなる。
「最初は彼女を警戒してからだと思ってたけど、何で俺を見ようとはしない?」
「ッ!」
鍔迫り合いになったためお互いの顔は至近距離にある。 律は顔を寄せてネフシュタンの少女の顔を覗き込もうとすると……彼女は慌てるように顔を逸らした。
その意思を逸らした瞬間を狙い力を抜いて彼女を前のめりに倒させ、尻餅をついた彼女に剣を突き付ける。
「さあ、まだやるかい?」
「!?」
挑戦的な口調で剣を彼女の顎に乗せ、クイッと顔を上げさせ、律から向けられる敵意がネフシュタンの少女を射抜く。 すると、
「や、やめ……やめて……」
「うん?」
尻餅をついたまま、何かに恐れるように少女は震えながら後退って行く。
「……アタシを……そんな目で……見ないで……」
(怯えている?)
バイザー越しに見える少女の目は律を見ながら震えており、明らかに何かを怖れて怯えている。
何かおかしいと感じた律は警戒を解き、彼女から視線を外して剣を下ろす。
「お、おい……」
「——離れろ!」
「うおっ!? ちょせい!?」
突然、警告と共に背後から3本の短刀が投擲されてきた。 咄嗟に剣を振るい短刀を弾き飛ばし、弾かれた短刀は宙を舞う。
「いきなり何するんだ!」
「そいつは敵だ! このまま放って置けば更に被害が拡大する!」
「敵だからと言って全て斬るなんて間違っている! 斬るべき相手は己が見定めなければいけない! 敵というたった一つの言葉で全てを斬り続けたら……その先に何が残るっていうんだ……!」
「…………!」
その律の言葉に翼は心臓を撃ち抜かれたような感覚を覚え、今まで信じてきた信念と心が揺らぐ。
「確かにそうかもしれない……だが、それでも!」
刀を変形させて大剣にし、振り下ろしてきた。 律も同様に長剣の幅を広げ大剣にして迎え撃ち、鍔迫り合いになる。
「このいい加減に——なっ!?」
なおも攻撃を続ける翼に文句を言おうとした時……大剣を掴む柄から先が無かった。 大剣は独りでに律の大剣と鍔迫り合いをし、峰から出るバーニアで押していた。
「本人はっ!?」
動力付きの大剣に押され、その場から動けないも周囲を見回すと……翼はネフシュタンの少女が放心している隙に背後に回り、両腕を両脇に入れて押さえ込み羽交い締めにした。
「ッ!! テメェ、離しやがれ!」
「……付き合ってもらおう、地獄の果てまで!」
「! まさか、歌うのか——絶唱を!」
「絶唱?」
専門的な用語に首をかしげる律。 すると耳元から奏の慌てる声が聞こえてきた。
『律!! 今すぐ翼を止めろ! 翼がやろうとしているのは、簡単に言やぁ自爆だ!』
「はいぃっ!?」
奏の説明を聞き、思わず驚きの声を上げてしまう律。
「つ、翼さん……?」
「——防人の生き様、覚悟を見せてあげる! あなたの胸に、焼き付けなさい!」
まるでその生き様を響に見せつけるように、まるで死に様さえも見せるように翼は決死の覚悟で死をも招きかねない歌い始めようとする。
「おいおい、大怪我すると分かって、そんな事をやらせるとでも——って、んんっ!?」
今すぐ翼を止めようとすると……何故か一歩も動けなかった。 顔もロクに動かさず、何とか目だけで状況を確認すると……月の光に晒されてて出来た律の影に、1本の短刀が刺さっていた。
【影縫い】
「おいぃー! これ絶対当たる人、間違えてんだろうーーっ!」
「………………(サッ)」
「図星か!」
抜け出そうと右往左往と身悶えながら指摘すると、翼はあからさまに目をそらす。
「Gatrandis babel ziggurat edenal」
だがそれもつかの間、翼は呼吸を整えると歌を——絶唱を歌い始めた。
「は、離しやがれ……!」
「Emustolronzen fine el baral zizzl」
(ッ! う、動かねえ……いや、何で完全聖遺物であるネフシュタンの鎧がたかがシンフォギアなんかに……)
少女も抜け出そうと力を込めるも、まるでビクともしない。 それは身に纏う聖遺物の性能の差であり得ないはず……すると、少女は2人の影に刺さる2本の短刀が目に入る。
(この影に刺さる短刀……まさか! お互いに動きを封じて……!)
翼と少女、両方に影縫いを施し完全に動きを封じていた。 文字通り、翼ひ決死の覚悟で臨んでいる。 だが問題は……2人と律との距離が近いことだ。
「ちょっ、待っ!! これ絶対巻き添え喰うから!」
自爆技と聞き、このままでは巻き添えを喰う羽目になる。 絶唱を止めようにもまず自分が先に抜け出さなければいけない。
「! そうだ! よくわかんない聖遺物だけど、この聖遺物の一端は《光の力》! なら!」
律のシンフォギアの力はノイズの部分を抜けば剣と光の力……律は全身を紅く輝かせると、紅い光が月の光を塗り替え影を消し、影縫いから脱する事が出来た。
「Gatrandis babel ziggurat edenal」
『翼ぁ!!』
「間に合え!!」
「Emustolronzen fine el zizzl」
動けるようになった瞬間、ウィングバーニアを最大速で加速させ、2人の元に飛び込んでいく。
そして、ネフシュタンの少女を羽交い締めにしたまま、翼は絶唱を歌いきった。 その口元は笑みを浮かべ、血が流れ出た。
その直後、翼を中心に凄まじい衝撃波が巻き起こる。
「うあぁぁっ!!」
巻き起こった衝撃波を至近距離で防御もなく、真正面から喰らったネフシュタンの少女は悲鳴を上げ、纏っていた鎧や目を隠すバイザーにヒビが入っていく。
「ぬううっっ——うわああああっ!!」
律は絶唱による衝撃を剣を盾にして耐えながら突き進むも、最後には吹き飛ばされてしまった。
「うあぁあぁぁぁっ!!!」
絶唱のせいか羽交い締めにしていた拘束も解かれ、その直後に少女は絶唱の反動で吹き飛ばされてしまった。
木々をなぎ倒し、その衝撃で鎧にも無数の傷が入りながら近場にあった水辺に突っ込み、ようやく止まった。
「あ……あぁ……」
鎧が破壊された箇所から彼女の色白の肌が露出しており、下半身を水に浸らせながらコンクリートの壁を背にして仰向けに倒れていた。
「——うっ、ああっ!? あぅあっ!?」
すると突然、少女の顔が苦痛に歪み、苦悶の声を漏らす。 その理由は鎧が軋みながら彼女の体を侵食するように自己修復を始めたため。
「ハァハァ……チィッ!」
自分の有様を見て、これ以上の戦闘続行が不可能だと判断したネフシュタンの少女は、身を翻して夜空の闇の中に消えていった。
「翼さーん! 翼さん——った!」
絶唱を行った翼を中心にクレーターが出来ていた。 翼の名を呼びながら響は駆けるも、クレーターに足を取られ転んでしまう。
「痛つっ……なんて威力だよ……」
絶唱による衝撃で吹き飛ばされた律が頭を振り、揺れる意識を保つ。
そこへ、倒れる響の横から車が追い抜き、弦十郎が出てきた。
「無事か、翼!?」
「……私とて、人類守護の役割を果たす防人」
呼び掛けに応えるようにゆっくりと翼は振り返ると……その姿に響と律は目を見開かせる。
シンフォギアはボロボロで、なによりも翼本人が目や口から大量の血を流し、目も当てられないほど傷ついていた。
「見るな」
「————」
翼の姿を見せまいと律は響の前に立つが、既に目撃してしまったようで……響は揺らぐ瞳で翼しか見えてなかった。
(仕方ない……)
——ドスッ……
「うっ……」
気に病みながら響の首筋に鞘を強打させて気絶させる。 そして律はいつでも剣を抜けるように構えながらゆっくりと後退し、奏からの指示を仰ぐ。
「……どうする?」
『……その場から離脱しろ。 弦十郎の旦那が本気で確保に来たらマジでヤベェ。 今、お前の捕まえさせる訳にはいかない』
「……了解」
奏の言葉を聞き入れ、ウィングバーニアを広げて空中に飛び上がる。 踵を返し、後ろ髪を引かれながらも現場から離脱した。
◆ ◆ ◆
「未来!」
「あ、律さん……」
最高速で高台に戻り、律は未来の元になんとか戻ってきた。
「ま、間に合った?」
息を切らせながら問いかけると……未来はフルフルと首を振った。
「もう終わっちゃいました」
「そ、そんなぁ……」
仕方ないとはいえ、間に合わなかったことに大きく落胆する律。
「ふふっ、ありがとうございます、律さん」
そんな律を励ますように未来は肩の上に手を置き、
「それじゃあ、律さん。 すぐそこのコンビニで何か奢ってくださいね?」
「え…………」
「律さんが言ったんですよ。 お詫びをするなら奢らせようって」
「い、いやそれは響と一緒という意味で……」
「ファミレスの方がいいですか?」
「……奢らせていただきます」
既に約束した事を撤回する訳にもいかず……有無言わさない未来の圧力に押されながら律は項垂れるのだった。