戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
翌日——
「奏、風鳴 翼の容態はどうなっている?」
放課後、律は屋上にいた。 電話の相手は奏、あれから音沙汰なかった彼女からようやく連絡が来たのだ。
『今日やっと目を覚ましたが、まだ
「そうか……」
むしろその程度で済んで良かった方なのだろう。 奏から聞こえる声は何となくそう感じる。
『それであの時、ネフシュタンの少女の目的は完全に個人……立花 響と芡咲 律の2名に絞られていた。 つまり、二課には内通者がいると確定してもいいだろう』
「前に言ってた米国と繋がっているやつか」
『ああ。 響はともかく、何故律が狙われているのかは分からん。 ノイズの力を扱えるとこは知られても当然だろうが、素で触れるとまでは知られてないだろうし……」
「扱えるだけでも捕獲対象には十分だろう。 個人が特定されてないだけマシだ」
『だな。 だが問題は……』
「響、だな」
絶唱を行なった後の翼を見た響はかなりショックを受けていた。 かなり気に病んでいそうなくらいだ。
「響の親友の未来からは話は聞いている。 かなり落ち込んでいるようだな?」
『ああ。 翼が傷ついたのを自分の責のように感じている』
「……あいつは妙に溜め込むことあるからなぁ。 ま、そこは近くにいる未来がなんとかするだろう」
ずっと寄り添って来た未来なら響のいい相談相手になるだろう。
『何か分かったらまた連絡を入れる。 それまでは自由にしていいぞ』
「了ー解」
通話を切り、少し嘆息してから屋上の手すりに寄りかかり空を見上げる。
「……もっと訓練を積まないとな。 えっと……どれにしよっかなぁ」
そして律はスマホを操作し、訓練の参考にするためのゲームを探した。
◆ ◆ ◆
数日後——
「——んで、何で永田町に?」
ネフシュタンの少女の出現から数日……ゲーム式特訓を続けていた律は車の助手席に乗りながら、頬杖をついて不満気味にそう呟く。
先程、下校途中に律は有無言わさず半ば誘拐のように奏によって車に乗せられ、そのまま目的地だけを告げて移動していた。 律の質問に奏はニッと笑うと、
「勘だ」
「いや勘って……」
適当な答えに律は呆れるしか無かった。
「まあその付近で仮に何が起こるとしたら……国会議事堂辺りか?」
「アタシもそこを睨んでいる。 しかも、今日は了子さんもそこに来る予定だ」
「了子? 前に言ってた櫻井理論の提唱者で、実質シンフォギアを作った研究者《櫻井 了子》の事?」
「そ。 了子さんはお偉いさんに呼び出されて、色々とメンドくせえ話を説明しなくちゃいけないんだとさ」
(……関係者なのに何でそんなアバウトな説明……知らないのか、忘れたのか……いや、理解できなかったんだろうな。 絶対そうだ)
よくこれで二課に協力できたな、と何度も呆れても足りないくらいだ。
そんな溜息ばかりつきながら律たちは永田町に……その地域にある国会議事堂、
「張り込みっていやあ、アンパンと牛乳だろう」
「いやそれ以前にアポ取ってなかったのかよ!?」
の前に到着し。 道路脇に車を止めて張り込みをしていた。 律は半ギレになりながらも移動の途中で寄ったコンビニで買ったアンパンと牛乳を食べる。
「しゃあねえだろう。 アタシの勘で動いてるんだからそんなの出るわけねえ(モグモグ、ズーッ)」
「……心配になってきた……」
そんな無鉄砲無計画な奏に付き合わされている自分にも頭を抱える律である。
張り込んでから数十分後……議事堂から場違いなピンクの車が出てきて、律たちの車の横を抜けて走って行った。
「……まさか、あの車って……」
「ああ、了子さんの車だ」
「……あのピンクの車で国会議事堂に出入る勇気は、俺にはないな……」
(……だが、予定より出て行くのが遅れてんな……)
弦十郎から聞いていた二課の到着時刻は昼ごろ……今から出発してリディアンの地下の二課本部に到着するにしては遅かった。
奏は何かあったのかと思っていると……少し遅れて三台の黒い車が出てきた。
「お、出てきた。 あの真ん中の車両に広木っつう防衛大臣が乗ってんだ」
「なるほど……ここに来た目的はその防衛大臣の暗殺だな?」
——ゴンッ!!
「ヘブン……ッ!?」
「ちげぇよ! 護衛だよ、ご・え・いっ!! 行くぞ」
律の脳天に振り下ろされた拳を下ろし、奏は車を走らせ、前方の車両に不審に思われない距離で追跡する。
「そもそも何で今日狙われるって知ってるんだよ?」
「勘……って言いたいが、もういいだろ」
いつになく奏は真剣な表情になりながら車を追いかける。
「——2年前だ。 2年前、あの事件の後すぐ、アタシはぶっ倒れた。 LiNKERの投与、そして度重なるノイズとの戦いでアタシの身体はたった3年でボロボロになった」
「確かにあの時、無茶しているようには見えたが……」
「問題は意識が目覚めた後だ。 アタシは変な能力に目覚めた。 医者が言うようには、人間っては死にかけると稀に特異な能力に目覚めることがあるそうだ」
「なるほど……それで、奏にも?」
「ああ。 簡単に言やぁ“脳の活性化による思考の加速化”だ。アタシは時折、どこかの景色のビジョンを見ることができて、それが先の未来で実際に起きたことがたまにあるんだ」
それは所謂、予知能力というものだろうと、律は考える。
「うーん……何となく理解できるような……つまり未来予知ってやつ?」
「まあそんな感じだ。 だがアタシの知らない人、場所の予知は出たことがねぇ。 これはアタシの予想だが、この力はアタシが目にした光景と状況を元に活性化した脳が出した予測なんだ」
「なるほど……よく分からん」
「んー、つまり……車があるとして、アタシがその車が見て、いつ壊れるかがイメージとして現れる。 だがそのイメージが見れるのはその車であって、他の車は見てないから予測もできない……」
「……何となく、分からなくもない」
とにかく都合のいい未来は出てこない、とだけ分かっていればいいと律は考えた。
「んで、ここが本題……つい昨日、そのイメージが出たんだ。 この先で、武装して英語話す奴らが防衛大臣を殺害する光景をな」
「ちょ、それ本当かよ!? って、待てよ……あの車について行くって事は……!」
「おう。 止めてこい」
「結局人任せ!?」
暗殺を食い止めるのはいいが、せめて事前に説明して欲しかった。
しかも、いつの間に走っている場所が人が住まず車の往来や人通りが全くない開発予定地区に入っていた。
「おーい、開発予定地区に入ってるぞ。 これバリバリここで狙われる雰囲気してんだけど」
「——! 急ぐぞっ!!」
すると突然、奏はアクセルを全開にして速度を上げて走り出した。
何故加速したか問おうとする前に前方を見ると、広木大臣が乗る車と護衛の車が上層の道路下にあるトンネルに入ろうとしていた。
「おいマズイんじゃないのか!?」
「分かってる!」
ハンドルを切り、車は車道を外れて側にあった撤去前の瓦礫に向かっていく。 その瓦礫が丁度斜め上を向いており……飛び出し台のような形をしていた。
「っておい! 何する気だ!!」
「緊急事態だ!! 喋ってると舌噛むぞ!!」
さらにアクセルを踏み込んで瓦礫を乗り越えて飛び出し、
「うわああああっ!!」
上層の道路に着地、ハンドルを切って何度もターンをしながら反対車線で急停止した。
「さっさと行けっ!」
「人使い荒いっ!!」
急停止の勢いで律の方の扉が開き、同時に奏に蹴り飛ばされながら首にかけたギアに手を添える。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️」
飛び降りながらノイズだらけの聖詠を紡ぎ、その身に黒いシンフォギアを纏い武装集団の前に躍り出る。
「よっこい、しょっ!!」
武装集団が乗ってきたトラックの正面を蹴り飛ばし、攻撃すると同時にトンネルの道を開ける。
「米国人の皆さーん、バッドエンドのお時間ですよー」
『どっちが悪役なんだか』
律の軽口に、上層の道路に停めた車の中で奏はボソリと呟く。
武装集団は体勢を立て直すと横一列、弧を描きながら隊列を組み律に銃口を向ける。 明らかに訓練されていることから、そんじゃそこらのゴロツキではないことが分かる。
「(何だお前は!?)」
「(日本の新しい兵器か!)」
「あー、ごめん。 リスニングそんなに得意じゃないから」
【
本当は何を言いたいのかは察する事が出来るが、律は軽口を言いながら翼を広げ、紅い光を粒子として放出しながら羽ばたき、光を武装集団に向けて飛ばす。
すると武装集団の身体が震え出し、手に構えていた銃を次々と落とすと硬直したように動かなくなった。
「拘束をお願いします」
「あ、ああ……」
武装集団の拘束を護衛のSPに任せ、警戒されながらも広木大臣の元に向かう。
「大丈夫ですか?」
「き、君は……」
「広木防衛大臣、下がってください! その黒いシンフォギアは報告にあった正体不明のシンフォギアです! 加えてノイズの力を扱います!」
どうやらに二課を通じて存在は知っていたようで、眼鏡の秘書は護身用に持っていた銃を向ける。
だが当の広木大臣は「まあ待て」と、眼鏡の秘書を手で押さえ、車から降りて律の前に立った。
「君は一体何者かね?」
「それにお答えする事は出来ません。 ただ敵ではないとだけ、覚えてもらえれば」
「ふむ……」
質問に対する答えに、広木大臣は顎に手を当てる。 だが襲撃された以上、ここで話している猶予はない……律がここからの逃走を催促しようとした時、
『——律!! しゃがめ!!』
「っ!!」
両耳のヘッドホンから奏の警告が聞こえ、同時に広木大臣と秘書を庇うように押し倒すと……頭上を凶悪そうな棘がついている鞭が通り過ぎ、トンネルの壁を砕いた。
「な、何だ……!」
「下がって!!」
立ち上がりながら振り返り、鞘から剣を抜き構える。 視線を鞭を伝ってトンネルの出口に向けると……そこには金色の鎧を着ている銀髪の女性が立っていた。
「あれは……シンフォギアか?」
「これをお前たちのちっぽけなものと一緒にするな」
律の言葉を女性が否定しながら鞭を手元に戻す。
『あれは……ネフシュタンの鎧だ!』
「色違うんですけど!?」
以前に戦った少女は銀だったのに対し、目の前の女が纏っている鎧の色は金色。 同じ鎧なのに装着者によって色が変わるのだろうか?
「広木防衛大臣。 お前にはここで死んでもらう。 ついでにそのケースも渡してもらう」
「……米国の内通者か……」
どうやら彼女の目的は大臣の命とケースの2つ。 先ずはどうに逃がそうか考えていると……SPの1人が拳銃を構え、発砲するが容易に鎧に防がれる。 女性はジロッと、発砲したSPを睨む。
「くっ!」
「——攻撃するな! 死ぬぞ!!」
発砲したSPを殺そうと鞭を持つ手が持ち上げてられようとした瞬間、律は飛び出して剣を振り下ろし、鞭と剣で鍔迫り合いをしながら前に押し出した。
「この隙に逃げてください!」
「感謝する!」
「逃すと思うか?」
距離を離すために蹴り上げられた脚を避ける。 その間に生きている車に乗り、広木大臣は早急に逃走を計る。 それを見たネフシュタインの女性は舌打ちをし、腰に下げていた銀の杖なようなものを取り出す。
「なんだアレ……」
『——恐らくアレも完全聖遺物だ! あの杖でノイズを自在に発生さて操ることが出来る! 何であんなもんまで持ってんだよ!』
「そいえばこの前の敵が使ってたな。 つまり、ここ最近のノイズの異常発生はあいつのせいか……」
「そういう事だ!」
杖の宝玉から光線が出ると、無数のノイズを出現させた。 女性は命令をだし、逃走する車を追いかけさせる。
『律! 大臣の身の安全を最優先!』
「わかってる!」
翼を広げ追跡するノイズを食い止めようとすると、その前に女性が立ちふさがる。
「逃すと思うか!?」
「なら来てもらう!」
【
両翼から光線が拡散し、ノイズに直撃すると追跡の足を止め……女性に向かって攻撃を開始する。
「何っ!? ノイズの操作権を奪ったのか!?」
「あの銀髪の子から何も聞いてないのかよ!」
あの金色の鎧がネフシュタインの鎧なら、必ずあの少女からの報告を受けているはずだ。 それが無いということは、お世辞にも両名の関係はよろしく無いようだ。
(…………! アイツらは逃げたか……)
いつの間にか拘束していた襲撃を仕掛けた工作員が消えていた。 どうやらこの騒ぎに紛れて逃走したようだ。
「行けっ!!」
逃げた敵をいつまで考えても仕方なく……律は号令を飛ばし、ノイズの大群を一斉にネフシュタンの女性に襲わせる。
だが当然、完全聖遺物相手に効く相手でもないが……律はノイズによる波状攻撃の中に自身も潜り込み、女性の死角から一撃を繰り出す。
「チィッ!! 調子に乗るな!」
死角からの剣は背中の鎧にヒビを入れるだけに終わり、それも直ぐに塞がってしまう。 女性は鞭でノイズごと全体を薙ぎ払う。
そして杖を構え宝玉が輝くと……女性に向かっていたノイズの進行が止まり、ノイズ全部が律に方に向く。
「操作が取り返された!?」
「自律行動させるから乗っ取られるんだ。 ノイズを完全にコントロール下に置けば何の問題もない! だが……」
「ッ!!」
コントロール下に置くということは常に自分で操作しなければならない。 律を相手にノイズが役に立たない上に乗っ取られる以上、出しておくメリットはない。
女は杖を構えてノイズを戻そうとした瞬間、
【
律は背中のウィングバーニアを広げ、紅い閃光を放出する翼から紅い無数の光線を放出した。 光線は全方位に拡散し、周囲にいたノイズを貫き……崩れ去るノイズの残滓を紅い長剣が吸収する。
「使わないのならもらっておきますよ」
「ッ!貴様……!」
ご馳走さまでした……という風に両手を合わせて挑発的な行動をとる律に、女は鞭を地面にぶつけ怒りを露わにする。
「せりゃあっ!」
平静さを取り戻さないうち速度を出して攪拌しぬがら攻撃を繰り出す。
「調子に乗るな!!」
女は鞭を頭上に振り上げると、鞭は根元から無数に枝分かれし、追尾するように全てが律に向かって行く。
「ッ!!」
上から圧迫するように襲い掛かる鞭の数々。 律は翼を広げ囲まれないうちに退避し、降り注ぐ鞭を避け続けるが……鞭の一つが片翼に巻き付いてしまった。
「しまっ——」
「ああああああっっ!!!」
巻き付いた翼を起点に鞭を全身に巻き付かれ、女の気合の叫びと共に上に引っ張りあげられ、
「フンッ!」
「ガハッ!」
『律!』
勢いよく地面に叩きつけられる。 肺から息を吐き出し、一瞬呼吸が止まり律は大きく咳き込む。
「ゴホゴホッ!!」
「手間をかけさせて……だが、それも無駄な努力だったな」
「な、何……?」
『——律! 広木大臣が逃げた先にノイズが現れた! 広木大臣含め全員……やられちまった』
「なっ……」
律がここで食い止めている事虚しく、ここから離れた場所でノイズによって広木大臣が……律は自分の不甲斐なさに歯をくいしばる。
「どうやら保険が役に立ったようね。 いくらノイズを乗っ取れようと、お前が認識してなければ意味はない」
「……この——ッ……!?」
力強くでも鞭の拘束を脱しようとした時……律の身体に異変が起こる。
「む……?」
「……ほ、放出すんの忘れてた……く、苦しい……!? 身体が、引き裂かれそうだ……!」
『り、律……?』
「グ……グオオオオ……ッ!」
すると、シンフォギアを纏う律の姿にノイズが走り出し、苦しみから逃れるように身をもがき……身体を縛っていた鞭を引き千切りながらゆらりと立ち上がる。
「ノイズ率急上昇。 220……250……300——360%……あんなに大量のノイズを内にとどめて置くなんて無茶なことを……それにとんでもない数値ね、この子本当に人間? 中々、興味深いわね」
「——オオオオオッ!!!」
女性は律の苦しそうな表情を見ながら狂気染みた目で、唇を舌で舐める。
長剣を左手に持ち直し、掲げられた右手に紅い結晶が現れ……増殖して刀身の形をとり、身の丈程ある大剣となった。
「ふっ……飛べえええーーーっ!!」
【
横の長剣が振り抜かれ、縦の大剣が振り下ろされる。 それによる紅い十字架の斬撃が発生する。
「ぐっ——うおおおおお!!」
女は斬撃に呑まれていき……それでもなお斬撃は止まらず。 縦の斬撃は大地をえぐり、横の斬撃は建造途中のビルを次々と薙ぎ倒し……斬撃は海に入ってもなお衰えず、水平線の彼方まで消えて行った。
「う、嘘だろおい……」
その威力に奏は口をポカーンと開けるしかなかった。
生身にはそれなりにダメージを喰らったようだが、鎧自体には少しの砂煙の汚れとヒビが入る程度のダメージしか負ってなかった。
そのヒビも時間が巻き戻るかのようにほんの数秒で塞がってしまう。
「ま、まだ……!」
「やってくれたわね……!」
怒りに顔を歪めながら倒れ込む律の前まで歩み寄る女性。
「聖遺物のスペックの差は歴然だが、あれほどノイズを取り込めばここまでの性能を発揮するか。 だが……」
「グッ……ハアハア……」
「いくらノイズを取り込め、炭化しないとはいえ所詮は異物! それほど大量に取り込み、全力で使えば身体が無事で済むはずがない!」
「くっ……」
「——律!!」
その時、車で待機していた奏が上層の道路から飛び降り、律に向かって走り出す。
「待ってろ、今助けてやる!」
「お、おい!」
助けるというが、動けない律の側にネフシュタインの女性……この状態で救出は、戦える力を失った奏には無茶が過ぎる。
それでもなお駆け寄る奏は、走りながら近くにあったペンキ缶を掴んで放ると、
「だあああああっ!!」
ペンキ缶が凹む威力でボレー気味に蹴り、かなりの速度で女に向かって行く。
「チッ!」
女は鞭を振るいペンキ缶をはたき落とそうとした。 鞭はペンキ缶に当たると……棘がペンキ缶に穴を開け、緑色の中身が飛び散り女の頭から被ることになった。
「ッアアアアアアッ!! 小娘がぁああっ!!」
「地味にエグいことを……」
「いいから行くぞ!」
その隙に律に近寄り肩を貸して立ち上がらせ、安全な場所へ連れて行こうとするが、
「この……小娘がぁ!!」
そんなことは当然許さない。 女は2人を飛び越えて前に躍り出る。 しかし、その格好は見るに無残と言ってもいい。
「やってくれたわね、天羽 奏……ロクにシンフォギアも使えなくなったお前にここまでイラつかされるとはなぁ……!」
「お前……アタシの事を知って……!」
その疑問に答える間も無く、怒りをぶつけるように奏に向かって鞭が振るわれる。
「奏!!」
咄嗟に奏の前に出ながら剣を振って鞭を弾こうすると……女が鞭を操り形が山形に唸り、剣を擦り抜け律の左腕に巻き付いてしまう。
「ふんっ!」
「ぐあっ!!」
「律!!」
引っ張られると棘が左腕全体に突き刺さり、そのまま前のめりに倒れてしまい。 目の前に女が歩きてくるとひれ伏す律の背中を踏み体重を乗せてくる。
「ぐうぅ……」
まるで弱者を踏みにじるように……だが律もただでひれ伏す訳には行かず、無理矢理振りほどいて立ち上がろうとすると、
「…………! 回収したか……命拾いをしたな」
女が横を向きながら呟き自ら足を退け、腕から鞭を取り外すとそのまま背を向けて歩き出す。
「ま、待て……お前は……お前は一体……」
フラフラになりながらも立ち上がり、女は視線だけを律に向けると、
「私は“フィーネ”。 終わりを告げる者。 一応、感謝は言っておこう。 お前たちのお陰で余計な手札を切らずに済み、貸しを作る事ができた」
その名を告げ、ネフシュタインの女性……フィーネは飛行型のノイズを出現させるとその背に乗り、飛び去っていった。
律はしばらくその姿を見上げてた後、シンフォギアが解除されると、律は鞭が巻かれた左腕を抑えながら膝をつく。
「大丈夫か!?」
「ま、まあなんとか……左手が痛くて全く動かないけど」
「……触るぞ」
ゆっくりと慎重に上着を脱がせると、左腕は紫色に腫れており、棘による出血もかなり酷かった。 その腕の症状を見た奏は顔を青くする。 律は調律師でピアニストで指揮者……そんな彼が腕をダメにするなど今までの人生を台無しにするも同然な事なのだ。
「す、済まねえ!! アタシが無理を言い過ぎたばかりにこんな事に……!」
「いいよ、気にしなくて。 まだ治らない見込みはないんだから。 気にするなら……」
我慢強く笑顔を見せていたが、一気に生気のない顔をし、
「……早く病院連れてって……」
「お、応!」
奏は律に肩を貸し、慎重に車に乗せると病院に向けて走り出した。
注! 奏はキック力増強シューズを履いていません!