戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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最新のXVを見て一番驚いたこと……忍法車分身ってなに? 一番驚いたし、あまりの驚きに「嘘つけえ!」っとツッコんでしまった。

そしてパンピーの1人、世界の果てに行った? のかな?


第8話 入院

同日——

 

地上では陽はとうに落ちた頃、リディアンの地下深く……光が落とされ真っ暗になっている二課のブリーフィングルームの一室。 先程まで、ここでは了子が政府から持ち帰った機密資料による情報で、明日の明朝に行われるデュランダル輸送計画を説明していた。 そこに、一つの人影が……奏が明かりもつけないまま入ってきた。

 

奏はスクリーンの前に置かれてあった、アタッシュケースの前まで真っ直ぐに向かう。

 

それは、了子が持ってきた機密情報が入っていたアタッシュケース……奏は無地の白いハンカチを取り出すとその表面を拭き、拭いた箇所を見ると、

 

「っ!」

 

ハンカチは黒く煤汚れていた。 ハンカチに付着していたのは炭……つまり、この二課に来るまでの間、近くでキャンプファイヤーでもしていない限りこのアタッシュケース付近で少なくともノイズが現れている……そう推測できる。

 

「——気付いたか」

 

「!?」

 

音もなく声をかけられ、奏は勢いよく振り返ると……扉の間に寄りかかるように弦十郎が立っていた。

 

「だ、旦那……」

 

「ここ最近、二課の何人かがお前を内通者だと疑い始めている。 だが、恐らくお前はあの黒いシンフォギアの装者と接触して動いていたんだろう。 そして、本当に二課を危険に晒す内通者は他にいる」

 

「し、知ってたのかよ!?」

 

「真相を知るため、敢えて泳がせている」

 

その答えに、奏の拳には握る力が痛いほど込められる。

 

弦十郎は毅然とした態度でいるが、奏は気が気ではなかった。

 

「それで何人死んだと思ってる!! 関係者だけじゃない……守るべき一般市民も含めて!! アタシも、旦那も、もう犯人の目星はついている! 物的証拠もある! 今すぐ確保すべきだろう!」

 

感情を露わにして声を荒げる奏。 だが、それでも弦十郎は首を横に振る。

 

「まだ、その時ではない。 全てを燻り出すまでは……」

 

「ッ! クソっ!!」

 

悪態をつき、奏では弦十郎を乱暴に掃いのけブリーフィングルームから出て行った。

 

(力が……アタシにもっと力があれば!)

 

例え、それが今度こそ自分の身を滅ぼしかねなかったとしても、奏はそう思わざる得なかった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

翌日——

 

「ふぅ……」

 

リディアンのすぐ側に隣接する総合病院……そこで入院している翼は先程までリハビリをやっていたが、看護婦に無茶のし過ぎだと言われ一旦休憩し、一階で水を飲みながら一休みしていた。

 

「………………」

 

翼は休みながらでもやるべき事をやる。 マネージャーの緒川からもらった翼が意識を失ってから起こった一連の流れが記載されたレポートに目を通していた。

 

今日の早朝、二課が保管していたデュランダルの移送計画……別名《天下の往来独り占め作戦》が行われたが、敵性勢力の妨害により頓挫。 加え完全聖遺物デュランダルの覚醒が響の手により行われた……

 

「……さて、もういいだろう……」

 

レポートに目を通したと同時に休憩も終え、翼は再びリハビリ室に向かって歩き出す。

 

「……あああああああ…………!」

 

「む……?」

 

すると、階段を上る最中にどこからか声が聞こえてきた。 不審に思いながらも階段を登りきると……リハビリ室の前に人が集っていた。

 

「一体何が——失礼します」

 

断りを入れながら人混みをかき分け、リハビリ室に入ると、

 

「ぎゃあああああああ!! ギブギブギブゥ!!」

 

「大人しく、しろっ!」

 

「あぁああああぁぁ!! 呪印初期のサ○ケに殺られるぅ!! 両手の平の穴から音的なものが出せなくなるうぅ!!」

 

左腕を怪我している律の両腕が後ろに回されその両腕を掴み、律の背中を足蹴にして奏がほぼ全力で引っ張っていた。

 

「か、奏! 何してるのっ!?」

 

「お? おお、翼。 見ての通り、リハビリだ」

 

「げふぁ……」

 

翼が慌てて声をかけると奏はあっけらかんとした風にそう言い、律の両手を離す。 解放された律は血反吐を吐きそうな勢いで力なく地べたに倒れ伏す。

 

「アタシのせいでこいつの左腕がこんなんなっちまってな。 治るまでリハビリを付き合ってるってわけ」

 

「……ヘルプ……病院でサスペンス的に殺される……」

 

律はガクガク震えながら翼に這い寄り、某“早すぎる埋葬”の如く手を伸ばそうとする。

 

因みに、これは拷問ではなくれっきとした治療の一環。 律は左腕のみならず、ノイズの取り込み過ぎで身体中にかなりガタが来ているのである。

 

「えっと……この子は?」

 

「こいつは芡咲(けんざき) (りつ)。 色々と縁あってこうしてる」

 

「は、はぁ……」

 

死に体の律に変わり奏が自己紹介をするも、翼からは呆けた返事した出てこない。

 

「そういや翼もリハビリか? 無茶して絶唱なんてするから……」

 

「か、奏には言われたくはない……!」

 

昔に何度か無茶した場面を知る翼にとって、奏の思っ切りブーメランな発言に、照れながらも否定する。

 

「よし! んじゃそろそろ再開……って、何寝てんだ?」

 

「あのー……それくらいにしておいては?」

 

「ん? そうか? んじゃ今日はここまでって事で」

 

流石に見兼ねた看護婦に言われて、ようやく律は解放され、奏は「また来るなー」と言い残してリハビリ室から出て行った。

 

「た、助かった……」

 

「ごめんなさい。 奏は少しやり過ぎるから。 でも勘違いしないで、貴方のためにやっている事だから」

 

「気持ちが空回りし過ぎてるんですよね。 見ていれば分かります。 なんか今日、かなり苛立ってたようで……酷い目にあった」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「後……それから、貴女も」

 

「……え……」

 

思いがけない所で呼ばれたためか、翼は呆けたような声を漏らす。

 

「力が張り過ぎてますよ。 そんなにカチカチじゃあ、いつかポッキリ折れてしまいます。 もっと人は単純でも、いいんですから」

 

「……ぁ……」

 

その律の優しく投げかける言葉に……翼は少しだけ、心が軽くなるような感覚になる。

 

(何だ……何故か初めて会ったような気がしないのは? それに……)

 

「律くーん! 検査の時間になったから診察室に来てねー!」

 

「あ、はーい! それじゃあ風鳴さん、これで失礼します」

 

「あ、ああ……」

 

手を振って出て行く律に、翼は手を振り返して見送った。

 

(初めてだ。 こうして間違いを指摘されるなど……)

 

身内には何度も戦い方を指導され、間違いを直してもらった事はあるが……赤の他人、しかも歳の近い男子に言われたのは初めてだっだ。 ふと、翼は顔を上げ、

 

「芡咲 律……か」

 

ポツリとその名を呟き、律が去っていった先を見据えた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

さらに翌日——

 

翼は今日も長い時間、自分を奮い立たせるようにリハビリをしていた。 そしてまた、看護師に無茶のし過ぎだと再三言われ、休憩がてら院内を歩いていた。

 

ふと、中庭が見える窓から外を見ると、ベンチに座っている律の背中が見えた。

 

(彼は……)

 

彼の前にはこの病院に入院している数人の子どもたちがおり、子どもたちは笑顔を見せなら律を見ていた。

 

気になった翼は階下に降りて中庭に向かうと、

 

(歌……?)

 

中庭から微かに歌が流れ、進むごとに次第に大きくなる。

 

——Culmare Serra

Culmare Serra

Yu so melty endia soulay

 

「あ……」

 

中庭に入るとそこでは、子どもたちに囲まれながらクラシックギターを弾いて歌う律の姿があった。

 

律は目をつぶりながら歌を唄い、中庭には律の歌と風の音以外の音は聞こえなかった。

 

——Res tommy farrow

Andy maveli

Rerfai Rerfai

Res tommy farrow

Andy maveli

Rerfai Rerfai

Merisotia……

 

最後の一節を紡ぎ、ギターを弾き終える。 そして数秒後……この場にいた聞き入っていた人たちから次第に拍手が起こる。 どうやら子どもたちだけではなく、他の大人たちも聞いていたようだ。

 

「バイバーイ!」

 

「またお歌、歌ってねー!」

 

「おー、またなー」

 

律はギターを持ち主の入院患者の男性に返し、検査で院内に入っていく子どもたちに手を振る。

 

「上手いものね」

 

「ん?」

 

律の周りから誰もいなくなった事を確認してから、翼は律の背後から声をかける。

 

「風鳴さん」

 

「今の曲、何ていうのかしら?」

 

キェル・マーレ・セラ(はるかなる故郷へ)……そういう名前」

 

「はるかなる故郷へ……いい名前ね。 もしかして故郷が恋しくて選んだのかしら?」

 

「いえ、ただこのクラシックギターに合う曲がこれしかなかったので。 それに、俺に故郷はありません」

 

事実な上慣れているので律はサラリと言ってしまったが、失言だと翼はシュンと落ち込みながら謝罪する。

 

「……ごめんなさい。 無神経だったわ」

 

「いえ、気にしないでください。 既にここも俺の故郷……って、生まれ育った街だとは思うけど、故郷までとはいかないかな?」

 

やっぱり恋しいのかもしれませんね、と律は頭をかきながら笑う。

 

「……貴方は凄いわね」

 

「え?」

 

「こうして人々に、歌で笑顔と生きる活力を与えいる。 今の私には到底出来ないことだ……」

 

落ち込んでどんどん項垂れていく翼、律は嘆息した後、頭が下がってちょうどいい位置にあった額に喝を入れるようにデコピンした。

 

「イタッ!」

 

「世界のトップアーティストが、そこらの素人に負けてどうするんですか」

 

「し、しかし……」

 

「貴女は世界を笑顔にできる可能性があるけど、俺にはない。 俺はこれで十分なんですよ。 目に見える範囲で、手の届く範囲で笑顔に出来れば、それで……」

 

律は目の前に手を伸ばし空を掴もうとする。 突然手は空を切り、それを何度も繰り返す。

 

「もし、遠くの人たちまで笑顔にすると願ってしまったら……ここに残してしまった人たちから笑顔が消えてしまう。 手が届かなくなってしまう……悔しいし、悲しいけど、ちっぽけな俺じゃあこれが限界なんです」

 

「芡咲……」

 

「だから風鳴さん、早く元気になって、頑張ってください。 貴女を今もなお待っているファンは大勢います」

 

「……ええ、もちろんよ」

 

律の心からの復帰と応援、そして身を案じてくれる助言を翼は素直に受け止める。

 

と、そこで翼は律の左腕に巻かれた包帯を見る。 そういえば先程まで怪我をしている腕でギターを弾いていた事を思い出す。

 

「そういえば腕は大丈夫? 演奏をしたのだからそれなりに動かしたはずよ、見せてみなさい」

 

「え? ちょっ!?」

 

有無言わさず腕を取られ。 その見た目通り、翼の白魚のように細い指は律の腕を優しく触れられる。

 

「……痛くはないかしら?」

 

「え、ええ……完治までは後一月はかかりますが、痛みとかは特に……」

 

「そう……良かったわ。 でもあまり動かしたりはしないように」

 

「は、はい」

 

律は腕を触る翼の質問に答えながら、彼女の顔が近いことに赤面する。 そして怪我の確認した後、翼は顎に手を当て、少し思案した後、

 

「少し話がしたいわ。 私の病室まで来てはくれない?」

 

「……へい?」

 

唐突にそう提案してきた。 律も思わず呆けたような声を漏らし……流れに流されて翼の先導で病室に向かうことになった。

 

(あっれ〜? なんか疑われるようなこと言ったかなぁ……?)

 

律は誘われた理由が自身が黒いシンフォギア装者だと疑われたと思っていた。

 

だが、当の翼は内心、

 

(な、なぜ私はあのような事を!? こ、これではまるで……いや! 誘うのは病室、なんの問題もないはずだ!)

 

律の予想とはまるで見当違いな上、表面上とは対照的にかなりテンパっていた。

 

そんな2人の内心が大慌てになりながら翼の病室の前に向かうと、その前には響が驚いたような顔をして棒立ちしていた。

 

「あれ、響?」

 

「……彼女を知っているの?」

 

「ええ、中学時代の後輩で、よく一緒にいました」

 

「ふーん」

 

響との関係を伝えると、翼は何故か妙に不機嫌そうになりながら生返事をし、響の前に移動する。

 

「何を騒いでいるの?」

 

「あ!! 翼さん!! 良かった、無事だったんですね! 大丈夫ですか!?」

 

「入院患者に何言ってんだよ」

 

「って、あれ? なんで律さんもここの病院に?」

 

となりに律がいたことに遅れて気がつく。 余程の事があったようだ。 律はここにいる答えを包帯が巻かれた左腕で見せる。

 

「前に左腕をやってな。 大袈裟だと思うが、大事を取って入院中」

 

「うわ、ホントだ。 痛そ〜」

 

そう言ってベタベタと左腕に触ってくる。 しかも以外に力が強く、律は一瞬苦悶の表情を見せ腕を引く。

 

「響……いつの間にそんな馬鹿力になったんだ?」

 

「なっ!? 乙女に向かってなんて事を!」

 

「今回はあなたに非があるわよ。 それで、どうして騒いでいたのかしら?」

 

「あ、そうだった!」

 

騒いでいた理由を思い出し、響は「これ!」と言いながら開けられていた翼の病室を指差す。 釣られて2人は病室内を見ると……色んなものが乱雑に無残に散らかっており、はっきり言って汚かった。

 

「こんなまるで強盗か乱闘でもあったかみたいな病室の有様で! てっきり私、入院中に誘拐されちゃったんじゃないかって……! 二課のみんなが、どこかの国の陰謀を巡らせているかも知れないって言ってたし!」

 

「…………? 何言ってんだ響。 ただの……超汚い部屋だろ」

 

「……ッ……!」

 

「…………え…………え? ——あぁーー……」

 

改めて律に……男子に指摘されて恥ずかしいのか、翼は顔を赤くしながら背ける。 その反応に、響は1人納得した。

 

だが、それにしても酷い。 服や下着は脱ぎ散らかり、ティッシュは至る所、飲み物や塗り薬も溢れ……その他に多々ある。

 

その後、響と律の手によって翼の病室は片付が行われた。 響は主に衣類、律は焼却類を主に担当し……数分でようやく普通の病室となった。

 

「もう、そんなのいいから……」

 

「私、緒川さんからお見舞いを頼まれたんです。だからお片付けさせてくださいね」

 

「というか、どうやったらこうなるのか逆に知りたいんだが?」

 

ここまで部屋を汚く使えるのは逆に才能である。 だからと言って、掃除を知り合いとはいえ身内でもない男性にやらせるのはどうかと思う。

 

「私は、その……こういうところに気が回らなくて」

 

「意外ですね。 翼さんって何でも完璧に熟せるイメージがあったから」

 

「……真実は逆ね。 私は戦うことしか知らないのよ」

 

「え……」

 

「! 今のは忘れてちょうだい」

 

戦うという単語はトップアーティストにとって相応しくないが……律は顔を赤くしながら誤魔化そうとする翼を見て、事情を知る律は内心ニヤリと笑いながらいたずら心で追求を始める。

 

「戦う? そういえばさっき響が二課とかなんとか言ってたような……」

 

「あ! え、ええっとそれはぁ……」

 

「もしかしてそれが響が誘拐に考えが行った理由だったりして……?」

 

「「……………………」」

 

ワザと核心をつくような事を言い、翼と響は汗を流しながら律とは目を合わさないようにする。

 

「ま、そんな訳ないか」

 

そう言うと、2人はホッと息を吐く。 本当に勘のいい人だったら既にアウトである。

 

ふと、律は病室の外を見る。 なんとこの病室は隣にリディアンから丸見えであった。

 

(丸見えって……プライバシーはどうなってんだろうなぁ……)

 

流石にマズイと思い、シャッターに手を掛けようとした時……律はリディアンにある窓の1つに見覚えのある人影を見つける。

 

(あ、これってもしかして……)

 

窓越しに見える未来の表情はこちらを見て驚いた顔をしている。 そして律は次にバッと、楽しくお喋りをする響と翼を見る。

 

(おいヤッベェーよ! 未来、浮気現場目撃した奥さんの顔してるよ!)

 

ここでシャッターを閉めるか、それとも他の手立てを探すべきか、1人ワタワタする律。 その様子を見ていたのか、未来はフッと律に微笑むとポケットからスマホを取り出した。

 

すると、同時に律のスマホがメールを着信した。 律は恐る恐るメールを開くと、

 

〈ありがとうございます、律さん〉

 

感謝を表す文面が書かれていた。 顔を上げ先程のリディアンの窓を見ると、そこには未来の姿は無かった。

 

「——嬉しいです、翼さんにそう言ってもらえるなんて」

 

律が奮闘している間も2人は周りが少し見えないくらい話し込んでおり、照れる響は自分の頰をかく。

 

「でも……だからこそ聞かせて欲しいの。 あなたの……あ」

 

と、翼の言葉が途中で止まる。 その目線は律に向けられていた。

 

「……席を外そう」

 

「え!? あ、律さん!」

 

明らかにシンフォギアを二課に関しての内容を交えそうなので、律は逃げるように席を外そうとする。

 

「2人っきりでしか伝えられない事もあるだろう。 2人が共有している秘密とか」

 

「あ……」

 

「ま、あまり白熱はするなよ。 俺は中庭で暇つぶしているから。 風鳴さん、お話はまた今度で」

 

「あ、ああ……済まない、私が呼んでおいて除け者にしてしまって」

 

謝る翼にヒラヒラと空いた手を振りながら病室を後にし、再び中庭に向かった。 するとそこには先程の子どもたちがいた。 どうやら検査は終わったようだ。

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

「よお、元気か?」

 

「入院しているのになに言ってるの?」

 

「あはは、そうだな」

 

あっという間に囲まれてしまい、律は再び子どもたちの相手をすることにした。

 

「ねえねえ、今度はこれで演奏して!」

 

そう言って少女が差し出したのはハーモニカ。 どうやらこれで演奏して欲しいようだ。

 

「お、ハーモニカか。 あんまり使った事は無いけど……よし」

 

ハーモニカに合う曲を選び……ハーモニカのマウスピースを軽く拭いてから口を当てる。

 

「〜〜〜〜♪」

 

——君の影 星のように 朝に溶けて消えていく

行き先をなくしたまま 思いは溢れてくる

 

ゆっくりとした優しいハーモニカの音色を奏でる。 1分程演奏した所で、曲は終わった。

 

「ふぅ……」

 

「なんか静かな歌だなぁ」

 

「ハーモニカにロックを求めるな」

 

出来るかもしれないが、律にそんな芸当は無理である。

 

そんな事はいざ知らず。 子ども達は容赦なく、遠慮なく体を揺さぶり質問をしてくる。

 

「ねぇ、なんて曲ー?」

 

「確か……《星の在り処》だったかな」

 

「? 歌ったのに、よく分からないの?」

 

「ああ。 この曲を歌詞を見たことも、演奏したことも聞いたことも無いのに、なぜか頭に浮かんできたんだ」

 

「??? 知らないで吹いてたの?」

 

「んー……なんでだろうね? 俺にもよく分からん」

 

「分からないで演奏してたの?」

 

「そーなの」

 

「なんでハーモニカ吹いたの?」

 

「お前たちがお願いしたからだろう!」

 

同じような質問に段々と雑な返答をし、最後にキレると子どもは「わー!」っと、からかうような笑顔を見せながら散るように走って逃げて行った。

 

やれやれと、律はハーモニカの口をハンカチで拭きながらやや疲れたような顔をする。

 

(でも、初めて吹いたような気はしなかった。 なんでだ……?)

 

ハーモニカは介護に来ていた親御さんに返し、階段で病室に戻ろうとした途中、踊り場で律は自身の左腕を見下ろした。

 

「………………」

 

そして、無言で左腕の包帯を解いた。 包帯の内には……すでに完治している腕があった。 医者が言うにはまだ一月はかかると言っていたにも関わらず……

 

「もう、俺も人としては生きられないのかもな」

 

異常な回復力。 それがシンフォギアからなのか、それともノイズからなのかは定かではないが……とても正常とは言えなかった。

 

「いいよ、どこまでも行くっきゃない。 突き進んで、抗ってやる。 この世界に」

 

覚悟を決めるようにそう胸の内に秘めるように言い聞かせると、

 

——ピロンピロン! ピロンピロン!

 

そこへ、スマホに奏からの着信が届いてきた。

 

「もしもし」

 

『緊急事態だ、律。 入院中で悪いが動けるか?』

 

「もうとっくに治ってるよ!」

 

待ってましたと言わんばかりに走り出し、階段を一気に登り病室に戻る律。

 

「あれは……律?」

 

その走り去る姿を、屋上から戻って来た翼が見ていた。

 

病室に戻った律はスマホをスピーカー通話に変え、身支度を済ませながら状況を把握する。

 

「それで何があったんだ?」

 

『ネフシュタンの奴が現れた。 狙いは十中八九、響で間違いないだろう』

 

「マジか!」

 

(この声は……)

 

どうやら付近であのネフシュタンの少女が出現したようで、今回はデュランダルではなく直接響を狙ってきたようだ。

 

その会話を、こっそりと病室の外にいた翼が少しだけドアを開けて聞き耳を立てていた。

 

「響はどこに?」

 

『狙いが響である以上、人目と被害を避けるために市街地から離れた場所に誘導してもらう予定だ。 相手は完全聖遺物……響はあれから旦那の指導を受けているとはいえ、まだ不安は残る。 行ってくれるな?』

 

「もちろん! 奏はどうする?」

 

(……え……)

 

その名を聞き、翼は思わず驚愕の声を漏らしそうになる。

 

話の内容はもちろんだが、律の口から奏の名前を出した事に驚いた。 奏自身から律はちょっとした縁がある知り合いと言っていたが、

 

(まさか、奏が……内通者?)

 

どうしても、脳裏に疑惑を招いてしまう。

 

『アタシは二課から流れてくる情報をお前に伝えるため残る。 とはいえ、こんな事してるからどんどん二課でアタシが内通者だと怪しまれるんだけだな』

 

「いや事実、俺と繋がっている内通者だろう」

 

『良い方の、な。 後、終わったらそのまま退院していいぞ。 手続きはこっちでやっておく』

 

「それはありがたいね!」

 

着替えを済ませると……開け放たれていた窓から隣接していた中庭に飛び出し、木を蹴って中継にして地上に着地した。

 

当然、その様子を中庭にいた入院患者や見舞客、看護師は驚いた顔をし、

 

「コラーーッ!! 危ないでしょーー!!」

 

「すみません! 緊急事態なので退院します!」

 

「どんな理由!?」

 

気を取り直した看護師の1人が叫ぶと、律はそう答えながら病院の敷地内から出て行った。

 

その一連の様子を……翼は律の病室に入り、律が出て行った窓の窓際に立つと、

 

「律……あなたは、一体……」

 

走り去る律の背を、ただ呆然と見ていた。

 




キャル・マーレ・セラ《はるかなる故郷へ》は耳コピでカタカタにし、そこから無理やり英訳にしてあります。
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