戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
奏からの連絡でネフシュタンの少女の襲撃を聞きつけ、緊急退院した律は現場に向かって市街地に隣接している森の中を走っていた。
どうやら既に交通規制や情報規制などを行なっており、ここまで来るのに人とまるですれ違わなかった。
『この先を真っ直ぐだ。 早くしろ、もう接敵している』
「急かすな!」
奏のナビゲーションで二課の目をくぐり抜け、目的地に向かって走り続ける。 それがかなり遠回りになっており、いっそシンフォギアで突っ切ろうと思いかけた。
『おい、一般人が巻き込まれてるそうだぞ!』
「何っ!?」
居ても立っても居られないくなる気持ちになるが……心は熱くなるも、頭は冷静に奏の指示に従って森の中を駆け抜ける。 そして目的地に到着すると、
「あれは……未来!?」
ネフシュタンの攻撃によるものだろう、無数の物体が宙に舞い、未来に向かって降り注ごうとしていた。
その中の車を、近くにいたシンフォギアを纏った響が受け止めたが……残りの瓦礫が未来に向かって落ちようとしていた。
「未来!」
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️」
聖詠を歌い、その身に黒いシンフォギアを纏うと同時に飛び出す。 そして律は抜刀と同時に剣を一閃して瓦礫を砕いた。
「きゃっ!」
「未来!?」
砕いた破片が未来に飛んでしまったが、大事には至らなかった。 そして律は未来を抱きかかえるとその場から離脱する。
「君、大丈夫か?」
「あ……はい。 大丈夫です……」
抱きかかえていた未来を地面に下ろし無事を確認する。 どうやら大丈夫そうで、律は手を貸して立たせる。
(あれ……? この感じって……)
顔が隠れて正体は分からないものの、律の手を取って立ち上がる未来はどこか既視感を覚える。 そして顔を上げ、バイザー越しに見える表情を見て、ある人物の名前が思い浮かんだ。
「……律さん?」
「—————!」
いきなり未来に正体を見抜かれ、思わず言葉を失ってしまう。
「や、やっぱ……!」
律は即座に追求しようとする未来の唇を人差し指で押さえ、静かに黙らせる。
(後で事情を話すから今は少し静かにしてろ)
(は、はい……)
少し顔を赤らめながらも未来は頷き。 それを確認した律は踵を返すと、響とネフシュタンの少女が戦う現場に向かった。
そこでは響とネフシュタンの少女が交戦していた。
しかし以前は全く違い、逆に響がネフシュタンの少女を押し優勢になっていた。 律は手を耳に当て、奏に指示を仰ぐ。
「奏、どうする? 介入するか?」
『……正直言って、よくわからねーな。 響が不利って訳でもねえし、それに——ネフシュタンの奴があのノイズを操る杖を持っていないのが気になる』
奏に指摘されて気がつく。 そういえば交戦を開始したからまだノイズの姿は見えなく、よく見るとネフシュタンの少女の腰にはあの杖が懸架されてない。
「あの杖を持っていないということは……」
『今は別の誰が持っているってことで……』
「他に考えられる人物は……」
『「《フィーネ》」』
声を揃えその名を呟く。 恐らく杖を持っているのは少女を裏から操っているフィーネ……そう考えていると、
「……!」
律を取り囲むようにノイズの群れが現れた。 剣を抜きながら律、そして奏はある確証を得る。
『ノイズが出てきたって事は……探せ! 必ずフィーネは近くにいるはずだ!』
「了解っ!」
一転しながら身体を限界まで捻り上げ……解放すると同時に長剣による広範囲の回転斬りが放たれ、律を中心とした周囲のノイズを含め木々をまるごと斬り払った。
時折、エンカウントするノイズを倒しながら森の中を捜索していると、
「どこにいるんだ——」
ドカアアンッ!!」
「うわああああ!!」
「どわあっ!?」
爆発とともに響が律に向かって吹っ飛んできた。
「イタタ……あれ、あまり痛くない?」
頭をさする響は思った以上にダメージが無いことを不思議に思い、地に手をつけて立ち上がろうとすると……土とは違う感触が返ってきた。
「え……」
「早く降りろ……」
「わっ、ごめんなさい!」
律の上に座ってしまっている響は慌てて退くと、そこへネフシュタンの少女が響を追いかけに現れた。
「…………! テメェは……!」
少女は律の姿を確認すると警戒を露わにしながら、その口元は強く唇を噛み締めていた。
「くっ」
少女の相手をするよりもフィーネの捜索を優先したいが……少女はかなり怖い形相で睨んでおり、どうにも逃してはくれなさそうだ。
鞭を地面に叩きつけ、律に向かって襲いかかろうとした時……その行く手を響が手を横に出して塞ぎ。 横に出された手の平に橙色のエネルギーが現れる。
「あなたの相手は私!」
「っ! いっちょ前に戦士ぶりってよお!!」
響はアームドギアを展開しようとするが、それは意志に反して叶わない。 しかし、そのためのエネルギーは有している。
「この短期間にアームドギアまで手にしようってのか!?」
アームドギアを展開するためのエネルギーを握りしめると、その意志に呼応するようにシンフォギアの腕部のアームが限界まで引き絞られる。
「パイルバンカー!」
『マジか』
「させるかよっ!」
それを妨害しようと少女は両手で鞭を響に向かって振るう。 鞭は響に襲いかかり……その2本の鞭は片手で受け止められた。
「何だとっ!?」
「うそーん」
受け止められた事に驚く間も無く、響は掴んだ鞭を全力で引っ張り、少女を自分の元に引き寄せる。
(稲妻を喰らい、雷を握り潰すようにっ!!)
響は地を蹴り、少女に向かって飛び出す。その際、腰部ユニットのバーニアが起動し、加速する。
(最速で! 最短で! 真っ直ぐに! 一直線に! 胸の響きを、この想いを伝えるためにっ!!)
自分に元に飛んで来る響を見て、ネフシュタンの少女は目を見開き、徐々に加速する響は拳が握られた右腕を大きく引き絞り、
「うおおおおおおお!!!」
響の拳がネフシュタンの少女の腹部にめり込んだ。
さらに掌打と同時に引き絞られたバンカーによる追撃が打たれ、一撃目よりも遥かに強力な拳が撃ち込まれた。
それにより、掌打を受けた腹部を中心にネフシュタンの鎧には無数のヒビが走った。
「うわお……」
『ネフシュタンの鎧を……完全聖遺物を素手で……』
そのあまりの威力に、律と奏は驚きの一声しか出なかった。
(バカな……ネフシュタンの鎧が……!?)
バイザーにも衝撃が到達しヒビが入り、目を見開かせて信じられない表情をする少女。
その直後、大きな爆発と大きな衝撃が周辺地域一帯にまで及ぶのだった。
「響、律さん……」
森から立ち昇る土煙を、離れた場所で見ていた未来、そこにいるであろう2人の名前を呟いた。
そして律は……響の攻撃による衝撃によってかなり吹き飛ばされてしまった。
「痛つつ……衝撃がこっちまで及んで来やがった」
『平気か?』
「一応な」
少々痛む頭を抑え、律は少しフラつきながら立ち上がった。
「響のやつ、一体いつの間に武術なんて覚えたんだ。 しかもこの短期間で」
『弦十郎の旦那が鍛えたんだ。 基本、映画見て食って寝てただけだ』
「嘘つけ!!」
『ゲームやって漫画読んでいる奴に言われたくないと思うぞ……』
どっちもどっちである。 その時、現場をモニタリングしていた奏が変化に気がついた。
『……! 律、十時の方向、距離200!』
「そこかあっ!」
【
一転して放たれた回転斬りは紅い旋風を巻き起こし、指定通りの方角と距離に向かって飛び、
「……ッ……」
その箇所にあった木々が跳ね飛ぶと、人影が逃亡するように反対方向に走って行くのが見えた。
「待っ——うわっ!!」
追跡しようとすると、横から円柱状の物体……ミサイルが飛来し、律の道を塞ぐように目の前で爆発した。
「ケホッケホッ! な、なんだあ?」
『2人がやり合っている方角からだな』
ミサイルが飛んで来た方向、響とネフシュタンの少女が戦っている方向にはネフシュタンの……ではなく、赤い鎧を身に着けている銀髪の少女がいた。
ネフシュタンの鎧は破片となって周囲に散らばっている。
『随分豪快に脱いだもんだな。 いや、それよりも……』
「……え……」
土煙が晴れ、律は鎧を脱ぎその日に晒された少女の素顔を見て、
「——クリス?」
「……ッ!!」
昔、一緒にいた女の子と目の前の少女の姿が重なって見え、その名を呟くと少女は肩を震わせる。
「お前クリスだろう! 絶対にそうだ、見間違えるはずがない!」
「………え……」
響は呆けた声を漏らす。しかしクリスは、律から逃げるように徐々に後ず去っていっている。
「……るな……!」
「クリス!」
「私を……見るなああぁっ!!」
今の自分の姿を見られるのがイヤだったのか、クリスは叫びながら腰のアーマーを左右に展開し、内蔵されていた追尾型ミサイルを律に向けて一斉に発射した。
「どわあああああ!!」
【
真紅に輝く光の六角形の障壁……それが飛んでくるミサイルから逃げ出す律の背後に展開され、ミサイルと相打ちになるように破壊される。 しかし、障壁は破壊されるたびに何度でも再展開し、次々と降り注ぐミサイルを防いで行く。
「ちょっ、待っ!!」
「うわああ!? こっち来ないで下さーい!!」
止める暇もなくただ逃げだ先に響がいた。 巻き添えを食らったら響も踵を返し、全速力で追ってくるミサイルから走る。
さらに2丁4門のガトリングによる斉射も始まり、2人はミサイルと弾丸の雨の中を逃げ回る。
「お知り合いだったんですか——律さん!!」
「こっちも会うのは久しぶり! 照れ隠しにしては過激すぎだろう!」
並走しながら響の質問に律は答える。 加えて、自覚はないが響は感覚的に目の前の人物が律だと答えた。
仲のいい律と響だからこそ自然に出てきたのだが……その事に、今はミサイルから逃げるのに必死で、2人はその事に気付いていなかった。
「……ッ! 響!!」
「え……!?」
1発のミサイルが直撃コースで響に向かっていた。 律は逃走をやめ響の背後に回ると長剣を横に構え、衝撃に備え、
——ドガアアアアアンッ!!
森を吹き飛ばし、クリスはそれでもなお両手のガトリングを撃ち続ける。
ようやくトリガーから指を引き、ガトリングの回転が止まる頃にはクリスは肩を上下させ呼吸を荒げ、興奮によって出てきた汗を拭う。
呼吸を整えながら撃ち放った場所に視線をやり、ゆっくりと爆煙が晴れると……そこには青い線が入った白い壁のようなものがあった。
「……盾?」
「——
疑問の答えが頭上から聞こえ、クリスは即座に視線を上へと向ける。 そこには巨大化させたアームドギアの柄の上に、以前と変わらぬ姿で立つ翼がいた。
「へっ、死に体でお寝んねと聞いていたが……足手纏いを庇いに現れたか?」
「……もう何も、失うものかと決めたのだ」
以前と同様に口汚ない口調でクリスは煽るが、翼の方は以前と違い、冷静に彼女を見下ろしていた。
「翼さん……」
「気付いたか、立花。 だが私も十全では無い……力を貸して欲しい」
「あ……はい!」
翼に認められた……そう思った響は元気よく返事を返す。 そして、次に翼は視線を律に向ける。
「貴方も……」
「………………」
今の律と翼は仲間でも友達でもない。 律は距離を取るため無言でいるが、何かを察した翼はフッと笑う。
「私は貴方を信用する」
「……何?」
「貴方の歌は、例え霞んでいてもわかる。 世界ではなく、隣人を守るための歌だと」
「………………!」
その言葉は律が素の時に翼に言った言葉……それが今出てきた事に律はバイザー越しに目を見開く。
『バレてるなこりゃ』
「紹介なんてするから……」
『それを言うなら響もだろう。 気付いてないと思うが、さっき普通に名前呼んでたかな』
「——おぉらぁ!」
すると、痺れを切らしたクリスは、ガトリングを上に構え翼に向けて撃ち放つ。 弾幕を張って迫る弾丸……それを、翼は踊るように弾幕を擦り抜け地上に降り立つ。
間髪入れずに距離を詰め、翼はクリスに向かって刀を振るう。クリスは刀の攻撃を後退して避け、反撃でガトリングが放つ。
だが、その銃撃も翼は舞うように背中を反りながら跳んで躱し、クリスの頭上を飛び越えてから振り返り際に横一閃を振り、クリスは頭を下げてそれを躱す。
その中で、クリスの動きを見切り目を細めた翼はガトリングを剣の柄で突き上げた。反動でクリスは後退り……下がったクリスの首筋に刀が添えられ、翼とクリスは背中合わせになって立ち止まる。
(この女……以前とは動きがまるで)
「凄い……戦いをこんなに魅せるように出来るなんて……」
『今の翼は冷静だ。 これが本来の——守人《風鳴 翼》の剣だ』
無駄の無い動きでクリスを翻弄する翼の剣に、律はここがライブ会場だと思えるように錯覚してしまう。
不意に律の耳元に雑音が聞こえ、空を見上げると、
「なんだ……?」
何処からともなく現れた3体の飛行型ノイズが上空を旋回して飛んでいた。
『律!』
(………!)
振り返ると……海が見える高台に、黒揚羽の飾りが付いた黒い帽子と黒いサングラスに黒い服といった全身が黒ずくめの金髪の女が佇んでいた。
その手には、以前クリスが持っていたノイズを呼び出す杖が握られている。
「見つけたっ!!」
その人物を視界に入れるや否や、律はウィングバーニアから一気に推進力となるノイズエネルギーを放出させ、一瞬で女性の前に出て剣を振り下ろし、
「——いきなり斬りかかるなんて、無粋ねえ」
刃は眼前の所で桃色の障壁に阻まれてしまう。
「ふん」
「っ!」
剣は弾かれ、ウィングバーニアーを広げ律は受け身を取り後退しながらその場に滞空する。
(今の、バリアー、みたいのって……)
律が攻撃を仕掛けている間に飛行型ノイズからクリスを庇った響は、今しがた剣を拒んだ障壁にどこか既視感を覚えていた。
「——命じたことも出来ないなんて、あなたは何処まで私を失望させるのかしら?」
律が斬りかかった相手……その人物の声に反応し、地上にいる全員が女性の方を見る。
上空には先程とは別の飛行型ノイズが3体飛び回っており、その下には女性が夕日を背にして立っていた。
「フィーネ!」
(フィーネ?)
「“終わり”の名を告げる者……」
“フィーネ”とは音楽記号で終わりを意味する“終止記号”。 それが何を意味するのか定かではないが、敵である以上、翼は警戒を続ける。
「ッ!」
「……ぅ……」
クリスは視線をフィーネから抱き留めていた響に向け、唇を噛むと拒絶するように突き放した。 今までの戦闘のダメージで動けない響を、駆け寄った翼が抱き留める。
「こんな奴がいなくたって、戦争の火種くらいあたし1人で消してやる! そうすればあんたの言うように、人は呪いから解放されてバラバラになった世界は元に戻るんだろっ!?」
「……ふぅ……もうあなたに用は無いわ」
「ッ!? ……何だよそれ!?」
裏切られたと思われるクリスの怒りを無視し、フィーネは右手をかざす。すると、かざされた手が青白く淡く輝き出し、周囲に散っていたネフシュタンの鎧の破片が粒子に変わってフィーネの下に集まっていく。
粒子になったネフシュタンの鎧は全て回収し、何処かへと飛ばすと、フィーネは持っていた杖を構える。
「ッ……!」
『来るぞ!』
「………………」
フィーネは杖でノイズを操り、3体ずつ飛行型ノイズが高速に回転しながら攻撃を仕掛けてきた。
翼は響を抱きかかえながらも迫ってくるノイズを斬り捨て、律はノイズを突きで串刺しにし、取り込みながらもう一度フィーネに視線を向けると……フィーネは既にその場から姿を消していた。
どうやらノイズを囮にして逃走したようだ。 仲間のはずの、クリスを置いて。
「待てよ、フィーネェ!!」
姿を消したフィーネを追って、クリスもその場から駆け出し。 翼がノイズを全て倒した時にはクリスはもう追いかけられない場所にいた。
「クリス……」
飛行できる律なら追跡は可能だが、律は裏切られてもなお涙を流してフィーネを追いかけるクリスをどうしてか追える気分にはなれなかった。
一方その頃、二課の司令室では職員達が慌ただしく機器を操作していた。
「反応ロスト。これ以上の追跡は不可能です」
「こっちはビンゴです」
藤尭がキーボードを操作して中央モニターにある資料を表示させる。 それは2年前に発行されたとある新聞の一面の記事だった。
そこには1人の少女の行方不明について書かれていて、次いで表示はれた写真には今よりも顔に幼さが残っている雪音 クリスのものだった。
「あの少女だったのか……」
「雪音 クリス。 現在16歳。 2年前に行方知れずとなった、過去に選抜されたギア装着候補の1人です」
「それと、もう一つ気になるのが」
次に表示されたのは……アイオニア音楽専門学校の制服を着た芡咲 律の証明写真が映し出された。
「芡咲 律。 アイオニア音楽専門学校に通う16歳の少年です」
「彼と雪音 クリスに何の関係が?」
「どうやら彼の両親、芡咲夫妻は雪音夫妻とも交流があり、彼自身雪音 クリスと幼馴染だったそうです。 さらに中学時代、響ちゃんの先輩でもあったそうで」
「加えて、響ちゃんと同じ2年前のライブでの生存者です。 さらに気になることが、ここ2年間で出現したノイズ……その殆どに彼が被災しているんです」
「何……?」
こうして調べてみると装者との関係が多い。 偶然かもしれないが、もしかしたら……弦十郎は腕を組んで目を閉じ、瞑想をしながら考え込む。
「1度、会ってみるのもいいかもしれないな」
目を開け、律の写真のとなりにあるエレベーター内のライブ映像に映る、黒服の男たちに囲まれてソワソワしている小日向 未来に目をやりながらそう呟いた。