六道女学院教師GS横島   作:ミニパノ

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横島、教師になる

「あ、ありえねぇ……」

 

「悪夢だわ……」

 

「そうですか?」

 

一文字、弓、おキヌはそれぞれ思いを口にしていた。

この世の終わりすら思わせる表情の二人に対し、おキヌはむしろ少し嬉しそうにしていた。

その原因は、三人の、正確には六道女子全員の視線の先、

朝礼台の上、六道夫人の隣で困ったように人差し指で頬をかく男、横島忠夫だった。

 

 

 

 

 

「理事長!何をお考えですの!」

 

「ほら来た。だから言ったじゃないッスか」

 

ところ変わって、弓が怒鳴り声を上げながら飛び込んできたのは理事長室だった。

そんな彼女を迎えたのは、いつも通りニコニコしている六道夫人と、件の男横島。

そんな彼を見てハッとした表情をし、横島に詰め寄る弓。

 

「あなた!どんな手を使ったのよ?まさか、理事長の弱みを握ったり脅迫したり……!!」

 

「お、落ち着いてくれ弓さん!冷静に考えて、六道夫人に弱みがあると思うかい?万が一あったとして、そんなもん簡単に握らせると思う?んで握った俺を放置すると思うか?そもそも、俺みたいな若造の脅迫に屈すると?ないない、そんなんありえんって」

 

想像もつかんわ、と一言加える彼に弓も少し落ち着く。

 

「そ、それは……確かにありえないわね。な、なら理事長」

 

冷や汗をかいて言い、それなら、と六道夫人に矛先を変える弓。

一緒に入ってきた一文字とおキヌも視線をそちらにやる。

 

「えぇそうよ~、私の意見で~彼には来てもらったの~。大変だったのよ~、説得するの~」

 

「いや、だから俺はまだ引き受けてませんって」

 

「往生際が悪いわよ~、横島君~。生徒の皆に紹介までしたって言うのに~」

 

そう、横島は六道夫人に半分拉致の様な扱いで連れてこられていた。

しかもその用事は、まさに朝礼で発した言葉。

 

「彼~GS横島君に~短期臨時講師を~お願いしたいと思います~。

そして~その内容次第では~正式に講師をお願いしたいとも思ってま~す」

 

まさに爆弾発言である。いつも以上に間延びした声で放たれた爆弾発言に生徒は騒然とした。

 

横島はまだ高校を卒業して間もない。

教師達よりむしろ生徒に近い年齢、それ以上に問題なのは以前行ったクラス対抗戦の時の醜態。

彼を知らない者は自分に近い年齢の者に教えを請う屈辱。(特にGSを目指しているためプライドが高いものが多い)

彼を知る者は単純に彼の性格に対する嫌悪。(特に弓、一文字の二人)

……二つ合わせてもれなく大反感である。

 

「そうは言いますけど、俺の性格知ってるでしょう。生徒さんの安全のためにも」

 

「私はそうは思わないわ~。

大体ちょっと前の横島君なら~、そんな自分が不利になるようなことは言わないんじゃないかしら~」

 

確かに、と一文字とおキヌが横で納得顔。

 

「それに~前~、お礼に何でも言ってくださいって言ってくれたじゃないの~」

 

「うっ、それは……。

あーもう、わっかりましたよ!でも知らないですからね。

自分で言うのもなんですが、生徒の反感を買ってるのは間違いないんですから!」

 

確かに、と一文字とおキヌが納得顔、横島がそれに気付いてちょっぴり傷つく。

 

「その辺は任せてくれて構わないわ~。

もっとも~、そんな必要はないかもしれないけど~」

 

「いや、ありますって……。あと、俺授業って言っても何やっていいかわかんないんですが、教科書とかってあるんすか?」

 

「自由にやってくれてかまわないわ~」

 

「……は?」

 

夫人の言葉に口を開けたままキョトンとする横島。

教科書などがあればそれに沿えばいいし自分でも出来るか、その程度に思っていたため、一瞬何を言われたのかわからなかったのだ。

 

「教科書は?」

 

「ないわ~」

 

「資料とか」

 

「ないわ~」

 

「何も?」

 

「ないわ~」

 

……沈黙が流れる。

 

「出来るかぁ~!!」

 

「出来るわ~」

 

その間延びした答えに色々諦めたのか、どうにでもなれと肩を落として何も言わなくなる。

そこに今まで黙って聞いていた弓が口を開く。

 

「勝負よ!

私と勝負して勝つくらいじゃないと、私も他の生徒も納得できないわ!」

 

突然弓に指を指されてビビる横島、何とも情けない。

それに対して、夫人は笑みを深め……。

 

「そうしましょう~」

 

と言ってのけた。

それに対して横島がギャーギャー文句やら喚きやらを叫んでいるが、

すべて「大丈夫よ~」で流される。

 

理事長があっさり許可を出したことと、

横島の文句の中に「生徒に怪我をさせたらどうする」などがあったため、自分が侮辱されたと思い、怒りに燃えている弓。

 

「当然、私も納得してないからな」

 

と一文字の発言で、彼女も参戦することが決まり、ここに一文字&弓VS横島が決定してしまう。

 

ちなみに、二人の横島に対する認識は馬鹿で変態でダメ男である。

二人とも自分の彼氏が横島の事を話すときは右から左へ流して、全く信じていなかった。

 

「じゃあ~、2対1で良いわね~」

 

「「なっ!」」

 

てっきりそれぞれが戦うと思っていたため、理事長が言った言葉に驚く弓と一文字。

 

「あ~、何言っても仕方ないんすよね?」

 

「物わかりイイ子って好きよ~」

 

そんな様子に気付いてない横島は何事もなかったように話を進める。

その態度にカチンと来た二人は。

 

「後悔しますわよ!!」

 

「手加減しねぇからな!」

 

そう言い放って部屋を出て行った。

その様子にビビった横島は、ひきぎみに「俺なんかしましたか?」と理事長に聞いたが、

「おばさんわかんない~」とはぐらかされてしまった。

 

そしておキヌはと言うと。

 

「どうせ私なんて前は幽霊でしたし、影が薄いですよ~。クスン」

 

想像以上に影が薄かったことを気にしていた。

 

=====================================================

 

「弓、言っても無駄だと思うが、油断すんなよ」

 

「私があんな変態に油断して負けるわけないでしょう」

 

諦め気味に言う雪之丞に鼻で笑って答える弓。

そのまま踵を返して校庭に張られた結界内へ入る。

弓の後姿を見ながら「それが油断だって言ってるんだよ」と呟く雪之丞だったが、

近くで一文字とタイガーが似たようなやりとりをしているのを見て、諦めた様に苦笑するのだった。

ちなみにこの結界、外からは何の抵抗もないが、中からの攻撃に対しては強固な守りをもつ高度な結界である。

 

「お互い苦労しますのー」

 

「女ってのは頑固だな」

 

「そうですのー」

 

結界内で横島を待つ二人の後姿を並んで見ながら、タイガーと雪之丞はため息をついた。

ちなみにこの二人、六道夫人に呼ばれて来ていた。

実は美神や他のGS達も興味があって、来たかったのだが、仕事や用事で皆来れなかった。

二人も実は仕事があったのだが、六道夫人が裏で手をまわして、延期させたらしい。

結界の周りには六道女子の全生徒が座って観戦している。

勉強になるからと夫人が全員授業扱いとして校庭に集めたのだった。

 

「ホントはな、模擬戦する前に俺と横島でタイマンやって実力わからせてから、とも思ったんだがな」

 

「まぁ、相手を見かけで判断すると危険って事をわかってもらうには、いい機会かもしれんですじゃー。GSにその油断は本当に命取りですけんのー」

 

「そういうこった。多分あのお人よしはあんだけ馬鹿にされても手加減して戦うんだろうけどな、そのあと、俺と本気で模擬戦させちまえば、自分達がどんなレベルの相手と戦ってたか思い知るだろ」

 

ニヤッと笑う雪之丞を見て苦笑するタイガー。

 

「マリしゃんの青ざめる顔なんぞ見たくはないんじゃが、将来怪我されるよりはマシですけんのー」

 

「ずいぶん上手くやってる様だな」

 

「雪之丞には言われたくないのー」

 

ニヤニヤして自分の腹を肘でつつく雪之丞に冷めた目で答えるタイガー。

しかし忘れてはいけないのは嫉妬の神がここにはいることだった。

 

「よぅ久しぶりだなお前ら。人が苦労してんのに、彼女の惚気話か。良い御身分じゃねぇか。

俺の苦労の一部はその君達の彼女が原因なのになぁ」

 

底冷えするような声で二人の肩を同時に組んで割り込んでくる横島。

身長差は考えてはいけない。

 

「よ、よう横島、元気か?」

 

「こ、高校振りですのー」

 

どもりながら言う二人、完全に横島の機嫌をとっている。

その首への力が急に緩む。

 

「けっ、まぁ良い。言いたいことはわかるしな。講師最初の授業のつもりでやってくるわ。

そんな簡単に勝てるとは思っとらんけどGS免許持ってる意地だ、お前らが言ってた事くらい教えれる程度には無様な試合はしないつもりだけどな。……ちなみにお前と本気での模擬戦が死ぬほどいやだからではないからな」

 

「オイ最後本音が出たぞ」

 

「そこが横島さんらしいと言えば、らしいですのー」

 

そう言って笑う三人。

ちなみに結界内で待っている二人は、それを見て話は聞こえないがどうせ馬鹿話をしているのだろうと、イライラを上昇させていた。

 

「さっさと上がってきなさい!」

 

とうとう怒鳴る弓に、ヘイヘイと渋々彼女達の正面に立つ横島。

 

「そんな怒んないでくれよ、二人とも美人が台無しだぜ」

 

「び……!ふ、ふざけてないでさっさと始めようぜ!」

 

横島の軽口に恥ずかしいのか少し頬を染めて開始を催促する一文字。

弓も心なしか顔が赤い。

 

「……やっぱこれ終わったら俺アイツと戦(殺)るわ」

 

「……ワッシも久しぶりに戦(殺)るかいのー」

 

嫉妬深い二人はどうやら横島と一戦交える事を心に決めたらしい。

 

ざわつく生徒達。

校庭のど真ん中に張ってある結界内には3人が構えて立っている。

正確には1人ポケットに手を突っこんだまま構えていない。

結界の正面には六道夫人が立っていて、その隣に雪之丞とタイガーが立っている。

ちなみにおキヌはその横でタイガーより影が薄い事に涙しながら体操座りで結界を見ている。

 

弓や一文字という校内でかなりの実力をもつ二人を相手に構えもしない横島に対し、

何人かの生徒が野次を飛ばしているが、結界内の三人は動かない。

 

「構えもしないつもり?馬鹿にするのもいいかげんに……」

 

「相手の挑発に簡単に乗っちゃダメだよ弓さん。

後、挑発に乗ってないようで殺気がダダ漏れだよ一文字さん」

 

「「!!」」

 

横島の指摘にハッとする二人。しかしすぐに怒りに任せて言う。

 

「私達に授業でもしているつもりかしら?偉くなったものね」

 

「随分余裕だなオイ」

 

逆に挑発するような言葉に少しビクつく横島。

青筋浮かべて言っているので、どちらも怖い。まだ何か情けない横島だった。

 

「い、いや、講師頼まれたから、一応それらしい事は」

 

「そういうことは……」

 

「勝ってから言いなさいな!」

 

弓が言うと同時に霊波弾を撃つ。雪之丞にでも教わったのだろうか。

直線状に伸びる霊波砲ではなく、ボールサイズの霊波を飛ばしている。

それを最小限の動きで右に体を捻って避けて、霊波弾を追う様に左手で後ろに触れる。

そのまま体を回して、霊波弾の進路を弓に変えて返す。

 

「な……!!」

 

自分の撃った霊波弾を反射ではなく、投げ返された事に驚きつつもギリギリでかわす。

弓の後ろで爆発が起こり、一文字も弓も動きを止める。

先程までざわついていた生徒達も静かになる。

雪之丞は横島の動きに満足そうに笑みを深める。

 

「え? 戦闘中に動きを止めて余所見はマズイよ」

 

その言葉に意識を横島に戻す二人。いつの間にか二人の後ろに回り込んでおり、いつでも攻撃ができる状態になっている。

言いつつも追撃をかけようとしないのは良くも悪くも横島の甘さである。

 

「オイオイ、あいつ敵が放った霊波を投げ返したぞ」

 

「相変わらずデタラメに器用ですのー。最低限の霊波を掌に、相手の攻撃の方向性を変えるとは」

 

感心半分呆れ半分の雪之丞とタイガー。

 

「さ、流石にGS免許を持ってるのは嘘ではないのね。もう油断はしないわ」

「ま、まぁGS免許持ってんだし、全く戦えないわけがねぇよな」

 

口ではそう言うが、実はこの二人、今の霊波弾だけで横島が目を回して倒れている姿まで想像していた。どれだけ低く見ていたかがわかる。

ちなみに雪之丞は、ダメだあいつら今のがどんだけレベルの高い動きかわかってねぇ、とため息。

 

「いくわよ!」

 

「おぅ!」

 

しかし、流石に優秀なGSの卵である二人、気持ちを切り替え、弓は自身の奥義である観音水晶を身にまとい、一文字は木刀を構えなおして身にまとう霊力を上げる。

そのまま、同時に横島に向かい、横島が両手をポケットから出したのでそれを目で追う。

 

「サイキック猫だまし!」

 

パン、という音が鳴り、全員の視界が真っ白に染まった。

横島、雪之丞、タイガー、六道夫人の4名を除いて。

 

「それまで」

 

全員の視界が回復した時、結界の中には横島だけが立っていた。

六道夫人の合図で結界が解除される。

横島が倒れている二人の元へ行き、肩に手を当てると何事もなかったように二人が立ち上がる。

あまりにも呆気なく終わってしまった戦いに、観戦していた生徒達は呆然としていたが、全員二人が負けたことだけは理解していた。

しかし、目を眩ませて勝った横島に、大部分の生徒が不服そうだった。

そして、弓たちも例外ではなく、納得できていない様な口調で口を開いた。

 

「ちっ、負けちまった」

 

「どんな勝ち方でも負けは負け、ね」

 

横で横島が「まぁ、君達に確実に勝つためだったから勘弁してよ」と苦笑しながら話している。

三人が六道夫人達の所へ歩いてくる。

 

ちなみに先程の横島の動きだが、

目くらましと同時に、一瞬で二人の背後にまわり、霊体に直接麻痺させる程度の霊波を当てたのだ。

それを霊体を傷つけない程度に行っているのだから霊波のコントロールの細微さがうかがえる。

 

少し昔の、勝ち方にこだわっていた頃を考えると成長したとは思うものの、まだ実力の差がわかってない弓に、雪之丞は他と違う理由で不満そうな顔をした。

それにこれでは折角生徒や弓達を納得させるチャンスが無駄ではないか。

と、思い至り、口を開く。

 

「理事長」

 

「あら~、是非お願いするわ~」

 

何も言っていないのに許可を出す夫人に、

まぁ俺が予想出来てたんだから、夫人も当然予想済みか、と納得する雪之丞。

つかこのために俺をつれてきたか?と苦笑。

 

そして夫人が一歩前に出てマイクをもつ。

 

「横島君~、どうせだし生徒の勉強のため、もう一戦お願いね~。

ちょっと実力差がありすぎて参考にならなかったから~、生徒達も納得してないみたいだし~」

 

その発言に生徒がざわつく。

弓達も一瞬で沸点に達したのか、なぜか横島を睨みつける。

泣きそうな顔になりながら六道夫人に近付く横島。

 

「どういうつもりっすか」

 

「言った通りよ~、雪之丞君もやる気満々だし~、もう生徒も期待してるし~、それに~あのままだと彼女たち現場で死んじゃう心配があるのよ~」

 

「期待というか、殺気みたいなものを感じるんですが」

 

弓達を馬鹿にされたと殺気立つ生徒達。マグレで調子に乗るなと言い始める生徒もいる。

 

「横島、諦めろ。たまには全力で俺と戦え」

 

「いやじゃ!」

 

「理事長命令よ~」

 

「……ハイ」

 

キッパリと断った横島にニコニコと言い下す夫人。

流石に横島もガクッと肩を落とし、

諦めたように、もう一度張られた結界に向かうのだった。

別に六道に所属してないんだから理事長命令とか関係ないのに、権力に弱い男である。

 

 

 

構える雪之丞。先程と同じで横島は構えない。

観客達は雪之丞を見て強そうだとは思うが、弓達とは違い知らないので実力をはかろうと目を見張る。

なにせ理事長推薦なのだ、恐らく強いのだろう。その理屈で言うと横島もそうなのだが、皆、横島に対するイメージは最低だった。

 

「逝くぜ」

 

「字が違ぇだろこのバトルジャンキー」

 

横島の呆れた声を合図に雪之丞が霊波砲を放つ。

弓のそれに比べてとてつもない大きさと密度だ。それをみて全員が息をのむ。

恋人である弓ですら彼氏の実力の高さを思い知る。

そして全員が思った。死んだと。

 

「ハァッ!!」

 

いきなり、腰を落として構えをとり、一瞬で右足を前に出す横島。

迫る霊波砲を右の裏拳で弾き飛ばした。

弾かれた霊波砲は上空の結界に当たって霧散した。

唖然とするは観客の生徒達。

誰もがなすすべなく消し飛ばされてしまうであろう威力の霊波砲を横島は素手で弾いたのだ。

成績の良い生徒や弓などは横島が手の甲に霊波を集めていたのに気付いたが、それでもありえない事だった。

平然と見ているのはおキヌ、タイガー、理事長だった。理事長ですら頬に少し汗を張り付けているが。

 

「おっまえ、こんな狭い場所でとんでもない攻撃してくんな!!死ぬかと思ったやろがー!!」

 

「良く言うぜ!しっかり弾いて見せたじゃねぇか!」

 

必死で抗議する横島に対し、嬉しそうに言う雪之丞。

次第にざわつき始めた生徒達に理事長がマイクをとる。

 

「今のは~、手の甲に霊波を集中させて弾いたのよ~。

見えた人もいるかもしれないけど~、有り得ない程の密度でした~。

彼が特に霊波のコントロールに秀でているとは言っても~、それを一瞬で行える彼は超一流と言っても過言ではないのよ~。

ついでに説明するけど~、さっきの試合で霊波砲を投げ返したのも似た様なもので、単純に敵の攻撃と同じ強さと速度で攻撃の方向性を変えたのね~。

単純にとは言ったけど、言うのとやるのは大違いよ~、超一流の霊能力者でも失敗する確率の方が高いわ~。すこしでも込めた霊力が強ければ霊波砲は霧散し、弱過ぎると自分がダメージを受けるからね~。その微妙なコントロールをあの一瞬でやってのけるなんて神業なのよ~。

最後に二人が倒された攻撃だけど、あれも神業ね~。

霊波を霊体に直接流したんだけど、あれほど綺麗に流す方法を私は知らないわ~。

試合直後に霊波をもう一度流すだけですぐ動ける程に後遺症のない攻撃なんてありえないわ~」

 

ざわつきが大きくなる、不機嫌そうにそれが収まるのを待つ雪之丞と、また大げさに言ってと呆れる横島。

 

「おい、今の動きは武術か?」

 

「ん、まぁな。妙神山で散々扱かれたからな~」

 

遠い目をして過酷な修行の日々を思い出す横島。

生徒のざわつきが更に大きくなる。

妙神山と言う単語はGSを目指す者なら知ってて当然なのだ。

 

「ハイ!皆静かに~!続きを始めるみたいよ~」

 

ウンザリした顔でもう勝手に始めてしまおうとした雪之丞を見て、六道理事長が生徒に注意する。

その言葉にすぐに静まりかえる生徒達。これから行われるであろうレベルの高い戦いに期待している。

先程までとは大違いだ。

 

「へっ、やっと静かになったな。ようやくお前も舐められてないようだしな」

 

「お前わざとそのためにデカめな霊波砲撃っただろ」

 

「なんのことだ?」

 

ジト目で見る横島に彼らしい笑みを浮かべる雪之丞。

すぐに横島に迫る。

そこからは激しい戦いだった。

雪之丞が繰り出すラッシュに次ぐラッシュをすべて捌いていく横島。

珍しく余裕がないのか、雪之丞の雰囲気に流されたのか真面目な表情だ。

たまに繰り出すカウンターも雪之丞にかわされるか弾かれていて、二人ともダメージはない。

生徒達は既に顎を落として唖然と見ているものと、真剣に動きを追っているものに分かれる。

 

ならばと一度離れて霊波砲を放つ雪之丞、先程と違い細いがその分密度が高く、威力がある。

それを今度は拳では無くちゃんとした霊気の盾を出す事でまた弾く横島。弾いた勢いでその盾を雪之丞向けて投げる。

 

「チッ」

 

舌打ち一つうって同じ様な盾を作り出し、相殺させる雪之丞。

そのタイミングを狙って霊波刀を展開して迫る横島。

なぎ払った斬撃は雪之条をとらえなかった。

 

「魔装術か……」

 

呟いた横島の目線の先では魔装術に包まれた雪之丞が空中に浮いていた。

 

「お前空飛べなかったよな」

 

「あの時は本当に歯痒くってな、あんな時に何も出来なかった事が許せなくて再修業したんだよ」

 

「……お前らしいわ」

 

横島が苦笑した瞬間空中から霊波砲を連続で撃ちまくる雪之丞。

土煙りに包まれた横島を見て、今度こそ決着かと土煙りが晴れるのを待つ生徒達。

しかし、土煙りが晴れる前にそこから跳び出す影、横島。手の中には文珠が一つ。

 

『翼』

 

空中で再度起こる殴り合い。

しばらくお互いにダメージがない状態が続くが、

とうとう雪之丞の蹴りが横島のわき腹をとらえて叩き落とす形になる。

横島が砂煙の中に落ち、雪之丞がそれを追うように地面に急降下。

その勢いで砂煙が晴れ、隠れるように立っていた横島めがけて霊波砲を放つ。

放たれた細い霊波砲は呆気なく横島の腹部を貫通し、全員が目を伏せた。

 

「ほい、俺の勝ち」

 

驚愕に目を見開いた雪之丞の首筋に霊波刀が当てられ、後ろに無傷の横島が立っていた。

 

「『幻』か……」

 

「まぁ、俺には搦め手しかないしな」

 

両手をあげて魔装術を解く雪之丞に苦笑しながら霊波刀を消す横島。

腹を貫かれた幻も消える。

 

「ヘッ、良く言うぜ。砂煙に落ちた時に用意したのか?」

 

「いんや、飛ぶ前」

 

「ハッ、途中からお前のてのひらで踊ってたってことかよ」

 

久しぶりに戦えて満足なのか、嬉しそうに言う雪之丞。

生徒たちは目の前で行われた超レベルな戦いに絶句している。

そして、弓と一文字も自分が如何に格上と戦っていたかを思い知っていた。

雪之丞、タイガー、理事長の思惑の通りに事が運んだということである。

パチ……パチと少しずつ拍手が響き渡り、生徒全員の拍手喝采が響いた。

 

「なんや?何事や?」

 

「いや……おめぇに拍手してんだよ」

 

「そ、そうなんか、いやぁ、照れるな」

 

「そういうこった、頑張れよ、横島せ・ん・せ・い」

 

状況を理解して照れる横島に、ニヤッと笑って言う雪之丞。

その言葉を聞いて横島は固まり。

 

「そ、そうやった!騙されたー!!」

 

と叫ぶのだった。

 

 

 


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