八雲くんは告りたい   作:ドンジョラ

2 / 3

めぐみんは、八雲の尻叩き兼妹枠です。


八雲くんは、見つけたい

 

『食事処 八雲』はアクセルはなかなか名が売れた飲食店である。

それはそうだろう。彼が作っているのは、和食を始め、中華、フランス、イタリアン、などなど前世で美味いと言われていた料理なのだ。本人の腕が壊滅的でなければ、不味いはずがない。

なので、昼間や、夕飯時は、店の席はお客で埋まる。

しかし、いくら彼が元一線級の冒険者であろうとも、そんな量のお客に接客しながら、料理作りを並行するなど出来るはずがない。いや、やろうと思えば出来なくないが、人間としてありえない動きでお客の食欲を奪うので封印した。

そのため、八雲には他に2人の従業員がいる。少ないと思うかもしれないが、1人は頭が切れるので要領よく仕事をこなし、もう1人は人間ではないので何とかなる。

そして今日来る従業員は人間の方である。

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法使いにして、爆裂魔法を操るもの! そしてこの店で働く者!」

 

まともな人間からさておくが。

 

 

 

めぐみんとの出会いはとても衝撃的だった。

あれは、ある日八雲が川にバナナを釣りに行った時だった。いつものように、釣竿を垂らして生きのいいバナナが食いつくのを筋トレをしながら待っていた。

しかし、腹筋背筋腕立てといくら筋トレメニューを消化しようとも、釣竿に動きはなかった。いつもなら背筋100回目あたりで何かかかるため、八雲は不思議に思っていると、糸が引いた。

今日は遅かったなぁと、リールを人力発電を行うが如くのスピードで回転させる。

だが、釣れたのはバナナではなかった。

 

人間だった。それも見た目は小学生くらいの少女。

見たとこは意識がなかったので、八雲はすぐに生死を確認した。水中にいたせいで身体が多少冷えていたものの、幸いなことに命に別状はなかった。

八雲はすぐに少女を抱えて店に戻った。

寝ている少女の服を脱がせるのは多少抵抗はあったが、子供だし緊急時だから仕方ないだろうと、自分に言い訳して脱がせ寝巻きを着せた。そして布団に寝かしつけた。

少女が寝ている間に、八雲は少女が起きた時に飲ませようと生姜汁を作り始めた。

身体を暖めるためである。それに医者に見せるほどではないが、衰弱しているようだったので、胃の負担が少ない汁物が最適だろうという判断からだった。

 

しばらくして、出来上がった生姜汁を味見用の小皿に入れて一口啜る。生姜の風味と甘みが鼻をツンと刺激する。満足できる味だった。

八雲は火を消して、少女の様子を見るために寝かせている部屋に入る。

中に入ると、上半身を布団から起こした少女がいた。どうやら意識が戻ったようだ。

 

「お、よかった。起きたのか」

「え、えーと、そのあなたは誰ですか? それとここはどこですか?」

 

警戒した視線を向けてきた。もう少し戸惑うかと思っていたが、案外冷静なようだった。

「俺は八雲春人。ここは俺の店だ。釣りをしてたらお前さんを釣り上げてな。衰弱しているようだったから、連れてきて介抱してたんだ」

「それは、ありがとうございました。すいません、恩人に不躾なことを言ってしまった」

「なぁに、気にするな。むしろ小さいのにしっかり謝れて偉いじゃないか」

「……私、こう見えても13歳ですよ? 子供扱いしないでください」

「え? マジで?」

 

せいぜい10歳やそこらだと思っていたので、日本でいう中学一年生くらいだと知り驚愕した。

そして歳を知った途端、勝手に服を着替えさせたことに罪悪感が増幅する。

そういう時は先に謝るが吉と、とある知り合いの大悪魔の声が聞こえてきた。本人なら絶対に言わなそうだが。

 

「それはすまなかった。身体が冷えていたから、勝手に着替えさせてしまったんだ。不快になったのなら謝罪しよう」

 

一応不可抗力であることを強調する八雲。ロリっ娘の裸を見て条例違反でしょっぴかれでもしたら、ようやく日常会話が出来るくらいに関係を築いたルナに軽蔑されてしまう。それだけは絶対に避けたかった。

少女は着ている服の生地をつまみながら。

 

「……なるほど、だから見慣れない服だったんですね」

「あ、一応言っておくが変なことは一切してないからな。俺が未成年に手を出すことは、エリス様に誓ってあり得ないと断言する」

「そこまで頑なに否定されると色々複雑なのですが。別に裸を見られたくらい気にしてませんよ。理由があるのは分かってますし」

 

思ったよりも理解のある子でよかったと、八雲は胸を撫で下ろす。

これがしつこく婚姻を迫ってくるアラサー行き遅れ貴族令嬢とか、露骨に媚びを売ってくるジャグラー系女子だったらどうなっていたことか。少なくとも人生の墓場に強制ゴーされるのは確実だろう。

実際に引きずり込まれそうになった八雲が言うのだから間違いない。

と、一件が落着したところで、本題が残っている。なぜ、彼女が溺れたいたかだ。何かしら事件に巻き込まれたなら、ギルドに報告して対策を練らなければならない。

若干シリアスなことを考えていると、ぐーと気の抜けるような腹の音が聞こえた。

八雲ではない。となれば……少女を見るとお腹を抑えて顔を赤くしていた。

 

「生姜汁を作ってあるが、飲むか?」

「はい」

「あと、適当に何か作るが食べるか?」

「お願いします」

 

力がこもった言葉だった。よっぽどお腹が空いていたようだ。

 

 

 

 

「がつがつがつ、もぐもぐもぐ」

 

食料を与えながら、大方話を聞くことは出来た。

彼女の名前はめぐみん。ニックネームのような名前だが、本名である。彼女の一族は紅魔族と言って、先天的に中二病という不治の病を患っていることで有名なのだ。

その代わり、紅魔族は一族全員が高い魔力と知力を有していて、日本でいう野菜星人のようなエリート戦闘一族なのだ。そのため、彼らはその変わった性格を差し引いても大きな戦力になるので、王国ではトップクラスの冒険者パーティーには大体紅魔族のアークウィザードがいた。

 

「がつがつがつ、もぐもぐもぐ……むぐぐぐ!? ごくごく……ぷはぁ! はぁ、はぁ」

「誰も取らないから、ゆっくり食べろ」

「無理です。3日ぶりの食事にありつけた今、私のお腹の中にはブラックホールが宿っています!」

 

お前の腹は男子高校生かとつっこみたかったが、この世界に高校生という概念はないので通じないため、自重した。

会話が切れると、めぐみんはまたもご飯をかっこみ始めた。

 

さて、なぜそんなエリート一族の彼女が金欠でご飯も食べれないような貧困に追い込まれたのか。

それは簡単だ。彼女は爆裂魔法しか使えない魔法使いだからだ。

爆裂魔法。それは全魔法の中で最高の威力を誇る魔法だ。その魔法は全てを飲み込み灰燼とかす。

と聞こえはいいが、範囲が広すぎてフィールドを破壊し賠償問題になり、威力が高すぎて大体のモンスターにはオーバーキル、その上消費魔力が多すぎてどんな優れた魔法使いでも1発撃てば魔力が尽きる。その使い勝手の悪さから、長らく魔法を極めた大魔法使いが遊びで習得するくらいしか使い道がないネタ魔法とバカにされている。

そんな魔法しか使えない一発屋をパーティーに入れるなど、この初心者冒険者が集まるアクセルでは百害あって一利なしということだ。

 

そんなこんなでクエストを受けれず貯金が底をつき、空腹が限界に達しためぐみんは、森に食料を求めて入ったところ足を滑らせて川に落ちた。そこを八雲が釣り上げたのだ。

 

めぐみんは運がいい。もしも八雲が釣りをしない日だったら、そのまま溺れ死んでいるところだった。

と、呑気に飯を食らっているめぐみんを見ながら、八雲は思った。

「それでお前、これからどうするんだ? パーティーを組まなきゃ、金も稼げないんだろう?」

 

八雲の言葉に、めぐみんは口の中の物を飲み込み答えた。

 

「そうですね。本当は冒険者として、クエストを受けて生計を立てたかったのですが、そんなことも言ってられません。バイトでもして、生活費を稼ぎながら、私を入れてくれるパーティーを探そうと思います」

「働き先に当てはあるのか?」

「当て……? 最近、城門近くで爆裂魔法を撃った後、衛兵さんと話すのですが、それは当てに入りますか?」

「入るか。というか、それ話してんじゃなくて、怒られてるだけだろ」

「まあ、そうとも言いますね」

 

他にどう言いようがあるのか。

「まあ、当てはないんだな」

「はい。恥ずかしながら、この街に来たのも最近なので……」

「それじゃ、うちで働くか?」

「いいんですか!?」

「うぉ!?」

 

めぐみんは興奮のあまり机に身を乗り出して、顔をぐぐっと近づけてくる。童貞には効果抜群だ。

八雲はきょどりながら、話を続ける。

 

「あ、ああ。ちょうど誰か雇おうと思ってたところだったし、接客くらいならできるだろう?」

「ふっ、紅魔族の頭脳を甘く見ないでください。10人の注文を同時に聞くことだって可能です!」

 

お前は聖徳太子かとつっこみたかったが……etc。

こうして、めぐみんは八雲の店で働くことになった。

 

 

 

 

そして現在に戻る。

『食事処 八雲』の仕事は、ギルドに飲み物を運び入れることから始まる。八雲は最前線で戦ってきたからか、人脈が広い。そのため、安くて大量に良質な酒の入手ルートを確保しているのだ。

しかし、八雲の店はその名の通り酒がメインではない。それに比べてギルドは沢山の冒険者たちが毎日のように酒を煽る。だから、八雲は自分で買った酒をギルドに定価より安く転売しているのだ。日本なら面倒な制度が絡むが、この世界ではその辺りがけっこう適当なので損はないのだ。

だから、八雲は毎朝大量の酒を樽に詰め、担いで(片手に樽3個、合計6個)ギルドに運んでいる。めぐみんは力がないので、台車を使っている。

と、いうのは全部建前だ。

本音は、ルナに少しでも会いたいから、こんな面倒な理由をこじつけて毎朝ギルドに通っているのだ。

そのことを知っているめぐみんは、八雲に呆れた視線を送りながら。

 

「こんな回りくどいことをしなくても、普通に会いに行けばいいじゃないですか」

「ば、バカ。そんなの、え? 何しにきたんですか? って言われるのがおちだろ! そんなこと言われたら、俺泣くぞ! 絶対泣くからな!」

「何で普段は無駄に自信満々なくせして、そういうところはネガティブなんですか!? あー、もうじれったいですね!」

「何でお前はそんなにイライラしてるんだよ。何? 腹でも減ってんの? ……いて! いて! 的確にすねを蹴るな! 荷物落としたらどうするんだよ! これバランス取るのけっこう難しいんだからな!」

 

とか言いつつ、微動だにしない樽。妙な余裕を感じためぐみんはさらにイラつきを増す。

「ふん。もういいです。ハルトなんて、そうやってウジウジして恋人もできないで死ねば良いんです」

「ざ、残酷なこと言うなよ……」

 

今のままだと魔法使いどころか、大賢者になってしまいそうな八雲は、そんな未来の自分を想像して泣いた。

 

 

 

「はっはっはっ! ハルトは相変わらずだねー」

 

八雲がギルド職員と色々話している間に、めぐみんはギルドで食事を取っていたリーンに先程の八雲のヘタレっぷりを愚痴っていた。

「私はまったく笑えませんよ。あのヘタレはいつになったら、自分の気持ちを伝えるんですか」

「うーん。ハルトのヘタレは筋金入りだから、なんか大きなきっかけがないと進展しないんじゃない?」

「なら、私が代わってルナにハルトがあなたのことを好きらしいですと伝えてしまいましょうか?」

「それはやめてあげなよ。恋愛って、他人が引っ掻き回しても上手くいかないし、結局は本人達に任せるしかないと思うよ?」

「うー、じれったいです! 何で自分の気持ちを伝える。そんな簡単なことができないんですか!」

 

めぐみんは、自分の言いたいことははっきり言う性格をしている。そんな彼女にとって、拗らせた2人の恋愛は理解できないものだった。

リーンもその気持ちが分からなくもないが、肯定してあげることもできない。なぜなら、もしも自分がその状況に置かれた時、素直に告白できるかと聞かれれば、はいと自身を持って言えないからだ。

リーンは苦笑しながら。

 

「まあ、じれったいとは思うけど見守るしかないと私は思うな。それよりもさ、めぐみんはどうなの? 好きな人とか、気になる人とかいないの?」

 

話を逸らしたい半分、純粋にめぐみんの恋愛観に興味があることが半分の質問だった。

しかし、

 

「いないですね。そもそも誰かを好きになるという気持ちがよく分かりません。まあ、私は爆裂道を歩むために生きているて言ってた過言ではないので、男にうつつを抜かしている暇はないのです」

「とか言ってめぐみんって案外チョロそうだし、あっさり堕とされそうな気もするけどね」

「なるほど、その喧嘩買おうじゃないか!」

「いたいいたい!」

 

リーンと取っ組み合いの喧嘩を始めためぐみん。

 

その様子を遠くから眺めていた八雲は、相変わらずアークウィザードのくせに血の気の多いめぐみんに呆れてしまう。

 

「まったく、何やってるんだあいつ」

「ふふふ。楽しそうですね」

「まあ、退屈はしてませんよ」

 

そう言うと、ルナはさらに笑みを深めた。可愛いと、八雲は胸をときめかせる。

しかし、真面目な話をしているので、ときめきは横に置いた。

「それで、どうですか? めぐみんが加入できそうなパーティーはありましたか?」

「……そうですね。一応八雲さんに頼まれた通り、事情を話した上で勧めてみたのですが、今のところ希望するパーティーはありませんね」

「……そうですか。まあこの街で爆裂魔法が必要になる敵なんて滅多に現れないから、仕方ないか」

 

実は八雲は、ギルドにめぐみんの事情を理解した上で受け入れてくれるパーティーを探すことを依頼していた。

事情を知らなければおそらく断られるだろうし、それで傷つくのは何よりめぐみんだからだ。

結果に結び付いていないため、本人にはそのことは伝えていないが。

 

「できれば、あいつにも仲間がいる楽しさを知ってほしいんだけどな」

 

めぐみんは、1人では冒険者としてやっていけない。

しかし、それなのにどこか孤高であることを望んでいるような印象があった。それが生まれ持った紅魔の血のせいなのか、はたまた後天的な物なのかは八雲には分からないが、このままでは危険なような気がした。

だから、早く仲間を見つけて、同じ目標を持って達成する喜びを知ってほしい。そう思っていた。

だが、現実は上手くいかない。

八雲が気分を暗くしていると、ぽんと頭に暖かい感触を覚えた。

 

「よしよし」

「……何してるんですか、ルナさん?」

 

見ると、ルナがわざわざ受付から乗り出して、八雲の頭を撫でていた。しかも、身長的には八雲の方が10センチ以上高いので、必死に目を細めて背伸びしていた。

どちゃくそ可愛いですけど。と、八雲はときめきのあまり吐血しそうになったが、心配をかけるので何とか我慢した。

八雲の問いかけに、ルナは頭を撫でながら。

「褒めてるんですよ。八雲さんに偉い偉いって。どうです? 新人の子にはけっこう好評なんですよ、私のなでなで」

 

心臓飛び出そうなくらい、心ぴょんぴょんしてますけど? と真顔で言いそうになるくらい動揺していたが、ギリギリ立ち止まった。

そして当たり障りのない答えを返す。

 

「気持ちいいです」

「よ、よかったです」

 

今更恥ずかしくなったのか、ルナは顔を真っ赤にして顔を背けた。そして、大胆すぎたと自分のやったことを省みて、1人嫌悪に陥った。

肩を落としたルナを見て、八雲は自分の頭を撫でたのが嫌だったのかと考え落ち込んだ。

 

喧嘩をやめ、その経過を見ていたリーンとめぐみんは。

 

「「早く付き合いなよ(ってください)!」」

と声を揃えてつっこんだ。

 

めぐみんに仲間ができるのはもう少し先の話。

 

そして、めぐみんが恋を知るのはまた先の話。

 





かずめぐは正義。異論反論は許さない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。