八雲くんは告りたい   作:ドンジョラ

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ルナさんが出ない……だと……。
まあ、こんな日もあるさ(自己肯定)。




八雲くんは賑やかぎお好き

早朝、鶏の鳴き声が空に響く。

(まともな)冒険者ならクエストに行く準備を始め、衛兵ならば鍛錬を終えて汗を流し、店を営むものなら開店の準備を始める頃。

まだ人もまばらな大通りを2人の男女が歩いていた。

 

「本当に大丈夫なのかアクア?」

 

そう言う緑色のジャージと短い茶髪が特徴的な少年の名前はサトウ カズマ。日本から来た転生者で、八雲の同郷である。

 

「もう何回確認するのよ。大丈夫、この女神である私に任せなさい! カズマは大船に乗ったつもりでいるといいわ」

 

そしてアクアと呼ばれた女性は、得意げにそう言う。

彼女はアクア。天界では、日本からの死者を案内する役目を持った水の女神だ。今はカズマの死因を散々笑った腹いせに、特典として下界に堕とされた駄女神である。

カズマはアクアの様子を見て、泥舟の間違えだろと心の中でつっこんだ。

 

「……なあ、やっぱりやめようぜ。いくら日本出身の奴がやってる店だからって、たかりに行くのは気が引けるからさ」

「今更なに言ってるの? いーい、カズマ! これはね、たかるなんて下品な行為ではないの。転生者は私の手によって新たな人生を手に入れたわ。それはもう返し切れないくらいの恩を感じているはず。そんな大きな恩をちょっとご飯を食べさせてあげるだけで返せるのよ? 安いと思わない? そう、いわばこれは一つの善行なのよ!」

 

全力で自分を肯定するアクアに、カズマは結局ただ飯狙いじゃねえかと呆れた。

こうなったらアクアは意地でも答えを曲げない。カズマは諦めさせることを諦める。代わりに断られた時に泣く可能性が高いこの駄女神を諌める手段を考え始めた。

その間に、ふと聞かされた店の名前を思い出した。

 

「それにしても『食事処 八雲』ね。まんま日本の食堂って感じだな」

 

おそらく八雲は店主の名前から取っているのだろう。

バイト先の親方から聞いた話では、リーズナブルで味も絶品とのこと。さらに店主は王国でもならした有名な冒険者らしい。

日本人ということは、その店主も特典をもらいチート級の強さを持っているわけだ。それに比べ自分の特典は、チートどころかまったく役に立たない上に、夜のおかずにも使えない駄女神。

片や有名冒険者ですでに自分の店を持ち、片やしがないバイト。

差は歴然。カズマは真剣に特典選びをミスったことを後悔しながら、ルンルンと歩くアクアを見ていた。

「なあ、アクア。この八雲って人はどんな特典を希望したんだ?」

 

せめて、名前くらいダサくあってくれ。カズマは切に願った。

「はあ? 何十人も送るのに、そんなの一々覚えてないわよ」

 

こいつマジか……。

と、特に悪びれもせずに知らないと言ったアクアに、カズマはドン引きした。

 

 

しばらく大通りを進むと、『食事処 八雲』と立派な文字で書かれた看板が見えた。

 

「ここか」

 

カズマは店の前に佇む。

『食事処 八雲』は日本ならば一般的な定食屋と言う感じだった。しかし、周りが中世ヨーロッパのような建物のせいか、少しデザインが浮いていた。

どうやらまだ開店前のようで、扉にはcloseの掛札が吊るしてあった。

 

「おい、まだ開いてないみたいだぞ」

「えぇ〜!? ちょっと困るんですけど。私ここでお腹いっぱい食べれると思ってたから、昨日の夜は何も食べないで酒だけ飲んでたのよ!」

「自業自得だろ」

 

だから昨日は飯を食べなかったのか、といつもは食い意地張って自分の飯まで奪うアクアの不可解な行動に合点がいった。

そんな勝手な都合で責められたら、店主もたまったものではない。元よりたかるというみっともない行動に乗り気ではなかったカズマは少し安心する。

しかし、このままではアクアがカズマに朝飯を奢れと迫るのは明白だ。そして何だかんだ奢ることになるだろう。散財はしないが、カズマもけして経済的に余裕があるわけではない。一食奢るだけでも、財布には大きなダメージだ。

それをいち早く察知したカズマは、罪悪感を覚えつつ一縷の望みをかけて提案する。

 

「一応誰かいないか確認しておこうぜ。もしかしたら中に人がいるかもしれないし」

「そうね。ここまで来たんだもの、最後まで足掻いて見せるわ」

 

なぜか強敵と対面した主人公のようなセリフを言っているが、ただ飯をたかりに来ただけである。

そんなアクアを無視してカズマがノックしようと手を近づけると。

 

「お、大きいです……」

 

若い女の子の声だった。

男子の下衆な妄想を掻き立てる言葉に、カズマの挙動が制止する。

そして目にも止まらぬ速さで扉に耳をつけた。

 

「こ、こんな大きいものどうやっていれるんですか!」

「バーカ。入らないじゃなくて、入るようにするんだよ」

 

戸惑う女の子の声と、呆れた男の声。

こ、これはあれだよな。完全にあれだよな! と呼吸が荒くなる。

今のカズマの顔は鼻の穴を大きくして、顔は真っ赤だ。衛兵に見られたら職質待ったなしくらいには気持ち悪い。

 

「そんなこと言われても私初めてなので、少し怖くて……」

「お前未経験だったのか。まあ、1回やれば慣れるよ。俺もそうだったし」

「なるほど、何事も経験ということですね」

「最初は血を出すこともあるから気を付けろよ」

「なぜ決心したところでそんなこと言うんですか!?」

「本当のことなんだから仕方ないだろ」

 

ヤバイこれは聞いていていいのだろうか? と思いつつ耳が扉から離せない。

 

「さっさとやろうぜ。時間もあまりないし」

「分かりましたよ……痛っ!?」

「あーあ、だから言ったのに。大丈夫か?」

「うう、痛いです……」

「たくっ、ほれ貸してみ」

そこでカズマの後ろにいたアクアがしびれを切らしたのか。

 

「カズマってば、何を遊んでるの? って、何よ扉開いてるじゃない。早く入りましょう」

「ああ! この馬鹿っ!」

「お邪魔しまーす」

「本当にお邪魔になるんだよ!」

 

その叫びもむなしく扉は開いた。

中に入った2人の目に飛び込んできたのは、青年がまだ小学生くらいの女の子の指を咥えている姿だった。

 

「「……」」

「……」

 

2人は青年と目が合う。

気まずい空気がしばらく流れた後、2人は叫んだ。

 

「「ロ、ロリコンだあ~~!」」

 

「ち、違う! 誤解だ!」

 

 

 

「まったく! 何を考えているのですがあなたは!」

「……だって、扉の中から大きいとか、いれるとか聞こえてきたんだもん。健全な男なら色々想像しちゃうじゃないですか」

エプロンを付けた少女に、正座をさせられて怒られる少年がいた。というかカズマだった。

 

「あなたが勝手に勘違いしたんじゃないですか! 私はただ料理を教わってただけなのに!」

「すいません」

 

そうエプロンを付けた少女ことめぐみんは、ロリコン(冤罪)こと八雲に料理を教わっていたのだ。しかし、堅い野菜を切ろうとした時にめぐみんは手を切ってしまった。その切った部分を八雲が口に咥えているところを目撃したのだ。

要するに完全にカズマ(変態)の勘違いだった。

カズマも原因は99%自分にあるのは理解している。のだが、1%くらいは紛らわしい言い方をしていた少女に非があるとも思うので、拗ねたような口調で弁解していた。

 

「ね、ねえ? 何で私まで正座させられなきゃならないの? 反省させられるのは、このエロマさんだけで十分じゃないかしら?」

 

その横でアクアは同じく正座をさせられていた。めぐみん曰く、同罪らしい。

エロマ呼ばわりされたカズマの額に青筋がはしる。

 

「はい、告発します。この女、店主に恩があるとか言って、ただ飯をたかろうと企んでいました」

 

突然の裏切りに、アクアは分かりやすく狼狽える。

ハルトは苦笑を浮かべた。

 

「ちょっとカズマ何を言い出すの!? ち、違うのよ、私はちょっとお金がないからご飯を恵んでもらえたらなぁと思っていただけなの。そうあくまで希望なの。だから……その、紅い瞳で睨むのはやめて欲しいんですけど……」

「黒より黒く……」

「なんか詠唱を唱えてるんですけど!? ねえ、カズマさん、今のは冗談って言って! お願いだから! 謝るから! ねえ、ねえってば!」

 

アクアが泣きつくものの、カズマは耳を塞いで無視する。

叱られているのにも関わらず緊張感のない2人にめぐみんのフラストレーションはさらに溜まる。

 

「いいですか! 百歩譲って私とハルトがまぐわっているとの勘違いは良しとしましょう。ですが、なぜ私とハルトがそういうことをしたらロリコン扱いされるんですか!」

「だって、お前ロリだろ?」

「私はもうすぐ14歳になるんですけど!」

「……ロリじゃん」

「ぶっ殺」

「いたいいたい!」

 

ついにキレためぐみんがカズマに襲いかかった。

余程腹に据えかねていたのか、その喧嘩はハルトが間に入るまで続いた。

 

 

 

「いてて、思いっきり顔引っ掻きやがって」

 

ところどころ腫れた顔を押さえながらカズマは愚痴るように言う。そこに苦笑を浮かべたハルトが治癒のポーションを渡した。

「うちの店員が乱暴してすまんな。これはただでやるから使ってくれ」

「おう、サンキュー」

 

受け取ったポーションを飲み干すと、顔の傷はみるみると塞がり完全に治癒した。その驚くべき効能にカズマは舌を巻いた。

 

「すげー! 傷が一瞬で治った!」

「まあ、一応上級ポーションだからな。効能は折り紙つきよ」

「へぇー、さすが元上級冒険者。持ってるアイテムも一味違うな」

「ふん。そんな薬よりも私の回復魔法の方が何十倍もすごいんですけど」

 

回復魔法に関してはプライドがあるのか、アクアは不満そうに口を尖らせる。

 

「ポーションはいいなー。誰かさんみたいに酒飲んでゲロは吐かないし、誰かさんみたいに人のおかず盗らないし」

「な、なによ! いいじゃないおかず1つもらうくらい! 私はカズマの夜はおかずにされてるんでしょ!」

「いや、お前はない。絶対にない」

「なんでよー!」

 

アクアが泣いた。

性的な目で見られるのは嫌だが、まったく見向きもされないのも嫌。複雑な女心だった。

2人はじゃれあいを見ていたハルトとめぐみんは

「いやー。こんな賑やかな朝は久々だなぁ」

「……あの2人はコントでもしているのですか?」

「喧嘩するほど仲がいいって言うだろ? 多分あの2人もそんな感じさ」

 

そう言ってハルトは、アクアとカズマに呼びかける。

 

「2人とも、今から飯作るからついでに食ってけよ」

「いや、そうしたいのはやまやまなんだが、俺らあいにく持ち合わせがなくてさ」

「金なら気にするな。同郷のやつと久々に会った記念だからな。俺の奢りさ」

「やったわカズマ! ただ飯よ! ただ飯! 私たちついてるわ!」

「お前失礼だろ! もう少し殊勝にできないのかよ!」

「はははは! 気にしてねえよカズマ。さて、めぐみん。いっちょ、飯の準備始めるぞ」

「了解しました」

 

その日は、久々に賑やかな食卓だった。





キリが悪くなるので本編ではできなかったネタ。

「このサンマの塩焼きうまいな!」
「だろ? 有機栽培の畑で大事に育ててるからな! 味には自信があるんだ」
「今畑で育てたって言ったか?」
「言ったけど?」
「……」

「こ、このバナナのジュースもうまいな」
「ああ。 毎日川に釣りに行ってるなからな! 新鮮なバナナだ」
「今川で釣ったって言ったか?」
「言ったけど? バナナは川で釣るものだぞ?」
「なめんな」

みたいな会話を少ししたかった。

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