どうやらISに常識人(自称)として転生したみたいです 作:凄まじき戦士
「はあ...」
「どうしたんですの?ため息なんかついて」
文化祭も無事に終わり、次の行事に向けての訓練中。ため息をついているとセシリアがそう尋ねてきた。
「ここ最近の一夏たちの手伝いで疲れてるだけデス。気にしないでください」
「キャノンボールファストの練習が大変とかではなく?」
そういうとセシリアが微妙な顔をして聞いてきた。生徒会には入ってないがなぜか仕事がよく来るのだ。ほとんどは雑務で一般生徒に回しても問題のない仕事らしい、一応こちらの事情は考慮してくれているので、今はない。
「妨害ありのレースなんて珍しい競技だとは思うデスけどね。アタシとしては楽しいデスが」
のんびりしていると肩で息をしている一夏たちが来た。なんか恨めしそうな目線を感じますね。
「どうしたんデス、みんなしてアタシを見て」
「...本当に初めてなのよね?あんたたち」
そういう鈴に向けて首をかしげる。専用機もちが複数人いる中で真ん中くらいの順位だから、そこまですごいことだとは思うのデスが...
「不思議そうな顔してるけど、高速機動特化のパッケージ使ってるセシリアに追いつく時点で普通じゃないからね?しかも換装もなしに」
鈴がそういうとセシリアが少し照れ臭そうに笑いながら
「習熟が進んでませんので、一夏さんたちには負けますわ」
「直線距離だと白式や紅椿の方が速いデスからねー」
「カーブでワイヤー突き刺して、無理やり直角に曲がる切歌の方が怖いからな!?しかも俺たちの進路を予測してるのか、罠を仕掛けてるし!」
あー壁面と肩のワイヤーを利用したあれデスか、練習で試した感じだと本番でも使えそうなので安心した。
「減速せずに曲がるとかっこいいじゃないデスか、レースはどれだけショートカットしてタイムを縮めるかデス。あと嫌がらせするのが大事だとマリ〇カー〇で学んでるデス」
アタシが胸を張ると、一夏たちはそろって大きなため息をついた。そうやって話しながら練習を見ていると、次は調の番になっていた。
「なあ、お前の妹さ...」
「アタシは何も見てないデス」
丸鋸を車輪代わりに爆走し、ヨーヨーを相手に気づかれないように巻き付けて加速と妨害を両立、ぶっちぎりのトップをとっていた。アタシよりえぐいんじゃないんデスかね...?
「そういえば...会長が切歌のこと呼んでたぞ。放課後、道場に来てほしいってさ」
「えー...めんどくさいデス」
このタイミングで呼び出されるのに、いやな予感がして顔をしかめる。最近一夏が武術の訓練をしてるのをよく見ているが...
「ま、そこまでめんどくさいことじゃないことを祈りますかー」
「「フラグっぽい(なー)」」
いつの間にか戻ってきた調と、一夏の声がきれいに重なった。
「ま、こうなるデスねー」
「あら、意外と動じてないのね」
会長からの呼び出しは実力を図りたいということらしい。制限時間は5分、どちらかが地面に背中をつけると負けとのこと。
まあ気晴らしにはいいデスかねー、体をほぐして準備する。道着も久々に着るデスね
「切歌がISなしの模擬戦を見るのは初めてかも。普通の模擬戦でも蹴りとかは使ってるけど」
「見てればわかるよ」
「それでは、はじめ!」
虚さんの合図とともに間合いを詰める。予測していたのか鋭い突きが飛んできた、捌いた勢いを使って裏拳を放つが止められた。
「...簡単にはいかないデスね」
「あら、いい踏み込みだったわよ?」
少しイラっとしたので姿勢を低くして足払いをかける、会長には半歩ずらしただけで避けられた。回転と腕の反発を利用して蹴りを放つ。何とか体勢は崩せた、ここからは
(あの余裕そうな態度を少しでも崩す...!)
二段蹴り、フック、手刀、関節からの投げ
そう考えつつ様々な技をしかけるが、クリーンヒットがない。すべて捌かれるし、時々こちらを投げようとしてくるので攻めきれない。このままでは相手のペース、どうにか攻略しないと...
打ち合っているうちに、明らかに通常の格闘技とは異なる異質な気配を感じ取る。暗殺術特有の、命を刈り取るような物騒な気配だ。
(前世での戦闘経験や技術を総動員しても、生身じゃ追いつけないデスか...!)
焦りが生じた瞬間、目の前から会長の姿が消えた。思考が追いつく前に視界が反転し、気付けば畳に叩きつけられていた。衝撃は殺されているが、一瞬で制圧されたのだ。
「は?」
「少し本気を出しちゃった♪」
「そこまで!」
虚さんの声が響く。叩きつけられたわりにはダメージがない、相当コントロールされたのだろう。不満げに眉をひそめていると、会長が近寄ってきた。
「いやー強いわねー切歌ちゃん。まさかあそこまで追い込まれるとは思ってなかったわ」
「...やっぱり反則すれすれを狙うべきデスかね?」
「目が据わってて怖いぞ、切歌」
若干ビビりながら近づいてくる一夏。調はやれやれと首を振っていた、虚さんはため息をつく。
「冗談デスよー」
「でも所々で目は狙ってたわよね?」
「...ナンノコトデショー」
別に某隻眼の空手家の技を真似してみたわけではない。一夏がしらけた目でこちらを見ているし、虚さんに関してはため息をついている。
「ISを使っての模擬戦はまた今度やりましょうね、次は一夏くんよ」
「「がんばれー」」
お気楽に調とともに手を振っていると一夏からジト目で睨まれた。そのまま一夏の模擬戦を見ながら調と話し始める
「やっぱり付け焼刃だとダメデスね。父さんから何かコツでも学ぶべきデスかねぇ...」
「それは生身でISと戦えるようになるという意味では?」
「そこまでは...いや、合気道をベースにすれば...」
「ぐへぇ!!」
そんな風に話していると誰かが地面に叩きつけられる音とつぶれたカエルのような悲鳴が聞こえた。勝負がついたみたいデスね。
時計を見ると5分ほど経っている。最初のころから比べるとかなり伸びているらしいデス。なんでも瞬殺だったとか。
それから2人がかりで挑むが全く歯が立たなかった。
「一夏くんと切歌ちゃんに頼みたいことがあるのだけれど...」
そんなことを言いながら、会長が思い出したかのように扇子を広げた。
「「嫌だ(デス)!!」」
(ここ数日の接し方でわかる。めんどくさいことの予感...!)
「あら、即答されちゃったわ」
全力で首を振るアタシたちを見てわざとらしく小首をかしげる生徒会長。あざといデスね。
「そんなに難しいことじゃないわ、キャノンボールファストに関することよ」
「キャノンボールファストの...?」
嫌な予感を全身からプンプンと匂わせながら、アタシは畳に倒れ伏した体勢のまま会長を睨みつけた。
更識楯無という人は、美しい笑顔の裏にどれだけの計算と悪戯心を隠しているのか分からない。一夏も床でカエルのような格好のまま、「もうこれ以上雑用は勘弁してください...」と消え入りそうな声で呻いている。
「そんなに身構えなくてもいいじゃない。私だって鬼じゃないわよ?まあ、ちょっとした『お祭り』のスパイスになってほしいだけなんだから」
会長はパチンと扇子を閉じると、ウインクを一つ飛ばしてきた。どんどん嫌な予感が強まってくるデス。
「実はね、今回のキャノンボールファスト...妨害ありのレースという形式は生徒たちの間でも大好評なの。でもね、生徒会としてはもう少し『観客を飽きさせない演出』が欲しいと思っているのよ」
「...演出?」
「そう。あなたたちの練習風景、記録されているのをみせてもらったのだけれど、ワイヤーを使った直角カーブに、妨害工作。そして調ちゃんの車輪型丸鋸での暴走!あれ、観客席で見ている生徒たちからしたら面白いと思わないかしら?」
扇子で口元を隠した会長が楽しそうに笑う。その隣で、審判を務めていた虚さんがあきれたように頭を押さえている。
「そこで提案なんだけど。あなたたちには、レース本番でターゲットとして走ってもらいたいの」
「「は?(デス?)」」
アタシと一夏の声が完全に見事に重なった。
「ターゲットって...俺たちが的になるってことですか!?」
「その通りよ、一夏くん!名付けて『賞金首システム』!あなたたち2人をレースの途中で乱入させるわ。専用機持ちのあなたたちを撃破するか、あるいは追い抜いてチェックポイントを通過した選手には、大量のボーナスポイントが与えられる...どう、盛り上がるでしょう?」
「盛り上がるでしょう、じゃないですよ!それって参加者全員から一斉に狙われるってことじゃないですか!?」
一夏が叫ぶ。ごもっともデス。ただでさえ専用機持ちというだけで目立つのに、わざわざ「狙ってください」と言わんばかりの標的になるなんて正気の沙汰じゃないデス。
「アタシは辞退するデス。いくら妨害が好きでも、一方的に全校生徒からリンチに遭うのは趣味じゃないデスよ」
アタシがむすっとしながら立ち上がり、道着の埃を払うと、会長は待ってましたと言わんばかりに怪しい笑みを浮かべた。
「あら、残念だわ。もし受けてくれたら…一夏くんの寮の『相部屋問題』、生徒会権限で解決してあげようと思ったのに」
「「なっ...!?」」
一夏が驚愕の表情をして会長を見る、最近、会長からのいたずら(一線は越えてない)の影響で寝不足らしい。
「...会長、それ本当ですか!?俺の専用部屋を用意してくれるんですか!?」
一夏が縋るような目で会長を見る。会長は扇子で口元を隠しながら、くすくすと意地悪そうに笑った。
「ええ、男の子の一人暮らしに相応しい、静かで快適な個室を用意してあげるわ。もちろん、私からの『夜の家庭訪問』も控えてあげる。まあ、切歌ちゃんが受けてくれないなら、この話は流れちゃうけどね?」
チラリとこちらを見てくる会長。一夏が弾かれたようにアタシの方を向いた。その目はまるで、救世主を拝むかのように血走っている。
「切歌ぁぁぁ!頼む!引き受けてくれ!俺の安眠とプライバシーがかかってるんだ!」
「いや知らんデスよ!一夏が身を捧げれば済む話じゃないデスか!」
「頼むから冷たいこと言わないでくれよ!この前俺に用があるって部屋に入ったとき、ドン引きした表情でこっちを見てたじゃん!」
「う...」
いや、ノックせず入ったアタシも悪いんですデスけどね?まさか水着エプロンで迫ってるとは思わないじゃないデスか。
「...で、でもアタシに何の得もないデス!ただの的にされるリスクが高すぎるデスよ!」
アタシが突っぱねると、会長はさらに笑みを深めてパチンと扇子を鳴らした。
「じゃあ、条件を追加しましょうか。もし切歌ちゃんたちが特別ターゲットとして出走し、誰にも追い抜かれずに見事1位か2位で完走できたら...一夏くんの個室確保に加えて、生徒会長権限で何でも好きなことをかなえてあげるわ」
「なんでも..!」
「でも、もし途中で撃破されるか、誰かに追い抜かれて負けたら...そうね」
会長の瞳が怪しく光る。
「その権利を調ちゃんに譲渡するわ」
「っっ〜〜〜〜!?!?!?」
アタシは膝から崩れ落ちた。
「それはアタシの貞操をささげろという意味では!?」
「あら、自分の腕に自信があるなら負けなければいいだけの話でしょう?アタシのイガリマなら誰にも負けないデス〜って、さっきまで自信満々に言っていたのは誰かしら?」
「ぐぬぬぬ...!」
完璧に煽ってきてるデスね、この人は!
「切歌頼む!なりふり構わないお前なら必ず勝てるはずだ!俺も援護するから!」
一夏が床に頭を擦り付けんばかりの勢いで頼み込んでくる。調も横からそっとアタシの袖を引っ張ってきた。
「姉さん、私も手伝う」
「へ...?」
目が点になった。こんな豪華なものを見せられた調がこちらの味方?
「あの人の計画通りに進むのは癪、それならぶち壊したほうが面白い」
「調...!」
「手に入れるなら生徒会長の座を将来的にもらうのが効率的」
ぼそっと言ったことは聞いていないふりをする。アタシは会長をビシッと指差し、思い切り言い放った。
「後で条件を撤回したら承知しないデス!」
「決定ね。本番を楽しみにしているわ、ターゲットのお二人さん♪」
扇子の影で不敵に微笑む会長を見て、アタシは「絶対に負けられない戦い」が始まってしまったのだと、冷や汗を流しながら悟るのだった。