天竜の巫女   作:木葉 音疎

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ハイドはウェンディを引き抜こうとしていた。


魔獣、ワラキア

「すみません、少し、考えさせてください」

 

 それがウェンディの答えだった。

 そりゃそうだよね。

 いきなりあんなこと言われちゃ。

 

「もちろんです。ですが、私たちはいつでも、あなたをお迎えする準備はできています。どうか、悔いのない選択を」

 

 そう言ってハイドさんは帰っていった。

 

「ウェンディあいつんとこ行っちまうのか……?」

 

 ロメオも心配そうな目をしてた。

 

「じっちゃんもなんとか言ってくれよ」

 

 って、

 ナツは言ったんだけど、

 

「こればっかしは本人が決めることじゃ……」

 

 マスターはそう言った。

 まあ、その通りだよね。

 

「ねえ、シャルルはどう思う?」

「自分のことなんだから自分で決めなさい」

「シャルルぅ……」

「ウェンディ、明日発つ予定だったクエストの件だが……」

 

 実はエルザとウェンディとジュビアとあたしで、

 明日からクエストへ行くことになっていたの。

 

「あっそれは—―—行きます!」

「平気か? 無理はしなくていいのだぞ?」

「でもぉ……」

「はぁ」

 

 ため息を吐くシャルル。

 でもシャルルはちゃんとウェンディのことを考えてくれてる。

 

「クエストに行って、改めていまの自分の仕事を見つめ直してみたら? お金も必要だしね」

 

 ほらね!

 

「うん、そうする」

「わかった。では予定通り、明日出発するとしよう」

「はい、よろしくお願いします」

 

 そういうわけで、

 明日は朝からまた仕事。

 クエストの内容は-たしかーワラキアとかいうモンスターの討伐だったっけ?

 

 

ママへ パパへ

 

 やっと依頼のあったマキビシっていう集落に着いたよ。

着いたんだけど、

まさかこんな事になっているなんて……。

 

「この人達は──?」

里の診療所にはね、

ぐったりと横たわった女性たちがいたの。

 

「この者たちは皆、ワラキアに襲われた女子たちです」

 

里長さんはそう言ってた。

 

「あの山をご覧なさい。里を見下ろすあの山を縄張りとするワラキアは、百年に一度目を覚まし、山に踏み入った女子を襲って子孫を残そうとするのです」

「子孫って、それじゃあまさか……」

「左様、ここにいる女子たちは、ワラキアの子を腹に宿しているのです」

「そんな!?」

「この人たちは、どうなるんですか──?」

 

質問したウェンディは、

なんとなくその答えをわかっているようにも見えた。

 

「助かる手立てはございませぬ。これがこの里に生きる者の太古からの宿命。如何なる名医も、治療することはできませなんだ」

 

里長さんが言うには、

襲われた女性は十日が経つとワラキアの子を産み、

そのまま息を引き取るらしい。

 

「子種を植え付けたワラキアは、子が産まれる日になると子が山へ戻るのを助けるために、里へおりてくるのです」

「では、我々への依頼というのは——」

「ワラキアを、この里に近づけないでいただきたい」

「掃討ではなく、ですか?」

 

 里の人たちが言うにはね、

 ワラキアっていうのは里を脅かすモンスターであると同時に、

 守り神でもあるんだって。

 だから里の人たちはワラキアを倒そうとかは考えていないみたい。

 それに、

 ワラキアってとんでもなく強いって話なの。

 

「詳しい伝承は、この『御伽の巫女』からお聞きくだされ」

 

 そう言って紹介されたのは、

 ウェンディと同い年くらいの小さな女の子だった。

 

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