天竜の巫女   作:木葉 音疎

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ルーシィたちはモンスターについて知らされる。


魔獣、ヴラド

「はじめまして、わたしは『御伽の巫女』マーシィ・マルキュル。ようこそ、マキビシの里へ」

「巫女さん、なのかしら?」

「『御伽の巫女』は代々、歌唱によってワラキアから里を守る役目を担っています」

「歌姫というわけか」

「ワラキアってモンスターですよね? それなのに、歌が通じるんですか?」

 

 不思議そうに見つめるジュビア。

 

「ただの歌では効きません。『御伽の巫女』には、特殊な力が宿っているんです。ただ、情けないことに、血が薄れていくにつれてその力も徐々に弱まってきているのです。わたしもどれだけ、ワラキアを抑えることができるか……」

 

 マーシィはあたし達を宿に案内してくれた。

 

「すまないが、ワラキアについて詳しく教えてくれないか。足止めをするにしても、作戦を練らねばなるまい」

 

 こういうとき頼りになるのはやっぱりエルザだよね。

 

「わたしたちも言い伝えを知るに過ぎません。ワラキアが目覚めるのは百年に一度だけ。生を受けたワラキアは山へ姿を隠し、長い眠りにつくのです。そして百年後に目を覚まし、子を残すために里を襲い、そして一生を終える。それがワラキアなのです」

 

 マーシィはこの里に古くから伝わる昔話をしてくれた。

 

 昔々、一匹の怪物がいました。ヴラドと呼ばれる最初のワラキアです。怪物は人を恐れ、山へやって来た人間を遠くから眺めては、自分の孤独を恨んでいました。そんなある日、彼は一人の女性と出会いました。彼女こそ、最初の「御伽の巫女」と呼ばれるおとぎさまです。はじめはヴラドも他の人に対するのと同じように、遠くから彼女の姿を眺めているだけでした。しかし彼女への想いは増すばかり。気が付くと、彼は彼女に襲い掛かっていました。怪物の住む洞窟へ連れて行かれたおとぎさま。はじめは怪物を恐れたものの、彼に優しい心があることを知り、彼の思いを受け止めます。そうしておとぎさまはワラキアの子を宿したのでした。

 日が経つにつれ、おとぎさまは自分の生まれ育った里が恋しくなります。里へ帰りたい。ある時おとぎさまは怪物にそう言いました。けれども、愛する女が自分のもとから離れてしまうのを恐れたヴラドは、彼女の願いを聞き入れませんでした。

 その頃マキビシの里では、おとぎさまを連れ戻そうと男たちが集まっていました。そしてその夜、おとぎさまは里の者たちの手によって、洞窟を抜け出したのです。

 おとぎさまがいなくなったことに気が付いたヴラド。彼は涙を流し後悔しました。自分が彼女の願いを聞いてあげなかったから、彼女は去ってしまったのだと。彼は自分を責め、洞窟で身を隠していましたが、どうしてももう一度会いたいという感情を捨てきれず、里へおりておとぎさまを探します。

 怪物が姿を見せたことで大慌ての人間たち。大急ぎで男衆を集め、怪物を倒そうとけしかけます。しかし屈強な若者をもってしても怪物には手も足も出ません。もはやこれまでと覚悟した人間たちでしたが、ヴラドは戦意を失った人間には手を出さずに、ただ身籠ったおとぎさまを山へ連れ帰ったのでした。

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