天竜の巫女   作:木葉 音疎

5 / 12
マーシィは里の伝承を語る。


御伽の巫女

「そしてその百年後、ヴラドの子が現れ、里とワラキアの関係が続いていくのです。それと同時に出現したのが、わたしの祖先でもある『御伽の巫女』。この二番目の『御伽の巫女』もまた、おとぎさまとヴラドの間の子であると伝わります」

 

 「御伽の巫女」の歌はね、

 おとぎさまが洞窟でヴラドに聞かせてあげた歌なんだって。

 だからそれを聞くと、

 ワラキアは大人しくなるっていうことらしいの。

 

「でも、どうして守り神なんて言われるようになったのかしら?」

「それにもちゃんと理由があるんです」

 

 そのことも、

 マーシィは教えてくれた。

 

 今はもうなくなってしまったんだけど、

 昔は山の向こうにも同じような里があったんだって。

 その里は山の恵みを求めてマキビシと対立していた。

 実際に衝突する事も度々で、

 そのたびに多くの犠牲者が出ていたそうなの。

 

「その争いは、ワラキアが現れてからというもの、ぱったりとなくなりました。ワラキアの眠りを覚まさぬよう、人間たちは山で騒ぎを起こさないと決めたのです」

「だがこのままでは、百年後二百年後も同じような悲劇が起こる。どうにかここで終わりにできる術があれば良いのだが」

「この里の歴史の中でも、そういった試みは何度か行われてきました。何れも成功することはありませんでしたが」

「試みって……?」

「わたしが知っているのは、ワラキアの子を孕んだ女を、子供が産まれる前に殺す、というものです」

 

 途端に、

 みんなの表情が固まった。

 

「ですが、植え付けられた時点で、ワラキアの子はもう生まれているのです。人間の中に留まっているのは、ただ人の内臓を食らい、体を大きくするためのこと。人の手によって体外へ出されたワラキアは、腹を空かせて生きた人間を食べだすそうです」

「でも、モンスターと言っても子供のうちなら何とかできるんじゃないかしら?」

「わたしにも詳しくはわかりませんが、ワラキアの皮膚は鋼鉄よりも固いと言われます。こうして今なおワラキアが生き続けているのが何よりの証。この歴史をどうこうしようとは考えていません。ただ皆さんには、里に下りてきた親のワラキアを足止めしてほしいのです」

「任せておけ。妖精の尻尾に依頼をしたこと、後悔はさせない」

 

 エルザは相変わらずのようだったけど、

 わたしは本当に怖かった。

 鳥肌が立つって文字通りの意味だったんだね。

 

 こんな日でも、

 星は綺麗に大地を照らしている。

 きっと神様にとっては、

 誰かが喜ぶのも誰かが苦しむのも、

 誰かが生まれるのも誰かが死んじゃうのも、

 どれも同じようなことなんだろうね。

 でも、

 もしママがあたしを生む前に死んじゃってたら、

 あたしがいまこうして手紙を書いていることもない。

 妖精の尻尾のみんなと出会うこともなかったんだ。

 やっぱり、

 この里の人たちを助けたいよ。

 

「みんな、力を貸してね」

 

 あたしには頼れる星霊(なかま)たちがついているから。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。