「そしてその百年後、ヴラドの子が現れ、里とワラキアの関係が続いていくのです。それと同時に出現したのが、わたしの祖先でもある『御伽の巫女』。この二番目の『御伽の巫女』もまた、おとぎさまとヴラドの間の子であると伝わります」
「御伽の巫女」の歌はね、
おとぎさまが洞窟でヴラドに聞かせてあげた歌なんだって。
だからそれを聞くと、
ワラキアは大人しくなるっていうことらしいの。
「でも、どうして守り神なんて言われるようになったのかしら?」
「それにもちゃんと理由があるんです」
そのことも、
マーシィは教えてくれた。
今はもうなくなってしまったんだけど、
昔は山の向こうにも同じような里があったんだって。
その里は山の恵みを求めてマキビシと対立していた。
実際に衝突する事も度々で、
そのたびに多くの犠牲者が出ていたそうなの。
「その争いは、ワラキアが現れてからというもの、ぱったりとなくなりました。ワラキアの眠りを覚まさぬよう、人間たちは山で騒ぎを起こさないと決めたのです」
「だがこのままでは、百年後二百年後も同じような悲劇が起こる。どうにかここで終わりにできる術があれば良いのだが」
「この里の歴史の中でも、そういった試みは何度か行われてきました。何れも成功することはありませんでしたが」
「試みって……?」
「わたしが知っているのは、ワラキアの子を孕んだ女を、子供が産まれる前に殺す、というものです」
途端に、
みんなの表情が固まった。
「ですが、植え付けられた時点で、ワラキアの子はもう生まれているのです。人間の中に留まっているのは、ただ人の内臓を食らい、体を大きくするためのこと。人の手によって体外へ出されたワラキアは、腹を空かせて生きた人間を食べだすそうです」
「でも、モンスターと言っても子供のうちなら何とかできるんじゃないかしら?」
「わたしにも詳しくはわかりませんが、ワラキアの皮膚は鋼鉄よりも固いと言われます。こうして今なおワラキアが生き続けているのが何よりの証。この歴史をどうこうしようとは考えていません。ただ皆さんには、里に下りてきた親のワラキアを足止めしてほしいのです」
「任せておけ。妖精の尻尾に依頼をしたこと、後悔はさせない」
エルザは相変わらずのようだったけど、
わたしは本当に怖かった。
鳥肌が立つって文字通りの意味だったんだね。
こんな日でも、
星は綺麗に大地を照らしている。
きっと神様にとっては、
誰かが喜ぶのも誰かが苦しむのも、
誰かが生まれるのも誰かが死んじゃうのも、
どれも同じようなことなんだろうね。
でも、
もしママがあたしを生む前に死んじゃってたら、
あたしがいまこうして手紙を書いていることもない。
妖精の尻尾のみんなと出会うこともなかったんだ。
やっぱり、
この里の人たちを助けたいよ。
「みんな、力を貸してね」
あたしには頼れる