ひらひらと手を振る五条学長に見送られた後、柳瀬家の車は舞衣と姫和をバックシートに納め、厳かに走る。
「色々ありがとう、舞衣」
「うん。色々びっくりしたけど」
「期待させてしまったかもしれない。済まないと思ってる」
「うん。正直、期待しちゃった」
今朝姫和から連絡があった時には良い返事が聞けそうだと思っていたが、事態は舞衣の想像の斜め上のそれまた上を行っていた。如何に賢い舞衣でも、イチキシマヒメが姫和のスペクトラム計に宿って未だ健在で、幽世に追いやったはずのタギツヒメとのアクセスが可能になるかもしれなくて、事態は一特祭隊隊員の裁量には全く収まらないから五条いろは学長の判断は必要で、その五条学長の手にも余るから折神本家に上げねばならなくなって、京都から奈良までヘリで往復することになろうとは思いもよらなかった。
「…でもまだ、期待はしちゃっている途中だから」
「…」
事情を聞いてからの舞衣は素早かった。
「平城学館に向かってください」
「畏まりました、舞衣お嬢様」
このやり取りが朝行われて後、昼下がりには姫和は平城学館経由で折神家に到着していた。
長くて短い道中で、舞衣には事情を話した。
イチキシマヒメが現世に健在であること。
その力で、幽世の母、柊篝と電信出来たこと。
幽世に未だ、タギツヒメは健在であること。母篝や、藤原美奈都も同じく健在であるということ。
多分、舞衣が姫和から聞きたかった返事とは、関わりの無い話だ。
しかし舞衣は、突然にも関わらず、真剣に聞いた。
「それって、可奈美のお母さん――美奈都さんともひょっとしたら、話が出来るかもしれないってことよね」
「多分出来るだろう。どうなのだ、おい」
「可能かどうかと問われれば可能だ。しかしそれには相応の穢れを得る必要があり、しかも今の我はノロと結びつけぬ故穢れを蓄積することが出来ぬ」
姫和に求められ、イチキシマヒメは応えた。
スペクトラム計が本当に人語を話した時には、沈着な舞衣も驚いたものだ。
「だと、どうなるんですか」
「汝の求めに応えるには、一時に多くの穢れを浴びねばならぬということだ、孫六兼元の刀使よ。蓄積が為し得ぬ以上、浴びた穢れは浴びた端から消える。消える前に幽冥界と言葉を結ばねばならぬから、大量の穢れが必要なのだ」
「どうすればそれは得られるんですか、イチキシマヒメ」
「確たることは我にも言えぬ。大勢の人と交われば穢れは得やすいが、一人の者から大量の穢れを得られることも有る」
実は舞衣にとってこれが、イチキシマヒメと言葉を交える機会を得た初めてであった。
年の瀬を姫和や可奈美と共に行動した舞衣たちだが、実は大荒魂という存在と会話らしい会話をしたことは無かったのである。
「本当に、姫和ちゃんにはびっくりさせられてばっかり」
「重ね重ね済まない。…けど舞衣。これ以上迷惑はかけたくないんだ。私が私の勝手で回りを振り回している自覚はある。だからもうこれ以上は…」
「関わらないで、っていうつもりなら止めてね。私もっともっと、姫和ちゃんに関わらせてもらうつもりだから。…でも私、いくら何でも我慢出来なくなってきたから」
「…え」
「だから仕返しさせてね、ちょっとだけ」
「ち、ちょっとだけ?」
「うん、ちょっとだけ」
舞衣のちょっとだけが、姫和には計り知れない。
「わ、分かった。私も貸しを作りっぱなしは嫌だと思っていた。私に出来ることなら」
「ありがとう、姫和ちゃん。あ、丁度着いたみたい」
「…え」
何をさせられるのかと恐々とする姫和をよそに、車は静々と止まった。
「いやここは、私の家の前だが」
「ここでいいんだよ」
バックシートより降りて先ず目に止まったのは、玄関先に駐輪してある、見覚えのある自転車だった。
「…岩倉さん?」
「待ちくたびれたよ」
腰を上げた岩倉早苗は、スカートの裾をパタパタと払う。どうやら十条の家の前でしゃがんで、家の主の帰りを待っていたらしい。
「久しぶりにどう? 十条さん」
早苗は我が左手の御刀を、姫和に向かって掲げた。
***
「舞衣の仕返しとはこれか」
「どう? 思い知った?」
「ああ、全く思い知ったよ」
精一杯不敵に、といった感じの表情の舞衣に、姫和は苦い笑みを向ける。
「早苗さん、真庭念流を破門になったって言ってた。戻るつもりはもう、無いと思う」
「強かった。勝てなかった。…姫和ちゃんに似てた」
「早苗さんもきっと待ってる。念流に戻らないってことは、そういうことだって思うから…」
先日の、そのような舞衣の言葉が蘇ってくる。
舞衣と早苗が会って言葉を…いやそれ以上の、御刀に掛けたやり取りを交わしたことは窺い知れた。舞衣は姫和が平城学館を辞したことを知っており、ならば早苗がそれを聞いている可能性はある。
(岩倉さんがここに現れて、御刀を掲げたという時点で、知ったと思うべきだな…)
知られたくなかった。
岩倉早苗には、姫和が今日に至るまでどれ程の迷惑を掛けたか知れない。考えれば眩暈がしてくるから考えたくもない程にだ。
だから今回のこともも、考えないようにしていた。ようは尻尾を巻いて逃げていたのだ。
そのツケが今、御刀を掲げて立ち塞がっている。
「思えば岩倉さんには、いつも隠し事をしてばっかりのような気がするよ」
姫和は応じ、我が腰間の小烏丸を外して掲げる。
鞘ごとである。
早苗と全く同じ動作だった。
早苗は、左手で掲げた我が御刀を、右手を添えて頭上に拝する。
姫和も同じくそれを行い答礼する。
鹿島に伝わる礼式であった。
鹿島新当流の礼法はかつて姫和が早苗に伝えたものだ。
新当流の御刀の技は、知るその全てを伝えた。そうしなければ対錬が出来ず、母の仇を討てないだろうと思った。
早苗はどう思ったろう。
一つ年上の早苗が、馬庭念流を姫和に伝えるならば兎も角、逆に教えられて気持ちのよかったはずはない。
しかし早苗は何も言わず、最終的には母と行っていたのと同じレベルの稽古が行えるようになっていった。
大した刀使だ、と思っていたがそれ以上の所感を姫和は懐かなかった。そんな精神的余裕もあの時はなかった。仇討ちが上首尾であってもそうでなくても己は終わりだ。命は無いだろう。恐ろしくはあったがそれを上回ったのは、母への想いだった。母を失った寂しさであり怒りだった。
死に物狂いで打ち込んだ。怖さも寂しさも怒りも忘れて眠れるまでそうした。熾烈を極める稽古となった。
早苗は何も言わずにそれに付き合った。御前試合のあの日まで――
早苗とは平城の決勝で当たった。
あの時は勝利を得たが、思えばもし新当流でなく、馬庭念流の岩倉早苗と戦ったなら勝てたのか。
分からなかった。姫和は主席、早苗は次席の結果となったが、もし早苗が居なかったなら、早苗を対手とせず、独り稽古であったなら結果はどうなっていただろう。
(今この姫和がこうして在るのは、岩倉さんの御陰だ)
分からなかったが、そのことは確かであった。
鞘を背に回し、御刀を構える。
姫和は小烏丸を。
早苗は千住院力王を。
(上段脇構え――)
今一人、姫和に続き車から降りた舞衣は、御刀は抜かず、姫和の後ろに立つ。
(まるで鏡に映したよう――)
申し合わせたように同じ構えであった。
とはいえ二人の間に申し合わせたやり取りがあったようには見えない。
稽古なのか仕合なのか、それとも斬り合いとなるのか、どのレベルの戦なのかの申し合わせがないままに始まってしまっている。
稽古であれば、申し合わせがなければ非斬り稽古だ。お互いが流の技を――新当流の型を繰り出す。どの型を繰り出すかは自由だ。新当流の技であれば、どちらがどの型を何時仕掛けて行っても良い。限りなく仕合に近い稽古と言える。
仕合となれば、流の太刀に拘らず自在に工夫をこらして、雌雄を競う。仕合は試し合いであり、実戦ではない。刀使の戦は荒魂狩りであり、それ以外ならば伍箇伝の禁じるところの私闘に当たろう。
繰り返すが姫和と早苗の間に申し合わせは何もない。
だから、ここに居合わせた舞衣の役割は、両者が斬り合い、刀使の禁じるところの私闘に移行するようなら直ちに止めることであった。
現れた早苗が姫和を斬り合いに誘ったことに驚きはなかった。なるのではないかという確信的な予感が舞衣にはあったからだ。
御刀勝負は写シが剥がれれば終わりだ。
仕合であればそれでケリだ。だがこれが私闘、喧嘩の類ならそこから先がある。その場合写シを剥がした剥がされた以上のものが掛かった斬り合いになる。
特祭隊隊員としてこれを静止するべきであることは分かっていた。しかし姫和の動向を早苗に伝えていたのもまた、舞衣であった。
だからこそ、段階が上がる前に止めなければならない。
腰の孫六兼元に賭けても、である。
(早苗さんは強い)
実力は舞衣と互すると見て良いだろう。しかし…
(でもそれじゃあ、姫和ちゃんには勝てない)
姫和に勝利しうる刀使は限られている。もと親衛隊と、それを従える折神紫前当主を別格とすれば、衛藤可奈美のみが為し得る刀使だ。
(私に手こずってたら姫和ちゃんには歯が立たない)
それは早苗も承知だろう。平城学館の予選では姫和と戦って敗れているのだ。
ならば、この場に立って御刀を抜いたのには、何等かの目算あってのことの筈。
(だけどそれは一体…)
ふと、舞衣は気付いた。
(握剣が…前と違う?)
早苗とは一度立ち会っている。そのとき早苗の脇構えも見ている。
肘は舳先(へさき)、切っ先は艫(とも)。肘越しに対手を照準する、それは変わらないが唯一つ。
御刀の持ち方が異なっている。
というか、握り込んでいない。
給仕が手に盆を乗せるかのように、右掌に御刀の峰を乗せている。もちろんそれだけでは、長細い御刀は掌から零れてしまう。だからそうならないように、左手を柄尻に添えている。
そんな風に見えた。
明らかな違いだ。しかし、だからといってここから何があるのか?
姫和も感づいたか、目を細める。
だからといって、脇構えより変じることはしないようだった。当然である、母の仇を討つために、ひたすらに磨いて来た構えであるのだ。トップスピードは掛け値なしに伍箇伝一。如何なる切っ先よりも先んじて相手を貫く姫和の「一つの太刀」。
早苗はそれに、あろうことか正面から、しかも全く同じ構えで勝負を挑もうとしているのだ。
「羨ましいな。柳瀬さん達が大冒険してる間、私がしてたことと言ったら、ただ待っているだけ」
「今だってそう。十条さんだったら脇構えに付けたら必ず攻めてたのに、私は待っているだけ」
そのような早苗の言葉を、舞衣は思い出す。それしか出来ないから仕方ないと、そのようなことも言っていた。
「ホントだね。十条さんは何時も私に、隠し事ばかり」
だけどそれは仕方のないこと。
だって私と十条さんはそんな仲じゃあないから。
そう思って諦めていた早苗が居る。しかしその一方で思っていた。どうして己を巻き込んでくれなかったのか。力を智恵を貸して欲しい、話を聞いて欲しい、相談に乗って欲しい、そんなことのどれか一つくらいはしてくれても良かったのではないかと、その思いは常にあった。
平城の先輩でかつて主席代表の座を争ったこともある獅童真希に姫和のことを尋ねられ、「分からない、何も知らない」としか答えようが無かった早苗の気持ちは、きっと姫和には分かるまい。
(私怒ってるんだよ、十条さん)
何かを犠牲にして姫和に付き合ったのは舞衣たちだけではないのだ。
真庭念流の稽古を返上し、己のキャリアを犠牲にしてまで姫和の稽古に付き合った。
早苗自身が思い定めてしたことだ。姫和に頼まれてしたわけでなく、姫和の力になりたいと思ってそうしたのだ。
(だって不公平よ)
(私がそう思って巻き込まれたのに、巻き込みたくないから黙ってるなんで不公平よ)
思い知らせてあげるから。
(覚悟してね、十条さん)
早苗が下がった。
(…?)
歩幅にして半歩程だから、距離としては小さい。
しかし間合い、という言葉を使うなら大きな後退である。一足刀を踵よりつま先の幅とすればその倍程もの距離を下がったのだ。
石を投じれば当たるか当たらないかというこの間合い、確かに姫和が得意とする間合いだ。御前試合でもここから一突き、という姫和の迅移の刺突に、歴戦の刀使が次々と敗退している。それを嫌って退避したのか。
(いや違う。これは…)
攻撃である。
姫和の勘がそう告げている。後ろに逃げたのではない。早苗がしたのは…
「一指しの太刀…!」
「むうっ!」
その間合いから早苗が仕掛けた。
姫和が応じた。
応じぬ筈がない。姫和が得意とする「一つの太刀」。早苗が「一指しの太刀」とやらを繰り出したのは正にその適正距離である。近すぎず遠すぎずの、ドンピシャの距離だ。
繰り返すが姫和のトップスピードは伍箇伝髄一。同じに技を繰り出せば先に相手に到達するのは姫和の切っ先だ。御前試合でも伍箇伝各校の代表に選出されるほどの刀使が成すすべもなく敗れて来たのだ。
早苗もそうなって当然の筈であった。
そうならなかったのは何故なのか。
「…が…!」
早苗が太刀を引き抜くと同時に、姫和の写シが飛んでいた。胸部、その中心を一突き。写シが無ければ脊椎を損傷して良くて廃人となっていただろう。
早苗の写シは飛んではいない。
小烏丸の諸刃は早苗の鳩尾に埋まっていたが、浅かったようである。
(なに…いまの光…)
早苗は姫和と同時に突いた。
迅移による刺突だ。
姫和の得意の技であり、これに限っては姫和以上の遣い手は存在し得ぬ程のものだ。
早苗の迅移が、姫和を凌ぐ程のものであったとは見えなかった。
早苗とて御前試合本戦を伺う刀使である。相応の技を持ってはいる。迅移のレベルは高いが、姫和以上の物であろうはずが無かった。
応じて技を出すか、身を躱して後先を取るか、多くの刀使が応じようとして、同じように全く間に合わず、成す術もなく刺し貫かれて来た姫和の太刀に、早苗が対して繰り出した技は――
(フェンシングで見たことある…あんな刀法を…)
まるで刃を指でなぞるか、と見えた。それがフェンシングの選手の良く行う、フルーレの切っ先を指先で弓のようにしならせる、あれを連想させた。
しかしあれは、刃も切っ先も丸められた競技用の剣であるから出来ることだ。真剣でそれを行えば当然ながら怪我をする。然るに、早苗は御刀でそれをやった。刃を指で撫でたのだ。
(…いえ、違う)
刃を撫でた指は鎬から中町に至った時には火花を発し、切っ先まで来た時には光芒となって夜を照らした。
撫でただけではこうはならない。指で押さえつけたのだ。技へ至る刃を指先で。
物打ち所より切っ先に至った指先が、ついに千住院力王を離れた時、指から離れ自由となった刃は急激に運動した。
舞衣ですら見失う程だった。
古代の投石機か何かのようなものだ。一端を縛められた木材が、その縛めを解き放たれた瞬間、バネ仕掛けで巨岩を敵陣深くに投じるあれだ。
(確かに迅移の素早さは姫和さんだった)
(でもそれにも増して、早苗さんの千住院力王が、突きになるのが迅かった)
迅移の素早さで劣っても、技の素早さで優った。早苗の突きの方が速く、技として成立していたのである。
「…続きは御前試合でね、十条さん」
決着と見て、早苗は納刀する。
「私、待ってるから」
そう言って背を向けても、姫和は動かない。
只々茫然と、膝をついて視線を彷徨わせたままだ。
「…どうして、私の時には遣わなかったの?」
「柳瀬さんだって居合を遣わなかったでしょ? だからおあいこ」
すれ違いざま、舞衣と早苗は視線を合わさぬやり取りを交える。
姫和に届くか、届かないかというほどの小さな声である。
「私、柳瀬さんの役に立てたかな」
「――」
「でも御免ね。私、十条さんを本戦で衛藤さんに合わせるつもり、ないから」
早苗は坂を下っていき、舞衣は取り残された。
自失している姫和と共に――
***
ふと見上げれば、星が降るようであった。
夜空の息吹を間近に感じられるような、明るい夜道を一人、岩倉早苗は下っていく。
「…あ」
ふと気づく。
自転車を、姫和の家の玄関前に置きっぱなしだ。
すっかり忘れていた。そんな余裕が無いくらいの、多分我が人生で何度目かというほどの、御刀と御刀のやり取りを、今交えたのだという思いが押し寄せてきて、手と言わず足と言わず、みっともないほどに震えだす。
(…やった)
やってやった。
ずっと工夫してた、いつか十条さんと仕合う時の為の「一指しの太刀」。
大切なこと、肝心なことを私にはいつも黙っている十条さんには、仕返しに内緒で鍛えた私の鹿島新当流。
それを決めてやった。
(よし! よし! やった! やったやった!)
震える我が両の拳を、胸に握り締める。
驚いたか。
驚いたか!
(…)
達成感とか勝利の感慨とかは、たったそれだけで冷めていった。代わりに眼裏に浮かぶのは、伏したまま、自失している姫和の姿だった。
胸がズキリと痛んだ。
胸に結んだ両の拳を、掌と広げてみる。
(…十条さんも)
(隠し事をしてた時、こんなふうに胸がズキズキしたりしたのかな…)
今己が感じていることを、かつて姫和も感じていたりするのだろうか。
もしそうであれば、と早苗は思った。姫和のかつて感じたことを、今己が感じていることが嬉ばしいと思っている早苗が居る。
(自転車は、いいや)
あのまま姫和の家に置いて行こう。そのうちに取りに行けばいい。
歩いて駅までどれ程の時間がかかるのか、すぐには思い浮かばなかった。
でも今日は歩こう。
暫くはこうして、今の気持ちを噛みしめながら歩むことが心地よい。そうするには幸いにも、夜は明るい。
(…ごめんね柳瀬さん)
きっと何時かは姫和は、最大の好敵手である衛藤可奈美のことのみを見据えて、小烏丸を握るのだろう。そう導くのが柳瀬舞衣の目標であったはずである。
だったら生憎なことだ。何時かは分からないがそれまで、姫和の視線は己の物になる。そうすることに成功したののは、姫和に教わって、それを早苗がずっと温めてきた、言わば姫和と早苗の産んだ新たな鹿島新当流の技なのだ。
そのことは姫和に伝わっただろうか。
十条家の庭先での稽古の日々が二人の間に生み出したのは溝だけではないことが、もし伝わったなら嬉しい。
そうして出会ったあのころの、二人にもし戻れたとしたら――
そう思うと笑みが零れた。涙も一緒に零れた。
あとからあとから零れた。
その笑みと涙のままに、星の明るく照らす夜道を、早苗はまた、歩き出していた。
「一指しの太刀」編、一区切りです。
これについては全くの、僕の妄想による創作なのでアプリブラウザのとじともはこんな技使いませんから、それはお断りしておきます。
でも本当にモーション似てるんだよなあ。偶然なのか?