まさに衝撃であった。
あの衛藤可奈美が僅か一戦で敗退など、誰が信じられようか。
「満足ですか、先輩」
問うた真庭紗南司令に、相楽結月副長は無言で踵を返す。
「相楽副長…!」
折神朱音局長が呼び止めるも意に介さず、相楽副長は無言で、観覧席を後にしてしまう。
「…様子がおかしいことは、気づいていました。私の、恐れていたことが…」
「落ち着いてください、局長。これはただの試合で、ただの試合結果。衛藤可奈美が失われたわけではありません」
「だと、いいのですが…」
朱音の危惧は、現実のものとなる。
「写シが…張れない?」
「うん。無理みたい。何でかな」
医務室の廊下の待合で、ドジしちゃった、みたいに後ろ頭を掻きかき、可奈美はそんな調子で言って笑う。
「そんな…ことって…」
「あの後、少し違和感感じてさ。まさかとって写シ張ってみたら張れなくなっちゃって」
宿題わすれちゃった、くらいの言い方で可奈美は美炎たちに、伍箇伝震撼の事態を告げた。
令和元年度御前試合は初日のプログラムを終了した時点で、二名の選手権喪失者を出したことになる。
一人は岩倉早苗。
一人は衛藤可奈美。
一人は言うまでも無く大荒魂斬りの伍箇伝最強主力であり、今一人も伍箇伝最優とされる現場指揮官である。
回復の目途は、混沌としていた。
「多分あの時だと思うんだ」
「あの時?」
「うん、あの時」
友里歩を抱き留める為、千鳥を投げ出したあの時。
手に入れたと思った強さはきっと、刀使の求めるべき強さではなくて。
御刀を握っていたのでは手に入れられない強さを、可奈美は求めてしまっていた。
「千鳥に愛想、尽かされちゃったかも」
「大丈夫よ」
殊更に断言したのは柳瀬舞衣であった。
傍らには「絵の先生」で羽島学長の娘、羽島七奈を伴っている。
「大丈夫よ、可奈美ちゃん。中等部の刀使にはよくある事だって。心因性か、肉体的変調で突然写シが張れなくなることはよく見られる症状だって聞いたことある」
「舞衣ちゃん…」
「何時直るかまでは分からない。明日に間に合うかどうか、断言できない。だけど大丈夫。何かの切っ掛けでまた張れるようになることもよくあることだから」
「舞衣ちゃん…!」
ほんの僅か、いつもより少しだけ早口に、舞衣はそこまでを言って、足早に可奈美の部屋を後にする。
(舞衣!)
沙耶香は舞衣を追ったが、歩いていて追いつけない。
舞衣は速足になっていた。
「舞衣…まい!」
小走りに駆けて、舞衣の袖を捉える。
「…どうしたの、沙耶香ちゃん」
どうしたの、じゃあないよ。絶対おかしかったよ、今の様子。皆そう思ってるよ。舞衣が隠してるつもりでも分かる。だって私が変って思うくらいだから。
「可奈美ちゃんなら大丈夫。私が言うんじゃあないの。世界で一番刀使と御刀に詳しい、羽島学長がそう言うんだから間違いないよ」
正確には、舞衣は羽島学長と直接話したわけでは無い。その娘で共同研究者たる羽島七奈から聞いた話だ。
美濃関学長、羽島江麻は御刀の専門家を多く学園に招き入れ、自身も「刀使と御刀」という短い題名の論文でその名を知られた学士でもある。どの刀使が何時から写シを習得し、張れなくなったのは何歳の頃かを丁寧な考察の許収集したデータは、伍箇伝の戦力維持に大いに役立てられている。
「はい。母の専攻分野ですし、何度か私も母の論文草稿を試し読みさせられましたし」
「そんなことしてたんだ。そういえばエレンちゃんも似たようなこと言っていたわ」
「小学生だった私には、難しかったですけどね」
羽島学長の娘にして舞衣の絵画の師、七奈はそうやって理詰めで、舞衣を支えたのである。
「大丈夫でないのは可奈美ちゃん。私は大丈夫でしょ。今までよく、休んだもの」
「そうじゃない。可奈美のこと」
「だから可奈美ちゃんは――」
可奈美ちゃんは…
「…間に合わなかったのかな。私」
「舞衣…」
「可奈美ちゃんのこと、気づいてはいたの。もう猶予がないって、分かってた。可奈美ちゃんが、壊れちゃうって分かってて、私――」
「舞衣…舞衣…!」
沙耶香は必死に、舞衣の名を呼ぶ。
そうしないと、舞衣が目に見えない何かに攫われてしまいそうに思えたから。
「舞衣…明日の相手は、私」
「…そうだね。明日の相手は、沙耶香ちゃんだね」
そう。
だから目を逸らさないで欲しい。
己だけを見て欲しい。今、この日この夜くらいは衛藤可奈美より私を見ていて欲しいのだ。
「明日に備えてもう休むね。明日を楽しみにしてる」
「うん」
もう構わないでと言われた気がして沙耶香は、捉えていた袖を手放してしまう。
***
沙耶香と舞衣のこのやりとりを、聞くとはなしに聞いていた者が居た。
十条姫和である。
盗み聞きをするつもりはなかった。折神本邸のエントランスに降りて来た沙耶香と舞衣が勝手に初めて、勝手に出て行った。姫和の存在に気付いていたのかどうかは、分からない。
「可奈美に会わねえのか」
「薫か」
声を掛けたのは、益子薫であった。
「何後方彼氏ツラしてこんなとこで座ってんだ。会ってやりゃいいだろ」
「可奈美に会わす顔などない」
「なんでだよ」
「それは…」
姫和は、これまでの顛末を話す。
平城の予選中、朱音局長から直々に、衛藤可奈美に着いていてやるように言われたが断ってしまった事。岩倉早苗の決勝進出を見届けた後直ちに御本家に向かい、可奈美と会ったものの何も出来なかったこと。
「私は朱音様から、稽古相手を仰せつかったと可奈美に言ったんだ。遅れて済まないと謝りもした。だが可奈美は千鳥を取ろうとはしなかったんだ」
「なんだって?」
薫が最後に会った時の可奈美は御刀を持っていれば誰彼構わず鱠斬りにしょうとする怪獣トジゴン絶好調で、かくいう薫もひどい目に合っている。
「稽古相手に苦労していたとは聞いていたが、これほどとは思わなかった」
己が武道館に現れると、稽古していた刀使達が皆居なくなるなどということが、多々会ったらしい。手練れの沙耶香や舞衣が御本家に駐留したこともあるが、可奈美との稽古は避けていたという。
「…平城で予選が始まる前、舞衣が私の家を訪ねて来たことが会った」
「姫和の家を? 舞衣がか?」
「ああ。舞衣は私に言った。衛藤可奈美を助けてくれと」
「――…」
その力は無い。そう言って姫和は断った。
まさか同じ頼みを御本家より賜り、同じように断ることになるとはその時思いもしなかったが…
「事態の深刻さに気付くべきだった。可奈美が刀使を嫌いになりかけているなんて思いもしなかった。だって可奈美だぞ。あの可奈美が――」
『懸念通りであったか』
「…? 誰だ!」
「あー、済まねえ。紹介が遅れてたな」
『タキリヒメである。あれはかつて目通り許しておる者故、介添え無用』
「いや、弥々! 弥々だろう!?」
「色々あってな」
『仔細あって、大荒魂弥々の許、陣借りの身である』
「タキリヒメ…本当にあのタキリヒメなのか」
視覚的にはイナイイナイバアポーズの弥々にしか見えないのだが、そもそも人語を喋らぬ筈の弥々が流ちょうに日本語を話している。マイクを仕込んでいる、とかではない筈だ。
『柊の娘よ。あれは大荒魂タキリヒメの成れの果てに紛うことなし』
「…!? 誰だ!」
今度は薫がきょろきょろする。しかしどっちを見てもこの場に居るのは薫と姫和と弥々だけだ。
『珍しや。そこにおったとは気づかなんだぞイチキシマヒメ』
『相まみえるは別れて以来初めての事よな、タキリヒメ』
「おい説明しろ姫和。なんかイチキシマヒメとか言ってる見えない何かが居るんだがこれ霊障案件なのか? ああ?」
「上から聞いてなかったのか。ほら、こいつだ」
胸元をごそごそして取り出した旧式のスペクトラム計をこいつだと言われても、薫には何のことだか分からなかったか――
『信じ難きことなれど、あれに見えるが我が末妹、イチキシマヒメである』
そう弥々から説明され唖然とする。
ここに、あの年の瀬にも実現されることのなかった、タキリヒメとイチキシマヒメの会見が期せずして実現したのである。
『互いノロを取り込めぬ以上、戦うは無益。穢れを蓄積する部位が無いが故、力を蓄えることなど出来ぬのだからな』
『承知のこと。天下五剣も我らが手には無し、相争うは無意味。しかし、意義有ることならばあるぞ、小烏丸の刀使よ』
「話したいことなら私にもある。あの時の私は未熟だった。守りを果たせず、申し訳ない」
薫は目を見張った。なんとあの十条姫和が、深々と頭を下げたのである。
『柊の今代は殊勝なるかな。されどあの折は、妾がタギツヒメを倒して居れば済んでおったこと。頼んでも居ない汝ら刀使の守りを利して、のこのこやってきたきゃつの力を削いだ上で、妾自らきゃつの蓄えたノロ全て分捕ってやろうと謀ったが、冥加刀使なる手勢を引き据えておるとは考え及ばなんだ。妾の策が及ばなんだが故の事、汝に咎無し。相許す故面を上げよ』
確かに許せと詫びたが、ここまで上から目線で言われたら、頭を下げる気も失せるというものだ。それを見越して、というのならタキリヒメ、中々に大した役者である。
「…可奈美の事だが、少し、驚いている。まさかこんなことになるなんて」
『あまりに眩き才故に、あれの危うさは人目(じんもく)に直視適わぬ。唯一心にとめていたであろう者は、定命故この世にもう居らぬ』
「その、者とは」
『衛藤可奈美の母にして師、先代千鳥、藤原美奈都』
「…衛藤美奈都さん。可奈美の母のことだな」
『死後も娘の位を観ていた、とは聞き及ぶがの。幽世との交わり絶えた今となってはそれもままなるまい』
「可奈美から聞いたことがある。夢に母が出て来たことがある、と。今にして思えばそれが幽世との繋がりだったんじゃないかと。だけど…」
幽世との繋がりは絶えた。
我が身と可奈美が現世に辿り着いた現在、母、篝と美奈都が居たあそこは、泡と消えてなくなっているのではないか。
「…最近、母の夢を見ない、とも言っていた」
可奈美と姫和には通じるものがある。
早くに母を失ったこと。早くに師を失ってしまったこと。
「可奈美の気持ちは、分かる気がする。私の時には岩倉さんが来てくれた。可奈美には…居たんだろうか。師と母がいっぺんに無くなった心の穴を埋めてくれる誰かが」
『居らぬからこそこうなったのであろう』
居ない…
一名の姿が姫和の脳裏に浮かんだ。つい数日前、京都の生家に押しかけてきて膝詰めで話した、可奈美の友達。
『刀使技は仕手と打手が在ったればこそ。御刀取っても一名のみでは立ち会えぬ。かの千鳥の刀使が如何に翼を強く使えようとも、片翼では何処にも羽ばたけぬ』
「可奈美のもう片方の翼に成れというのか? それが出来たら苦労はない。あいつの才は唯一無二、私など遠く及ばない」
『本日の勝負にて、お前はその資格を得た筈』
「――…」
何時からか、可奈美の姿を思い出す時は何時も後ろ姿だった。肩を掴んで呼び止めようにも、その背は手が届かぬほど遠く、どんどんと遠くに――
(夢物語だ)
可奈美と今一度肩を並べるなど夢物語だ。けどもし、母様の一つの太刀が夢をかなえてくれるなら――
(何を考えているんだ、私は)
心中、姫和は我が両手で我が両頬を張る。
「…唯一つの太刀のことを言っているのなら、試合では使えない技だ」
野戦なら兎も角、御前試合の四面石台の上であれを使えば必ず場外までぶっ飛んでいってしまう。当たれば良いが、外れが続けば三度で敗退。可奈美に及ぶどころのものではない。
照準も怪しい。前試合の五条丹穂は一指の太刀に拘っており、それに技を被せていけば、当て勘だけで何とかなったところがある。岩倉早苗を写した馘、今際乱世を相手に同じことが出来るとは思えなかった。
「それに、可奈美は…」
可奈美は敗れた。
写シが再び張れるかどうかも分からない。
明後日の決勝まで勝ち進んだとしても、相まみえるのは可奈美ではないのだ。
それだけではない。
立ち合おう、とせがまれることもこの先、もう無いかもしれない――
(ぐ…)
刀使を辞めるつもりだったではないか。伍箇伝を辞するつもりだったではないか。何者でもなくなった己で、この先の人生をささやかに、惨めに醜く生きて、その姿をもって罪滅ぼしとするつもりではなかったのか。
(なのになんだ、この気持ちは…)
未練、であるのか。
分からない。けれどこのままではいけない。そんな気がする。
(可奈美の写シが蘇るかどうかは分からない…そんなことには関わりなく私は…)
思い浮かぶのは、一年前から今まで、可奈美と並んで歩んだ道々であった。
夢物語だとしても出来過ぎの、そんな道行き――
(届くのか、可奈美に。行けるのか、その隣に――)
もの思う姫和を、大荒魂は何と見たのか。
『…古今東西南北未来、柊の業は天下に無双。よって信じ磨き、磨き尽くせば天佑神助、必ずや有らん』
「技を、磨き尽くす…」
母から受け継いだ鹿島の業の他に、己に寄る辺などない。我が身と可奈美を巡り合わせ、数々の友との縁を手繰ったのも、その実母の業に他ならないのだ。
「…確かに、もとより頼るところは、母さまの小烏丸のみ」
「おい、何処に行く」
「決まってる。母さまの業を磨きにだ」
「あ、こら」
二柱の大荒魂はもう、何も言わぬ。
穢れを使い果たしたか、それとも言いたいことを言い尽くしたからか。
「全く。大丈夫かあ? 明日のスタミナとか」
「ねね!」
「お。戻ったかよ、弥々。タキリヒメの奴、気は済んだのか?」
「ね!」
「そうか。しかし…」
薫の心配は他にもある。
「安桜の秘密か」
友里歩の臥せる医務室付近に居ると確認出来ているのは先ほど本邸を出て行った糸見沙耶香と柳瀬舞衣。残るは歩の友達という田辺美弥と、そして安桜美炎だった。
「安桜美炎に何があるかは分からんが、何か持ってそうな奴だからな。取り合えず、美炎の秘密を探っているってのは分かった。それで何をしようとしてるのかまでは分からねえが、稲河暁と鳥喰優稀が出張って来てるってことは間違いなく、会津が挙げて、美炎を狙ってくるってことだ。会津の動向はもう一回、洗ってみねえとな」
安桜の秘密とやらは御本家、折神朱音に問いただせば聞くことが出来るかもしれないが、それでは我らがビッグマム、真庭紗南学長が密かに探りを入れていたことが御本家に知れ、カードを一つ失うかも知れない。そうするとあれやこれやの申請が滞るかも知れない。例えば有給休暇とか。
何れは御本家に相談するとしても、それまでに出来ることはやっておこう。安桜の秘密が何であれ、それを欲する会津日高見が何をやろうとしているかを見極めれば、見当を付けることが出来る筈だ。
「…にしてもタキリヒメ、直接可奈美には会わないんだな。照れ屋さんか」
「ねね!」
「ああそうか。イチキシマヒメも紫さまに会おうとはしないし、意外と悪い奴じゃねーのかもなあいつら。さて、そういや、エレンの方は、どうなってるかな…」
どうしてだか、相棒の顔がいやに浮かんでくる。
(当てられたかな…あいつらに)
可奈美が心配でないかと言えばウソになる。ただ他にやることは多いし、可奈美に出来ることは少ない。その中の一つがタキリヒメであった。可奈美と直接に立ち会ったという大荒魂、タキリヒメならば、何らかの知見を可奈美に与えるかも知れない。そのタキリヒメが望んだのは直接に可奈美とではなく、姫和との会見であったのだ。
(技を磨きに、か)
もう可奈美は試合に出れないかもしれないというのに、それをするというのは可奈美を信じるということか。或いは可奈美との縁(えにし)を、絆を信じるということか。
「まったく、アオハルしやがって」
毒づきつつ携帯端末を取り出した薫は、指先で我が相棒、古波蔵エレンのルームを手繰る。
***
今まで迅移だけに頼ってきたのが幸いした、と言うべきだろうか。
姫和は最速の刀使であったが、どうやら伍箇伝でも「迅移が上手な」刀使にいつの間にか、なっていたのだと思う。
何事にも巧拙があるが如くに、刀使技の迅移にもそれがある。
獅童真希や此花寿々花など、超ベテランの刀使ともなれば、迅移から八幡力の打ち込みの如きは、まるで一つの技のように行う。御刀に適合してからの月日がそのまま刀使技の巧拙と成りがちなのだが、姫和の場合、正しくバカの一つ覚えで迅移に打ち込んで来たから、人より「迅移が上手」になっていたのだろう。
だから、五条丹穂との試合で、咄嗟に出来たのだ。
迅移から、迅移。
普通無理だ。
迅移の技は素早いからである。
体感時間ゼロ、甲地点から乙地点に移動する。御前試合レベルの刀使がほぼ達している二段階迅移は、9mm拳銃弾と同等の速度で5メートル余りを移動するものであり、並みの刀使がその間に出来ることと言ったら、一度の瞬きをするくらい。
(だがこの、十条篝が一女、姫和は違う)
三段階迅移のその先を伺う姫和にとって、二段階迅移はまだ、巡航速度なのだ。体感速度ゼロ、では姫和にとってはない。
以前は左前の霞の構えより、歩み足で踏み込んで突いていた一つの太刀。
それは変わりない。そこへの入り方が異なる。
工夫は、立位にある。
家伝と異なり、高く構えた霞上段。これは低きから転がり落ちる技よりも、高きから転がり落ちる技が勢において優れるからだ。加速において有利だからだ。
一つの太刀はここより踏み違え、左前が右前となって突く。しかしこの唯一の太刀においてはそうではない。左前のまま、右足で地を蹴る。
(迅移…!)
姫和以外ならば瞬きすることしか出来ない刹那の瞬間。
だが世界に唯一、姫和ならば他の仕事が出来る。
(続いて、踏み違えて、迅移…!)
走り幅跳びを思い浮かべれば良いだろう。
その場から踏み込んで飛ぶのと、助走を付けてワンステップ、ツーステップで飛ぶのとでは飛距離が異なる。
二連続の迅移を行う者は居るだろう。しかしそれはあくまで二回の迅移。一回目の迅移の効果中に二回目の迅移で飛翔する、これを行いうる刀使は古今東西、唯一人。
(これぞ、唯一の太刀…)
(…)
(……)
伍箇伝迅移速度記録は文句なく更新出来る。
そんなものは求めていないのだ。
(…速過ぎる)
一度目の迅移ではまだ意味のある世界だった。もう一回の迅移を行って気づいたら百メートル以遠のここに居た。
(秒速百メートルか…)
マッハ6。第一宇宙速度に達する。恐らく姫和は、大気圏離脱すら可能とする、史上最速の刀使となった。
とはいえ、御前試合には不要にも程がある。何せ26メートル四方の石台から出れば場外判定となってしまうからだだ。
(宇宙ロケット並みか…もしこれを写シを張らずやったら…)
大気圏内なら燃え尽きる。そうならないのは、写シを張ることによって我が身を構成する分子粒子がこの世の理を離れているからに他ならない。
それに有効なのは相手が二足刀以遠の場合に限られる。
(この技を馘は知らん。だけど、岩倉さんは一度見ている)
遠間から一指の太刀で来てくれたら破ることが出来る。しかし来なかったらどうしようもない。普通に剣対剣で斬り合って、技術で早苗に勝利できる刀使は限られていよう。
(ええい、考えるな。バカの考え休むに似たりだ)
明日の朝までに、この技をモノにする。
それが馘の一指の太刀を凌ぐ方法であり、馘から早苗を救い、可奈美の横に今一度立つ、唯一の方法なのだ――
***
明かりを落とした病室に、何となく靴音を忍ばせて可奈美が歩み入ると、友里歩は病床に半身を起こしていた。
「やっとお話出来ます」
今しがた眠りから覚めたという歩の顔(かんばせ)は、夜目にも白かった。
歩の傍に付いていたと思われる田辺美弥が、可奈美を招き入れたのだ。
可奈美一人を、である。美弥はそのまま病室の外に出てしまったから病室は可奈美と歩の二人きりであった。
試合の後、即座に病室に運び込まれた歩は、今の今まで点滴を受けて眠っていたのだという。
たった数分の試合であった。
それなのにこの消耗は、基礎体力が落ち込んでいる証拠である。
今までどうしてたのとか。どうしてこんな状態で試合に出て来たのとか。聞きたいことは色々あったけど、それを思い出すには、左手より伸びた透明なチューブがあまりに痛々しかった。
「御無沙汰してすいませんでした、可奈美さん」
「ずっと…ずっと気になってた。変な感じで、それきりになって。連絡も付かなくって…そしたら代表者名簿に歩ちゃんの名前があって、私てっきり、試合に出れるくらい元気になったんだって思って、そしたら車椅子に乗ってて歩くことも出来ないみたいで、それでも試合始まっちゃって…」
「すいません。本当にごめんなさい。元気になった姿を見せたくて…頑張ってたところを見せたくて学長にお願いしたんです。まさか、あんな判定になるなんて思ってなくて」
公式の御刀試合で可奈美に勝利した刀使は少ない。御前試合に限っては、可奈美に勝利した刀使は一人も居ない。最初の一人がこの、友里歩であった。
「…後遺症、悪いの?」
「最初は、少なくとも、成人式まで寝たきりだって言われて…了戒を返納するかどうか、尋ねられました」
可奈美は、息を呑む。
「私一度、死んでたらしくて。ノロの投与のお陰で命が助かったらしくて。そのノロを抜いてしまったから、半死人に戻ってしまって。でも私、どうしても伝えたいことがあったから学長にお願いしました。その後私の身体がどうなってもいいから、一度だけでいい、試合が出来るようにしてほしいって」
伝えたいことがあるというその相手の、心当たりが可奈美にはある。
あって、有り余る。
「可奈美さんに斬られました。その後、同じ技で糸見沙耶香さんにも」
「沙耶香ちゃん?」
「なにも聞いてないんですか?」
可奈美は首を横に振る。
友里歩と戦ったと聞いてはいたが、勝ったとも負けたとも、細かいことを沙耶香は語っていなかったのだ。
「私未熟者だから、可奈美さんの時にはわかんなくて。伝えたかったことが分かったような気がしたのは、その時です。私が掴んだ答え…言葉にすること、まだ出来てないんですけど、了戒で応えることは出来ると思ったんです」
「伝わった。伝わったよ。有難う。私最近、色々剣のことが分からなくなってて…でも歩ちゃんのお陰で、何か掴めた気がするんだ」
親しい刀使たちの誰にもしたことの無い話を何故だか、この内里歩にはしなくてはならない気が可奈美にはしていた。
「私は強くなったって思う。もう紫様や旧親衛隊の人達よりも強い、誰も勝てないっていう人も居るって聞いたことある。だけどそうなるにつれて私、一人で稽古することが多くなっていって…誰かと立ち会いたいって思っても、立ち合ってくれる人がだんだん居なくなっていって…」
只々見上げていた衛藤可奈美がこのようなことを思っているなど、歩には思いもよらぬことだった。親しい誰にも言葉にしたことが無い、ということも。
「強さなんて欲しく無かった。皆と立ち合いたかった。知らない誰かと立ち会いたかった。ただそれだけだった。なのに強くなったばっかりに、それが出来なくなったんだって思うと、ただただ嫌で…私が弱ければいいのにって、そんなことまで思って…」
「可奈美さん…」
「でも。聞いてたと思うけど、今の私は写シが張れない。刀使じゃあ無くなっちゃったんだ。今までずっと刀使が好きで、刀使の私が好きで、刀使の皆が好きで、だけど全部無くなっちゃって…それで思ったよ。歩ちゃんのような強さなら欲しいって。欲しい強さが見つかったって」
「強さ…って、そんなもの私の何処にも…」
「そんなことない。歩ちゃんは強くなった。私なんかよりずっと」
「…近衛隊だった時も敵わなかったし、可奈美さんの後輩にも敵わなかったし」
「だけど、御前試合に来た。まだ満足に歩けもしないないのに。五体満足でS装備まで付けて、それでも敵わなかった相手に挑むために」
「…それはだから、伝えたかっただけで。私は唯、可奈美さんから教えられた強さを、ちゃんと受け取ったよって。ううん、ちゃんと受け取ってるかな、かな。いやこう受け止めたけど本当はどうだったのかな、か」
「ねえだんだん自信なくなってない?」
「ホントだ」
二人の刀使は、ひとしきり笑い合う。
「不思議だね。歩ちゃんのこの強さ、私から受け取ったんだとしたら、もともと私の強さだったのかな」
「きっとそうですよ。だって私、可奈美さんにもらったもの、お返ししたかったんですから」
「私の中から、無くなっていた強さ…歩ちゃんが預かってくれてた強さか…」
それは一体どのようなものだろうか。
我が事ながら分からない。姿かたちはまだぼんやりしていて、名前なんて付けられそうにない。
分かっているのは只、確かにそこにあるということだけ。
(もっと、近づいてみたい)
不確かであっても、縋れそうな藁は、他に見えなかった。
それは一体何で、どんな姿をしていて、どういう名前なのか。
(もっと、近くへ…)
可奈美は、我が胸の前で、開いた右掌を拳へと掴む。
***
この時、病室の外に在ったのは安桜美炎と、さっきまで病室の中に居た歩の友達、田辺美弥のみである。
先ほどまで居た柳瀬舞衣と糸見沙耶香は居なくなってしまっていたから、本当に二人きりとなってしまっていた。美弥は相応の遣い手であり、時折御本家で顔を見ることがあったがそれだけで、言葉を交わしたことは無かった。
(ええと…)
こう見えて美炎は、それなりに物怖じする。
この田辺美弥が、友里歩と親しい間柄であることは間違いが無く、歩にいい印象を懐いていない己が、とんでもないことを口走るかも知れないと思うと何かを言い出すことが、美炎には出来ない。
「卑怯、だったでしょうか」
だから口火を切ったのは美弥だった。
美弥にしたって、美炎が可奈美と親しい間柄であることは想像が付いているだろう。これを言い出すには相当の勇気が必要な筈で、美弥が友達想いで勇敢な女のコなのは間違いなかった。
ちぃ姉――瀬戸内智恵を思い出す。
美炎も智恵の為なら、小さいころから勇敢になれた。智恵ならばどのように応えるだろうかと、美炎は思いを巡らす。賢い智恵の、一番の妹分らしくしないと。
「聞こえてたかー」
「そりゃ聞こえますよ。ていうか皆に聞こえてたと思いますよ」
「あはは。私声、でかいから」
自然かつ平静にやりとりできたと思う。
卑怯と思ったのは本当だから仕方ない。あれじゃあ可奈美は戦えない。可奈美は只立合いたいだけで、戦えそうもない相手に向かってこられては困惑しかなかったであろう。弱った相手に勝ち誇るなどという精神は可奈美からは最も遠いものだ。
「…まさか、こんなことに…まさか歩が勝っちゃうなんて」
「私だって、勝ったことなんてない可奈美にね」
「なんか、すみません」
「んーん。歩さんは凄いってことだよ。私がいっこも勝てたことない可奈美に勝った上に千鳥を取り上げるなんて凄い。凄い刀使だよ。そう思う。これから私がどんなに頑張ったって、それこそ卑怯なコトしたって、そんなこと絶対出来ないよ」
卑怯だと思ったのは本当だが、これも美炎の本音だ。
美炎は本当の気持ちを、美弥にぶつけることにしたのだ。他のやり方なんて知らないし、多分智恵もそうしたろうと思う。
「可奈美さんに勝って…千鳥を、取り上げた…」
「うん! だから凄い!」
明日の相手は可奈美ではなくなった。
代わる相手の友里歩も、恐らくもう一試合なんて無理だろう。明日はもう、試合が出来ないかもしれなかった。
(あー、憶えある、この気持ち)
小さいとき、季節外れの台風で運動会が中止になった時の、あの時の気持ちだ。
(人生初、御前試合準決勝進出かもしれないのに。決勝に行けるかもしれないのに)
(がっかりしてるんだな、私…)
気持ちが顔に出ませんように。
「有難うございます。歩に伝えます。きっと、励まされると思うから」
「こっちこそなんかごめんね。明日試合だからもう行く。可奈美を頼むね。歩さんに明日楽しみにしてるって伝えて」
「え? あ、ちょっ、美炎さん…」
ボロが出ないうちにと、美炎は足早に歩み去る。
今は、かっこいい先輩刀使で居たかった。可奈美の対戦相手に相応しい刀使だって思ってもらいたかった。
だから逃げ出したのだ。
(今夜はずっと可奈美の傍にいるつもりだったのに…)
美炎にとって、御前試合決勝とは衛藤可奈美だった。
刀使の誰もが一度は夢に思い描く年度首席代表刀使なんて二の次、三の次だった。
美炎の夢は、衛藤可奈美だったのである。
そしてそれはきっと、美炎だけではない。
(ねえ可奈美。気付いてるかな)
柳瀬舞衣も、十条姫和も、きっと他にもそう思っているコは沢山いるんだ。
可奈美はみんなの夢なんだよ。
だから、いつもの可奈美に戻って。無邪気で元気で、立ち合い大好きないつもの可奈美に。
***
木寅ミルヤは山城由衣らと共に、岩倉早苗の個室を訪れていた。
明日準々決勝を戦う八強の為に用意された、折神本邸の個室七つのうちの一つである。本来ならば各界のVIPが使用する部屋であるから、相応に豪華だった。ただ延べてある布団は一つのみであり、それが心細くもある。
「今しがた、明日の日程が送信されました。我々の試合は明日の二番目です、岩倉早苗」
「うん。確認したよ。わざわざ有難う」
第一試合 西、十条姫和。東、今際乱世。
第二試合、西、岩倉早苗。東、相楽瞑。
第三試合、西、柳瀬舞衣。東、糸見沙耶香。
第四試合、西、友里歩。東、安桜美炎。
明日執り行われるのは、この四試合であった。
明後日には第一試合の勝者と第二試合の勝者、第三試合の勝者と第四試合の勝者それぞれが準決勝を競うこととなる。
「しかし最悪、執り行われる試合は無いでしょう。第一試合、第四試合と同様に」
第一試合は、そもそも馘が現れるかどうか分からない。
第二試合は、馘が現れなければ、早苗が写シが張れず、よって執り行われない。
第四試合は、安桜美炎が不戦勝で準決勝進出となる可能性が高い。
そうなると確たる執行が見込まれるのは、第三試合のみだ。
もし早苗が不戦敗となれば、準決勝で姫和と相対するのは去年と同じ相楽瞑、ということになる。その相楽瞑とは、去年とは何もかもが異なる相楽瞑なのだが。
「木寅さんも山城さんも、瞑さんの味方をするんだね」
相楽さん、では相楽結月学長と紛らわしい為、瞑さん、と早苗は、対戦相手のことを呼んだ。
「その通りです。ですが貴方と敵対するものではありません、岩倉早苗」
「私の対戦相手の瞑さんの味方が、私の敵じゃない?」
「そうですが、異なります。我々の目的は冥加刀使の装備維持。御前試合でより多く勝利すれば冥加刀使兵装は有用と判断され易くなるでしょう」
「冥加刀使が今の方針通り全部居なくなっちゃったら、瞑さんは多分、もう居なくなっちゃう。それだけじゃなくて、瞑さんと身体をシェアしてる私たちの仲間の居場所も無くなる」
山城由依の言う仲間、とは鈴本葉菜のことであろう。
S装備に瞑が宿る以上、それが廃棄と決すれば瞑の命運は尽きる。そしてそれは葉菜の本当の敗北でもあるということか。
「そっか。鈴本さんは、瞑さんを救うために戦っているんだね。そしてそれは、貴方達二人も」
そして瞑を救うことこそは、葉菜を救うことになる。
「…敵の私のところに、どうして来たのって聞いていい?」
「手段を選べぬ理由がある、ということです。貴方には敗北してもらいたい。私たちは貴方を揺さぶりに来たのです。ですが…」
「私たちの事情を知っても、例え葉菜や瞑さんが犠牲になるとしても、早苗さんは突き進む。その理由があるんですよね」
「それは…」
軽々に答えていいものか。
早苗は言葉を濁す。向こうは事情をぶっちゃけてくれているのに、こちらが何もお出ししないというのは如何なものか。
話さなければならないのだろうか。
十条姫和の姿が浮かぶ。
後ろ姿だった。その名を叫ぶと、後ろ姿の姫和は声が聞こえたのか、こちらを振り返り…
「…それは」
「あー、皆まで言うな! この山城由衣、早苗さんの今のお顔で大満足ですので!」
「な、何が?」
咄嗟に早苗は、両の掌で我が両頬を覆う。
(私今どんな顔してたの!?)
由依が我が顔の何に満足したと言うのか、早苗には全く理解が出来ない。
「コホン。話が横道にそれましたね。鈴本葉菜と相楽瞑の件は、ここを訪れた理由の半分です。残る理由はこれです」
「あ、こら! 引っ張んな! 制服伸びるだろ高えんだぞ!」
ドアの外に居たと思われる七之里呼吹が、引っ張り込まれてくる。
「七之里さん?」
「あー、なんか悪い。浅かったみてえだな」
七之里呼吹が現れるとは、岩倉早苗には意外だった。しかも謝罪のような言葉を口にしている。
言うまでも無く呼吹は初日第六戦で直接馘と対峙した刀使であり、限りなく相打ちに近い形ながら準々決勝進出を逃している。
もし呼吹がこの一戦で馘を仕留めていたなら、早苗の写シは回復していた筈で、「浅かった」という言葉からも、このことを早苗に詫びているのだろう。
「馘は想像以上だった。こんなの誰の想定にもないよ。一枚上だったって思うしかない」
「明日奴が現れたら後ろからでもぶっ刺して写シを取り返してやってもいいぜ。こう見えても日ごろの素行とか言動から、やりかねねーって納得される自信あるっつーか」
「それはちょっと、止めて欲しいかな」
御前試合自体中止になりかねない事態は避けてもらいたいと思う。
馘が現れさえしたなら、試合は行われる。そうなれば、きっと。
(唯一つの太刀)
そう言っていた。あの技ならば馘の一指の太刀など敵ではないだろう。
一年工夫に工夫を重ね、やっと編み出した一つの太刀の破法。駆け去る十条姫和の肩を掴んで止める、たった一つの方法。
だけど伸ばした手はもう届かない。
「…そんなことしなくても、今の十条さんなら」
私の一指の太刀なんて、敵じゃあないんだ。
「そっか」
呼吹は多くを口にしなかった。
早苗の心中の錯綜を察したからだろう。
荒魂愛を排除してしまえば、七之里呼吹は常識人であるとは、彼女のあらゆる交友層からの一致した見解である。ミルヤや由依も同様に見ているだろう。
「じゃ、私らは行くぜ。こっちの事情のことは忘れろ。あんたはあんたの事情の為によろしくやってくれ。十条姫和が私の分も上手くやってくれることを祈ってる」
「さあ行きますよ山城由衣。何時までそこで悶えてるんですか」
「あー放して。放してー」
三名の刀使が部屋を辞し、早苗は居慣れぬ部屋に一人、残される。
(山城さん、木寅さん、七之里さん…皆、来てくれて有難う)
だいぶ心が軽くなった気がする。
他人に頭うぃ下げるイメージが無い呼吹のこの行動は意外だったし、ミルヤにしても、言い方は大分あれだが、自陣の事情を話してくれたのだ。
ことに山城由衣は凄いと早苗は思う。早苗が置かれたこのような状況であったとしても、何故か頬が緩んでしまうのだ。
(どうやったらこんな凄いこと出来るんだろう。今度山城さんに、教えてもらわなきゃ)
それはさておき。
早苗を気にかけているのは由依たちだけではない。携帯端末には事情を聞いた友達から大量のメッセが送られてきており、返信に追われることとなりそうだ。皆等しく、早苗にとって大切な人たちである。
だけどどうしてもその中から、ただ一人の名を探し求めてしまう早苗が居る。
(いつも私のことはほったらかし)
(ほんとうに、いつも)
十条姫和が今、誰の傍に居るのか、想像出来てしまう。早苗は、写シが張れなくなってしまっているのに。
(…私が、こんなに欲深だったなんて)
覚悟していた筈だ。思い出の一つになれればそれでいい。一度でも振り向いてくれたらいい。一瞬でもその瞳に我が身を写してくれればいい。
その先の事など難しくて、考えられずにいた。
だからそこまでで良かった。考えても分からない、その先にもまだ続いている道のことを、考えないようにしていたのだ。
(こんなにぶきっちょな女の子だったかな、私…)
衛藤可奈美の姿を見た最後は、敗退の瞬間だった。
衛藤可奈美が、この御前試合で立ち塞がることはない筈だった。故に戦うことはない。優劣が付くことはない。賢い早苗には分かっていることだ。
そうであっても。
(身の程知らずなのかな。私…)
超えたいのだ。衛藤可奈美を。
超える、為には。
早苗は、千住院力王を我が手に掴む。