【1】
次に士郎が目を覚ました時、最初に目に映ったのは見知らぬ天井だった。視線を動かして目に映るのはオレンジ色に染まった空模様。
視線を逆の方へと動かすと、目尻に涙を浮かべて士郎の手を握った友奈と美森の姿と、その二人の背後には、部屋から出ようとしている風と樹の姿があった。
「し、シロー先輩が生き返った!」
「死んでないよ、友奈ちゃん……」
「何!?士郎が目を覚ましたの!?樹!医者呼んで来なさい!」
「うん、お姉ちゃん!」
一気に騒々しくなり、意識がはっきりとしていくと、士郎は入院着を着ている事に気付き理解した。此処は病院だという事に。
「うわぁぁぁん!ずっとぉ目を覚まさないから心配しましたぁ!良かっだでずぅ」
「友奈ちゃん。大袈裟だよ……まだ数時間しか経ってないのに……あれ?目から雫が……」
「本当に心配させて!無理しないって約束したじゃない!士郎の嘘吐き!唐変木!ブラウニー!副部長!」
「先生連れて来たよ!」
それから士郎はあの戦いが終わった後、気を失ったままの士郎は病院に搬送された事。病院に着いた頃には士郎の傷は勇者服による回復機能によって癒え、後は目を覚ますのを待つだけの状態だった事。風と樹が売店に食べ物や飲み物を買いに行こうと、病室を出ようとした時に士郎が目覚めた事を、医者による検査が終わった後に聞いた。
そして説明を受けた後も、士郎は勇者部一同に面会時間ギリギリまで怒られ、今度からは独断専行しない事、無理をしない事を約束させられた。
【2】
次の日の放課後。
勇者部の部室には友奈、美森、風、樹と昼頃に退院して午後から学校に登校してきた士郎が集まっていた。
それだけなら、何時も通りの部室の光景なのだが、今日は何時もと違い、四枚の羽根を生やした両手に乗っかりそうな小さなピンクの牛、目と手が付いた卵、水色の犬、緑の毛玉が部室の中を飛び回っていた。
その部室を飛び回っている者達の正体は精霊であり、風曰く、勇者をサポートしたり、時には致命傷になり得る攻撃からバリアを張って守る役割を担っているそうだ。
「へぇ、それが精霊って奴なのか」
「そうです。名前は牛鬼って言うんです」
「懐いてるんですね」
「うん。ビーフジャーキーが好きなんだ」
「「牛なのに!?」」
ギョッと目を見開く士郎と樹。
その証拠とばかりに友奈がビーフジャーキーを取り出して、ピンクの牛改め、牛鬼の口元に近付けると、牛鬼は何の抵抗も無くパクリとビーフジャーキーを食べた。更に目を見開いた士郎と樹。
「そう言えば、
「ん、ああ、精霊リストってファイルを開いて確認してみたけど、登録された精霊は居なかったな」
「なんででしょうねぇ?」
「さぁ?そう言えば、美森には他にも精霊が居るんだよな?」
「え?あ、はい」
士郎の問いに、今まで会話に入らず、何か考え事をしていた美森は慌ててスマホを操作して、目と手が付いた卵精霊以外にも、目隠しをした狸と青い炎の精霊を呼び出した。
「シロー先輩の精霊ゼロだったり、東郷さんの精霊が三体も居たりするのは何でだろう?」
「大赦のミスですかね?」
「どうだろうな」
士郎がそう呟いた直後だった。
風がずっと黒板に何かを書き続けていた作業を終え、パンパンと手に着いたチョークの粉を落としたのは。
「それじゃ、早速だけと、昨日の事を色々説明していくわね」
それから風の口から語られたのは、神樹のお告げにより、壁の外からバーテックスが全部で十二体攻めて来る事。
目的は神樹様の破壊で、過去にも何度かの襲撃が発生し、その時はダメージを与えて追い返すのが精一杯だった事。
そんなバーテックスに対抗する為大赦が開発したのが、勇者システムだという事。
樹海がダメージを受けると、現実世界にも何かしらの悪影響を及ぼす事。
そうならない為に、勇者部が頑張らなければならない事だった。
一通りの説明を聞き終えた後、士郎が尋ねた。
「その勇者部も、風が意図的に集めた面子なんだな」
士郎の問いに、風は頷いた。
「うん……適正値が高い人は分かってたから。私は大赦から使命を受けて、この地区で貴方達を集めた」
「知らなかった。ずっと一緒だったのに」
樹が信じられないと物語った表情で呟いた。
風は一言「ごめんね」と樹に謝った。
「次の敵は何時来るんですか?」
「分からない。一週間後か、一ヶ月後か、一応、バーテックスは二〇日周期で現れるとされているから、そんなに遠くはないとわ思うけど……」
風がそう答えると、ずっと黙っていた美森が口を開いた。
「……なんで、なんでもっと早く言ってくれなかったんですか?みんな死ぬかもしれなかったのに、現に士郎先輩も入院する程の無茶をしたのに」
「…ごめん。でも勇者の適性が高くても、敵が来るまで分からなかったの。選ばれる確率よりも、選ばれない確率の方が高かったから」
申し訳なさそうに謝る風。
「そう言えば、さっきこの地区って言ってたな。俺達以外にも勇者候補は居るのか?」
「ええ、でも今は居たって言う方が正しいわ。もう私達が勇者として選ばれた訳だからね」
「こんな大事な事。もっと早くに言って欲しかった……そうすれば、私も……」
美森は最後にそう言い残すと、車椅子を操作して部室から出て行った。
【3】
美森を追って、士郎と友奈は部室から出て行った。
そして中庭を見渡せる廊下に佇んだ美森を発見した士郎は、美森に気付かれない様に背後から近付き、先程売店で購入した冷たいお茶を美森の頬に触れさせた。
「ひゃん!?」
小さな悲鳴をあげて、慌てて背後を振り向く美森。其処には悪戯が成功した事で笑った士郎と友奈が立っていた。
士郎はそのまま、美森の頬に触れさせたお茶を「ほら、俺の奢りだ」と言って美森の手に握らせた。
「そ、そんな。悪いです。理由だって無いし」
「あるだろう?さっき俺達の為に怒ってくれたじゃないか」
「そうだよ。ありがとね。東郷さん」
美森はパチパチと何度か瞬きをした後、両手で頬を抑えて言った。
「はぁ……なんだか、二人がとても眩しい」
「え?」
「なんでさ?」
「えっと……その……」
美森は少し言い淀んだ後に、自分の胸の内を明かし始めた。
「昨日、ずっとモヤモヤしてたんです。皆は変身したのに、私一人だけが変身出来なかった事に。このまま変身出来なかったら、私は勇者部の足手纏いになるって……」
「そんな事ないよ、東郷さん」
「友奈の言う通りだ。美森には美森にしか出来ない事がある。敵と戦えなくても、美森は勇者部の一員だ」
「……ありがとう。友奈ちゃん。先輩」
自分の事を肯定してくれた二人に、美森は照れ臭そうに礼を言った。
「さっき怒ったのは私の抱えたモヤモヤも原因で、それを風先輩に八つ当たりする様にぶつけてしまいました。私、悪い事言っちゃいました……」
「東郷さん……」
「美森……」
「皆は変身したのに……国が大変な時なのに……」
美森の声が徐々に低くなって行った。
「と、東郷さん?」
「わ、私は、勇者どころか、敵・前・逃・亡……」
「み、美森ぃ……お、落ち着けよ」
「先輩が勇者部を作ったのだって、国や大赦の命令でやった事なのに……はぁ、私はなんて事を……こうなったら、先輩に詫びる為に腹を……」
徐々に声を低くして、何処から取り出した分からないカッターを握り、腹部のボタンを外し始めた美森を士郎と友奈が慌てて止めた。
「落ち着け美森!本気じゃないたろうな!?なんか、美森が言うと本気でやりそうだから怖いんだけど!?」
「そうだよ!そうやって暗くなってちゃ駄目だよ東郷さん!そうだ!私のお気に入りを見せてあげる!」
そう叫んだ友奈はポケットから手帳を取り出し、パラパラとページを捲り、美森と士郎に見せた。
「ジャジャーン!きのこの押し花!凄いでしょ?他にもトウモロコシの奴も有るよ!」
「「………………」」
暫しの沈黙の後、二人は口を開いた。
「……うん。綺麗だね」
「そ、そうだな……うん。本当に……」
「気を遣わせてしまった!?シロー先輩には同情する様な目をされた!な、なら一発ギャグやります!」
次は一度二人に背中を見せ、頭の上に乗っかっている牛鬼を無理矢理胸に押し込んだ後、二人の方を振り向いて言った。
「見てみて!私のバスト、ホルスタイン!」
「「………………」」
再びの沈黙。
その後、士郎は頬を掻き。美森は顔を伏せて言った。
「す、凄いな……目のやり場困るけど」
「友奈ちゃん……私の為に、こんなネタを……ごめんなさい友奈ちゃん。ごめんなさい」
「逆効果!?」
アタフタとしながら、次はどうするかと慌てる友奈。
そんな友奈に、そして士郎に美森は尋ねた。
「二人は、二人は大事な事を隠されて怒ってない?」
「え?そりゃ、驚きはしたけど、私は嬉しいよ。だって、適性のお陰でみんなに出会えたんだから」
即答する友奈。
士郎は少し顎に手を当てて考えた後、答えた。
「俺もそうだな。少し驚きはしたけど、怒ったりはしてないな。友奈と同じ理由でもあるけど、もう一つ、もしかしたら、約束を果たせたかもしれないんだし」
「「約束?」」
声をハマらせる友奈と美森。
士郎はまあ、言っても良いかなと考え、二人に話した。
「ああ、こないだ夢を見てな。それがただの夢なのか、それとも俺が失った二年以上昔の記憶かは定かではないけど、俺はその夢の中で誰かと約束したんだ……
夢で交わした、約束の事を……
【4】
所変わって部室。
「えっと、説明足らなくてごめんねぇ♪……これだともっと怒っちゃうかな……」
其処では、風が水色の犬の様な精霊、犬神を美森に見立て、謝罪の練習をしていた。
「本っ当にごめんなさい!……低姿勢過ぎるよね。困った。どうやって仲直りすれば……樹ぃ、占いの方はどう?」
「後、もう少し……」
「はぁ、どうしたものか……」
と風がぼやくのと同時に、風のスマホからメールの着信を知らせる音が鳴った。
気怠るそうにメールを確認する風。その件名にはこう書かれていた。
【衛宮士郎の精霊について】
風は直ぐに真剣な表情になり、メールを開く。
【昨晩送られた、衛宮士郎の精霊が存在しない件について。衛宮士郎の使用している勇者アプリは貴方方、正規の勇者が使用しているアプリとは少し異なるものであり、衛宮士郎に精霊が居ないのは、不具合ではなく。衛宮士郎が使用する勇者アプリの正規の仕様である】
昨日、士郎に精霊が居ない事に気付き、アプリの不具合だと考えた風は大赦にメールを送った。そしてその返答がこれだった。
「……どういう事よ、正規の仕様って……つまり、士郎は精霊バリア無しで戦わなくちゃ行けないって訳?」
もしそうなら、士郎が戦う危険度は自分達の比じゃない。怪我をする危険どころか、最悪、一瞬の油断で死ぬ危険だってある。
(急いで伝えなきゃ)
風は士郎を探しに部室を出ようとしたその瞬間、風と樹のスマホからアラームが鳴り響いた。
そして、恐る恐る風がスマホを見ると、其処には樹海化警報と書かれた文字が表示されていた。
尚、ゲームなら美森が腹を切ろうとした時に「慌てて止める」と「冗談だろうと見守る」の選択肢が現れ、後者を選べば美森は本当に腹を切ろうとして、精霊に止められた模様。
そして、腹切りを止められなかった事で士郎と友奈に対する信頼度が低下し、この後の展開で美森が勇者になる為の勇気が足りず、勇者に成れない事で心を病む。
そうなると、美森は自殺を図る様になり、その度に精霊に止められる。大赦はもう、美森は使えないと考え、勇者アプリを一方的にアンインストールして、美森は何時も通り、精霊が止まるだろうと考えて自殺を図り、本当に死んでしまうバットエンドルートが存在するとか、しないとか。
……どうやら自分は、殴り書きで書いておきながら、とんでもない番外編プロットを書いてしまった模様。需要があれば書くかも?
あ、何処ぞの愉悦神父や毒舌シスターなら需要あるかも……
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