【5】
昨日の今日で再び、樹海化世界に巻き込まれた士郎達は、最初は士郎、友奈、美森のチームと風、樹のチームに分かれていたが素早く合流し、襲来したバーテックスを眺めていた。
「まさかの連日……しかも、一気に三体と来たか……」
士郎達の目に映るのは、上下に二つの口を持った細長いバーテックス。板の様な物を回転させるバーテックス。針付きの長い尻尾を持った黄色のバーテックスの三体。
「士郎。アンタは病み上がりなんだから、戦いに参加せず東郷の護衛に徹しなさい……って言いたかったんだけどねぇ……」
風は歯切れが悪い様子で、士郎を見た。
「昨日の様に敵が一体なら兎も角、だろ?」
「ええ、そうよ。不本意だけど、東郷を守りつつ、遠距離からの援護に徹して頂戴」
士郎の言葉に、風は苦虫を噛み潰したような表情をしながら頷いて、そう答えた。
「了解したよ。部長」
「いい?あくまでも遠距離からの援護だからね!決して前に出ない事!アンタは私達と違って精霊が居ないんだから!精霊が居ないって事は、つまり私達と違って、士郎には精霊バリアが発動しないって事!昨日の様な無茶はしないで、破ったら退部よ!退部!」
風は昨日、知らず知らずの内に死に掛けた士郎に、釘を刺した。
「ああ、肝に命じとくよ」
士郎のその言葉を信じて、気持ちを切り替えて風は言った。
「そんじゃ、一丁やりますか!行くわよ、樹、友奈!」
風の言葉に、元気よく返事を返す樹と友奈。
そして、四人は勇者アプリを開き、画面をタップ、其々色取り取りの花吹雪に包まれ、勇者へと変身した。
変身した風と樹は直ぐにバーテックスの方は跳んで行ったが、友奈は一度、美森の元へ駆け寄った。
「それじゃ、行ってくるね東郷さん」
「ま、待って!」
先行した風と樹に続こうとする友奈を、呼び止めた美森。
「わ、私も……」
一緒に戦う。美森は友奈にそう言おうとしたが、昨日の戦いを思い出し、恐怖で震え、言葉に出来なかった。
そんな美森を安心させようと、友奈と士郎はそっと美森の手に握る。
「私は大丈夫だよ、東郷さん。それにシロー先輩も着いてる」
「友奈の言う通りだ。美森は俺が守る」
二人の言葉を聞いて、美森の恐怖で強張った体が解れた。
「友奈も背後の事は気にせず、存分に暴れて来い」
「はい!じゃ、行ってくるね東郷さん」
友奈はそう言い残すと、風と樹を追って行った。
【6】
それから数分後。
友奈、風、樹の三人は板を回転させたバーテックスと針付きの尻尾を持ったバーテックスを囲んでいた。
「みんな、位置に着いたわね?」
『うん』
『はい』
「なら良し。遠くの奴は放っておいて、今はこの二体を倒すわよ」
そう言って通話を切ると、風は一瞬遠くに離れた口を二つ持ったバーテックスを見る。
「何故かあいつだけが離れてるのか気になるけど、今はこの二体を倒すのが先決!」
風がそう叫んで、バーテックスに斬りかかろうとした直後だった。口を二つ持ったバーテックスの上の口が開き、巨大な矢を風目掛けて発射したのは。
「やば!?」
風は咄嗟に自分の身の丈よりある巨剣を盾にするが、その行為は無駄な行為に終わった。
バーテックスの矢が風に届く前に、空中で爆散したからだ。
「何が!?」
最初は何が起こったのが、理解出来なかった風だったが、同じ様にバーテックスから一度、二度と放たれ、矢が最初と同じ様に、風に命中する前に空中で爆散し、バーテックスの矢が風に届く事は一度もなかった。
そして、これだけ同じ事が続けば、風も次第に何が起こったのか理解していく。
「まさか!」
風が士郎が居る方角を見ると、其処には弓を構え、矢を放った士郎の姿を確認した。
そして今、士郎の放った矢が、バーテックスから放たれた矢を撃ち落とす為に放たれた物だと気付いたのは、風が背後から爆発音と爆風を受けた後だった。
「……士郎を戦わせるのは不本意だけど、あの矢を放つバーテックスは士郎に任せておけば大丈夫ね。樹!友奈!私達はさっさとこの二体を……」
と、指示を出そうとした時だった。
矢を放っていたバーテックスは、この攻撃は無意味だと理解したのか上の口を閉じ、今度は下の口を開き、無数の矢を吐き出したのは。
「いっ、一杯来たぁぁぁぁ!」
樹が叫んだ。
先程の大きな矢ではないが、小さい矢が十や二十、いや、数百や千単位で放たれた。
「……流石に、これは無理だな」
遠くで矢を迎撃していた士郎は、そう呟いた。
「こんなの反則だよぉ〜」
「正しく、槍の雨ね」
降り注ぐ
そんな
すると、矢を放つバーテックスは二人を狙うのを中断し、別の方向へと矢を放った。
だがそれは友奈に向けてじゃなく、板を回転させるバーテックスに向けてだった。
「え?仲間割れ?」
訳の分からない行動に戸惑い、そう呟いた友奈。
だが、直後に自分の考えは間違いだったと、その身を以て知る事になる。
板を回転させていたバーテックスが、板を回転させるのを止める。すると矢を放つバーテックスから放たれた矢を板が反射して、バーテックスが放った矢は友奈の背後から襲って来た。
「友奈さん!」
「友奈!背後よ!避けなさい!!」
友奈に向かって叫ぶ姉妹。
「あわわわわ!?」
姉妹の言葉に、友奈は慌てて背後を振り向き、襲ってくる無数の矢に気付くと、手足を動かして、矢を弾いた……が、その物量には敵わず、対処しきれなかった矢が友奈を襲い、精霊バリアが発動するが勢いに押され、地面に叩きつけられた。
「友奈!」
「友奈さん!」
姉妹は友奈を心配して再び叫ぶが、友奈を襲う攻撃は未だ続く。
今度は針を持ったバーテックスが、友奈の胴を串刺しにすべく尻尾を振るう。本来なら友奈は串刺しにされ、即死だっただろうが、牛鬼が展開した精霊バリアによって友奈は串刺しにならずに済んだ。
だが、友奈はその攻撃で空高く舞い上がり、バーテックスの尻尾を転げ落ちると、今度は尻尾の側面で叩かれ、友奈は打球の如く吹き飛んだ。
「友奈ぁぁぁ!」
幸いにも、友奈が飛ばされたのが士郎と美森の居る方角だったので、友奈が地面に叩きつけられる前に、士郎が友奈の落下地点に先回りして受け止めた。
「おい、友奈!しっかりしろ!」
士郎の腕の中で気を失った友奈。
士郎は友奈の脈を確かめようと、首筋に手を当てようとしたが、それをする暇は無かった。針付きの尻尾が士郎達を襲って来たからである。
尻尾に気付いた士郎は、咄嗟に攻撃を回避しようとしたが、態勢を崩しながら友奈を受け止め、更に友奈を抱いている今の士郎は、咄嗟に俊敏な動きで回避する事が出来る訳もなく、バーテックスの針が士郎の左の太ももを掠った……いや、削ったという表現が適切かもしれない。
「があ!」
太ももから大量の血を流しながら、地に崩れ落ちる士郎。そんな士郎に構わず、針付きの尻尾は士郎達を襲う。
「ろ、
咄嗟に展開した五枚の花が、バキンと嫌な音を立てながらも尻尾を受け止める。
だが、その後もバーテックスは何度も何度も、尻尾を打ち付けて、士郎が咲かせた花の盾にひびを入れていく。
「くっ、長くは持たないか……」
一度、二度、三度と時には尻尾に着いた針で突き、時には尻尾の面で士郎達を押し潰さんと尻尾を振り下ろすバーテックス。その度に花の盾に入ったひびが広がっていく。
「止めろ……」
その様子を遠くから見ていた美森は、低いトーンで呟いた。
「止めろ……」
やがて、花の盾が一枚、砕け散った。
バーテックスは針で突くより、面で潰した方が効率的だと気付いたのか、針で突くのを止め、尻尾の側面で押し潰しにかかった。
「止めろ、止めろ」
そんな事を呟いてどうなる?心の中で美森は自分に問い掛ける。
「止めろ、止めろ、止めろ」
答えは決まっている。どうにもならない。
このまま放っておいたらどうなる?一番の親友である友奈ちゃんは……
私の大切な人達が、このまま嬲り殺されるかもしれないのに、私はただ見ているだけか?
「友奈ちゃんに……」
否、東郷美森はそんな弱い人間じゃない!
「私の
美森が、そう結論を出してからは早かった。
美森は
勇者アプリを通さず、自力で勇者と成った。
それは友を思う心か、恋する乙女の心か、或いはその両方によって成された奇跡かは誰にも分からない。
だが、東郷美森は、危機に瀕した結城友奈と、衛宮士郎を救い出す為に、その奇跡を起こした。
「綺麗……」
士郎とバーテックスとの攻防の中、意識が戻った友奈は、変身した美森を見てそう呟いた。
(何でだろう……変身したら不思議と落ち着いた。もう、この敵に恐怖は感じない……寧ろ、憎い!)
美森はライフルを取り出し、バーテックスを
「二人から離れろ!」
本来は超遠距離からの狙撃に使うライフル。それを至近距離から放たれれば、その威力は強大。
バーテックスの尻尾に命中すると、尻尾はくの字に曲がって吹き飛び、バーテックスの尻尾を半分にした。
「もう二人には、指一本触れさせない!」
「た、助かったぞ、美森」
「す、凄いよ東郷さん!」
何とか危機を乗り切った事に安堵する士郎と、覚醒した美森に興奮する友奈。
「よし、私も!」
友奈は自分の頬をパンパンと叩き、バーテックスに詰め寄ると、半分になった尻尾をガシッと掴み持ち上げ、円周に回し始めた。
「ゆ、友奈ちゃん?」
「ゆ、友奈?」
友奈の行動に、目を見開く美森と士郎。
そのまま友奈はハンマー投げの様に回転力を加えていくと。
「さっきのお返しだぁぁぁぁ!」
矢を放つバーテックスと連携を取って、風と樹を追い詰めている板を操るバーテックスの方向へと、
「「えぇぇぇ……」」
更に目を見開く、士郎と美森。
「行こう!東郷さん!」
「う、うん」
「あ、シロー先輩は其処でじっとしてて下さいね!足怪我してるんですから!」
「あ、ああ」
風と樹の方へ去って行く、友奈と美森の後ろ姿を見つめる士郎。
「俺も、足を怪我しなければ、着いて行ったんだけどなぁ……」
そうぼやいて、士郎は気付いた。
傷を負った筈の足が、もう
つくづく思うけど、もし精霊バリアが無ければ、この戦いで勇者部全員死んでたよね?
樹に至っては、ヴァルゴ戦で移動の最中に転落死してただろうし……
精霊バリアってマジ便利!ランサーにも実装してあげないと!
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