【1】
士郎達五人が勇者となって、一ヶ月半が経過した。
初めて勇者となった次の日には、三体同時にバーテックスが現れたのに対して、この一ヶ月半は不気味な程バーテックスは現れなかったが今日、一ヶ月半振りにバーテックスが現れた。
勇者部一同は既に勇者に変身を終えており、戦いを始めようとしたその瞬間、バーテックスに複数の剣が突き刺さり、爆発した。
「え、なに!?東郷さん!?それともシロー先輩!?」
「私じゃない」
「俺でもないぞ」
じゃあ誰?と再びバーテックスの方を向く友奈。
すると、バーテックスより上から降ってくる少女の影が目に入った。
「ちょろい、ちょろい。思い知れ!私の力」
少女は再び剣を投擲し、バーテックスに突き刺さると爆発した。
「あの子、一人でやるつもりか?」
更に少女は地面に剣を投擲、地面に突き刺さると封印の儀が始まり、バーテックスの体から御魂が現れると、御魂から紫色のガスが噴出された。
「やばい!」
士郎はそう叫ぶと、ガスの届かない所まで跳んで避難した。友奈達は士郎の様に避難せず、その場に留まりガスを受けたが、精霊がバリアが発動して、ガスから友奈達の身を守っていた。
「精霊がバリアを張るって事は、致命傷になり得る攻撃って事だよな。なら早々に決着を着ける!
士郎は黒い弓と捻れた剣を投影し、剣を弓に番え弓を引いた。
「
青い魔力の風が周囲のガスを吹き飛ばし、士郎は剣から手を離す。
「
士郎の放ったカラドボルグは、樹海に漂ったガスを螺旋状に吹き飛ばしながら御魂に命中し、壊れた幻想を使う事なく、そのまま螺旋状に御魂を破壊した。
光と消える御魂。砂と化すバーテックス。先程までバーテックスと戦っていた少女は、最初何が起こったのか分からず、茫然としていたが、矢を放った士郎を目にすると、顔を怒りに歪ませて、士郎の方へと跳んだ。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと!アンタ何手柄を横取りしてんのよ!しかも、私が華麗なる初陣を華麗なる勝利で収めようって時に!」
激怒しながら士郎に近付く少女に、士郎は謝罪した。
「えっと、すまないな。あのガスを早くどうにかしないとって思ったからな。俺、精霊バリアって奴が無いから、あのガスを直接受ける訳に行かなかったし」
士郎の言葉を聞いて、少女は鼻で笑った。
「はん!成る程ね。アンタが歴代最強とか言われてる割に、精霊バリアの無い成り損ないの半端勇者ね。大赦からアンタを最優先で守る事を命じられてるわ。これからは余計な事はせずに、後方で指を咥えて大人しくしてる事ね。この私の華麗なる戦い振りを見ながら」
「成り損ないって……まあ、間違ってはないのか?」
「えっと……誰?」
士郎の元に合流した勇者部。友奈が一番に口を開いた。
「全く。ま、この四人と比べたら、まだアンタはまともな顔付きしてるわね」
友奈達四人と士郎の顔を見比べて、少女はそう言った。
「私は三好夏凛。大赦から派遣された勇者よ」
「えっと、つまりお姉ちゃんと同じって事?」
「そこの黄色いのと一緒にしないで」
「黄色いのって……」
「私は幼少期から勇者になる為に鍛え上げられた完成型勇者なのよ!つまり、貴方達は用済み。はい、お疲れ様でした」
少女、改め夏凛の言葉に暫し沈黙する勇者部。やがて花凛の言葉を理解して驚愕した。
「「「「「えぇぇぇぇ!?」」」」」
【2】
翌日。この日起こった出来事を簡潔にまとめると以下の通りである。
夏凛が友奈と美森と同じクラスに編入した。夏凛から自分は幼少期から勇者となる特訓を長年受けてきた、完成型勇者であると説明を受けた。勇者部の助っ人として派遣され、士郎達と共に行動する為、勇者部に入部した。
そんな今日起こった事を振り返りながら、士郎は日課の鍛錬を始めた。
「
この鍛錬を何時から始めたのか、士郎は覚えていない。唯一覚えているのはこの世界には魔術という物が存在し、誰かから魔術の練習法を学んだという事だけ。
士郎はこの鍛錬が命の危険を伴う、危険な鍛錬だとは知らない。けれど、失敗すれば怪我をする。酷ければ軽傷じゃ済まない場合だって存在するのを知っている。
それでも尚、この鍛錬を続けるのはこの鍛錬が失った記憶を取り戻す切っ掛けに成ると信じているからである。
「基本骨子ーー変更」
何時もの様に、パイプをより強固な物へとする鍛錬。
普段なら、この段階で九割型失敗するのだが。
「基本材質補強ーー完了」
士郎は
「これで、一ヶ月半連続か……」
士郎は一ヶ月半前、つまり勇者となってから、この鍛錬を
勇者になる前までは、十回やって、九回以上失敗するのが当たり前だった。
だが、勇者になってからは十回やって、十回成功する様になった。更に……
「
何時もと同じ詠唱。けれど、その意味は違う。
士郎の何も無かった筈の右手には、詠唱を唱えた途端、先程強化したパイプと同じ物が握られていた。
士郎はパイプを地面に置くと、両手を開いて再び詠唱する。
「
今度は勇者となった時に握っていた、白い剣と黒い剣……干将と莫耶を投影した。
「構造は勇者の時と比べて、大分荒いけど……それでもあの剣だ」
投影魔術。簡単に言えば、目にした物を複製する魔術。士郎が使えるもう一つの魔術であり、士郎はどちらかと言えば……いや、どちらかと言わずとも強化魔術よりも、この投影魔術が得意である。
士郎は勇者となって以降、強化魔術以外にも、この投影魔術の練度も上がっている。
魔術以外で言えば、料理の腕や弓の腕など、色々な練度が上がっている。
「まあ、今の所は体に害は無いし、別に良いか」
士郎は、この不思議な現象の事を考えるのを止め、今日の鍛錬を終えた。
【3】
次の日は部室で夏凛が、これまでのバーテックスは二十日置きの周期的に現れる物だと予測されていたが、一ヶ月半前には連日での襲来。次は一ヶ月半も時間を置いての襲来が発生し、この理論は破滅した事。
勇者は、戦闘経験を積む事でレベルが上がり、より強くなる満開の存在が説明され、勇者部も基礎戦闘能力を上げる為、朝練をする様に提案されるが、朝起きられないメンバーがいる事からボツ案になったり、その後は日曜日に児童館で手伝う子供会のレクリエーションの話をしたり、色々な事があった。
【4】
六月十一日。この日は士郎の家に夏凛を除く勇者部のメンバーが集合していた。
「先輩。スポンジはこんな感じで良いと思いますか?」
「うん?ああ、良いと思うぞ」
「士郎。生クリームは、こんな感じでどうかしら?」
「うん?どれ……うん。悪くないけど、ちょっと泡だて過ぎたかな」
「あ、やっぱり?」
「まあ、これぐらいなら許容範囲だろ」
「うーん。飾り付けはこうが良いかな?樹ちゃん」
「そうですね。それに更にこうしたらどうですか?」
「おお!良いね」
士郎、美森、風は台所でケーキ作り、友奈と樹はテーブルである飾りを作っていた。
この場に夏凛が居ないのには、別に仲間外れにしようという訳ではなく、ちゃんとした理由が有る。
「ごめんね。いきなり家に上がり込んじゃって」
「気にするな。いきなり家に来て、誕生日ケーキ作れって言われた時は、流石に驚いたけど」
「友奈ちゃんが、明日夏凛ちゃんの誕生日って気付いたから」
そう明日、六月十二日は夏凛の誕生日である。そのサプライズケーキを作る為、今この場に夏凛は居ない。
「えへへ、入部届けに書かれた誕生日が今日だったから、誕生日会しないとって思って」
「ケーキはお店屋さんで買っても良いと思ったけど、どうせなら、みんなで作ろうって話になって」
成る程なと呟く士郎。
「夏凛ちゃん喜ぶかな?」
「ああ、きっと喜ぶさ」
その後も、士郎家でのケーキと飾り作りは続いた。
【5】
そして満を持して、翌日を迎えた勇者部だったが。肝心の夏凛が欠席した事により、誕生会は中止となった。
「あ〜あ。折角、児童館の人達に許可貰って、サプライズ企画してたってのに……」
前日の準備が無駄になった事を残念がる士郎。いや、士郎だけでなく、他のメンバーも同じ思いだった。
「夏凛ちゃん。どうしたんだろう?」
夏凛を心配する友奈。
「朝から、ずっと電話掛けてますけど、電源が入ってない様子ですね」
スマホを操作する樹。
「大赦から、緊急の指示が入ったとか?」
首を傾げる美森。その疑問に風が答える。
「それなら、私の方にも、何かしらの連絡が入ると思うんだけどね」
児童館でのレクリエーションを終えた四人は今、今日無断で欠席をした夏凛のマンションを訪れていた。
そして夏凛が住む部屋の前に到着すると、風がインターホンを押す。
ピンポーンとインターホンが鳴り、暫く経つが、反応は返って来ない。
「留守か?」
「留守は留守でも、居留守かもよ?」
そう呟いて、再びインターホンを鳴らす風。
数秒経っても反応は返って来ない。
「……やっぱり、留守じゃないか?」
「ええい!此処まで来て手ぶらで帰れるか!」
そう怒鳴り、インターホンを連打する風。
そして漸く、部屋の中からドタバタと音が聞こえ始めると、扉が勢い良く開いて、風の顔面に直撃した。
「がふっ」
よろけながら後退して顔を抑える風。扉の方を向くと其処には木刀を握った夏凛の姿があった。
「えっと……大丈夫?」
少し、申し訳なさそうに尋ねる夏凛。
風は若干涙目になりながら言った。
「アンタねぇ……何度も電話したのに、なんで電源入れてないのよ?」
「ご、ごめん。って、そんな事よりなに!」
「何じゃないだろ。みんな三好が来ないから、心配になって見舞いに来たんだよ」
「良かったぁ〜。別に体調が悪くて、寝込んだりしてた訳じゃないんだね」
安堵した様子で尋ねる友奈。
「え、ええ……アンタ達とは体の作りが違うからね」
「んじゃ、上がらせてもらうわよ」
復活した風はそう呟くと、家主である夏凛の返事を待たずに部屋に上がり込んだ。それに続く士郎、友奈、美森、樹の四人。
「ちょ!?何勝手に人ん家に上がり込んでんのよ!」
「殺風景な部屋だな」
「私の部屋なんだから、どうだっていいでしょう!」
夏凛の部屋を見渡して、呟く士郎。
「まあ、良いわ。座って座って!」
「何勝手に仕切ってんのよ!」
本来の家主である夏凛を差し置いて、家主の様に振る舞う風。
「これ凄い。プロのスポーツ選手が使ってる奴みたい」
「勝手に触るな!」
部屋に置いてあるスポーツ用品を、目を輝かせながら眺める樹。
「わあぁ……水しかない」
「本当だ。序でに言えば調理器具が殆ど無い」
「ゴミ袋の中は、コンビニ弁当やサプリばかり……」
「三好、お前……」
「勝手に開けないで!漁らないで!憐れまないで!」
冷蔵庫を勝手に開ける友奈。台所を探索する士郎。ゴミ袋の中身を確認する美森。三人は夏凛の方を見て、憐れんだ視線を向けた。
「やっぱり、持って来て正解だったわね」
「ああ、こんな事ならもっと持ってくるべきだったな」
今度は、テーブルに料理や飲み物を広げ始める風と士郎。
「なんなのよ……」
その様子を眺めて、沸々と込み上げてきた怒りが爆発する夏凛。
「なんなのよ!いきなり来て、上がり込んで、好き勝手して、なんなのよ!」
夏凛の言葉を聞いて、「あ、そうだった」とケーキの入った箱を取り出し、箱を開ける友奈。
「ハッピーバースデー。夏凛ちゃん」
友奈がそう言うと、夏凛に向けてクラッカーを鳴らす勇者部一同。
「おめでとう三好」
「おめでとう夏凛」
「おめでとう夏凛ちゃん」
「おめでとうございます。夏凛さん」
「……………え?」
次々と投げ掛けられた、祝辞に戸惑う夏凛。
「三好、今日誕生日だろ?」
「入部届に書いてるわよ」
夏凛の書いた入部届けを取り出し、夏凛に見せる風。
「友奈ちゃんが見付けたんだよね」
「あって思っちゃった」
「だったら、今日誕生日会しないとな。ケーキも料理も俺達で作ったんだ」
「歓迎会も一緒に出来ますしね」
「本当は、子供達と一緒に、児童館で出来たら良かったんだけど……」
「当の本人が欠席したからな、こうして態々家にまで押し掛けたって訳だ」
「本当だったら、児童館でケーキ食べて、先輩の家で本格的な料理を食べる予定だったんだけどね」
「アンタ惜しい事したわね。士郎の料理は出来立てが一番美味しいのに、ま、冷めても美味しいけど」
「特に最近は、更に腕が上達してますよね」
「本当、プロと同等レベルだよ!お店開けるよ!」
「あはは、俺もなんでだろうって思うんだけどな。ここ最近、勇者になってから調子が良いんだ」
勇者部一同の言葉に、漸く止まった思考が動き出す夏凛。
「……馬鹿、アホ」
「なによそれ」
「た、誕生会なんてやった事ないから……その、なんて言ったら良いのか……その……」
「分かんないのか?」
士郎の問いに、照れくさそうに頷く夏凛。
「へぇ、可愛い所もあるんだな、三好」
「か、可愛い!?」
士郎の言葉に、一気に顔を赤く染める夏凛。
その様子を眺めていた勇者部一同は、士郎をジト目で睨む。
「あ、出た。士郎のタラシ」
「天然ジゴロ」
士郎を罵倒する犬吠埼姉妹。
「なんでさ!?まあ、兎も角として、誕生日おめでとう。三好」
「あ、ありがとう」
それと悪かったわね。と続ける夏凛。
「何が?」
「……色々よ。最初に成り損ないって言った事とか、今まで辛く当たった事とか……」
「ああ、気にするなよ」
その後、夏凛が隠れて折り紙の練習をしてたのが発覚したり、友奈が夏凛のカレンダーに予定を書いたり、文化祭の出し物が演劇になったり、夏凛がSNSに参加したりと、楽しい時間は、あっと言う間に過ぎて行った。
大半の日常回をダイジェストで書いてしまったけど、今にして思えば二話に分けて、ちゃんと書けば良かったかなと後悔しているこの頃。
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十三の拘束解放の描写を……
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