【1】
キーンコーン、カーンコーンと放課後を知らせる鐘が鳴る。
「起立、礼、神樹様に拝、着席」
休日以外の毎日行なっている動作を終え、放課後を迎えた生徒達は各々、これから部活動に勤しむなり、帰宅するなりと、目的を持って流れる様に教室から出て行く。
その流れに士郎も乗っかろうと、教科書、ノート、筆記用具などを仕舞った鞄を持ち、教室を出ようとした頃、背後から声を掛けられた。
「衛宮」
立ち止まり、背後を振り向く士郎。其処には両手を合わせた二人組みの男子生徒が立っていた。
「日直の仕事代わってくれ!今日部活に遅れる訳には行かないんだ!」
「後は日記書いて、職員室に届けるだけだから」
「ん、ああ良いよ」
男子生徒の頼みを、士郎は考える動作も無く、引き受けた。
「おお、サンキュー」
「恩にきるぜ!」
そう言うと、二人組みは士郎に日記を渡し、教室からそそくさと出て行った。
「なっ、言ったろ?衛宮はどんな頼み事でも断らないって、お前も、これから面倒な事は衛宮に頼め」
「いや、でも悪いだろ」
「良いって良いって、面倒事は衛宮に頼めって諺があるくらいだぜ?」
廊下の外からそんな会話が聞こえて来たが、士郎は眉一つ動かさずSNSアプリを開くと、勇者部グループのチャットに【今日は少し遅れる】とメッセージを送り、日記を書き始めた。
【2】
それから、肩代わりした日直の仕事を終えた士郎は、何時もと大分遅れて部室に到着した。そして扉を開けると、既に集まっていた勇者部メンバーの視線が士郎に集中した。
「お、丁度良いところで来たわね士郎」
「ああ、遅れてすまない」
士郎は一言謝罪をして部室に入り、周囲を見渡した。何時もなら皆バラバラの位置で作業をするのだか、今日は皆黒板の前に集まっていた。
先ず樹が黒板を背にして椅子に座って、その横に風が立っち、二人を囲む形で友奈、美森、夏凛の三人が座っていた。
「今日の活動は、樹を歌のテストで合格させる事よ」
「どう言う事だ?別に樹、歌下手じゃないだろ」
「あはは、そうなんだけどね。人前で歌うと緊張して、上手く歌えないみたいなのよ」
士郎は成る程と納得しながら、側にあった椅子を移動させて、樹と風を囲む円に加わった。
「取り敢えず、歌声でアルファ波を出せれば、勝ったも同然ね」
「何によ」
「良い音楽や歌声という物は、大抵はアルファ波で説明が付くわ」
「本当ですか!?」
「アルファ波凄い!」
「んな訳あるか!」
美森達のやり取りに苦笑いを浮かべる士郎。そんな事出来るのは超能力者くらいだろうなと思いつつ呟いた。
「樹、一人で歌う分には上手いんだけどな」
「そう言えば、なんで先輩が樹ちゃんが歌上手いのを知ってるんですか?」
「そう言えばそうだね。樹ちゃん、カラオケでも歌わないのに」
「ん、ああその事か。去年のある期間から今年の三月くらいまで、訳あって風と樹の家に通う機会があったんだ。それで、樹が風呂で歌ってた歌声を聞く事が何度かあったからな」
「ええ!?アンタ達、そんな関係だったの!?」
夏凛は驚きのあまりに大声で叫んだ。友奈と美森も士郎の言葉に驚いており、樹は顔を真っ赤にして俯いていた。
「多分勘違いしてると思うから正しておくぞ。俺は別に、風と樹のどっちかと付き合ってたとか、そんなんじゃないからな」
「なーんだ。びっくりした」
「じゃあ、なんで風先輩達の家に通っていたんですか?」
美森の問いに、風が答える。
「まあ、隠す理由も無いしね。その期間中、士郎は私達の家で料理を教えてくれていたのよ」
「え?そうなんですか?」
「ああ、本当だ」
「ほら、友奈達には話した事あると思うけど、私達の両親って事故で死んじゃったじゃない。洗濯とかの仕方はスマホで検索してどうにかなったけど、料理はどうしてもねぇ、レシピ通りに作れなくて、最初の一ヶ月くらいはレトルト食品や外食が主だったのよ」
風の言葉に友奈、美森、夏凛は信じられなさそうな表情を浮かべて驚いた。
「まあ、それで色々あって、士郎に料理の伝授を頼んだのよ。はいこの話終わり。話を戻すわよ」
パンパンと手を叩いて、話題を戻す。
「話を聞く限り、樹ちゃんは人前で緊張するってだけなんだから、単純に緊張の問題なんじゃないかしら?」
「じゃあ、習うより慣れろだな」
【3】
それから、勇者部一同はカラオケMANEKIに訪れた。一番手は本日の主役である樹……ではなく、その姉の風が務め、いきなり九十二点を叩き出した。
それに続く様に友奈と夏凛がデュエットを歌い、同じく九十二点を叩き出した事で場は盛り上がった。
「夏凛ちゃん上手だね!」
「ふん、このくらい当然よ。どうよ風?」
「ぐぬぬ……やるわね。士郎、アンタも何か歌いなさい!私達より点数低かったら罰ゲームね」
「おいおい。この点数超えられる訳ないだろ……全く」
そう言って、風から強引にデンモクとマイクを手渡された士郎は渋々と、オススメ曲と書かれたコンテンツに載っていた曲を適当に選び、マイクの電源を入れた。
暫くして、テレビ画面に【
「指から溢れ落ちた輝きの中」
それから数分後、カラオケボックス内は沈黙に包まれていた。いや、スピーカーからはBGMが流れているから完全な沈黙ではないが、勇者部一同は目を見開いて言葉を失っていた。
「う、嘘……」
最初に言葉を発したのは風だった。
「わぁ……シロー先輩凄いですね」
「こ、こんなの、認められないわ……」
「なんか、先輩にピッタリな曲でしたね」
「あわわわ、こんな点数初めて見ました」
それから各々、言葉を発する勇者部一同。
そして沈黙の原因を作った本人と言えば。
「……えっと、俺もまさか、こんな点数取れるとは思わなかったぞ?」
頬を掻いて、点数が表示された画面を眺めていた。
その画面に表示された点数は一〇〇。感想欄には、素晴らしい歌声です。もしかして、プロの方ですか?と書かれていた。
その後、肝心な樹の歌は緊張でまともに歌えず、その次の美森の歌では夏凛を除く全員が立ち上がり、敬礼をしながら聞くなどの出来事があったが、このカラオケの本来の目的である、樹が緊張せずに歌えるという目的は果たせなかった。
【4】
その次の日。部室に来た士郎の目を引いたのは、机にずらりと並んだ多種多様なサプリメントやドリンクだった。
「えっと、これ、何だ?」
「見て分かんない?喉にいい食べ物とサプリよ」
「な、なんか沢山あるね」
「み、三好が持ってきたのか?」
「そうよ」
胸を張って答える夏凛。
その後、持って来た様々なサプリ、ドリンクの事を延々と語り出した。
「く、詳しい。夏凛ちゃんの意外な一面……じゃないわね。よくよく考えれば、部屋に行った時にサプリのゴミとかあったし」
「さ、流石ですね……うん、本当に」
「夏凛ちゃんは、健康食品が大好きなフレンズなんだね♪」
普段よりも活き活きとした夏凛に戸惑う美森と樹。友奈だけは、尊敬の眼差しで夏凛を見つめている。
「か、夏凛は健康の為なら死んでも良いって言いそうね」
「それ、矛盾してないか?」
顔を引攣らせながら呟く風。そんな風に突っ込みを入れる士郎だったが、何故だか心の底では否定出来なかった。
「さあ樹、これを全部飲むのよ。そうすればきっと歌が上手くなるわ」
「ぜ、全部ですか?」
「お、多過ぎじゃないかなぁ」
「流石に三好でも、全部は無理だろ?」
「無理ですって?良いわ衛宮。やってやろうじゃない!」
そう言うと、夏凛は多種多様のサプリをリスの様に頬を膨らませるまで口に含み、オリーブオイルで流し込んだ。
「ぷはぁ!どうよ!」
口の端しから溢れでたオリーブオイルを拭いながら、ドヤ顔を決める夏凛。だが、その顔は次第に青白く染まっていった。
「えっと……無理しないで良いぞ?」
士郎がそう言うと、夏凛は口を両手で押さえて部室から出て行った。
数分後、何食わぬ顔で部室に戻って来た夏凛は言った。
「ま、まぁ、樹はまだ初心者だし、サプリは一つか二つで十分よ」
「はぁ」
「サプリに初心者とか、上級者とか居るのか?」
「突っ込んだら負けですよ。士郎さん」
その後、夏凛の好意を無碍にする訳にも行かず、樹は夏凛が持って来たサプラを数種類摘み、歌を歌ってみるが、やはり駄目だった。
「喉って言うよりも、緊張の問題じゃないか?」
「それもそうね。今度はリラックス出来るサプリメントを持ってくるわ」
「結局サプリなんですね……」
そんなこんなで、一日が終わった。
夏凛を花凛と間違えてたから、花凛を夏凛に直すのが大変だ……もういっそ、本作では夏凛は花凛って改名したいくらいだけど、そうすると夏凛ファンが怒りそうだったから、頑張って残りの花凛を夏凛に直すぜ……
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十三の拘束解放の描写を……
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