【1】
この日、久し振りに樹海化に巻き込まれた勇者部一同は、バーテックスが現れた方向を見て唖然としていた。
「おい、これは何の冗談だ?残り七体。全部来てるんじゃないか?」
「来てるんじゃないか、じゃなくて来てるのよ。総攻撃……最悪なパターンね。やりがいあり過ぎて、サプリも増し増しだわ」
そう言って、ポケットから取り出したサプリメントを口に含む夏凛。
「程々にな」
「分かってるわよ。樹もどう?サプリ決めとく?」
「その表現はちょっと、遠慮しときます」
そう言って、サプリの入った容器を差し出す夏凛に、樹は苦笑いをしながら遠慮した。
「バーテックス、何で直ぐに攻めて来ないんだろう?」
「さあ?神樹様の加護が届かない壁の外に誘き出すのが目的なのかも」
「どの道、壁の外に出てはいけないって教えがあるから、私達は此処で待ち構えるしかないわ」
夏凛がそう言った後、偵察に向かっていた風が戻って来て言った。
「敵さん。壁ギリギリの位置から攻めて来るみたいよ」
「決戦だな。俺達も準備を始めるか」
そう言って、士郎は変身しようとしたが、不安そうな表情を浮かべる樹に気付き「不安か?」と声を掛けた。樹は小さく「……はい」と頷いた。
そんな樹に、友奈が励ますように声を掛けた。
「大丈夫だよ樹ちゃん。みんな居るんだから」
「友奈の言う通りよ、樹」
「樹ちゃん。勇気出して行こう」
「ふん、完成型勇者の私が付いてるのよ。何を不安がる必要があるんだか……」
友奈に続いて、樹を励ます風、美森、夏凛。
そして、樹の不安が和らいだ。そう感じた士郎は叫んだ。
「よし、勇者部一同、変身だ!」
「「「「はい!」」」」
「それ、私が言おうとした台詞!?」
士郎の号令に従い、各々は勇者アプリを開き変身を開始した。
赤、ピンク、青、緑、赤と色取り取りな花吹雪に包まれ、勇者に変身した。
「敵ながら圧巻ね」
「まあ、総力戦だからな」
「逆に言えば、こいつ等殲滅すれば戦いは終わりね」
七体のバーテックスを見て、各々感じた言葉を述べる美森、士郎、夏凛。
そんな中、樹とは別の意味で、不安そうな表情を浮かべた風が、士郎に近付いて声を掛けた。
「士郎……」
「なんだ?」
真剣な表情を浮かべる風に、士郎も真剣な表情を浮かべて返事をした。
「無茶をするな、無理をするな……とは、この際言わないわ。これだけの総力戦、無茶も無理も無しに勝てるとは思ってないから……でも、これだけは約束して、死なないで」
「……………」
風の言葉に、士郎は少し間を置いて答えた。
「承知したよ。部長」
士郎の返事に満足した風は顔から不安の表情を消し去ると、何時も通りの明るい表情を浮かべて言った。
「よし、なら此処は、あれやっときましょう」
「あれ?」
夏凛は風の言ったあれの意味が分からず、首を傾げるが、他の勇者部メンバーは風の言った意味を理解し、黙って円に状に集まり方を組み始めた。それを見て、夏凛も風の言うあれの意味を理解した。
「え、円陣?それ必要かしら?」
「勇者には気合が必要なんだろ?」
「なら、これも必要な物よ」
「ほら、夏凛ちゃんも一緒に!」
夏凛の手を引く友奈に、夏凛は満更でもなさそうな表情で言った。
「しょ、しょうがないわね。べ、別にやりたくてやってる訳じゃないんだからね」
「無理しなくても良いんだぞ?嫌なら俺達だけでも」
「む、無理なんかしてないわよ!……嫌じゃないから、私も混ぜなさいよね」
何やかんやで、円陣に混ざる夏凛。円陣を組み終え、風は一度深く息を吸って、吐いた。
「ふう……」
「その息の吐き方は、自分の名前と掛けてるのか?」
「ぷっ!」
士郎の問いに、思わず吹き出す友奈達。
「そんな訳でないでしょう!真剣な事言おうとしてんだから、茶化さない!」
顔を真っ赤にして叫ぶ風。ツボに嵌って声を抑えて笑う友奈と樹。笑いに堪える夏凛。隣で風から顔を晒して、肩を震わせる美森を無視して、風は真剣な声で言った。
「アンタ達、勝ったら好きな物奢ってあげるから、死ぬんじゃないわよ」
風の真剣な言葉に、漸く落ち着きを取り戻した友奈達。
「なら、私は先輩の手料理を所望します」
「え?毎日食ってるだろ?」
美森の言葉に驚く士郎。
「あ、なら私も、東郷さんと同じ物を」
「ゆ、友奈まで!?」
友奈も美森に続き。
「わ、私もです」
「樹!?」
更に樹が続いた。
「そうねぇ。なら私は、美味いって評判の衛宮の和食を頼もうかしら?」
「三好もか!?」
更には夏凛までもが、風が奢れる様な物ではなく。士郎の手料理を所望する。
「なら、私も士郎の手料理をご馳走になろうかしら」
「風が好きな物奢るんじゃなかったのか!?」
その流れに乗っかる様に、風も士郎の手料理を所望し、それに突っ込みを入れる士郎。
「まあまあ。私も手伝いますから」
「勿論私もよ」
美森と風の言葉に、士郎は溜息を吐いて諦めた。そして覚悟を決めた。
「こりゃ、死ぬに死ねない約束を、二つも交わしてしまったな……良いぞ。俺は勝って、お前達に料理を振る舞う。だから、お前達も絶対に生き残れ!」
士郎の言葉に「了解」と答える勇者部一同。
そして戦闘が始まった。
美森はその場に残り、地面に寝そべってライフルを構える。友奈、風、樹、花凛の四人はバーテックスに向かって駆け抜けるが、その四人を追い越して、士郎が前に出た。
「ちょっと士郎!アンタは前に出ない!」
風の制止する声が聞こえなかったのか、或いは聞こえていながら無視したのか、それは定かではないが、士郎は止まらなかった。
「
士郎が最初の標的としたのは、他六体のバーテックスから突出して前に出た、長い胴体に二つの足が着いたバーテックス。
士郎はそのバーテックスに向けて、投影した干将・莫耶を投擲した。双剣は其々、バーテックスの両足の付け根に突き刺さり爆発、バーテックスの足を吹き飛ばして行動不能にした。
その後に、遅れて到着する花凛。
「衛宮!前に出過ぎよ!引っ込んでなさい!」
夏凛の言葉に、士郎はこう反論した。
「いや、前衛後衛を熟せる俺だからこそ、前に出るべきだ。援護は美森一人で十分だし、俺は体力が減れば後方に下がって援護に徹する事が出来る。此処は俺が前に出て、三好達はまだ体力を温存すべきだ」
「それだと、アンタ一人に負担が掛かるじゃない!」
「今回バーテックスは七体も居るんだ。こうでもしなきゃ、きっと勝てない。それよりも封印だ。俺は封印の儀を行えない」
士郎の言葉に夏凛は舌を打ち、八つ当たりをする様に刀を地面に突き刺し、封印の儀が始まった。
出現する御魂。だが、やはりと言うべきか、御魂はただでは壊されないと言わんばかりに、ドリルの様に高速回転を始めた。
御魂に刀を投擲する花凛だが、刀は弾かれて地面に突き刺さる。
「此処は私に任せて下さい!」
士郎と花凛に合流した友奈、風、樹。
友奈がそう叫び、御魂を殴って回転を止める。
「東郷さん!」
友奈が美森の名を叫んだ直後、美森の射撃により、御魂は破壊された。
「ありがとう。東郷さぁぁぁん!」
美森が居る方に向かって、手を振る友奈。
取り敢えず、一体目を難無く倒せた事に安堵する士郎だったが、直ぐに違和感を感じた。
(待て、簡単過ぎる。前回三体同時にバーテックスが襲来した時、バーテックスは連携して襲って来た。なら、バーテックスは連携する知恵が有る。にも関わらずだ。何故、このバーテックスは叩いてくれと言わんばかりに突出して来た?)
士郎がそこまで考えた直後、士郎達の周りから耳を塞いで蹲る程の鐘の音が鳴り響いた。
「くっ!そういう事か!」
「き、気持ち悪い」
「こ、このくらい……勇者なら……やっぱり無理」
「の、脳が震える!」
バーテックスが鳴り響かせる騒音に、戦う力を失う士郎達。そんな状況を打破すべく、鐘の音が届かない程遠くにいる美森は、戦闘不能に陥らせる程の音を鳴り響かせるバーテックスを狙撃しようとするが、そんな美森を大きな揺れが襲った。
「くっ、地面の中に敵が!」
まるで水中の様に、地中を潜りながら地面を揺らすバーテックス。美森は標的を変え、先ずは地震を起こすバーテックスを狙撃しようと試みるが、揺れの所為で標準は上手く定まらず。定まった頃には敵は地中の中だった。
「まるで潜水艦ね。鬱陶しいわ」
そして鐘の音により、行動不能だった士郎達の方で進展があった。
「お、音はみんなを幸せにするもの!こんな音は、こうです!」
樹がそう叫び、騒音を鳴り響かせるバーテックスの鐘をワイヤーで拘束、戦闘不能に陥らせる程の音を止ませた。
「樹!よし、先ずはアンタ達からよ!」
「風!一撃で三体纏めて御魂を破壊するから、時間稼ぎ頼む」
「了解!」
鐘の音が止み、戦闘を再開し始めた勇者部一同。
「
士郎が詠唱すると、その手に赤い稲妻が走り、疲弊しきった前回とは違い、体力に余裕がある今回は、スムーズに赤い魔槍を投影した。
「はぁぁぁ!」
風は身の丈以上ある大剣を更に巨大化し、戦闘不能となった間に、近付いて来たバーテックスを二体纏めて斬り裂いた。
士郎は「よし」と呟くと、魔槍に魔力を込め始めた……その直後だった。風に斬られた二体と、鐘の音を鳴り響かせたバーテックスが後退を始めた。
「あわわわ」
そして鐘の音を鳴り響かせたバーテックスとワイヤーで繋がっている樹が引っ張られ、不味いと思った士郎は、咄嗟に樹と繋がっているワイヤーを魔槍で斬り解いた。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。奴等、何を始めるつもりだ?」
士郎がそう呟いた後、一際大きいバーテックスの元に集まったバーテックスは、まるで士郎の言葉に答える様に、
死亡フラグを乱立させた士郎、果たして士郎は生き残れるのだろうか……
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