衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

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第二話 赤い勇者と赤い英霊。

【1】

 

 

 三ノ輪銀という少女はよく遅刻をする。

 その理由は産まれたばかりの弟の世話があるのもそうだが、一番の理由は彼女の性格故だろう。

 良くも悪くも、彼女は困っている人を見過す事が出来ない。自転車で転んだ子供が居れば、子供の元に駆け付けて手当てをする。腰痛で座り込んだ老人が居れば、老人を家まで送り届ける。

 それが彼女の目の前で起こった出来事じゃなくてもだ。彼女は視界に困った人が入れば、その人の元に駆け付ける。わざわざ介入する必要の無いトラブルに、彼女は自ら突っ込む。巻き込まれ体質と言うよりも、巻き込まれに行く体質だ。

 

「……古い鏡を見ている様だ」

 

 かつての衛宮士郎も、彼女と似た体質だった。

 トラブルに巻き込まれるのではなく、トラブルに巻き込まれに行く。それは死んでも治らない体質だ。故に。

 

「時間厳守は基本だ。勇者ともなれば尚更な」

 

 エミヤは何かと理由を付けて、彼女の手助けに向かう。

 

 

 ・

 

 

「うぇぇん!うぇぇぇん!」

 

 それは休日の昼。須美と園子と待ち合わせるイネスに向かう途中での出来事だった。

 銀は道の真ん中で泣きじゃくる少女と遭遇した。時計を見れば集合時間の十分前。今居る場所なら歩いても間に合う距離ではあるが、時間的余裕がある訳では無い。

 

「…よし」

 

 迷いは一瞬。

 銀は当然とばかりに、少女に声を掛けた。

 

「どうした。何があった?」

 

 銀はこれまでの経験から、親兄弟と離れたのか、落とし物をしたかのどっちかだと予測していた。前者なら一緒に親を探し、後者なら一緒に落とし物を探すつもりだった。

 

「ぐすっ、お姉ちゃんと逸れたの……」

 

 前者か、と思ったのも束の間。

 

「ぐすっ……それで、お姉ちゃんを、探している間に、ぐすっ、髪飾りを落としたの……」

 

 両方だった。銀は遅刻かなぁ……と心の中でぼやく。しかしやる事は変わらない。

 

「……そっか、なら、そのお姉ちゃんを探しながら、花飾りを探すか。なに安心しろ。私は人探しも物探しも得意なんだ」

 

 銀は胸を叩いて言った。

 

「ぐすっ……本当?」

「ああ、本当さ。この勇者。三ノ輪銀様に任せろ。姉ちゃんも花飾りも、あっという間に見つけてやんよ」

 

 それから銀は啜り泣く少女をあやしながら、少女の姉と花飾りを探した。

 結果だけ述べるなら、姉の方は見つからなかったが、花飾りは見つかった。しかし。

 

「うぇぇぇん!」

「……参ったな」

 

 見付けた花飾りは車にでも轢かれたのか、黒いタイヤ跡を付けて無惨に壊れていた。

 

「えっと、泣くな。形ある物は何時か壊れる物さ」

「昨日、誕生日プレゼントで買って貰ったばかりなのに〜!うぇぇぇぇん!」

「……そりゃ、泣くな」

 

 銀とて、前日に貰ったプレゼントを無くし、必死に探した末に無惨に破壊されていたらショックだ。場合によっては泣くだろう。それが自分より幼い少女ならば、尚更だろう。

 

「どうすっかなぁ……」

 

 銀は頭を掻いて考える。

 常日頃から家事の手伝いを行っている銀は、破れた服やぬいぐるみを、ある程度は縫い直す事が出来る。壊れた玩具も接着剤で直る範囲なら器用に直せる。その性格に反して意外と器用なのである。

 けれど、車に轢かれた花飾りを直せる程、器用ではない。

 手は尽くした。花飾りに関して銀に出来る事はもうない。後の事は少女の姉を探し、任せる事しかない。何時までも少女に付きっきりという訳にもいかない。銀には銀の予定がある。

 

「げっ、もうこんな時間かぁ……」

 

 ふと見た時計の時刻は集合時間三分前。全力で走っても間に合うかどうかの時間だった。

 本来なら須美か園子に連絡して、遅れるのを知らせるのが一番なのだが、生憎と須美と園子と連絡先を交換していない為に不可能である。

 遅刻しても、その理由をちゃんと説明すれば、須美と園子は納得して許してくれるだろう。

 だけど、それはしたくなかった。銀は何があろうと、遅れたのは自分の責任と考え、その責任から逃れる理由に少女を使うのを嫌う性格なのだ。

 遅刻はしたくない。少女の姉も探さなければならない。けど時間が無い。銀の中で焦りが生まれる。

 そんな時だった。エミヤが現れたのは。

 

「何をしているのかね」

 

 銀は声のした方を振り向いた。

 そこには樹海で見せた赤い外装ではなく、黒のジーパンに白いシャツ、その上に黒のジャケットを羽織ったエミヤが立っていた。

 思わぬ人物の登場に、銀は目を見開いて驚いた。

 

「うぇ!?守護者様!?」

「エミヤで良い。その敬称も不要だ」

「じゃ、じゃあ、エミヤさんで」

「それで良い。それで?何をしているのかね」

「……うーん。それがですね」

 

 再度問うエミヤに、銀は若干の躊躇いを感じつつ、エミヤに今起こっている事態について話した。

 

「ーーって、事なんですよ」

「成る程。状況は理解した」

 

 エミヤは顎に手を当て何かを考える素振りを見せると、しゃがんで啜り泣く少女に目線を合わせた。

 

「どれ、少し見せて見ろ。直せるかもしれん」

「本当!」

「マジっすか!?」

「……ああ、見てみなければ何とも言えないがな」

「お、お願い、します」

 

 エミヤは少女に優しく微笑み、恐る恐る渡された花飾りの残骸を受け取った。

 花飾りの残骸を受け取ったエミヤは優しい表情から一変。真剣な眼差しとなって、花飾りの残骸を視た。

 

「ーーうむ。壊れたのは数分前と言った所か、これなら私でもどうにかなるか」

「本当?本当に、直る……の?」

「ああ、任せたまえ」

 

 エミヤは花飾りの残骸を手で覆い隠し、呟いた。

 

「ーーMinuten vor schweisen」

 

 その直後、エミヤの手の中で花飾りの残骸は青い光を放つ。

 光を放った残骸は大きい破片から小さい破片まで、時間が巻き戻る様に一つに収束し、無惨に破壊された花飾りは、瞬く間にその美しさを取り戻す。

 花飾りが直った事を確認すると、エミヤは覆った手を離し、銀と少女に花飾りを見せた。

 

「えぇ!?何々!?何が起こってんの!?」

「わぁ、凄い。おじさんどうやったの!?」

「なに、ちょっとした魔法さ」

「「魔法!?」」

 

 驚く銀と少女を見て、エミヤの頬が僅かに緩んだ。

 そして目を輝かせる二人に、エミヤは何処か懐かしむ様な、表情で言った。

 

「私はね、魔法使いなんだ」

「魔法使い!?」

「凄い!」

 

 興奮してはしゃぐ少女と銀。その反応もまた、エミヤはどこか懐かしさを感じた。三百年以上も昔、自分を魔法使いと名乗った男と、それに興奮する少年の姿を投影した。

 エミヤは少女の頭を撫でて落ち着かせ、その前髪に花飾りを付けて言う。

 

「もう落とすなよ。それは君にしか似合わない」

「うん!ありがとう。魔法使いのおじさん!」

「樹ぃ〜!何処に居るのぉ〜!」

「あ、お姉ちゃんだ!」

 

 背後から聞こえた姉の声に少女は振り返り、そこに居た姉の元へと走る。

 

「樹!急に居なくなって心配したんだからね!」

「えへへ、御免なさい」

「全く。あれ?目が赤いじゃない。どうしたの?」

「えっと、何でもないよ。それよりもお姉ちゃん!私ね、魔法使いさんと出会ったの!」

「魔法使いぃ〜?」

「うん!あそこにね!」

 

 そう言って少女はエミヤが居た場所を振り向く。

 

「あれ?」

「誰も居ないわよ?」

 

 そこには既にエミヤの姿も、銀も無かった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 それはほんの数秒前の出来事だった。

 姉と再会できて喜ぶ少女と、逸れた妹を見つけて安堵した様子の姉。二人の微笑ましい姿を見て、銀はほっと息を吐いた。

 

「良かった。花飾りは直って、お姉さんとも合流出来て一安心」

「ああ、後は君が待ち合わせ場所に間に合えば、何も問題は無いな」

「そ、そうだった!時間は……」

 

 確認したスマホの時刻は、集合時間一分前を表示していた。もはや全力で走っても()()()()()間に合わない。

 

「根性でどうにかするしかないな!」

 

 よしっ、と頬を叩いて気合いを入れる銀。

 そんな銀を見て、エミヤは呆れた様子で息を吐いた。

 

「全く。先を急いで事故にでも遭ったら目も当てられん。私が送ってやろう」

「マジっすか!」

「ああ、行き先はイネスで良かったか?」

「そうです、そうです」

「ならば、そこまで送ろう」

「おお、助かります!……あれ?」

 

 ふと、銀は疑問に思った。どうやって?と。

 エミヤは見たところ、車もバイクも持っていない。なら、どうやって?その疑問の答えは直ぐに分かった。

 

「失礼」

「え?あわわわ」

 

 銀はエミヤに胴と足裏を持ち上げられ、横向きに抱え上げられた。それは俗に言うお姫様抱っこであった。

 活発的で男勝りな部分のある銀だが、彼女も少女だ。お姫様抱っこという行為には一定の憧れがあった。

 王子様の様な人にお姫様抱っこをされる。それは自分の柄じゃないと思いつつも、銀が密かに持つ願望であり、夢だった。

 それが思わぬ形で叶った。王子ではないが、守護者として、何百年もの間世界を守る戦いを続けたエミヤは、紛う事のない騎士である。そんなエミヤにお姫様抱っこをされる。

 

「え、え、え、え、エミヤさん。一体ナニを!?」

「なに、こうするのが最短でね。人目に付かない様に行くから少し荒っぽくなるが、そこは了承してくれ」

 

 端的に言うと、銀はパニックに陥っていた。心臓の心拍数は増え、頬に血が集まる。目は上下左右を行き来し、脳内はショートし頭から湯気が出た。

 

「口を閉じて、しっかり捕まっていろ」

「え?うぉぉぉぉ!?」

 

 だがそんな銀に構わず、エミヤは跳躍した。

 少女と姉が振り向いたのは、丁度その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




日常回って難しいですね。

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