衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

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やっぱりさ、13日の金曜日が平穏で終わっちゃ駄目だと思うんだよねぇ……


第15話 赤い記憶

【1】

 

 

 バーテックスとの戦いが終わった後、士郎達勇者部一同は、大赦が経営する羽波病院で検査を受けていた。

 

「では、注射しますね」

「ああ」

 

 注射の針が士郎の()()()()()()()()()に刺さり、血が抜かれる。

 

「あれ?」

 

 そこで違和感を感じ、士郎は首を傾げた。

 

「どうかしました?」

「あ、いえ、何でもないです」

 

 士郎はそう誤魔化し、採血を終えた。

 そして暫くした後、士郎は医者から診断結果が知らされた。

 

「君の体についてだけど……調べた限りでは異常は無かったよ」

「え?でも、腕が……」

「ああ、それは恐らくだが、勇者システムの長時間使用と、二回も満開した疲労による物だろう。日焼けと同じだ。時間が経てば少しずつ治り始めると思うが、念の為、君はもう少し検査入院をしてもらうよ」

「……分かりました」

 

 医者の言い分に、士郎はイマイチ納得行かない様子で頷き、診察室を出た。

 診察室を出た士郎はそのまま談話室に向かうと、其処には既に検査を終えた友奈達勇者部一同が集まっていた。

 

「お、士郎も診察終わったのね……って、どうしたのその顔と腕!?」

 

 士郎に逸早く気付いた風が士郎に声を掛け、そして左目付近と左腕を褐色に染めた士郎に驚愕した。風の言葉に釣られて、友奈達も士郎の方を見て、風と同じ様に目を見開いた。

 

「ん、ああ、ちょっと無理が祟ったみたいだ。大丈夫だ。少し肌が黒くなっただけだ」

「そ、そう、なら良いけど」

「それより、お前こそ、その左目はどうしたんだよ?」

 

 士郎はお返しとばかりに、風の左目に付けられた医療用の眼帯を指差して聞いた。

 すると、風は眼帯に手を当て、ポーズを決めて答える。

 

「ふっふふ。良くぞ聞いた。これは先の暗黒戦争で魔王との戦いでーー」

「単純に左目の視力が落ちてるだけよ」

 

 風の厨二発言を夏凛が遮った。

 

「ちょっと!一度ならず二度までも!」

「それはこっちの台詞よ!何で一日に同じ突っ込みを二回も行わなきゃ行けないのよ!」

「二度?」

 

 風と夏凛の会話に首を傾げた士郎。友奈が苦笑いしながら士郎に説明する。

 

「あはは、私が来た時も、同じやり取りが有ったんです」

「へぇ、まあ良いや。友奈達は体に異常は無いか?」

「私は特に何も、ただ樹ちゃんが……」

「声が出せないみたいです。勇者システムの長時間使用による、疲労の所為だろうって、お医者さんは言ってました」

 

 本当か?と樹の方を見る士郎。樹は黙って頷いた。

 

「成る程な。俺と同じか、なら、風もか?」

「ええ、そうよ。この目も療養すれば治るって」

「そっか……直ぐ治るなら大丈夫ですね!」

 

 其処で友奈は、何かを思い付いた様に手を叩いて言った。

 

「そうだ!お祝いしないと!」

「そうだな。俺達、残りのバーテックスを全部倒したんだからな」

「ああ、そう言えばそうだったわね」

「実感湧きませんね。色々有り過ぎて」

「でも、あれだけの事があって、戦いはまだ続きますって言われたら、堪ったもんじゃないけどね」

 

 同調して首を縦に振る樹。

 その後、売店で購入したお菓子とジュースで軽い祝勝会を行った。

 そして風がこの病院に来た時に回収されたスマホの代用品として、新しいスマホを士郎達に配り、精霊達をもう呼び出さない事、勇者部で使っていたSNSがもう使えない事に士郎達は少し残念がった。特に友奈は相棒である牛鬼にお別れを言えなかった事を残念がっていた。

 

 

【2】

 

 

 祝勝会が終わり、病室に戻る最中。

 友奈が美森の車椅子を押し、その隣を士郎が歩く。何時も通りの光景だ。

 

「退院は二日後だって、早く学校に戻りたいなぁ〜」

「病院は退屈か?」

「はい」

「まあ、病院に居て楽しいって答える人も居ないと思うんですけど」

「それもそうだな」

「そう言えば、シロー先輩と東郷さんは、まだ検査で入院するんだっけ?」

「そうだな」

 

 そっかと残念がる友奈。

 

「一緒に退院したかったな」

「私もそう思うよ……所で友奈ちゃん」

「うん?」

「体におかしい所、有るよね?」

「え?そうなのか?友奈」

「……………」

 

 美森の問いに固まる友奈。士郎は驚いて友奈の方を向くと、観念したかのように口を開いた。

 

「東郷さん、鋭いなぁ……どうして気付いたの?」

「さっき、祝勝会でジュース飲んでた時。なんか様子がおかしかったから」

「そっか、大した事無いんだけどね……味、感じなかったんだ。飲んでも、食べても。でも多分大丈夫。シロー先輩や風先輩と同じ様な物だろうし、直ぐ治るよ」

 

 明るく振る舞う友奈に、士郎と美森は何と声を掛けたら良いのか、分からなかった。

 

 

【3】

 

 

 その日の夜。私は私に与えられた個室の病室でパソコンと新しく与えられたスマホを繋ぎ、音楽をスマホにダウンロードしていた。

 前使っていたスマホは大赦に回収されてしまったから、当然、今のスマホでは前のスマホに入っていた写真やダウンロードした音楽は全て使えない。

 大赦の話によれば、数日以内に勇者システム以外の写真やダウンロードしたアプリなどのデータを、今使っているスマホでも使える様にしてくれるみたいだけど。私は毎日聴いている音楽を聴きたくて、今使っているスマホに音楽をダウンロードしている。

 別に、スマホにダウンロードしなくても、パソコンから直接音楽を聴く事は出来るけど、やっぱり外でも聴きたいし、何より暇だったからって理由が一番かも知れない。

 曲のダウンロードが終わり、私はスマホに繋がったイヤホンを耳に付けて、再生ボタンを押す。流れてくるのは、古今無双という私が最も愛する曲。私は曲が流れて直ぐ、()()()()()()()()()()()()()()()()()事に違和感を感じた。

 いや、違和感なら今日ずっと感じていた。けれど、最後に確かめておきたいから、私は一度イヤホンを外し、音が正常に流れてきた右耳のイヤホンを左耳に近付ける。

 

()()()()()()()

 

 これで確信した。体の一部が変色した先輩、味覚を失った友奈ちゃん、左目の視力が下がった風先輩、声が出せない樹ちゃん、そして()()()()()()()()私。

 私達に共通する事はただ一つ、満開を行なった事。私達に起こっている状態異常は、恐らく満開による後遺症。

 現に、満開を行なっていない夏凛ちゃんの体に異常は見当たらなかった。まあ、ちゃんと確認した訳じゃないから、もしかしたら夏凛ちゃんも、体の何処かに異常を来しているかも知れないけど。

 でもそうなると、少し不可解な事がある。

 私達が味覚、視覚、声帯、聴覚と言った、体の一部の機能に異常を来しているのに対して、先輩だけが肌を変色させただけ、それも一部だけを……あまりにも軽傷過ぎる。

 私の記憶が正しければ、先輩は成層圏に突入した時、二度目の満開を行った。その時の意識は朦朧としたから、私の勘違いかも知れないけど、満開を二回も行っておいて、あれだけの異常で済むとは思えない。

 もしかしたら先輩も、体の何処かに異常を来してるのかも知れない。

 

「私と先輩の病室は隣……だけど」

 

 私は時計を見た。表示された時刻は二十三時四十五分。

 今から先輩の病室を訪ねるには、些か非常識な時間。気になるけどしょうがない。

 

「聞くのは明日ね」

 

 私はそう呟き、パソコンをシャットダウンして、眠りに就いた。

 

 

【4】

 

 

 それは夜中の出来事だった。

 

「う、うぅぅぅ」

 

 そんな呻き声が聞こえ、私は目を覚ました。

 微かに聞こえる苦しみに悶えた呻き声……それが隣の、先輩の病室から壁越しから聞こえる。

 

「先、輩?」

 

 その呻き声が先輩の声で、それが先輩の病室から聞こえてくる。そう理解した時、私の朦朧とした意識は瞬時に鮮明になった。

 私は急いで車椅子に乗ると、病室を出て隣の先輩の病室の扉を開ける。

 

「がぁ……」

 

 すると中からは先輩の呻き声と、鼻を摘みたくなる()()()()が漂って来たが、私はそれを無視して先輩のベットの方へと車椅子を動かす。暗闇で何も見えないけど途中、ベチャっと車椅子が何か、()()()()()()()()()()()()()がしたが、それも無視して先輩の元に駆け付ける。

 

「先輩!先輩!大丈夫ですか!?しっかりした下さい!」

 

 私は先輩の体に触れる。手に何かヌメッとした()()()()()が付いたが気にしない。私は先輩の体を揺さぶって、先輩に呼び掛ける。

 

「がぁぁ……」

 

 だけど、先輩からまともな返事は返って来ない。

 私に気付いているのか、気付いているけど返事を返す余裕が無いのか分からないけど、先輩がとても苦しんでる事だけは分かった。

 私は先輩のベットの側に有ったナースコールを押して叫んだ。

 

「早く!早く来て下さい!先輩が、先輩が大変なんです!」

 

 私は無我夢中に叫んだ。私は先輩の体を揺するのを止め、先輩の手を強く握った。

 

「大丈夫。大丈夫ですから、もう少しで、お医者さんが来ますから、耐えて下さい」

 

 今の私に出来るのはこのぐらい、先輩の手を握って先輩を励ますくらいしか出来ない。

 

「ぁぁぁぁぁ!」

 

 心なしか、先輩は私の手を握り返してくれた気がした。

 そして病室の外から、ドタバタと誰が入って来た。多分お医者さんだ。パッと電気が点いた。

 夜目に成っていた私は、電気の明かりが眩しくて目を瞑った。そして徐々に明かりに慣れて目を開けた時、私の目には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血塗れになった先輩の姿が映った。

 

「……………え?」

 

 良く良く先輩の体を見ると、先輩の体から()()()の様な物が飛び出してて、それが先輩の体やベットのシーツや毛布を切り刻んでいた。

 私は自分の手を見る。その手には先輩の物であろう血がべったりと付いていた。顔から血の気が引いていくのが実感出来た。

 私は恐る恐る周りを見渡すと、至る所に先輩の血が飛び散ってて、床には血で水溜りを作っていた。

 

「……嫌」

 

 人は二リットルの血を流すと死ぬと言われている。

 周辺に散らばった血、そしてベットに染み込んだ血の量から見て、既に二リットル近い血が流れていると分かってしまう。

 

「嫌、嫌、嫌……」

 

 何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()が脳裏に浮かんだ。

 知らない筈の光景、その光景が今の先輩と重なった。

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 病室に、いや病院に私の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




赤い記憶と書いて、トラウマと読む。
記憶は無くても、心に染み付いたトラウマは消えない。

念願の赤評価(直ぐにオレンジに戻ったけど)、13日の金曜日、これが揃った時、私は思った。
愉悦教の神は言っている。愉悦を提供しろと……

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