衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

21 / 41
14話に十三の拘束解除の描写を追加しました。


第16話 代償

【5】

 

 

 羽波病院手術室前。

 手術中というランプが点灯したその場所に、士郎の血で汚れた虚ろな瞳をした美森と、手術室を交互に見て不安そうな表情を浮かべる友奈、風、樹、夏凛の四人が集まっていた。

 

「……………」

 

 四人が事態に気づいた発端は、先ず慌しくなる廊下の音で目を覚ました事から始まった。

 それから美森の悲鳴で意識を覚醒させ、四人は直ぐに病室を出て、美森の悲鳴がした士郎の病室に向かい、其処で目にしたのは殺人事件が起きたのかと思う程に血塗れの病室、医者と看護師に囲まれる士郎と、取り乱す美森の姿だった。

 士郎は四人の訳が分からぬまま、手術室に運ばれた。四人は血塗れの病室と士郎を見て、一時は取り乱したが、自分達以上に取り乱す美森を見て冷静さを取り戻すと、取り乱す美森を宥めなながら士郎が運ばれた手術室前に向かった。

 美森はその間、体に着いた士郎の血を拭こうともせず、ただ体を震えさせながら虚ろな瞳で手術室を眺めていた。

 四人は士郎の病室では取り乱す美森を宥めるのが精一杯で、手術室に向かう最中も全く言葉を発さなかった美森からは今の所、何故こうなったらのか、士郎はどんな状況なのか、美森は何故取り乱したのか、何一つ情報を得られていない。それを無理に問い質す事もしなかったが……

 

「ねぇ、東郷。そろそろ何が有ったのか言いなさいよ」

 

 だが、我慢の限界を迎えた夏凛が美森に聞いた。

 

「夏凛!」

「夏凛ちゃん……」

「なによ、アンタ達も気になってるでしょ?」

「けど、今の東郷に聞くのは酷でしょう!」

「勇者部五箇条。悩んだら相談じゃないの?」

「そうだけど、でも今は!」

「良いんです」

 

 口論になり始める風と夏凛、そんな二人を美森が止めた。

 

「話します。何があったのか……」

「東郷さん……」

 

 心配そうに美森の手を握る友奈。

 

「大丈夫だよ、友奈ちゃん」

「東郷……別に無理しなくても良いんだからね」

 

 風の言葉に同調する様に頷く樹。

 

「大丈夫です。ただ、結構ショッキングな話になりますけど、それでも良いですか?」

「私は良いわよ。私から聞いておいて、今更やっぱり聞かないなんか言えないしね」

「私も聞くよ」

「部長として、部員に何があったのか、知っておかなくちゃ行けないしね。樹も大丈夫?」

 

 風の問いに、首を縦に振る樹。

 

「分かりました。では話します。先ずは私が異変に気付いた切っ掛けから……」

 

 そして美森は話し始めた。

 士郎の呻き声で目を覚ました事、士郎の病室に行った事、電気が点いて血塗れの士郎と病室を見た事、そして士郎の体から剣の様な物が突き出ていた事を……

 

「そ、それは……」

「思っていたよりも、ハードだったわね……」

「でも、何も知らないまま、モヤモヤしてるよりかはマシだわ」

 

 話を聞き終えた後、四人は皆、顔色を悪くしていた。樹に至っては話しを聞き終えた直後に気を失った。

 

「……風先輩」

「何?東郷」

「大赦から満開の後遺症とか、それに関する事を何か聞いてませんか?」

「満開の後遺症?何それ、私は何も聞いてないわよ」

 

 夏凛の方を向く風。夏凛は何も知らないと首を横に振って答えた。

 

「私も、そんな話は聞いてないわね」

「そう……」

「それで?それがどうしたのよ?」

 

 風の問いに美森は少し言い悩んだ後、自分が立てた仮説を述べた。

 満開を使った者達は皆、体の何処かが可笑しくなっている事、その説明に伴って美森自身が左耳が聞こえない事、友奈が味を感じない事を明かし、友奈には勝手に味を感じない事を明かしてした事について謝ったが、友奈は良いよ、良いよと笑って許した。

 そして話を続け今回、士郎がこんな事態に陥ったのは、満開を二回も使用した事が原因ではないのかと、美森は仮説を述べ終えた。

 

「なによそれ……私、知らなかった」

「……私もよ」

「き、きっと、大赦の人も知らなかったんだよ。大丈夫、お医者さんも治るって言ってたし、シロー先輩も大丈夫ですよ……きっと」

「そう……だよね。うん、きっと友奈ちゃんの言う通りだよ」

 

 美森の仮説に唖然とする風と夏凛。友奈は目尻に涙を溜め込みながら、ポジティブに考える。友奈の言葉を信じ、士郎の無事を祈る美森。未だ白目を向いて気絶したままの樹。

 そんな勇者部の背後から、装束に身を包んだ仮面を付けた集団が現れた。その集団は……

 

「大赦!」

「え!?あの、意味の分からない格好してる人達が大赦!?」

「友奈!無礼よ、思ってても声に出さない」

「夏凛ちゃんも、十分に無礼な事言ってると思うよ……」

 

 大赦。神樹を祭り上げ、勇者達をサポートする謎に包まれた組織。それが今、友奈達の前に姿を現した集団の正体であった。

 

「何の用ですか?」

 

 風が前に出て、先頭を歩く大赦に尋ねた。

 

「貴方方に用は有りません。用があるのは」

 

 そう言って手術室を指差す大赦。

 

「士郎って訳ね」

「そうです」

 

 素っ気なくそう言い残して、手術室に入ろうとする大赦を、美森が呼び止めた。

 

「待って下さい」

「……何ですか?わ……東郷美森」

「満開の代償について、貴方達は何か知っているのですか?」

「……………」

 

 暫しの沈黙の後、大赦は答えた。

 

「いいえ、何も。貴方方の体に起きた異変は聞いてます。医者の言う通り、疲労による物で、それは時間が経てば治るでしょう」

 

 ただ、と大赦は続ける。

 

「衛宮士郎。彼は少し事情が複雑です」

「複雑?」

「ええ、由来、勇者とは無垢な少女が選ばれる物でした。然し、今代では初の男性勇者として選ばれた衛宮士郎。彼は精霊を持てない代わりに、他の勇者とはかけ離れた戦闘能力を有します」

「ずっと、聞きたかったです。先輩が精霊が使えない理由って……何ですか?」

「それは私達にも分かりません。今回の出来事も、満開による物なのか、それとも男性でありながら、勇者アプリを使用し続けた代償による物なのか、それは調べて見なければ分かりません」

「貴方達が来たのは、何故ですか?」

「衛宮士郎を救いに来ただけです」

「シロー先輩を救いに?」

 

 ここで初めて美森と大赦以外の人物、友奈が口を開いた。

 

「そんな事、出来るの……ですか?」

「ええ」

 

 その友奈の問いに大赦は肯定し、勇者部メンバーは安堵の表情を浮かべた。

 

「彼の勇者アプリには()()()()()と呼ばれる。貴方達の勇者システムには搭載されていない、超回復システムを搭載しています」

「アヴァロン?」

「それって、薬品の?」

「それはバビロンよ、友奈」

「それも違うよ、夏凛ちゃん」

 

 こほんと咳払いをする大赦。

 すると真面目な表情に戻る勇者部メンバー。樹は尚も気絶したままである。

 大赦はポケットから、スマホを取り出して勇者部メンバーに見せる。

 

「それって!」

「シロー先輩の!」

 

 大赦が取り出した士郎のスマホを見て、目を見開く勇者部メンバー。

 

「このスマホには、新しくアップグレードしたアヴァロンシステムが搭載されています」

「つまり、それを使って士郎を助けるって訳……ですね」

 

 大赦は黙って頷き、そのまま手術室に向かう。美森はまだ大赦に聞きたい事が有ったのだが、それを我慢して大赦が手術室に入るのを黙って見送った。ただ士郎が助かる事だけを祈って。

 

 

【6】

 

 

 その顔を覚えている……いや、正確には思い出したと言うべきだな。

 この、まるで地獄の釜をひっくり返し、その中の呪いが地獄の炎となって、物という物、人という人を焼き尽くしたかの様な地獄絵図の中、唯一の生存者である俺の手を握った男の顔を……

 

 生きてる。生きてる。生きてる。

 

 と死の直前の俺の手を握り、まるで救われたのは俺ではなく、その男の方だと思った程に、目に涙を溜め、ありがとう。ありがとうと感謝の言葉を連呼する男の顔を……

 

 見つけられて良かった。一人でも助けられて良かった……

 

 男は只々、俺に感謝の気持ちを述べた。

 そして俺は、黄金の光に包まれた。

 

 

【7】

 

 

 それから、士郎が目を覚ましたのは三日後の事だった。

 傷自体はアヴァロンシステムによって初日に完治したのだが、回復で体力を使い果たした士郎は目を覚ますのに三日の時間を要してしまった。

 士郎は朦朧とした意識で周りを見渡すと、直ぐに自分の手を握り、眠り呆けた美森の姿が映った。

 

「み、もり……」

 

 士郎は美森の手を握り返し、名前を呼んだ。

 すると美森はゆっくりと瞼を開いて目を覚ました。美森は目を覚ました士郎を見ると意識が鮮明になり、次第にその瞳に涙を浮かべた。

 

「良かった……生きてる。生きてる。生きてる」

 

 美森は士郎の手を両手で強く握りしめて言った。

 

「ああ、生きてるよ」

 

 士郎の温もりを感じ、士郎の声を感じながら、美森はその瞳に浮かべた涙を流した。

 その光景を士郎は、先程思い出した記憶の中にある父親の姿と重ねた。

 軈て士郎はゆっくりと身を起こすと、美森に言った。

 

「ただいま」

 

 士郎の言葉に、美森は涙を拭って答えた。

 

「お、お帰りなさい」

 

 暫くして、美森の居る逆方向に備え付けられた扉が開いた。

 

「お〜す。今日も来てやったわよ、し……ろう!?」

「あ、東郷さん。やっぱり此処に……居た」

「どうしたのよ?二人共、固まって……衛宮!」

 

 扉から学校帰りなのか、制服を着た風、友奈、夏凛、樹の順で病室に入ってくる勇者部メンバー。目を覚ました士郎の姿を見て固まり、数瞬後に夏凛を除くメンバーが士郎に抱き着いた。

 

「良かった。良かった。本当、無事に目覚めて……良かった」

「し、心配じまじだぁぁぁぁジローぜんぱい」

 

 風は身を起こした士郎の胸に顔を埋め、静かに涙を流しながら、樹は士郎の腰に手を回して抱き着きながら涙を流し、友奈は士郎の頭を抱きしめながら泣いた。因みに、士郎の顔は友奈の胸に埋まって窒息寸前である。

 少し距離を置いて、友奈達を見守ってる夏凛も目尻に薄っすらと溜めた涙を拭い、言った。

 

「全く、心配かけんじゃないわよ」

 

 だがその言葉は多種多様な泣き声に掻き消され、士郎の耳に届く事はなく、病室が静かになるのは友奈達の泣き声で駆け付けた看護師に怒られた後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




愉悦タイム終了!
次回から暫く日常タイム。

この作品が面白い、続きが読みたいと思いましたら、高評価又は感想欄にコメントお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。