衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

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第17話 約束

【8】

 

 

 その夜。面会時間が終了した後、美森は士郎の病室に訪れていた。

 

「満開の後遺症?」

「はい、友奈ちゃんは味覚、私は左耳、風先輩は左目、樹ちゃんは声帯に異常を来し、それは三日経った今でも回復の予兆は無いです」

 

 そこで美森は士郎に自分が立てた仮説を述べた。

 

「成る程……それは確かに満開の後遺症としか言いようがないな」

「はい……それで、先輩。先輩は体の機能に何か、違和感を感じてませんか?」

「……………」

 

 士郎は暫しの沈黙の後、誤魔化しは効かないなと判断して、素直に打ち明けた。

 

「ああ、実はな、痛みを……感じないんだ」

「痛み……ですか?」

「ああ、最初に違和感を感じたのは採血の為、注射を受けた時だった」

 

 士郎は過去に感じた違和感を思い出し、語り出す。

 

「最初は単純に痛みに慣れ過ぎて、痛みを感じないだけだと思ってた……けど、あの夜」

 

 あの夜という言葉で、美森は悲惨な病室を思い出し、顔色を悪くする。士郎は止めようか?と声を掛けるが、美森は首を横に振った。

 

「いいえ、続けて下さい」

「……分かった」

 

 士郎はあの日の夜を思い出し語る。

 

「俺は体に違和感を感じて目が覚めた。そしたら、いきなり体から剣が生えてきたんだ……それも一度じゃなくて二度、三度。身体中が燃えるように熱くなって苦しんだけど、痛みは感じなかった」

「それで、痛みを感じないと確信したと?」

 

 美森の問いに頷く士郎。

 

「激痛で痛みを感じないって言うけどな。その場合は後からジワジワと痛みがしてくるもんだからな。その痛みすら感じなかったって事は、俺には痛覚が無くなったって事だろ……聴覚を失った美森。味覚を失った友奈。片目の視力を失った風。声帯を失った樹。四人に比べたら、俺はどうって事ないな」

「そんな事はないです!」

 

 笑いながら、何ともなさそうに語る士郎に、美森は怒鳴った。

 

「先輩は、誰よりも頑張って、誰よりも無茶をして、誰よりも苦しみました。どういう原理かは分からないですけど。体から剣が生えてくるなんて体験して、生死を彷徨う重傷を負って、どうって事ない訳ないじゃないですか!」

 

 美森の言葉に、士郎は少しの間黙り込んだ。

 

「……そうだな」

「もう、自分はましみたいな事、言わないで下さい……もっと、自分を大切にして下さい」

「すまない」

 

 涙ながらに訴える美森に士郎は謝り、美森の涙が止まるまで、美森の頭を撫で続けた。

 

 

【9】

 

 

 それから数日後。士郎と美森の退院日がやってきた。

 士郎が美森の車椅子を押してロビーに向かうと、其処には士郎と美森を待つ友奈達の姿があった。士郎は友奈達に声を掛けようとするが、それよりも早く。友奈が士郎達に気付いた。

 

「あ、シロー先輩!東郷さん!」

「よう、友奈」

「友奈ちゃん」

「し、シロー先輩……その」

「ああ、此処は友奈の定位置だもんな」

 

 士郎は駆け寄って来た友奈に、立ち位置を譲った。美森の車椅子を押し始めた友奈。

 友奈に押されて風の元に移動すると、風に美森は敬礼をした。

 

「東郷三森。衛宮士郎。只今、勇者部に帰還致しました」

 

 風も美森のノリに乗って、敬礼をして答える。

 

「うむ。ご苦労である。東郷准尉、ブラウニー准尉」

「はい!」

「何で俺はブラウニーなんだよ」

「細かい事は気にしない気にしない。讃州中学のブラウニー」

「全く。相変わらずね。アンタ達」

 

 士郎達のやり取りを見て、樹と友奈は顔を合わせて微笑んだ。

 

「これで、勇者部は完全復活だね」

 

 

【10】

 

 

 病院の屋上。其処で勇者部一同は夕日に染まったオレンジ色の空と、それに照らされた街を眺めていた。

 

「風が気持ちいわね」

「そうだね!」

「ええ」

「夕方になって、やっと涼しくなったわね」

 

 士郎はこの心地良い風に身を任せ、リラックスする友奈達に微笑むと、視線を街に移して呟いた。

 

「この街を、俺達が守ったんだな」

「うん。そうですよ」

「でも、街のみんなは、私達が戦ってたどころか、人類滅亡が懸かった戦いが起こってた事すら、知らないんだけどね」

「そうね。でも、私達が居なければ、この世界は無くなってた。此処で生活する人達は皆、死んでた。何が起こったかも知らずに」

 

 それから少しの沈黙が続いた後、美森が口を開いた。

 

「私、初めての戦いの時、凄く怖かった。怖くて、逃げたくて……でも逃げられなくて、ずっと震えてた。友奈ちゃんが吹き飛ばされて、先輩が怪我をして、私は無我夢中に変身して戦った。私、ちゃんと勇者出来てたかな?」

 

 不安そうな表情を浮かべた美森に、士郎は美森の頭を撫でで答えた。

 

「出来てたさ、美森は立派な勇者だ」

 

 士郎の言葉に美森は顔を赤く染める。風と樹はそんな美森を羨ましそうに眺め、友奈は微笑んだ。

 

「ふふふ、シロー先輩も、立派な()()()()()ですよ」

「「正義の味方?」」

 

 声をハマらせる風と夏凛。樹も首を傾げている。

 

「おい、今その話は止めろよ」

「なによ、なによ、気になるじゃない。言いなさいよ士郎。部長命令よ」

「そうよ、言いなさいよ」

 

 士郎を部長命令で問い質す風。それに乗っかる夏凛、二人に便乗する様に【気になります】とスケッチブックに文字を書いて、士郎に見せる樹。

 

「はぁ……俺が二年より昔の記憶が無いのは、皆知っての通りだと思う」

 

 士郎は観念して溜息を吐くと、語り出した。

 

「え?何それ、私初耳よ」

「そう言えば、三好は知らないんだっけか?まあ、その話はまた今度話すよ。それで、俺は勇者になる前日、夢を見たんだ」

「夢?」

「ああ、それがただの夢なのか、それとも昔の記憶なのかは定かではないけど。俺はその夢の中で、ある男と約束したんだ。正義の味方に成るって」

「へぇ……じゃあ、その約束は果たせた訳だ」

 

 風の言葉に、士郎は首を横に振った。

 

「いや、まだだ」

「まだ?」

「ああ、確かに、正義の味方に成るって約束は果たせたけど……俺にはもう一つ、果たさなきゃ行けない約束があるだろ?」

 

 士郎の言葉に、何かを思い出した様に、あっと呟く風。他のメンバーも遅れて思い出したようで、士郎はニヤリと笑った。

 

「今日は俺が本気で、お前達が食いたいもん好きなだけ食わせてやる。美森、風、手伝ってくれるんだろ?」

 

 美森と風は一瞬顔を見合わせて頷くと、士郎の方を向き直して答えた。

 

「はい!」

「勿論よ」

 

 

【11】

 

 

 それから勇者部一同はスーパーで買い物をして、士郎の家に集まり、士郎は約束通り美森と風の手伝いの下、短時間で大量の料理を作った。

 

「す、凄い……」

「私達が手伝ったとは言え……」

「よくもまぁ、短期間でこんな量作れたわね……」

「ま、まぁ……見た目が凄いのは認めるわよ」

【美味しそう】

 

 士郎の料理に驚く友奈、美森、風。ツンデレ気味な意見を述べる夏凛と素直な意見を述べる樹。

 

「し、士郎……もう食べちゃって良いわよね!ね!つまみ食いを悉く阻止された私は、もう我慢の限界よ」

「アンタ、つまみ食いなんてしようとしてたの?」

「全部、私が封じました」

「流石、東郷さん!」

【お姉ちゃん……】

 

 賑やかな勇者部を見て、少し頬を緩ませる士郎。

 

「ああ、皆席に着いて、冷めない内に食べよう」

 

 士郎の言葉に友奈達は適当な位置に座り、食器を持つ。

 

「さてさて、どれから頂こうとかしら」

 

 風が箸を握りながら呟いて品定めをしていると、正面に座る樹が掲げたスケッチブックの文字が目に入った。

 

【でも、友奈さんが……】

 

 風と同じ様に、樹のスケッチブックを見た美森と夏凛はあっと小さく呟いて、友奈の方を向いた。すると、友奈は既に唐揚げを口に含んでいた。

 

「うん!?何これ!?凄く美味しい!!」

「「「え!?」」」

 

 味を感じない筈の友奈の言葉に驚愕する、美森、風、樹、夏凛の四人。士郎だけは悪戯が成功した子供のように口元を緩ませていた。

 

「ゆ、友奈。あんた、味を感じない筈じゃなかったの?」

「もしかして、味覚が戻ったの?」

「え、あ、ううん。味は感じないよ。でも、この唐揚げは凄く美味しいよ!」

「ど、どういう事よ?」

 

 友奈の言葉に困惑する四人。士郎が種明かしと言わんばかりに説明を始めた。

 

「今日の夕食は味はあまり拘らず、食感に拘ったんだよ」

「食感?」

「ああ、語るよりも、実際に食ってみた方が早いだろ、みんなも食ってみろよ」

 

 士郎の言葉通り、友奈が食べた唐揚げを箸で掴み、口に入れる四人。そして唐揚げを咀嚼した瞬間、四人は目を見開いた。四人はよく味わったから唐揚げを飲み込んだ。

 

「こ、これは……」

「成る程、としか言いようがが無いわね」

「ええ、味は普通の唐揚げ……でも」

【食感が、普通のからあげじゃないよ!】

「これを形容する言葉が、思い浮かばない」

「ええ、外はカリッと、中はジューシーに」

「噛めば噛む程滲み出る肉汁」

【でも、そんな言葉じゃ言い表すことができない!】

 

 全員から高評価を貰い、頬を緩ませた士郎は言った。

 

「味を感じないなら、食感で楽しませる。折角の祝勝会なんだ。味を感じない友奈に遠慮して、微妙な雰囲気なんてさせない」

「し、シロー先輩」

 

 感激した眼差しで、士郎を見つめる友奈。

 

「で、でも、唐揚げは今日、病院帰りのスーパーて買ったもので作った筈」

「そ、そうよ。仕込みの時間なんて足りないのに、なんでこんなに美味しい唐揚げが作れたのよ!?」

 

 美森と風の問いに、士郎はこう答えた。

 

「なに、イメージしただけさ」

『イメージ?』

 

 士郎の言葉に、樹以外のメンバーが声をハモらせた。

 

「そうだ。イメージするのは常に完璧な料理。固定概念を取り払い、皆に美味いと言わせる料理を志向する。志向して、その料理を実現させる過程をイメージし、それをトレースする」

「す、凄いわね……これが、歴代最強勇者の力……」

【それ、関係あるのかな?】

「す、凄いですシロー先輩!この唐揚げだけで、私ごはん三杯は行けます!」

「ふっ、それは勿体ないぞ友奈」

「ふぇ?」

「ご覧の通り、此処に有る料理、その全てが俺が思考した完璧な料理。俺の持てる技術、経験全てを費やした料理の極地。お代わりは自由。俺に遠慮せず、この家に貯蔵された食材全てを空にするつもりで、恐れずにかかってこい!!」

 

 この後、衛宮家に貯蔵された食材は空になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




料理描写は苦手だ……

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