【8】
その夜。面会時間が終了した後、美森は士郎の病室に訪れていた。
「満開の後遺症?」
「はい、友奈ちゃんは味覚、私は左耳、風先輩は左目、樹ちゃんは声帯に異常を来し、それは三日経った今でも回復の予兆は無いです」
そこで美森は士郎に自分が立てた仮説を述べた。
「成る程……それは確かに満開の後遺症としか言いようがないな」
「はい……それで、先輩。先輩は体の機能に何か、違和感を感じてませんか?」
「……………」
士郎は暫しの沈黙の後、誤魔化しは効かないなと判断して、素直に打ち明けた。
「ああ、実はな、痛みを……感じないんだ」
「痛み……ですか?」
「ああ、最初に違和感を感じたのは採血の為、注射を受けた時だった」
士郎は過去に感じた違和感を思い出し、語り出す。
「最初は単純に痛みに慣れ過ぎて、痛みを感じないだけだと思ってた……けど、あの夜」
あの夜という言葉で、美森は悲惨な病室を思い出し、顔色を悪くする。士郎は止めようか?と声を掛けるが、美森は首を横に振った。
「いいえ、続けて下さい」
「……分かった」
士郎はあの日の夜を思い出し語る。
「俺は体に違和感を感じて目が覚めた。そしたら、いきなり体から剣が生えてきたんだ……それも一度じゃなくて二度、三度。身体中が燃えるように熱くなって苦しんだけど、痛みは感じなかった」
「それで、痛みを感じないと確信したと?」
美森の問いに頷く士郎。
「激痛で痛みを感じないって言うけどな。その場合は後からジワジワと痛みがしてくるもんだからな。その痛みすら感じなかったって事は、俺には痛覚が無くなったって事だろ……聴覚を失った美森。味覚を失った友奈。片目の視力を失った風。声帯を失った樹。四人に比べたら、俺はどうって事ないな」
「そんな事はないです!」
笑いながら、何ともなさそうに語る士郎に、美森は怒鳴った。
「先輩は、誰よりも頑張って、誰よりも無茶をして、誰よりも苦しみました。どういう原理かは分からないですけど。体から剣が生えてくるなんて体験して、生死を彷徨う重傷を負って、どうって事ない訳ないじゃないですか!」
美森の言葉に、士郎は少しの間黙り込んだ。
「……そうだな」
「もう、自分はましみたいな事、言わないで下さい……もっと、自分を大切にして下さい」
「すまない」
涙ながらに訴える美森に士郎は謝り、美森の涙が止まるまで、美森の頭を撫で続けた。
【9】
それから数日後。士郎と美森の退院日がやってきた。
士郎が美森の車椅子を押してロビーに向かうと、其処には士郎と美森を待つ友奈達の姿があった。士郎は友奈達に声を掛けようとするが、それよりも早く。友奈が士郎達に気付いた。
「あ、シロー先輩!東郷さん!」
「よう、友奈」
「友奈ちゃん」
「し、シロー先輩……その」
「ああ、此処は友奈の定位置だもんな」
士郎は駆け寄って来た友奈に、立ち位置を譲った。美森の車椅子を押し始めた友奈。
友奈に押されて風の元に移動すると、風に美森は敬礼をした。
「東郷三森。衛宮士郎。只今、勇者部に帰還致しました」
風も美森のノリに乗って、敬礼をして答える。
「うむ。ご苦労である。東郷准尉、ブラウニー准尉」
「はい!」
「何で俺はブラウニーなんだよ」
「細かい事は気にしない気にしない。讃州中学のブラウニー」
「全く。相変わらずね。アンタ達」
士郎達のやり取りを見て、樹と友奈は顔を合わせて微笑んだ。
「これで、勇者部は完全復活だね」
【10】
病院の屋上。其処で勇者部一同は夕日に染まったオレンジ色の空と、それに照らされた街を眺めていた。
「風が気持ちいわね」
「そうだね!」
「ええ」
「夕方になって、やっと涼しくなったわね」
士郎はこの心地良い風に身を任せ、リラックスする友奈達に微笑むと、視線を街に移して呟いた。
「この街を、俺達が守ったんだな」
「うん。そうですよ」
「でも、街のみんなは、私達が戦ってたどころか、人類滅亡が懸かった戦いが起こってた事すら、知らないんだけどね」
「そうね。でも、私達が居なければ、この世界は無くなってた。此処で生活する人達は皆、死んでた。何が起こったかも知らずに」
それから少しの沈黙が続いた後、美森が口を開いた。
「私、初めての戦いの時、凄く怖かった。怖くて、逃げたくて……でも逃げられなくて、ずっと震えてた。友奈ちゃんが吹き飛ばされて、先輩が怪我をして、私は無我夢中に変身して戦った。私、ちゃんと勇者出来てたかな?」
不安そうな表情を浮かべた美森に、士郎は美森の頭を撫でで答えた。
「出来てたさ、美森は立派な勇者だ」
士郎の言葉に美森は顔を赤く染める。風と樹はそんな美森を羨ましそうに眺め、友奈は微笑んだ。
「ふふふ、シロー先輩も、立派な
「「正義の味方?」」
声をハマらせる風と夏凛。樹も首を傾げている。
「おい、今その話は止めろよ」
「なによ、なによ、気になるじゃない。言いなさいよ士郎。部長命令よ」
「そうよ、言いなさいよ」
士郎を部長命令で問い質す風。それに乗っかる夏凛、二人に便乗する様に【気になります】とスケッチブックに文字を書いて、士郎に見せる樹。
「はぁ……俺が二年より昔の記憶が無いのは、皆知っての通りだと思う」
士郎は観念して溜息を吐くと、語り出した。
「え?何それ、私初耳よ」
「そう言えば、三好は知らないんだっけか?まあ、その話はまた今度話すよ。それで、俺は勇者になる前日、夢を見たんだ」
「夢?」
「ああ、それがただの夢なのか、それとも昔の記憶なのかは定かではないけど。俺はその夢の中で、ある男と約束したんだ。正義の味方に成るって」
「へぇ……じゃあ、その約束は果たせた訳だ」
風の言葉に、士郎は首を横に振った。
「いや、まだだ」
「まだ?」
「ああ、確かに、正義の味方に成るって約束は果たせたけど……俺にはもう一つ、果たさなきゃ行けない約束があるだろ?」
士郎の言葉に、何かを思い出した様に、あっと呟く風。他のメンバーも遅れて思い出したようで、士郎はニヤリと笑った。
「今日は俺が本気で、お前達が食いたいもん好きなだけ食わせてやる。美森、風、手伝ってくれるんだろ?」
美森と風は一瞬顔を見合わせて頷くと、士郎の方を向き直して答えた。
「はい!」
「勿論よ」
【11】
それから勇者部一同はスーパーで買い物をして、士郎の家に集まり、士郎は約束通り美森と風の手伝いの下、短時間で大量の料理を作った。
「す、凄い……」
「私達が手伝ったとは言え……」
「よくもまぁ、短期間でこんな量作れたわね……」
「ま、まぁ……見た目が凄いのは認めるわよ」
【美味しそう】
士郎の料理に驚く友奈、美森、風。ツンデレ気味な意見を述べる夏凛と素直な意見を述べる樹。
「し、士郎……もう食べちゃって良いわよね!ね!つまみ食いを悉く阻止された私は、もう我慢の限界よ」
「アンタ、つまみ食いなんてしようとしてたの?」
「全部、私が封じました」
「流石、東郷さん!」
【お姉ちゃん……】
賑やかな勇者部を見て、少し頬を緩ませる士郎。
「ああ、皆席に着いて、冷めない内に食べよう」
士郎の言葉に友奈達は適当な位置に座り、食器を持つ。
「さてさて、どれから頂こうとかしら」
風が箸を握りながら呟いて品定めをしていると、正面に座る樹が掲げたスケッチブックの文字が目に入った。
【でも、友奈さんが……】
風と同じ様に、樹のスケッチブックを見た美森と夏凛はあっと小さく呟いて、友奈の方を向いた。すると、友奈は既に唐揚げを口に含んでいた。
「うん!?何これ!?凄く美味しい!!」
「「「え!?」」」
味を感じない筈の友奈の言葉に驚愕する、美森、風、樹、夏凛の四人。士郎だけは悪戯が成功した子供のように口元を緩ませていた。
「ゆ、友奈。あんた、味を感じない筈じゃなかったの?」
「もしかして、味覚が戻ったの?」
「え、あ、ううん。味は感じないよ。でも、この唐揚げは凄く美味しいよ!」
「ど、どういう事よ?」
友奈の言葉に困惑する四人。士郎が種明かしと言わんばかりに説明を始めた。
「今日の夕食は味はあまり拘らず、食感に拘ったんだよ」
「食感?」
「ああ、語るよりも、実際に食ってみた方が早いだろ、みんなも食ってみろよ」
士郎の言葉通り、友奈が食べた唐揚げを箸で掴み、口に入れる四人。そして唐揚げを咀嚼した瞬間、四人は目を見開いた。四人はよく味わったから唐揚げを飲み込んだ。
「こ、これは……」
「成る程、としか言いようがが無いわね」
「ええ、味は普通の唐揚げ……でも」
【食感が、普通のからあげじゃないよ!】
「これを形容する言葉が、思い浮かばない」
「ええ、外はカリッと、中はジューシーに」
「噛めば噛む程滲み出る肉汁」
【でも、そんな言葉じゃ言い表すことができない!】
全員から高評価を貰い、頬を緩ませた士郎は言った。
「味を感じないなら、食感で楽しませる。折角の祝勝会なんだ。味を感じない友奈に遠慮して、微妙な雰囲気なんてさせない」
「し、シロー先輩」
感激した眼差しで、士郎を見つめる友奈。
「で、でも、唐揚げは今日、病院帰りのスーパーて買ったもので作った筈」
「そ、そうよ。仕込みの時間なんて足りないのに、なんでこんなに美味しい唐揚げが作れたのよ!?」
美森と風の問いに、士郎はこう答えた。
「なに、イメージしただけさ」
『イメージ?』
士郎の言葉に、樹以外のメンバーが声をハモらせた。
「そうだ。イメージするのは常に完璧な料理。固定概念を取り払い、皆に美味いと言わせる料理を志向する。志向して、その料理を実現させる過程をイメージし、それをトレースする」
「す、凄いわね……これが、歴代最強勇者の力……」
【それ、関係あるのかな?】
「す、凄いですシロー先輩!この唐揚げだけで、私ごはん三杯は行けます!」
「ふっ、それは勿体ないぞ友奈」
「ふぇ?」
「ご覧の通り、此処に有る料理、その全てが俺が思考した完璧な料理。俺の持てる技術、経験全てを費やした料理の極地。お代わりは自由。俺に遠慮せず、この家に貯蔵された食材全てを空にするつもりで、恐れずにかかってこい!!」
この後、衛宮家に貯蔵された食材は空になった。
料理描写は苦手だ……
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