【1】
七月下旬。夏休み期間へと突入した勇者部は人類の敵、バーテックスを全て倒した事により、大赦から与えられた一泊二日の高級旅館の宿泊券を使い、海に来ていた。
友奈は美森が乗った砂浜用の車椅子を押しながら、砂浜を走っており。夏凛は皆より一足早く、海で泳ぎ。士郎はと言うと……
「ふぅ……日差しが心地良い」
サングラスを掛けながら、サマーベッドに寝転がり、日焼けをしていた。因みに風と樹は士郎の右側にパラソルを立てて、その下でかき氷を食べていた。
士郎は退院した後、後遺症が原因で学校に行ってない。所々が褐色に染まった体はとても目立つ。一応勇者部がお勤めで、急に居なくなる事の説明はされているものの、目立つ事は大赦としては好ましくない。
故に、士郎は夏休みに入るまでの期間、学校を公欠し、自宅での自習や鍛錬に時間を費やしていた。
そして今回、士郎は中途半端に褐色に変色した肌を目立たなくさせる為、全身日焼けさせて自然な形にしようとしている。
それが士郎が海に入らず、砂浜で遊ぶ訳でもなく、ずっと日焼けしている理由である。
「風ぅ〜、衛宮ぁ〜」
そんな中、夏凛が風と士郎の名を呼びながら、駆け寄って来た。
「アンタ達泳がないの?」
「ん?そうだな。折角海に来たんだし、一日日焼けして過ごすのも勿体無いしな」
夏凛の問いに士郎はサングラスを外し、そう答えた。
「なら、競泳よ、競泳。こっちの体は出来上がっているんだから。風、アンタもよ」
夏凛の言葉に風はニヤリと笑うと、左目の眼帯を抑えながら立ち上がり、言った。
「ほう、瀬戸の人魚と呼ばれたこの私相手に、競泳を望むか、良かろう。ならば格の違いを見せてやろうではないか!」
「呼ばれてんのか?」
【自称です】
樹のスケッチブックを見て、士郎と夏凛は風をジト目で睨んだ。風は誤魔化す様に咳払いをした。
「でも水泳は得意よ。幼稚園の時、五年くらいやってたし」
「風、お前……」
「幼稚園で留年したのね……」
「ち、違うから!冗談だからね!」
ジト目が憐れみの目に変わり、慌てて訂正する風。
「まあ、良いや。泳ぐなら早くしよう」
そう言って、サマーベッドから起き上がる士郎。風と夏凛の方へと歩み寄ると、軽いストレッチをした後、海面に進み始めた。
そしてふと、背後を振り向くと何時の間にか立ち上がり、砂浜の上で飛び跳ねている樹の姿が見えた。
「どうした樹?」
「あ、もしかして、砂浜が熱かった?」
風の問いに、何度も頷いて砂浜に走る樹。海に浸かると、ホッと息を吐いた。
「樹は家でも、砂浜でも可愛いわね」
風は、そんな樹の様子を見て、ほっこりとした表情で呟いた。
「風も可愛いと思うぞ?」
「そ、そう……ありがと」
士郎がしれっと言った言葉に、顔を士郎から逸らして礼を述べる風。その顔は赤く染まっていた。
「……アンタ、それ素で言ってるの?それともわざと?」
夏凛は士郎をジト目で睨んで聞いた。
「うん?俺は思った事を言ってるだけだぞ?」
「……そう。背中には気をつける事ね」
「なんでさ?」
呆れた様子の夏凛に、疑問の表情を浮かべる士郎。
「お、遂に勇者部のヒエラルキーが決定するんですか?」
そんな中、現れたのはビーチ用の車椅子に乗った美森と、その車椅子を押す友奈だった。
「ふん。優れた勇者は、水の中も生きるってのを、証明してあげるわ」
夏凛は無い胸を張って、宣言する。
「うん。頑張って夏凛ちゃん。シロー先輩も風先輩も頑張って下さい」
「あれ?そう言えば、先輩って泳げるんですか?」
「ん?ああ、泳ぎはあまり得意ではないな。でも、勇者部唯一の男として、負けられないな」
「大丈夫ですか?夏凛ちゃん、水泳選手並みの能力有りますよ?」
友奈の言葉に、士郎は「えっ?」と固まり、夏凛の方を向いた。
「マジか?」
「マジよ。ハンデは要るかしら?」
夏凛の提案に、士郎は少しだけ考え、不敵な笑みを浮かべて「要らない」と答えた。夏凛は「そう」と受けて立とうとばかりに、笑みを浮かべた。
一方、風は胸を隠しながら、周囲を見回していた。
「どうした?風」
「いや、あんま女子力振り撒くと、ナンパとかされそうだから、注意してるのよ」
「安心しろ、そんな時は俺が守るから」
士郎の言葉に、夏凛は再びジト目で士郎を睨むが、今回はそれに友奈、美森、樹が混ざっていた。
そして風はと言うと、再び顔を赤く染め……
「す、隙ありぃぃぃぃぃ」
海へと走って行った。
「あ、こら、卑怯よ!待てぇぇぇぇぇ!」
「あ、ちょっと待てよ!」
フライングした風を追う夏凛。その背後を士郎が追う。
【2】
結果を述べるなら、士郎が僅差で一位、夏凛が二位、風が最下位である。
特にルールも決めずに始めた競泳は、フライングした風に士郎と夏凛が追い付いてから、誰が一番速く泳げるのかではなく、誰が一番長く泳ぎ続けられるかを競うようになっていた。
その結果、全力で泳いでいた風が一番にリタイヤし、海岸に戻った頃に、夏凛がリタイヤして、その直後に士郎がリタイヤ。体力を使い果たした士郎と夏凛の二人は、ヘトヘトになりながら海岸に辿り着き、砂浜で大の字になって倒れた。
それから暫くして、体力が回復した夏凛は友奈と棒倒しに励んでおり……
「えへへ、また、私の勝ちだね!」
「くっ、これで九連敗……完成型勇者である私が、九・連・敗……」
連敗記録を更新し続けていた。
「まぁ、友奈ちゃんの棒倒しスキルは、子供達との砂遊びで鍛えられてるから……砂遊びランクAくらい持ってるんじゃないかな?」
「砂遊びに関して、友奈に勝てる奴はいないからな」
未だ一度も友奈に勝てず、落ち込んでる夏凛を、美森と士郎が励ました。
そんな二人の
「……うん、そう言う東郷達は、何処でこのスキルを習得したのよ、これ何?高松城?」
【友奈さんが砂遊びスキルAなら、とうごう先輩と士郎さんは城造りスキルEXくらい持ってそう】
「城を作るしろぉ……なに、高レベルなダジャレ?」
途中、風がつまらないギャグを言ったが、誰も突っ込む事は無かった。
【3】
それから暫く経ち。勇者部一同はスイカ割りに勤しんでいた。
「敵影見ゆ。目標二時の方向。おもぉ〜かぁ〜じぃ〜」
「相変わらずだな、美森……」
「それ、分かんないわよ」
「要約すると、樹ちゃんから見て右だよ!」
「友奈は分かるのね……」
挑戦者の樹に、士郎達……と言うよりも、主に美森が指示を出す。
「もどぉ、せぇ〜」
「あ、樹ちゃん。その方角でストップ」
「微速前進。よぉ〜そろぉ〜」
「ゆっくり、前に進んで」
「主砲、砲撃用意!」
「其処だよ!樹ちゃん!」
美森が専門的な指示を出し、それを友奈が要約する。その一連の出来事を士郎、風、夏凛は若干呆れつつも、感心した様子で眺めていた。
一方、指示を出されている樹は苦笑いを浮かべながらスイカの定位置に立ち、敬愛する姉の動作を真似て、手に握った木刀を大きく振り上げる。
尚、真似された当人はと言うと……
「あははは!何よ樹、その大袈裟な構えは」
右手で樹を指差し、左手で腹を抱えながら大笑いしていた。
「いや、風の真似だろ」
「え?私、あんなんなの?」
「あんなんだな」
そんなやり取りの後、樹は木刀を思いっきり振り下ろし、一発でスイカを二つに割った。
おおぉと、短い歓声を上げる勇者部。
「一発かよ。凄いな樹」
「流石、私の技を真似ただけの事はあるわね」
恋心を抱いた相手と、敬愛する姉の賞賛に樹は照れ臭そうに笑顔を浮かべた。
その後、樹が割ったスイカを食べ。海水浴を存分に満喫した勇者部。
気が付けば日が暮れ始め、空模様は快晴だった青空から、夕日に染まったオレンジ色の空へと変わっていた。
その時間にもなると、海水浴に訪れていた客達は皆帰路に着き、勇者部もビーチパラソルやサマーベッドなどを片付け、旅館に戻る準備を始めた。
「私、もうお腹ペコペコだよぉ……」
「夏凛齧って我慢したら?」
「食えないわよ?」
「パクッ……煮干しの味」
「本当に齧るな!」
「夏凛……アンタ、煮干しの食べ過ぎで、体が煮干しに成っちゃったの?」
「そんな訳ないでしょう!」
【ああ、だから、あんなに泳ぐの速かったんですね】
「関係無いわよ!?煮干しの日焼け止めクリームを塗ってただけよ!」
そんなやり取りを横目に見ながら、士郎は一人で夕日が沈む海を眺めていた美森の元に歩み寄り、声を掛けた。
「どうかしたか?」
「え?いえ。何でもないです」
「そうか……なら、旅館に帰ろう」
「はい。先輩」
高評価入っても対して平均評価上がらないのに、低評価入ったら滅茶苦茶下がりやがる……こいつ、俺のやる気削ぎにきやがる。それが赤評価とオレンジ評価の境目だから、余計に効く……