衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

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久々に5000文字を超えた。


第23話 守護者

【7】

 

 

 一体どれだけの時間が過ぎた?この男と剣を打ち合い始めて、どれだけの時間が流れた?分からない……けど、かなりの時間が経っている筈だ。

 

「はぁ!」

「くっ」

 

 士郎は男、エミヤに何度目か分からないが、また腹を刺された。士郎はカウンターとしてエミヤに出来た僅かな隙を突いて剣を振るう。剣はエミヤに届きはしたが、それは致命傷には至らなかった。

 

「くっ」

 

 エミヤは苦痛に顔を歪ませながら、士郎を蹴り飛ばした。士郎は何度も地面を跳ねながら、数十メートル先まで飛ばされた。

 

修復開始(トレース・オン)

 

 士郎は直ぐに肉体を、傷を負う前の肉体に上書きして傷を癒すと、次の瞬間に無数の矢が飛んで来た。咄嗟に矢を躱しつつ、士郎も弓矢を投影して応戦した。

 弓矢での応戦により、着弾した矢が周囲に土埃や爆炎を発生させ視界を悪くした。士郎は視界を確保すべく、見渡しの良い場所に移動する。

 

我が骨子は捻れ狂う(I am the bone of my sword.)

 

 土埃が魔力の風によって吹き飛ばされた。そしてその先には、士郎が良く知る捻れた剣を構えたエミヤの姿。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

 エミヤから放たれたカラドボルグを凌ぐ為、士郎は咄嗟にアイアスを展開する。

 衝突するカラドボルグとアイアス。その矛と盾の対決は一瞬で着いた。カラドボルグはアイアスを一枚、また一枚と紙切れの様に破壊して行く。

 士郎は直ぐに凌げないと考え、アイアスを斜めにずらし、カラドボルグの軌道を逸らす事に専念したが、軌道を逸らす前にアイアスが全て破壊され、士郎の右半身を抉り取った。

 大量に吹き出す夥しい量の血。常人なら発狂しかけない激痛に耐え、士郎は詠唱した。

 

修復開始(トレース・オン)

 

 すると、士郎の体は何事も無かったかのように修復されたが、休んでいる暇は無い。

 今度は四つの巨剣が士郎に向かって、飛んで来た。士郎はそれを投影した干将・莫耶で逸らし、エミヤの元に走った。その道すがら無数の剣が降り注いだが、士郎は致命傷になる物以外は全て無視し、無数の傷を作りながらエミヤの元に走る。

 剣の雨が止んだ頃、士郎は空かさず体を修復し、エミヤに斬り掛かる。右手の一振りをエミヤは弾き、カウンターとして士郎の脇腹目掛けて突きを放つ。士郎は避けず、寧ろ前に進み。エミヤの剣に刺されるが、同時にエミヤに一太刀与えた。

 

「ちっ」

 

 それは致命傷になり得なかったものの、エミヤは舌打ちをして退がる。エミヤが退がった分だけ前に進む士郎。隙だらけの体に剣が突き立てられるが、それに構わず、カウンターを放つ。

 これを幾度と繰り返した。肉を切って骨を断つと言う言葉が存在するが、士郎がやっている事はその逆。骨を切らせて肉を断つ戦術とも呼べないやり方で、士郎は着々とエミヤに傷を与えて行った。

 

「……正気の沙汰とは思えないな。精神(この)世界では痛みを感じる筈だ。それも直接精神体に受けた傷は、肉体で受けた傷の数倍の痛みを感じ、この世界では痛みが麻痺する事などない」

 

 士郎の身体能力や戦闘技術は勇者システム改め、英霊システムの多用により、エミヤと互角にまで登り詰めた。

 然し、幾ら英霊エミヤの戦闘技術を得て、肉体がエミヤに近付いたとは言えど、その身体能力を現実世界で発揮すれば体が悲鳴をあげる……だが、精神(この)世界ではその制約は無い。この世界では限界を超えた力を発揮したからと言って、痛みが発生する訳ではないのだから。

 故に身体能力、戦闘技術はエミヤと互角である……のだが、それでも士郎は骨を切らせて肉を断つという手段でしか、エミヤに傷を与えられなかった。それは何故か?単純に戦闘経験の差にあった。

 幾ら身体能力、戦闘技術が互角でも、それを十全に使い熟すだけの経験が士郎には不足していた。

 

「だから何だ!身体能力、戦闘技術は確かに互角だ。けど、戦闘経験で負けてる俺は、こんなやり方でしかお前に勝てない!修復開始(トレース・オン)!」

 

 士郎は傷を修復してエミヤを睨む。エミヤも士郎を睨み返し、考えた。

 

(こいつ、傷を負えば負う程、修復のスピードが上がり、それに比例して投影速度も速まっている。それも質を落とさずに……より効率的に、より高質な物へと昇華しつつある)

 

 エミヤと士郎の剣が相殺して砕け散る。エミヤは咄嗟に新しい剣を投影しようとするが、それより速く。投影を終えた士郎が突きを放つ。

 

(いや、既に昇華している。少なくとも、投影スピードに関して言えば、私より速い)

 

 エミヤは突きを躱し、士郎の腕を斬り落とす。

 

「ぐぁぁぁ」

 

 士郎は激痛のあまりに悲鳴をあげるが、次の瞬間には斬り落とされた筈の腕が治っていた。

 

(もはや、修復するのに詠唱は要らないのか)

 

 詠唱を唱えずに傷の修復が可能になった。それはつまり、詠唱に要する一、二秒の時間短縮が意味される。その差は大きく。士郎は徐々にエミヤを押し始めた。

 防戦になりつつあるエミヤ。だが、士郎の方にも余裕が無かった。

 

(押し切れない。けど食らい付け!今、この機を流せば負ける!)

 

 士郎の集中力は既に限界を迎えつつあった。

 投影魔術と肉体修復。この二つは共に鮮明なイメージが必要である。通常は何度も連続して行える様なものではない。遠の昔に集中力が切れていてもおかしくなかった。

 けれど、士郎は友奈達を守る為、気合いと根性で集中力を維持し続けていたが、それも唐突に終わりを迎えた。

 

「あ」

 

 砕け散った剣を再び投影しようとした時、士郎は投影に失敗した。形取っていた魔力は投影失敗により拡散し、エミヤの剣が目前にまで迫った。

 その一連の出来事は、士郎にはビデオのスロー再生の様にゆっくりと見えた。

 

(……これが走馬灯ってやつか)

 

 このまま行けば、エミヤの剣は士郎の首を刎ねるだろう。そうすれば、流石の士郎と言えど、肉体の修復など出来ない。躱す、止める、流す。死を回避する方法は思い付いても、それを実行するだけの()()が足りない。

 

(ごめん皆……俺、死んだ(負けた)

 

 士郎はゆっくりと目を閉じて、此処には居ない勇者部メンバーに謝った。

 思い浮かべるのは今までの日常。朝は早起きが苦手な友奈に起こされる事もあれば、友奈の家に行って友奈を起こす事もあった。

 美森と台所に並び、朝食を作り二人、乃至(ないし)は三人で朝食を食べ、三人揃って学校に行く。通学路では美森の車椅子を友奈が押し、士郎はそれを側で見守りながら雑談を楽しむ。

 それから部室で依頼の確認を行い、放課後の活動予定を決める。依頼が無ければ、その日の放課後はダラダラして過ごすのが決定する。それから教室に戻り、授業を受ける。

 放課後には依頼があれば依頼をこなし、無ければ雑談やカードゲームなどを行う。

 学校が終われば、通学路を朝と同じ様子で歩き、朝と同じ様に夕食を済ませる。

 休日は勇者部メンバーで何処かに遊びに行く時もあれば、幼稚園や児童館で勇者部の活動(ボランティア)を行う時もある。

 そんな賑やかで、掛け替えの無い日常を思い出しながら、士郎は(その時)を待ち、思い出した。

 

『心して掛かれ、衛宮士郎。貴様が私に敗北すれば、貴様の親しい者を、他ならぬ貴様自身の手で殺める事になるかも知れんのだから』

 

 戦いが始まる前、エミヤに言われた言葉を……

 士郎は目を開いた。その瞳からは諦めるという意思が消え、新たに戦意が燃えていた。その事にエミヤは少し驚いた。

 

(消えていた戦意が蘇っただと?だが遅い。数瞬後には奴の首を刎ねる。無駄な足掻きだ)

 

 だがそれだけだった。幾ら戦意が蘇ろうと、この状況を覆す事は出来ない。

 

(考える時間は無い。だから考えるという過程を省略し、実行という過程すらも省略し、結果だけを生み出すしかない!)

 

 故に士郎は本能のまま、()()()()()()()。この状況を打破するだけの力を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビデオをスロー再生した様な光景に変わりはない。然し、その中で、士郎は()()()()()。そしてエミヤの刃を躱した。

 

「なっ!?」

 

 エミヤを目を見開いて驚愕した。

 躱せる筈がない。仮に逆の立場だったとしたら、自分でも回避出来なかった攻撃。それを士郎は躱した。

 

(さっきのはまさか空間転移か、固有時制御か?いや、そんな馬鹿な話があるか。確かに此処は奴の精神世界。だが、それを差し引いても、基本()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。例外として肉体修復があるが、あれは此処が奴の精神世界だからこそ成り立つ物だ。この世界の主が奴であるからこそ、奴は心が折れ、死を受け入れない限りは死ぬ事はない)

 

 つまり、士郎は自ら肉体修復を行わなくても、士郎が生を望み続ける限りは死ぬ事は無かったのだ。

 肉体修復もエミヤに殺されない為、生きる(たたかう)為の肉体を望んだからこそ、出来た物だ。

 だから、士郎がこの世界を思い通りにする事は出来ない。自分の精神世界と言えど、自分に出来る事以上の事は出来ないのだ。

 だからこそ、エミヤは驚いたのだ。

 そして士郎はそんな隙を見逃さず。エミヤに詰め寄る。右手に握るのは干将・莫耶ではなく、一本の短検。それをエミヤに突き放つ。

 エミヤは当然、士郎の突きを回避しようとするが、それは敵わず。腹部に短剣が突き刺さる。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神秘轢断(ファンタズム・パニッシュメント)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 士郎は短剣の真名を解放した。その直後、エミヤはまるで、体の内側から爆弾が爆発した様な衝撃を受け、大量の血を吐き、身体中の血管が破裂して、血を吹き出した。

 

「がはぁ……」

 

 手から干将・莫耶が零れ落ち、エミヤは倒れると、瞬く間に血の水溜りを作った。

 勝負は着いた。士郎はそう理解すると、崩れるように座り込んだ。

 

「……クロノス・ローズに、ファンタズム・パニッシュメント……どちらも()()()()()()()()だ。少なくとも、私の宝具ではない。何をした?」

 

 エミヤは倒れたまま、士郎を睨んで尋ねた。

 クロノス・ローズに、ファンタズム・パニッシュメント。それが何かと聞かれても、士郎自身にも分からなかった。

 

「ぐっ……」

 

 突如、士郎は激しい頭痛を感じ頭を抑える。

 そしてクロノス・ローズに、ファンタズム・パニッシュメント。それが何なのか、何故それを使えたのか、徐々に理解していった。そして士郎は、無意識の内に理解した事を呟いていた。

 

時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)は、自身の時間流を操作する宝具……神秘轢断(ファンタズム・パニッシュメント)は切断と結合、その二つの性質を合わせた対人宝具……」

 

 エミヤは士郎の言葉を聞き、目を見開いた。

 

「それは、切嗣の……」

 

 生前の出来事を殆ど忘れてしまっているエミヤだが、それでも、自分の父である衛宮切嗣がどんな魔術を使っていたのか、どんな起源を持っていたのか、知っていた。故にエミヤは理解した。

 

(成る程。衛宮士郎(おれ)が英霊と成ったのと同じ様に、何処かの並行世界で、衛宮切嗣(じいさん)が英霊と成った世界が有っても可笑しくない。あの小僧は、衛宮士郎(わたし)の能力では私に勝てないと判断し、衛宮切嗣(他のエミヤ)から力を引き出したのか……英霊システム。あれは使用者と縁が強い英霊の力しか引き出せない。至るかも知らない未来の自分と、血の繋がりは無くとも親であり、その生涯を決定付ける呪い(願い)を受け継いだ存在。その二つの力をその身に宿す。有り得ない話では無いな。だが、それでも、あの一瞬で衛宮切嗣の力を引き出せた事には疑問が残る)

 

 エミヤは消え始めた体を見て、改めて士郎の顔を見た。その顔には魔術刻印と呼ばれる模様が浮かんでいた。

 

(あれは、凛から移植された物でも、世界と契約した際に得た刻印とも異なる……まさか、切嗣の物か?)

 

 パズルのピースが揃った。

 

(そう言う事か。あの小僧は知ってか、知らずか、切嗣から魔術刻印を受け継いでいた。その魔術刻印を触媒に衛宮切嗣(英霊エミヤ)の力を引き出したという訳か……全く、予想もしなかった結末だな)

 

 そこまで考えた後、エミヤは笑みを浮かべながら、光の粒子と成って消え去った。

 

「終わった……のか?」

 

 士郎は疲れ切りつつも、やり切った表情で呟くと、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以下解説。
言ってしまえば、英霊システムはクラスカードと似たような物です。
ただし、英霊システムを使用出来る人物は何かしらの英霊と縁を持った人物(例:先祖や子孫、関係が深い人物など)
縁が深ければ深い程、引き出せる英霊の力が大きくなる。
そしてシステムを使い続ければ、肉体や人格が侵食されるリスクが存在する。

総力戦後に魔術回路の暴走的な事が起こったのは、満開を使い英霊エミヤを上回る能力を引き出した反動。

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