衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

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第27話 暴走

【8】

 

 

 時は少し遡る。

 士郎は精霊の真実、満開の後遺症である散華が治らない事を確信し、誰が見ても精神が不安定な状態だった風の様子を見る為、風と樹が住まうマンションに向かっていた。

 そしてその最中、風と樹が住まうマンションの前で立ち尽くす夏凛の後ろ姿が目に映った。

 

「ん?三好じゃないか」

「衛宮?なんでこんな所に?」

 

 士郎が声をかけると、夏凛を背後を振り向いた。

 

「ああ、ちょっと風の様子を見にな」

「ふーん。そう」

 

 夏凛はそう言うと、士郎の方へと歩き、士郎とすれ違い様に言った。

 

「私も、風の様子を見に来たんだけど、衛宮が有るなら安心ね」

「……そうだと、良いんだけどな」

「ま、後は任せたわ」

「三好」

 

 そう言って、立ち去ろうとする夏凛を士郎は呼び止めた。夏凛は足を止めて、何?と士郎の方を向く。

 

「実はだな……」

 

 士郎は伝えようとした。散華の事を、精霊の事を、同じ勇者である夏凛には知っておく権利が有ると思ったから……

 士郎はいざ、口に出そうとした時、背筋が凍てつく様な悪寒を感じた。そして反射的にマンションの風達が住まう部屋のベランダを見た瞬間、ベランダから勇者に変身した風が飛び出した。

 

「なっ!?」

「風!?」

 

 士郎と夏凛は驚き、風は士郎と夏凛の姿に気付かないまま、跳んで行った。

 

「あっちは、大赦本部がある場所?」

 

 夏凛の言葉を聞き、士郎は直ぐに大赦を潰す気なのだと、風の行動理由を察した。

 

「追うぞ!三好!」

「ええ!」

 

 士郎は勇者に変身しようとスマホを取り出して、直ぐにアプリが使えない事を思い出し、舌打ちをしてスマホをポケットに仕舞うと、

 

強化(トレース)ーー」

 

 その瞬間、やめろ!と声が聞こえた様な気がするが、士郎はこれを無視した。

 

開始(オン)

 

 士郎は肉体を強化して、勇者に変身した夏凛と共に風を追った。

 

「ちょっ!?アンタ何で変身しないのよ?ってか、その身体能力は何!?」

 

 士郎が勇者に変身しない事、勇者に変身せずに勇者並みの身体能力を発揮した事に、夏凛は驚き訪ねるが、士郎は説明は後だと言って、風を追った。

 勇者は一度のジャンプで数十メートル移動出来る。英霊は一度のジャンプで勇者の倍の距離移動出来る。

 本来、肉体が英霊エミヤに近付いている士郎は、強化を施せばエミヤ並みの身体能力や技術を引き出せた筈だったのだが、今は精々勇者並みの力しか発揮出来なかった。それが最近英霊の力を使わなかった事による物なのか、それともエミヤが意図的に士郎に枷を付けているのか定かではないが、今はこれで十分だと士郎は考える事にした。

 

「見えた」

 

 士郎は風の後ろ姿を捉えると、()()()()()()無名の剣を投影し、風に投擲した。風は反応に遅れ、剣の直撃を受けると道路に着地した。

 風は士郎と夏凛を一瞥すると、再び大赦に向かおうとする。それを士郎が呼び止めた。

 

「待て風!何をするつもりだ!」

「決まってる!大赦を潰す!」

「大赦を潰すですって!?何考えてんのアンタ!」

「大赦は私達を騙してた!満開の後遺症は治らない!」

「え?」

「だから、邪魔するな!」

 

 風は叫び、夏凛に剣を振り下ろす。士郎は夏凛を庇う様に間に入り、咄嗟に投影した干将・莫耶で風の剣を受け止めるが……力負けして道路の端まで吹き飛んだ。

 

「衛宮!」

 

 夏凛が士郎の方に駆け寄り、風はその隙に大赦の方に向かって跳び去った。

 

「……思ったより、弱体化してるな」

 

 本来なら、軽々と受け止められた筈の攻撃で吹き飛ばされた士郎はぼやきながら、夏凛の手に引かれて立ち上がると、再び風を追った。

 そして再び風に追い付いた場所、其処は二年前に倒壊した瀬戸大橋だった。其処で士郎は風の前に立ちはだかり、風の背後には夏凛が立ちはだかった。

 

「其処を退いて!」

「退かない」

「なら、押し通す!」

 

 風はそう言って、士郎に精霊バリアが無い事を忘れて斬りかかる。

 

投影開始(トレース・オン)

 

 士郎は風の剣を受け止め、干将・莫耶は砕け散った。

 

「投影のランクも落ちてるな」

 

 そう呟いている間に、風が再び剣を振るう。

 先程と同じ様に干将・莫耶を投影して、剣を受け止め、そして砕け散る。

 それからも風は剣を振るう。士郎は干将・莫耶を投影して受け止める。それの繰り返しだった。干将・莫耶は時には士郎の手から弾かれ、時には砕かれた。それが続いて暫くした頃、風は剣を止めた。

 

「二十七本。それだけ弾いて、まだ有るの?」

「ああ、俺の魔力が続く限り、無限に出せる」

「風!アンタ良い加減にしなさい!大赦を潰すなんて、何考えてんのよ!」

 

 そんなやり取りの直後、士郎と風の戦いを見守っていた夏凛が怒鳴った。風は夏凛に煩いと怒鳴り返した。

 

「大赦は私達を騙してた!満開の後遺症と、それが治らない事を知ってて黙ってた!」

「何を根拠に」

「根拠なら有る」

「え?」

「勇者は俺達以前にも存在した。満開を使い、その後遺症に体を蝕まれた勇者が」

「……そんな」

 

 夏凛は信じられないと表情を浮かべ、士郎を見る。士郎は風の言う事は真実だと、肯定した。

 

「そう、だから道を開けなさい!」

「断る!」

 

 再び斬り合って、干将・莫耶が砕ける。

 

「こんな事をして何になる!」

「分からない!けど、大赦の所為で樹が声を失った!夢を諦めなくちゃ行けなくなった!世界を救った代償がこれかぁぁぁ!」

 

 風は鬱憤を晴らすかの如く、ただ闇雲に剣を振るった。本来なら、ただ闇雲に振るわれた剣など、士郎に取っては脅威ですら無いのだが、今は違った。力も武器の質でも劣っている士郎は干将・莫耶を砕かれ、次の干将・莫耶を用意する前に胴体を()()()()

 

「がぁ」

「衛宮!」

 

 咄嗟に後退した物の、決して浅くない傷を負った士郎。

 

「え?」

 

 風は士郎の血飛沫を浴びて、呆然となった。そして自分が犯してしまった出来事を理解すると、剣から手を離して顔を青くする。

 士郎が重症である事は誰の目から見ても明らかだ。内臓も傷付いている筈だ……

 

「士郎を……殺した?私が……この手で?」

「安心、しろ……死んでない」

 

 顔を伏せて取り乱しかけた風に、士郎が安心させる様に声をかけた。風はその声に反応して顔を上げる。すると、士郎の傷が黄金の光に包まれ、光の糸が傷口を縫い合わせ、士郎の傷を塞いだ。

 

「衛宮、アンタ傷が……」

「はは、成る程。俺には精霊は居ないけど、それでも戦わせ続ける力は有ったみたいだな」

 

 アヴァロンシステム。英霊システムに搭載された超回復システム。それが英霊の居ない士郎を死なせずに戦わせ続ける手段だったのだと、士郎は理解すると、口元の血を拭って言った。

 

「冷静になれ、風。例え満開の後遺症の事を知ってても、俺達は戦ってた。満開を使ってた。世界を救う為には満開を使うしか無かったのなら、満開を使ってた。誰一人例外無く、勇者部の一員ならな」

「それでも!知ってたら私は皆を巻き込まなかった!私一人で戦っていた」

 

 ふざけるな!と士郎は激怒した。

 

「そうなったらお前は一人で何度も満開して、何度も散華して、樹を悲しませていた。俺もそうだ。風、俺はお前を止めるぞ。此処から先を通りたければ、俺を殺すんだな。もっとも、俺が死ねるならの話だけどな」

 

 士郎は風の前に立ちはだかる。今まではエミヤの言った精霊バリアを貫通出来る唯一の武器が宝具。その言葉が引っかかって士郎は今まで攻勢に出れなかった。

 然し、攻勢に出る必要は無くなった。精霊バリアと違って、士郎のアヴァロンシステムの超回復の能力は、必ず死を回避する程の物では無いかも知れない。けど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう考え、士郎は両手を広げ、無抵抗の意思を示す事で風を止めた。

 風は当然攻撃など出来ない。けど、大赦は憎い、潰したい。その為には士郎を押し通らないと行けない。けど超回復能力を有する士郎は生半可な攻撃では止まらない。手足を切り落とすくらいの攻撃をしなければ止まらない……そんなの出来ない。そんな二律背反に近い思考の沼に風は嵌った。

 そんな風を救ったのは、樹だった。士郎と風の戦いの余波、それに気付いた友奈と樹は勇者に変身して、余波の根源たる場所に向かい、漸く士郎達の場所に駆け付けたのだった。

 状況は分からない。けど、尊敬する姉が何かに悩み、葛藤した様子だったので、樹は姉を落ち着かせる為に背後から抱き着いた。

 

「樹……」

「風先輩。私達の戦いは終わりました。もう、何も失う物はないんです」

 

 大凡の概要を察した友奈は、風にそう語りかけた。

 

「でも、私が勇者部なんて作らなければ……」

「風。勇者部を作らなければなんて、悲しい事言うなよ」

 

 士郎の言葉に続くように、樹はスマホに文字を打ち、風に見せた。

 

【そうだよ。お姉ちゃん。勇者部の皆と出会わなければ、きっと歌手になる夢も持たなかった。私は勇者部に入ったこと、後悔してないよ】

「私もです。風先輩。だから、もう自分を責めないで下さい」

 

 その言葉がトドメとなり、風は膝を突き、その瞳から溢れる殺意は大粒の涙へと変わり、地面を濡らした。

 そんな、声を上げて泣き噦る風と声は出せない物の、風と一緒に泣く樹を見て、士郎は呟いた。

 

「もう大丈夫だな」

「そうですね……って、シロー先輩その血どうしたんですか!?」

「今頃気付いたのね……」

 

 士郎の横一閃に切り裂かれた血塗れのシャツを見て、友奈は驚き、夏凛は今まで士郎の格好に気付かなかった友奈に呆れていた。

 友奈の反応に苦笑いしつつ、士郎はこれまでの経緯を話そうとしたその瞬間、遠くから轟音が鳴り響いた。

 なんだ?と呟いたのとほぼ同時に、全員の端末からアラームが鳴り響いた。

 もう聞くことは無いと思っていたアラームとは、少し違うアラーム音。只事では無いと士郎は端末を見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特別警報発令!

 

 そう表示されていた。

 一難去ってまた一難。

 今度こそ終わりと思った戦いが、また始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメで特別警報の音聞いた時、びっくりし過ぎて鳥肌立った。
おのれぇ、大赦ぁぁぁぁぁ!びっくりして散華した寿命返せ!

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