衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

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第28話 真実

【1】

 

 時は数時間程遡る。

 精霊に関する考察を述べた後、美森は大赦の経営する円鶴中央病院、その最上階の病室に訪れていた。

 

「ヤッホー。待っていたよ」

 

 この病室の主、乃木園子は美森に向かって微笑んだ。

 

「この前は会えた事が嬉し過ぎて、話が飛び飛びで時間も無かったけど、今日は話を纏めてるし、時間もたっぷりあるから、遠慮なく聞きたい事を聞いてね。わっしー……いや、今は東郷さんだったね」

 

 何処か、悲しそうに美森の呼び名を訂正した園子に、美森はわっしーで構わないと告げた。

 

「記憶の飛んだ空白の二年間、その間私は鷲尾須美という名だったのだから」

「わぉ〜。よく調べたね」

「適性検査で、高い勇者適性を叩き出した私は、大赦の中で影響力の高い鷲尾家に養子として引き取られ、其処で御役目に着いた」

 

 園子は素直に感心した様子で、その通りだよと頷いた。

 

「先輩の事については何も分からなかったけど、私達は貴方達と共に戦い、散華による影響で記憶を、そして足の機能を失った……」

「そうだね。わっしーについてはその通りだけど、わっしーの言う先輩。士郎さんについては少し事情が違うね」

 

 え?っと美森は驚きの表情を浮かべた。

 

「今、わっしー達が使っている勇者システムが完成する前、私達はバーテックスを結界の外に追い出すのがやっとだった。でも、ただバーテックスを追い出すだけじゃ、また直ぐにバーテックスが結界内に侵入してくる。でも私達の力じゃ、バーテックスに大ダメージを与えられるだけの力は無かった。だから、神樹様はバーテックスに大ダメージを与えられる存在を召喚した」

「召喚?何を?」

「私達、先代勇者の師匠……錬鉄の守護者、()()()()

「衛宮……士郎?」

 

 予想だにしなかった回答に、美森は困惑した。

 

「そう、西暦の時代。無限に襲い掛かってくるバーテックスに対抗する力を持っていた数少ない人間の一人。師匠は初代勇者達と共に戦い、その過程でより強い力を得る為に、死後の安らぎを神樹様に売る事で契約した」

「死後の安らぎ?それって、どういう事?」

「多分、わっしーの想像通りだと思うよ。天国や地獄、輪廻転生の輪から離れ、師匠は神樹様の危機に神樹様を守る為に戦う守護者として、戦う事を義務付けられた」

「そ、そんなのって……」

「地獄だよね。師匠は只でさえ、世界と契約した後も人類の為に戦った。戦って、戦って、戦い続けて、最期は自分を犠牲にして息を引き取った。その後の死後も神樹様を守る為に戦い続けた。時には一人で、時には歴代勇者と共に、私達の時代も共に戦った。でも、師匠は全てのバーテックスを倒す前に死んだ。正確には、現世に留まる魔力が無くなって、座と呼ばれる場所に帰ったんだけどね……でも、まだ多くのバーテックスが残っていたから、神樹様は直ぐに師匠を召喚しようとした。けれども、それは叶わなかった。師匠を召喚するだけの余力がなかった。召喚出来たのは……世界と契約して、守護者と成る前の衛宮士郎」

「……つまり、先輩はこの時代の人間じゃない?」

「そう言う事に成るね……多分、わっしーは士郎さんの記憶喪失が散華による物だと思ってたんでしょう?」

 

 ええと頷く美森。

 

「それは違うよ。士郎さんの記憶喪失、あれは不完全な召喚の所為で、起きた不安な事故による物」

「そんな……」

 

 園子から語られた事は確かにショックだった、然し、同時に美森の抱いていた疑問を一つ、解決させた。

 喪失した記憶の差、美森は勇者として活動していたと思われる二年間の記憶の喪失に対して、士郎は二年前以前の記憶を全て失った。記憶の一部と全ての記憶、同じ記憶を供物に捧げたにしては、この喪失の差は大き過ぎる。

 士郎の記憶喪失が散華による物ではなく、召喚、時間跳躍による代償だと考えれば、納得出来なくはない。

 けれど、それは士郎が望んだ事ではなく、大赦や神樹によって無理矢理行われた事だと考えると、美森は大赦と神樹に怒りを覚え、その怒りを事故による物、故意にやった事ではないのだと考え怒りを鎮めた。

 

「話を戻すね。確かに召喚は失敗してしまった。でも、それはある意味で僥倖だった。少なくとも、大赦と神樹様にとっては」

「僥倖?」

「うん。召喚を試みる前、大赦はあるシステムを開発していた」

「精霊バリアと満開」

 

 美森の口から自然と出た言葉に、園子はそうだよと頷いた。

 

「大赦はこの先、師匠が敗北しても、私達勇者だけでもバーテックスを倒せるだけの能力を欲して、精霊バリアと満開システムを作った……話は変わるけど、勇者システムには、英霊システムと呼ばれる、原典となったシステムが存在する」

「英霊システム?」

「そう、西暦の時代、とある名家を中心に作られたそのシステムは、神樹様を通じて過去に偉業を成した英雄の力を引き出す物だった。でも、作ったは良いけど、そのシステムを使い熟せる人物は居なかった。ただ一人を除いて」

 

 ……まさかと美森は顔色を悪くした。

 

「士郎さんだけは、三〇〇年間誰も使えなかった英霊システムを使う事が出来た人物。それも引き出した英霊の能力は、大赦と神樹様が欲した師匠の能力……」

 

 更にと、園子は続けた。

 

「大赦は英霊システムをアップデートして、英霊システムに満開システムを搭載する事に成功した。英霊システムを使い、更に満開を使えば、その力は師匠の力を上回る」

「……英霊システムを使い続けるリスクは?」

「分からない……何せ、英霊システムをまともに使う事が出来たのは、士郎さんが初めてだからね。けど、大いなる力には、それ相応のリスクが存在する筈だよ」

 

 そう言われて、美森の脳裏には、あの夜見た血塗れの病室や変色した肌、そしてこないだの麻痺を思い浮かべた。

 あれが満開による後遺症なんかじゃなく、英霊システムを使い続けた反動だとするなら納得が行く。

 

「先輩の能力は凄まじいわ。私達勇者とは比べ物にならない身体能力、戦闘技術、そして何よりバーテックスの半身を吹き飛ばす程の威力を持った武器や、この世の物とは思えない黄金の剣」

 

 園子もそれを間近に見て来たのだろう、そうだねと美森の意見に同調した。

 

「きっと、士郎さんは英霊システムを通じて、師匠の身体能力や戦闘技術を得ていたんだろうね。武器に関しては、きっと宝具だね」

「ほうぐ?」

 

 初めて聞く単語に、美森は首を傾げる。

 

「うん。過去に逸話を残した英霊達が使用した武器や逸話が物質化した奇跡。師匠はそれを沢山持っていた」

「凄い人なのね……」

「うん。皆尊敬していたよ」

 

 何処か、遠くを見つめながら昔を懐かしむ様子の園子に、美森は胸を痛めた。

 

「ごめんなさい……何も覚えてなくて……」

「ううん。謝らないでわっしー。しょうがない事なんだから、わっしーは悪くないよ」

 

 園子の言葉に、美森は涙を堪えながら、ありがとうと感謝した。

 

「ねえ、その私達の師匠の話……ううん。二年前の私達の話を聞かせて貰えないかしら?」

「うん!良いよ!」

 

 それから園子は美森に、どんな訓練をしたのか、どんな風に戦ったのか、休みの日や学校ではどんな事をしていたのか、美森の忘れた思い出話を語った。

 そしてその話を聞けば聞く程、美森はエミヤの凄さを感じ、自分が知る士郎と、園子が語るエミヤの共通点を見つけて、やっぱりエミヤは士郎で、士郎はエミヤなんだと感じていた。

 そして、園子が存分に語り終えた頃、美森は素朴な疑問を投げかけた。

 

「ねぇ……師匠がそれだけの力を持っているなら、バーテックスを倒せたんじゃないの?」

 

 満開を使った時、美森達は封印の儀を行わずにバーテックスを倒せた。エミヤだけ、勇者だけなら兎も角、エミヤと勇者が協力すれば、バーテックスを倒す事くらい訳ない筈……美森はその考えに至り、疑問に思った。

 

「……そうだね。きっと倒せた筈だよ。私達の時には倒せなかったけど、勇者は過去にも何人も存在して、師匠と共に何十回、何百回とバーテックスと戦った筈だよ。でも……」

 

 園子は何かを言おうとして口籠る。そして暫く何かを考えた後、決意して口を開いた。

 

「落ち着いて聞いてね。この世界の秘密、成り立ちを……」

 

 

【2】

 

 

 空は夕日に染まり、オレンジ色の光が町を照らす頃、美森は勇者と成り、街を、海を越えて、四国を囲う壁の頂上に立っていた。

 

「見た限りは綺麗な景色ね……」

 

 美森は壁の先に見える海と山を見て呟き、壁の外に踏み出した。そして、先程まで見えていた海と山は消え、目の前に広がったのは、太陽の表面を思わせる灼熱の海と空を泳ぐ様に飛び交う白い生物だった。

 

「え?」

 

 美森は園子に聞いた言葉を思い出す。

 

『世界を滅亡に追いやったのは、ウイルスと言われてるけど、本当は現人類を滅ぼし、星の延命を願った天の神様が粛清の為に人類に仕向けた精霊種の頂点ーーバーテックスなんだよ』

「……嘘」

 

 白い生物ーー星屑が美森に襲い掛かる。美森は咄嗟に二丁拳銃を具現化させ、星屑を撃ち、迎撃した。

 

『それによって、人類は滅亡寸前に陥り、結果としては人類救済を願い、人類に味方してくれた神々が力を合わせ、四国を覆う巨大な防御結界を張った』

 

 美森は震える体で周囲を見渡して、見つけてしまった。

 

「あれは……バーテックスが生まれてる!?」

 

 無数の星屑が集合し、今まで戦ったバーテックスの体を形成している所を……

 そして、理解した。今までエミヤや歴代勇者達はバーテックスを倒せなかったんじゃない。倒したけど、こうやってまた生まれ、襲って来たのだと……

 美森は震える体で壁の中に戻った。

 

「戦いは終わらない……また、戦って、また満開して、また体の機能を失う……」

 

 美森は何回も満開して、何回も散華した結果、体は動かせず、病室で祀られた園子の姿を思い浮かべ、園子に自分や友奈、風、樹、夏凛、そして士郎の姿を重ねて恐怖した。自分達もああ成るのか、ああ成るまで戦わされるのか……

 

「おぇ……」

 

 そう考えた瞬間、美森は胃の中から込み上げた物を吐き出した。胃の中が空っぽになるまで、全て吐き出した。そして涙を流した。嫌だ、そんなの嫌だと。

 

「どうすれば良いの……また、あの苦痛を味わう……それも皆が、そして、どんなに苦痛を味わって、死にたいと願っても死なない……絶対、絶対に嫌!」

 

 考えろ、考えろと頭を掻き毟りながら、必死に思考する。そして見付けた。たった一つだけの方法を。

 園子は言った。どんな選択をしようと、私は味方だと。本来勇者が暴走した際、止めるべき存在がそう言ってくれた。なら、遠慮する必要は無い。

 

園子(あなた)勇者部部員(みんな)も、私が救う。こんな、救いの無い世界から……世界の為に戦った代償がこれなら、そんな世界要らないーー」

 

 美森は口元を拭い、決意した表情で立ち上がる。

 

「こんな世界。私が終わらせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以下独自解説。
まあ、そう言う訳で、本作に出て来るエミヤはバーテックスの襲撃を受けた平行世界で、守護者となったエミヤです。
士郎はわすゆ編で途中退場してしまったエミヤを再召喚しようとして、失敗してしまった事で300年前(正確には切嗣から魔術刻印を継承した平行世界)から無理矢理タイムスリップ?させられた挙句、記憶を失ってしまった不憫な少年です。
やっと伏線回収出来た……

そろそろストックが……無くなりそう。

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