BGMエミヤでどうぞ。
たった一文、それを詠唱しただけで、士郎の体は悲鳴を上げた。感じない筈の痛みを感じ、体から煙を発して肉体が侵食された。
「
それでも、士郎は詠唱を続けた。
「
士郎に気付いたバーテックスが、士郎に向かって攻撃した。
「
「
全身は煙に包まれ、肌の色は褐色に染まり、髪の色素は落ちた。
「
それでも、
「
無数の星屑と十二体のバーテックス。それを相手取る為には、これを使うしかないのだから……
「
星の数の敵を相手取るなら、星の数だけの武器を用意しなければ行けない。
「
そんな武器を用意出来る世界など……
「
此処しかない。
「
詠唱が完了した瞬間、左手の模様が強い光を放ち、世界を塗り替えた。
【3】
その世界には
個と世界、空想と現実、内と外を入れ替え、現実世界を心の在り方で塗り潰す魔術の最奥……固有結界。
此処は英霊エミヤの……そして俺の心象世界。
何も無い草原はきっと俺の始まりを表している。記憶が無く、自分が何者かも分からない
空に浮かぶ星々は俺達エミヤが得た物、喪った物、そして辿って来た困難の数を表し、月は衛宮切嗣の終着にして、衛宮士郎の始まりである、あの日の満月を表している。
そんな世界で黄昏ていると、星屑が襲い掛かって来た。
「散れ」
士郎は一言、そう呟くと星屑は
その一連の出来事を満開状態で宙を浮いて、見ていた士郎は散った星屑から、この世界に侵入してくる
「標的補足。武器選定ーー完了。投射準備ーー完了。星剣よ、降り注げ!」
士郎が号令を出すと、空に浮かんだ
それは正しく、剣の雨。空間を埋め尽くさんとした数千の星屑は瞬く間に塵と化し、バーテックスはその身に無数の剣が降り注ぎ、射手型の板、蠍型の尻尾、牡牛型の鐘など、其々のバーテックスが己が持つ特殊武器を破壊、又は拘束されて封じられた。
然し、それでもまた、星屑は無限に湧き出て来る。バーテックスは倒し切れていない。
今、この世界は壁の周辺に居たバーテックスと美森が開けた穴を巻き込んで展開している。あくまでエミヤの固有結界は周辺の人物を巻き込んで展開する形式だったが、今の士郎は満開を、神樹を通して、壁の穴からの侵入者は樹海ではなく、固有結界内に入って来る様に展開する事に成功している。
つまり、樹海では空いた穴からバーテックスが侵入する心配はもう無く、固有結界内に巻き込まなかった星屑が徘徊している程度、その程度なら風や樹がどうにかしてくれると信じて、士郎は倒しても倒しても、また侵入してくる星屑を葬った。
「くっ、流石に辛いな」
そう呟いた瞬間、満開が解けた。
「ちっ!片腕を持ってかれたか……もう一度だ!」
士郎は無数の星屑を葬った事で溜まった満開ゲージを解放して、再び満開を行なった。
そして考えた。このままではジリ貧だと。星屑を葬るのは簡単だが、葬っても葬っても、また湧き出る。このままでは体の全てを散華するのが先だと。
「ならば、その前にバーテックスを葬る!」
士郎は全てを使い切る覚悟を決めた。
「勇者部五箇条一つ!挨拶はきちんとぉぉぉ!」
士郎は満開を使い、
「勇者部五箇条一つ!なるべく諦めない!
士郎はイガリマを振るい、一気に五体のバーテックス。周囲にいた星屑を巻き込みながら殲滅した。
「勇者部五箇条一つ!よく寝て、よく食べる!」
更に満開を使い、もう一本の巨剣を作り出した。
「勇者部五箇条一つ!悩んだら相談!
シュルシャガナを振るい、更に五体のバーテックスを殲滅した。シュルシャガナの間合いに居た星屑は、シュルシャガナの炎に焼かれて炭へと化した。
「勇者部五箇条一つ!なせば大抵、何とかなる!」
地中から飛び出した魚型のバーテックス。それに向かって、士郎は黄金に輝く聖剣を振るった。
「
魚型のバーテックスは、周囲に居た星屑と共に灰となって消えた。
「がぁ……」
士郎は満開が解けて、飛行能力を失って落下する。
「まだまだぁぁぁぁ」
だが次の瞬間、再び花が咲き、地面に衝突する寸前に上空に飛び立ち、近付く星屑を睨んだ。
「降り注げ!」
その号令と共に、
「うぉぉぉぉぉ!」
士郎はそれを千単位の星を降らせて対処した。
そして再び満開が解ける。今度は落下中に満開を行う事が間に合わず、地面に体が叩き付けられた。咄嗟に受け身を取った物の体中の至る骨が折れ、内臓も幾つか損傷したが、直ぐに黄金の光と共に修復された。
士郎は体が修復されると、立ち上がろうとしたが、足に力が入らない事に気付き、目や耳に違和感を覚えた。
「くっ……追加で両足。それと目と耳を片方ずつ持ってかれたか」
だがそれでも、星屑は勿論、一番厄介なバーテックス。レオが残っている。
「まん……かい」
士郎は掠れた声でそう呟き、七度目の満開を発動させた。すると、力の入らなかった手足に力が戻り、目も耳もはっきり見聞きする事が出来る様に成った。
「……成る程、先程までは余裕が無くて気付かなかったが、どうやら俺は満開によって、神樹様に体を捧げるのではなく、英霊エミヤに体を明け渡していたんだな。いや、正確には戦い続けるのに不必要な物は神樹様に、必要な物は英霊エミヤにか……でなければ、この姿になっても痛みや生存本能が戻らない意味に説明がつかない」
士郎は満開を使う事で散華した体の機能は戻る。それは勇者達は満開を使う事で神に近付くのに対して、士郎の使う英霊システムでは満開を使う事で神と使用している英霊に近付く為である。
戦いに不要な物は神樹が取り、必要な部分は英霊が取る。つまり、士郎は手足などを散華すれば、それは供物として捧げたのではなく、ただ自分自身の意思で動かさなくなった訳である。満開を使えば英霊に近付く為、自分の意思で動かさなくなった手足が一時的に動かせる様に成る。
「まあ、返礼として俺の全てを差し出すと決めてたんだ。体を神樹様に捧げるのも、あいつに明け渡すのも、大して変わりはないだろう」
そんな事を呟きながらも、士郎は不敵に笑って敵に立ち向かう。
先程倒したばかりの十一種のバーテックスは既に侵入してきた。先程の手応えからして、勇者部メンバーと共に倒したバーテックスと比べて、幾分かグレードダウンしているのだろう。然し、それでも星屑と比べれば脅威に変わらない。
士郎が世界を守る為の正義の味方にしろ、勇者部を守る正義の味方にしろ、守ると誓ったものの脅威と成るならば、倒すべき敵に変わりはない。
「付き合って貰うぞバーテックス。俺の
敵の数だけ、
もう、士郎は自分が何の為に戦っているのか分からない。勇者部との記憶を散華したからだ。それでも士郎は戦い続ける。何か、守らねばならない物があると、知っているから……
士郎の戦いはまだ、始まったばかりであった。
固有結界の時間が
戦いが始まって十分、樹海世界では漸く、
士郎のやった事。
壁の穴の敵が固有結界内に侵入するように固有結界を展開。長時間維持の為に満開使用。
更に固有時制御の応用で、固有結界内の経過時間を加速させる。
満開を重ね掛けして、神造兵装(イガリマ、シュルシャガナ、エクスカリバー)の投影。固有結界内にもイガリマなどは存在したが、あくまでハリボテ。
満開が解けたら、結界が解ける前に次の満開を行なって結界を維持。
既に片腕、両足、片目、片耳、記憶を散華。
満開中は記憶以外は取り戻せる。
士郎が全てを散華すれば、英霊エミヤと成る。
衛宮士郎は英雄と成る……つまりそう言う事。
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