【3】
終わったと思ってた……もう終わったのだと、もう失う事は無いのだと、そう信じていた。それなのに……
空を見渡す限り、埋め尽くされた無数の星屑。その数は万を優に超えている。これを倒すには満開を使うしかない。
「そんなの……嫌」
風はその場に座り込み、顔を伏せた。
これ以上何かを失うくらいなら、もう滅びの時まで何もしない。星屑が風の方に群がった。風は何もしない。
どうせ死なない。精霊が守るから、寧ろ……
「殺せるなら殺して……こんな世界もう嫌……」
風はそう零した。
星屑が風の目前まで迫り、風を食らわんと大口を開けたその瞬間、緑色の糸に切り裂かれ、星屑は光となって消えた。
「樹……」
風が伏せた顔を上げた先には、風を守る様に立ち塞がり、星屑と対峙する樹の姿があった。樹は風の視線に気付くと、風を安心させるように微笑み、そのまま星屑に視線を戻して戦った。
襲い掛かる無数の星屑、倒しても倒しても、また次が来る。終わりの無い戦い。風はなんで、そこまで戦えるの?と疑問に思った。
樹を動かす原動力はただ一つ、姉の為。
両親が死んでから、必死に家事や料理を覚えて、大赦の御役目に就いて、必死に生まれ育った家を守ってくれた自慢の姉。
勇者の御役目が本格的に始まって、色んな悩みを抱えながらも、皆の前では明るく振舞って、頑張り続けた自慢の姉。
満開の後遺症の事を知って、勇者部の皆を巻き込んでしまった事を後悔して、大赦を潰そうとして、でも説得して、戦いが終わった。もう何も失う物は無いのだと、そう信じて落ち着きを取り戻した直後に、この襲来。戦えなくなるのもしょうがない。私だって心が折れそうだ。でも!
皆で守った世界を守るんだ!お姉ちゃんが挫けて、戦えないなら私がお姉ちゃんの分まで戦うんだ!樹はそう考え、折れそうな心を支え、逃げ出したくなる恐怖を抑え、決死の覚悟で星屑に立ち向かった。押し寄せる敵を斬り裂き、一匹足りとも風の下には近付けさせない。
其処に臆病で弱くて、何時も姉の背後を歩いてばかりの事で悩んでいた樹の姿は無い。有るのは勇敢で強い意志を持ち、姉の前に立って戦う
「樹……隣を立って歩くどころか……もう、前に立ってるじゃない」
風は目尻に涙を浮かべながら呟いた。
その間も樹は何度倒れても、何度も立ち上がり、戦い続けた。だが、人には誰しも限界がある。確かに風を守る。その一点に限れば、樹はその目的を果たせていただろう。然し姉を守り、世界も守る。その願いを両立させるには能力も、人手も足りなかった。
樹の顔の付近に空中投影されたスクリーンが表示される。それはあの総力戦の時に表示された物と同じ物だった。星屑が神樹の近くにまで迫っている事を報せる緊急アラートだ。
「っ!」
樹は焦り、迷った。
戦えない姉を置いて神樹様の方に向かうか、姉を守るか……
それは一瞬で判断すべき事案だった。神樹を守らなければ世界は滅びる。勇者には絶対に勇者を死なせない精霊の存在が居る。然し、樹は精霊が勇者を死なせない存在である事を知らなかった。樹にとって、神樹の方は向かうかどうかは、姉を見殺しにして世界を救うか否かの選択をしなければ行けない事柄だった。
当然樹は迷う。そして、その一瞬の迷いの隙を突く様に星屑が樹に体当たりをして、樹は吹き飛んだ。樹は直ぐに立ち上がろうと顔を上げる。すると目前には樹を食らわんと、大口を開けて迫った星屑の姿。
樹は顔を青くする。直ぐに立ち上がろうとするけど、恐怖で体が震え、上手く立ち上がれない。
食べられる!
樹がそう覚悟して目を閉じた直後、はぁ!と力が込められた声と共に振るわれた剣により、樹を食らわんとした星屑は斬り裂かれた。
恐る恐ると目を開く樹、其処には樹を守る様に立ち塞がり、星屑と対峙する風の姿があった。
「ごめんね。樹。もう大丈夫。妹に頼り切る弱い姉は居ないわ」
お姉ちゃん!と樹に声が出せたのであれば、歓喜に満ちた声で叫んでいただろう。
「此処に立っているのは、共に戦場を歩む、頼りになる姉よ」
樹は歓喜の表情で立ち上がる。
そして更に星屑が神樹に近付いた緊急アラートが現れる。その画面には最終警告と表示されていた。
「さあ、行くわよ樹。世界を救いに」
樹は力強く頷き、風と共に神樹の方へと駆け抜けた。周囲の星屑は気に留めず、只々一秒も早く神樹に到達する事を目指した。
そして目にした。神樹に群がらんとする無数の星屑を、このまま向かっても間に合わない。風は自身の満開ゲージを見るが、満開ゲージは四つ溜まっている物の、後一つ溜まっていなかった。風は舌打ちをして足に力を込める。
「間に合えぇぇぇぇ!」
風の決死の叫びは虚しく、星屑は神樹に到達するかに思われた……然し、突如として降り注いだ刀剣類の雨が星屑に襲い掛かり、殲滅した。
風は一瞬、士郎か夏凛の仕業かと思ったが、地面に突き刺さった刀剣類を見て、直ぐに違うと分かった。
「誰?」
そう呟いた直後、背後に誰かが降り立った気配を感じた。
「誰と、聞かれたら」
背後から聞きなれない声が聞こえた。
「答えてやるのが世の情け」
風と樹は背後を振り向く。
「世界の破壊を防ぐため」
振り向いた先に居たのは勇者部の誰でもない、見たこともない勇者。
「世界の平和を守るため」
その勇者は体中を包帯で包み、背後に無数の刀剣類を浮かべていた。
「愛と真実の正義を貫く」
勇者の背後から星屑が襲い掛かると、背後に浮かんでいた無数の刀剣類が星屑の方を向き、迎撃した。
「ラブリーチャーミーな助っ人役」
何処からともなく現れ、何事も無かったかの如く星屑を葬った彼女
「この
「乃木園子様が来たからには!」
「「もう安心だぜぇ!」」
葬った星屑達が二人の背後を鮮やかに飾りながら、紫と赤の勇者は爽快に名乗りを上げた。
「乃木……園子?それって東郷と友奈が言ってた先代勇者!」
「そんな細かい事はどうだった良いんだ」
「此処は私達に任せて、貴方達はわっしーの元に行きな!」
銀と園子は風と樹に背を向けて、そう言う。
「わっしー?」
「須美……美森の事だ」
「東郷の?」
「そう、これはあいつが引き起こしてしまった事だ。世界の真実を知り、それを受け止め切れずに暴走して、壁を破壊した」
「壁を!?」
風と樹は信じられないという表情を浮かべ、驚愕した。そして園子は唇を噛み締めて言った。
「お願い。わっしーを止めて。こんな結末、きっと誰も幸せになれない。私達じゃ止められない。止められるとするなら、貴方達、勇者部だけ……」
「……分かったわ。東郷の事は私が、勇者部部長の私が責任を持って止めるわ」
とても悲しそうな、或いは悔しそうな表情を浮かべた園子の頼みを、風は聞き入れた。
「行くわよ樹」
コクリと頷く樹。二人はこの場を園子と銀に任せ、壁の方へと走る。
風と樹が自分達を追い越し、親友の下へと向かったのを見送ると、園子と銀は視線を空を覆い尽くす星屑に向けた。
「いやぁ〜まさか、あのわっしーがこんな選択をするとは驚きだぜぇ〜」
「呑気な場合か!まあでも、確かにあんな愛国心に溢れた奴がこんな選択するとは、私も思わなかったけどよ」
私なら兎も角と付け足す銀。
「みのさんなら、間違い無く壁をズタズタにしてただろうからねぇ」
「まあな。私は感情的になりがちだし……」
「「……………」」
二人の間に短い沈黙が流れる。
「これ、流石に捌き切れないよね?」
「……そうだな。もう少し神樹様から遠ければやりようは有っただろうけど」
「ごめんなさい。みのさん」
「気にするな。私達二人で決めた事だろ?もし須美に会う事が出来たなら、真実を教えるって。勇者を辞める。大赦を潰す。そんな選択を選んだなら、私達は全力で須美の力に成るって……まあ、世界を滅ぼすって選択をするとは思わなかったけどな」
「それでも……もっと上手くやれたかも知れない」
「あーもう!辞め辞め。私達二人で決めた事なんだから、私達二人の責任だ。尻拭いも二人でする!」
そうだろ?と笑った銀のお陰で、園子の表情は軽くなった。
「ありがとう。みのさん」
「どういたしまして」
二人は顔を合わせ、園子は四肢の中で唯一動く左手で、銀は四肢の中で唯一動く右手で手を繋いだ。
「二人なら怖くないよね?」
「ああ、歴代勇者が、そしてお師匠が三〇〇年間守り続けた世界を、壊させはしない」
二人は決意を固めた。
「行くよみのさん!」
「おうよ!園子!」
二人は握った手を強く握り締め、叫んだ。
「「満開!」」
その直後、紫色の薔薇と牡丹が咲き誇り、槍の刃の様な巨大なオールが羽ばたく様に動く船と、無数の剣が集合して作られた船が宙に浮いていた。
「「うぉぉぉぉぉ!」」
二人は雄叫びを上げながら、星屑の群れに突っ込む。十回も満開して、十回も散華して、十分に満開と散華の恐怖を味わった。だがそれがなんだと、二人は友の為に戦う。友の為に恐れに打ち勝つ。
本当なら、自分達が美森の下に向かいたかった。美森の下に行って、自分達で説得したかった。でも、今の自分達は美森にとっては赤の他人に過ぎない。自分達の言葉よりも、風や樹の説得の方が心に響く。それが悔しくて、悲しくてしょうがなかった。
「私達の世界からぁぁぁ!」
「出て行けぇぇぇ!」
世界を壊させはしない。きっと風や樹などの勇者部が美森を説得すると信じて、二人は世界を守る為に戦う。
園子と銀が参戦!
家族の絆(言うまでもなく風と樹)
友の絆(友奈と美森と見せかけて、先代勇者達)
現在ゆゆゆ編最終話の部分を執筆中。
後3話か4話で終わります。
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