衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

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第32話 接触

【4】

 

 風と樹は壁に近付くにつれて、数を減らす星屑に違和感を感じながらも、美森のアイコンが表示された壁に向かって走った。

 そして壁に近付くと、その壁に開いた巨大な穴を見て驚愕した。美森が暴走して壁に穴を開けた事は聞いていた。でも、まさかここまで大きな穴が開いているとは思いもしなかった。その驚愕故に、風と樹は一旦足を止めて呆然と穴を見て、そしてある事に気付いた。

 

「……どういう事?」

 

 巨大に開いた穴から一匹の星屑も侵入して来ない事に。周囲を見渡すが、星屑の姿は無い。

 

【もしかして、今侵入してきたので全部って事?】

「そうだと良いわね」

 

 そう呟き、穴を見渡すとズドン、ズドンと大きな音が聞こえ、穴が広がったのが見えた。

 

「止めに行くわよ!」

 

 風と樹は穴に向かい走る……

 そして、景色が変わった。

 

「え?」

「っ!?」

 

 風と樹は思わず足を止めて、周囲を見渡した。其処は神樹の根や蔦が生い茂る樹海ではなく、月光に照らされた無数の剣が刺さる草原だった。

 ズドン、ズドンと轟音が鳴り響き、草原にクレーターを形成し、新しい墓標()が立った。

 風と樹は揃って顔を上げ、驚愕する。

 満開状態の士郎が、千を超える星屑とバーテックス相手に一人で戦っていたからだ。

 

「加勢しなきゃ!」

 

 そう叫んだ直後、士郎がバーテックスの自爆を喰らい、風と樹の下に落下した。

 

「士郎!」

 

 風と樹は慌てて、士郎の下に向かう。そして変わり果てた士郎の姿に驚愕する。

 

「し……ろう?」

 

 肌は褐色に染まり、髪の色は抜け落ち、目の色さえ変わっていた。

 

「誰か、居るのか?」

「私よ、風よ!」

「ふう?君は……私を知っているのか?」

 

 更に声すらも変わって、その言葉に風と樹は嫌な汗を流す。

 嫌な予感がし、そんな筈無い。何かの冗談だと考えたかった。然し……

 

「私にはもう、記憶が無い。私が何者で、何の為に戦うのか、誰の為に戦うのか、憶えていない」

 

 現実は非情であった。風は奥歯を噛み締めた。

 私が、私がもっと早く行動していれば……士郎はこんなに成るまで戦わずに済んだのでは?と考え、あの時塞ぎ込んで居た事を酷く後悔した。

 散華は決して治る事は無い……なら、私達の家で料理教室を開いた事、三人で過ごしたクリスマスや正月、バレンタインの思い出、学校での出来事も、勇者部としての活動の事も、皆で世界を救った事も全て……二度と思い出す事は無い……

 

「あぁぁぁぁ!」

 

 風は士郎の体を抱え、声にならない叫びを上げる。今日何度流したか分からない涙を流す。

 樹に肩を叩かれ、樹の方を見る。樹は何処かを指差しており、風は樹が指差した方を向くと、其処には数匹の星屑。それが何だと、風は思ったが直ぐに樹が何を見せたかったのか理解する事になる。何も無かった場所から星屑が現れたのだ。

 士郎は徐に立ち上がり、侵入してきた星屑に手を翳す。

 

「体は……剣で出来ている」

 

 その言葉と同時に、星々が星屑を討ち、士郎は力尽きた様に倒れかけ、その体を風が支えた。風はそのまま士郎を地面に寝かせると、涙を拭った。

 

「私の名前は犬吠埼風。隣に居るのは妹の樹よ。後な私達に任せて、アンタはゆっくり休みなさい」

 

 そう語りかけると、士郎は安らかな表情を浮かべた。

 

「そうか……俺は、お前達の為に戦ってたんだな……安心した」

 

 そう言葉を残すと、士郎はゆっくりと目を閉じて眠った。その表情はとても安らかで、もうこのまま、目覚めないのではと不安になる程だった。

 士郎の変身が解けると同時に、士郎が維持し続けていた固有結界が解け、景色は樹海に戻る。

 

 

【5】

 

 

 灼熱に包まれた壁の外。

 

「東郷ぉぉぉぉ!」

 

 其処で風は美森の名を叫びながら、美森に剣を振り下ろし、精霊が剣を受け止めた。

 

「もうこれ以上、壁は壊させない!」

「何で……何で止めるんですか?こんな世界、こんな滅びを待つだけの世界なら、今滅ぶのも、後に滅ぶのも同じ事です」

「確かに!私もこんな世界、滅びてしまえば良いと思った。でも!この世界の実情を知って尚、この世界を守ろうとする人達が居る!」

 

 風は助っ人に来た園子と銀を思い出す。満開を繰り返した事で得たであろう強力な力、そして散華によって失ったであろう包帯で包まれた四肢や顔を……そして次に士郎の姿を思い浮かべ、美森に告げる。

 

「アンタはずっと壁を壊す事に夢中で知らなかったでしょうけどね!士郎はアンタが壊した壁から侵入してきたバーテックスを一人で食い止めていたのよ!何回も満開して、何回も散華して」

 

 その言葉に美森は驚愕し、動揺した。

 

「体が動かなくなっても!記憶を失っても!戦う理由が分からなくなっても戦ってたのよ!」

「記憶を……失った?」

 

 美森の動揺は大きくなり、顔色を悪くして崩れ落ちる。起こって欲しくない事が起きた。忘れて欲しくない人に忘れられた……そして、そうさせたのは紛れも無く、自分自身なのだと理解し、自害したくなった。けど、精霊がそれを許さない。させない。

 

「そうよ!誰よりも傷ついて、誰よりも失って。誰よりも辛かった筈、誰よりも世界を壊す権利があった筈なのに、あの馬鹿は、それでも正義の味方であり続けた!」

 

 だから!と風は美森の胸倉を掴んで立ち上がらせる。

 

「アンタを悪にはさせない!正義の味方(あいつ)が倒すべき悪にはさせない!私が此処で止める!」

「今更止まれません。もう遅いんですよ」

 

 美森は自分の意思で立ち、風の手を払い除ける。

 

「私の意思は変わりません」

 

 美森は風に銃を向けるが、それは樹の糸で固定された。美森は驚き、樹の方を振り向く。その隙に風が拳を振り被る。

 

「歯食いしばれ!東郷!」

 

 そう怒鳴り、風は美森を殴り飛ばした。

 そして美森を説得しようと、美森の下に歩こうとした時、樹から袖を引っ張られ、樹の方を見た。

 

「何?樹」

 

 そう聞くと、樹は壁の方を指差してており、風は樹が指差した方を見て驚く。美森と話している最中も、自分達に構わずに壁内に侵入し続けていた星屑達が、まるで時間が止まったかの様に止まっていたからだ。

 

「侵攻が……止まってる?」

 

 ぽつりと呟くと、星屑達はまるでビデオを逆再生する様に、或いは何かに引っ張られる様に後退した。風達の視線は自然と交代していく星屑を追った。そして無数の星屑が一体のバーテックスを形成している姿を目にした。

 それは獅子型のバーテックス。彼の総力戦時に勇者部を苦戦させたラスボスと言って良いバーテックスーーその名をレオ。その強さは、例え一体でも満開無しに勝てる相手では無い事を、風達は身にしみて分かっていた。

 

「やばい!止めないと!」

 

 故に風は美森の説得を後回しにして、レオが完成するのを防ごうと行動を起こそうとした瞬間。

 

「満開」

 

 その言葉と共に、青いアサガオが咲き誇った。

 なっ!とアサガオが咲き誇った方向を向いた風と樹、其処には八つの砲身を神樹に向けた美森の姿。風と樹は直ぐに美森の前に立ちはだかる。

 

「退いて下さい!」

「退く訳ないでしょう!それを向けるのは反対にいるデカブツにでしょう!」

 

 堅い決意を決めている風と樹の顔を見て、美森は一言、ごめんなさいと謝ると、八つの砲身のエネルギーを一つに収束させ、神樹に向かって放った。

 

「させない!」

 

 風と樹は、射線に入って美森の砲撃を受け止めるが、満開の力で放たれた攻撃を満開も使わずに止められる訳もなく、風と樹は押し負けて壁内に吹き飛ばされる。そして美森が放ったエネルギーは壁内に侵入して直ぐ、神樹に到達する事なく花弁と成って拡散した。

 

「そう、勇者(私達)の力じゃ、神樹本体を傷付けられないって訳ね……でも」

 

 こいつならと、美森は背後を振り向く。其処には既に体を形成し終え、巨大な火球を作り出していたレオの姿があった。

 

「お願い……殺して」

 

 美森がそう願うと、レオはそれに答えたかの様に火球を美森に向かって放つ。美森は火球が命中する寸前で避け、火球は神樹に向かって飛んで行った。

 

「これで、世界は終わる」

 

 そう安堵の表情を浮かべた直後だった。

 

「うぉぉぉぉ!勇者パァァァンチ!」

 

 戦線離脱をしていた友奈が勇者へと変身し、火球を破壊したのは。

 

「友奈……ちゃん」

「もう迷わない。例え、壁の外(その先)は地獄でも関係ない。私が勇者部を……東郷さんを守る」

 

 決意を固め、友奈は美森の下へと降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大学始まったんで投稿ペース落ちますが、来週か遅くても再来週までには最終話まで投稿します。

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