【1】
美森の砲撃を受け止め切れず、壁内の数キロ先まで吹き飛ばされた風は変身が解け、数分程気を失っていた。
「くっ……早く、戻らない……と」
星屑との戦い、結界内外の移動を繰り返した疲労と、美森の砲撃で吹き飛ばされた衝撃で少なくないダメージを負った風は、膝を震えさせながら立ち上がるが、直ぐに崩れ落ち、地面に叩きつけられる前に誰かに体を支えられた。
「し……ろう」
倒れる風を支えたのは、樹を背負った士郎だった。樹は意識はあるものの、ぐったりとしている。
「君達のお陰で休めた。此処は危険だ。移動しよう」
士郎はそう告げると風の体を抱え、神樹の方へと飛んだ。
「待って……私は東郷を止めなきゃ……」
「それはピンクの少女に任せろ」
ピンクの少女と言われて、友奈の事が思い浮かぶ。友奈が東郷の説得に行ってるのかと、壁のある方角を見たかったが、風にそんな体力は残ってなかった。
それから暫くして、風と樹は丁寧に降ろされた。
「此処まで来れば十分……と言う訳でもなさそうだな」
三人の下に、燃え上がった星屑が襲い掛かって来た。士郎は咄嗟に弓矢を投影し、星屑を射抜いた。
その一連の動作を見て、風は何時の日か、まだ勇者部を作る前、士郎が弓道部だった頃、弓道部を見学しに行った時に見た士郎の姿と重なった。
「ねぇ……」
「何だね?今は見ての通り忙しい。簡潔に頼む」
「士郎は……何で戦えるの?」
士郎は暫く無言で、襲い掛かって来る燃える星屑を全て撃ち落とすと、風の方を向いて答えた。
「……私が何故戦うのか、その理由は忘れた。だが、今私の背後には君達が居る。今戦う理由はそれで十分だろう?」
そう述べる士郎に、何時もの士郎の顔が重なった。
そして風と樹は安心した。肌や髪の色、声や口調が変わり、記憶を失っても士郎は士郎なのだと、根本的な所は変わってないのだと。
だが次の瞬間、三人の背中に悪寒が走り、安堵の表情が緊張した面持ちに変わる。
自然と三人は同じ方角、壁の方を見た。視線の先には壁に侵入したレオの物と思わしき御魂があり、その御魂に燃えた星屑が群がり、太陽を形成し、こちらーー神樹に向かって飛んで来た。
それは嘗て風が受け止めた太陽の数倍大きく、禍々しい雰囲気を醸し出していた。
「中々手強そうなものが来たな」
士郎は風と樹を庇うように前に立つ。
「I am the bone of my sword」
左手を翳し、詠唱を唱える。
「Steel is my body,and fire is my blood.
I have created over a thousand blades」
左手の満開ゲージが強い光を放つ。
「
そして熾天覆う七つの円環の七倍の防御力を誇る、虹に輝く花が神々しく咲き誇り、太陽を受け止めた。
満開の力を費やし、神造兵装とも呼べる程に強化されたアイアスと、太陽の衝突によって発生した衝撃波は数百メートル離れた士郎達の下にまで到達した。
「くっ!」
衝撃波によって、数歩退がらせられた士郎。押し退けられそうになる衝撃に耐えながら、太陽を押し返そうとするが、寧ろ押されているのは士郎の方だった。
太陽を受け止めたアイアスはジリジリと後退し、アイアスにひびを入れる。そんな士郎劣勢の中、満開状態の友奈と美森がアイアスを押して加勢した。
一瞬だけだが、太陽の動きを止められた……だが。
バキン!と三つのアイアスが破壊された。太陽は再び前進する。士郎はこれ以上押し退けられない様に踏ん張る事しか出来ず、また三枚のアイアスが破壊される。
「くっ、長くは持たないか……」
士郎は最後の一枚となったアイアスを維持しようと、踏ん張りながら呟くと、風が十分よと樹と共に立ち上がる。
「私達、犬吠埼姉妹は守られるだけのお姫様じゃないわ!行けるわよね?樹!」
強く頷く樹。二人は手を繋ぎ叫ぶ。
「満開!」(満開!)
黄色のオキザリスと鳴子百合が咲き誇り、風と樹は太陽に向かって飛んだ。
その瞬間に最後のアイアスが破壊され、友奈は力尽きて落下する。美森は一人になっても太陽を押し留めようと奮闘するが、その努力は虚しく太陽に押され続ける。
「
士郎は固有時制御を使い、落下する友奈を受け止めた。同時に風と樹が太陽を受け止め、美森に加勢した。
「大丈夫かね?」
「……シロー先輩?」
友奈は士郎の変わり果てた姿を見て、驚いた。どうしたんですか!?と問い質したい欲求に駆られるが、今はそんな場合じゃないと抑え込んだ。
「下ろ、して、下さい……まだ止まる訳には」
士郎は素直に友奈を下ろした。だが友奈は足が地面に着き、立とうとしたが、足に力が入らずに崩れ落ちる。
「……そんな、足が」
友奈は足の機能を散華したのだった。
【2】
一方上空では美森、風、樹の三人が太陽を止めようと、懸命に努力していたが、押しても押しても、太陽が止まる素ぶりは見せなかった。
「くっ、止まらない……」
「踏ん張れ東郷!樹!」
「分かってます!」
そうは言っても、三人共限界は近かった。満開の力を全て、太陽を押し返す力に一点集中させているが、全く効果は無く、太陽が発する高熱のエネルギーに三人の体力も精神力も消耗していた。美森に至っては朦朧とした意識の中で満開を維持するのがやっとで、風と樹も意識が朦朧とし始めていた。
「これ以上!出遅れてたまるかぁぁぁぁ!」
そんな中、序盤からずっと意識不明で戦線離脱していた夏凛が三人の中に加わった。勿論満開状態でだ。
「夏凛……ちゃん」
「遅いわよ。夏凛」
夏凛の加勢により、三人の朦朧とした意識が覚醒した。まだやれる。まだ諦めない。三人が共通する
「私とした事が、寝ている間に、一世一代の名シーンを逃した感じがするわ。まだ出番は残ってるでしょうね!」
「ええ、残ってるわよ。取って置きのが」
「そう……なら、もう一つ出血大サービス。手なり足なり持ってけぇ!満開!」
満開状態の夏凛の背後に、ヤマツツジが咲き誇り、四つあった腕が八つに増え、パワーも増した。
「っ!?」
「夏凛、アンタ……」
満開に満開を重ねた夏凛に、三人は目を見開き、夏凛の覚悟に答える為、三人はより一層気合を入れて太陽を押す。
「くっ、これでもまだ駄目なのね……」
だが、それでも辛うじて太陽を減速させるのが関の山だった。
「ラブリーチャーミーな助っ人役!」
「只今参上!」
それに
「銀!」
「やあやあ、久し振りだな夏凛。ちゃんと私の跡を継げているようで何より」
「乃木……さん」
「四人より五人、五人より六人。強力な助っ人は要らんかね?」
「心強い増援、現るね」
十何回と満開を行い、数々の能力が強化された二人が加わった事で、太陽は大幅に減速した。
「勇者はぁぁぁ!気合いとぉぉぉ!」
「根性ぉぉぉ!」
「勇者部!ファイトォォォォ!」
「「うぉぉぉぉ!」」
勇者六人の力が合わさり、一つの巨大な花を作り出すと、太陽は止まった。
「まさか、あれを止めるとは……恐れ入った」
地上では、太陽と勇者の格闘を眺めていた士郎が感心した様子で賛美の言葉を呟くと、とどめを刺すべく動き出す。その背後で友奈が手で地面を這い蹲りながら、太陽の……否、
「おいおい。無茶をするな。後は私がーー」
「駄目です!私は讃州中学勇者部、結城友奈。こんな所で止まっていられないんです!」
頑とした表情を浮かべる友奈。士郎はその表情を見て説得は無理だと諦めた。
「やれやれ、頑固者だな君は……私は君を待たない。ついて来れるか?」
「ついて来れるかじゃないです!シロー先輩の方こそ、ついてついて来やがれです!」
その言葉と共に、友奈はヤマザクラを咲かせると、巨大な手を使って立ち上がった。士郎は立ち上がった友奈を見て不敵な笑みを浮かべると、太陽に向かって飛んだ。友奈も遅れない様に……否、追い越す様に士郎の後を追った。
「私が道を切り開く!私に続け!」
「はい!」
友奈の返事を書くと、士郎は一本の剣を形成した。まるで様々な花弁が集まる様に形成された虹の剣。それは人々の願いが結集された神造兵装。
士郎はそれを振り上げ、太陽に狙いを付け……
「
「
振り下ろし、剣から放たれた虹の斬撃が太陽を斬り裂き、御魂を露わにした。
「行け!結城友奈!」
その言葉に返答は無い。友奈は士郎の言葉に行動で答え、士郎を追い越して御魂に向かって拳を振るった。
「うぉぉぉぉぉ!勇者パァァァンチ!」
友奈の拳は御魂に深く突き刺さり、御魂を拡散させ、太陽は巨大な爆発を起こすと、虹色の光となって散った。
【3】
気付けば士郎、友奈、美森、風、樹、園子、銀の七人は変身が解け、輪に成る様に地面に横になっていた。
「終わった……の?」
「ええ、きっとそうよ」
風の疑問に、夏凛が答えると、銀は今までの緊張が解け、脱力して大きく息を吐いた。
「終わったぁ〜」
「ひぇ〜疲れたぁ〜。こんなに疲れたの、二年振りだよぉ〜」
それは園子も同じだった。否、此処居る全員が同じだった。皆戦いの緊張が解け、地面に身を任せて脱力すると空の風景を見た。
「わぁ……綺麗だねぇ〜」
其処にはレオの残骸か、樹海が解ける前触れの花弁か、或いはその両方が空一面を覆い、花弁は八人の体に降り積もり、心地良さを感じていた。皆はその心地良さに身を任せて、ゆっくりと眠りに就いた。
以下独自設定解説。
収束された願いは星をも砕く(エクスカリバー・スターブレイク)
ランク:EX
種別:不明
レンジ:不明
最大補足:不明
本作のエミヤが生前に使用した宝具。
神樹を通じて、人々の願いを収束させた虹の聖剣。
エクスカリバーと似ているが、別物。
収束した願いによって、種別、レンジ、最大補足が変わる。
例えばレオを倒すなら、一点突破を目的とした宝具に成り、空を覆い尽くす程の星屑を倒すなら、効果範囲が広い宝具に成る。
今回は太陽を止めるという願いが強かった為、御魂までの道を切り裂く程度に留まったが、もし倒すという願いが強ければ、御魂まで斬撃が届いていた。
次の話は完成次第投稿します。
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