まさか最終話を書くのに6日も掛かるとは思わなかったよ。
え?6日じゃないって、ハハ、何を言ってるのさ、前回投稿が10月5日で、今日は10月11日。6日じゃないか。ハハ!
【4】
戦いは終わった。
彼の戦いは大規模な山火事という形で、現実世界に影響を与えた。ここ近年では最大の
少なくない数の
世界が滅びかけた戦いだった。それを考えれば、微々たる被害だと、そう思えるかも知れない。
だが、その戦いは起こるべくして、起こった戦いではない。私、東郷美森が起こした戦いだ。
皆は大赦が悪いのだと、私は悪くないのだと、そう言ってくれる。
けれど、私が起こし、私が犯した罪だという事実に変わりは無い。
これから私は、一生この罪を背負う事になるだろう。
私の罪が世間に知れ渡り、大罪人として裁かれるなら、受け入れよう。
腹を切り、この首を世界に晒す事で許されるならば、そうしよう。
神樹様の怒り鎮める為、生贄に成れと言うならば、喜んでこの身を捧げよう。
例え、何百年、何千年もの間、業火に焼かれる事になろうと。
それで許されるならば、そうしよう。
私は如何なる罰を、報いを、受け入れるつもりでいた。
だけど、世界は私を罰しなかった。
それどころか神樹様は、私に赦しを与えた。
神樹様に捧げた供物を、散華した体の機能を、記憶を、私達に返してくれた。
私は二年前の記憶を取り戻した。
銀とそのっち。そして私達の師匠。エミヤ先生と共に戦い、過ごした記憶を。
この足で歩き、
樹ちゃんの声が戻り、風先輩は泣いて喜んだ。
目と耳を散華して、静寂の闇に囚われてて尚、気丈に振る舞っていた夏凛ちゃんも、視力と聴覚が戻った時、泣いて喜んだ。
怖かった。不安だった。と普段は絶対に見せない弱音を、胸の内の本音を、涙と共に吐き出した。
銀とそのっちも順調に回復の兆しを見せた。
過去の思い出話に花を咲かせ、また皆で遊ぼうと約束を交わした。
自分の足で歩き、自分の行きたい場所に行けると、希望に胸を膨らませ、笑い合った。
ずっと、意識不明だった友奈ちゃんも意識を取り戻した。
味覚を取り戻し、私が作るぼた餅を誰よりも美味しそうに、誰よりも幸せそうに食べてくれる。
その表情を、その笑顔を見ると、私達は御役目から解放されたのだと、そう実感出来る。
ーーけれど、私達の日常はまだ戻って来ない。
あの人が……先輩が戻るまでは……。
・
大赦が経営する羽波病院。
その最上階に位置する勇者専用の特別個室。そこに先輩は眠っている。
「……先輩。こんにちは。今日はですね」
私は先輩に語り掛ける。物言わぬ、抜け殻の様に変わり果てた先輩に。
英霊システムと満開の多用。それによって、先輩の姿は変わり果てた。
炎の様な赤い髪は、燃え尽きた灰の様な白髪に。
黄金の様な瞳はその輝きを失い。
肌の色は褐色に染まった。
だけど、先輩は先輩。私は先輩はきっと帰ってくると。そう信じて語り掛ける。
そう時間をおかずして、友奈ちゃんや夏凛ちゃん。風先輩に樹ちゃんが病室に訪れ、皆で雑談に花を咲かせた。
そうすればきっと、先輩が目覚めると信じて。
・
この日は、勇者部が文化祭の出し物で行う演劇について話し合った。
皆の役割は私、夏凛ちゃん。樹ちゃんの三人が其々、モブ役を演じながら、照明や音響を交代交代で行う。
主要となる人物は風先輩が演じる魔王。
友奈ちゃんが演じる勇者。
そして、先輩が演じる正義の味方だった。
正義の味方は勇者を手助けしながら、魔王と戦う重要な役で、この役無くして演劇は出来ない程の重要な役だ。
けど、それを演じる先輩は未だ眠ったままだ。
「さて、文化祭まで後一週間ね。今後の事なんだけど……」
風先輩は言い淀んだ。
言いたい事は分かっている。
部長として、文化祭を成功させる為、風先輩は決断しなければならない。
分かっている。分かってはいるけれど。それでも!
「あの!」
私は割り切れない。
「先輩の役。そのままにしておきたいです」
「……東郷」
ここで割り切ってしまうと、先輩は帰って来ない。
そんな予感がした。だから。
「私の足だって治って来てるんです。だから、先輩もきっと、だから……」
「……東郷の意見に賛成よ。私も、割り切っちゃうのは何か嫌だ」
「私だって、割り切ってなんて……」
「お芝居の、練習……続け、よう。シロ、さんなら、きっと、きっと」
「うん。そうだね。皆で待とう。しろー先輩を、私達の正義の味方を」
・
それからも私は、私達は、先輩の病室に通い続けた。
病院に特別な許可を貰って、先輩の病室で演劇の練習をした。
もし、先輩が本番当日に目が覚めても、台本を覚えている様に、台本を読み聞かせた。
届いている。きっと、私達の声は届いているのだと、信じた。
そしてーー
「とうとう、今日ね……」
「……うん」
「士郎。起きるなら今よ」
「そうね。今ならまだ、間に合うわ」
「……士郎さん」
本番当日の早朝。受付が開始されるよりずっと早い時間。私達は大赦から許可を貰って、先輩の病室に居た。
先輩は結局、目覚めなかった。
本番当日の朝になっても。
「……先輩。起きてください。朝ですよ」
「……………」
私は何時もの調子で呼び掛ける。
先輩の反応は無い。
「あ〜あ。私お腹空いたなぁ〜。シロー先輩の朝ごはん食べたいなぁ〜。このままじゃ私、お腹ぺこぺこで演劇の途中で倒れちゃうかも」
「……………」
友奈ちゃんが態とらしく呼び掛ける。
先輩の反応は無い。
「わ、私も、士郎さんのご飯。食べたい、な」
「……………」
樹ちゃんが遠慮気味に呼び掛ける。
先輩の反応は無い。
「そうね。あれは確かに美味しかったわ。もう一度食べさせなさいよ……」
「……………」
夏凛ちゃんが照れ臭そうに呼び掛ける。
先輩の反応は無い。
「あらら〜。士郎はモテモテね。これは責任取らなきゃ男が廃るわよ♪」
「……………」
風先輩が揶揄う様に呼び掛ける。
先輩の反応は無い。
その後も、私達は様々な話題で、手段で、先輩に呼び掛けたけど、反応は無かった。
「……駄目か」
「そろそろ行かなきゃね」
気付けば、病室に来てから一時間が経過していた。
そろそろ学校に向かわなければ行けない時間だ。
「大丈夫だよ。また、文化祭が終わったら来ましょう。今日が駄目でも、明日も、明後日も、何度でも呼び掛けましょう!」
「……そう、ですね」
友奈ちゃんの言葉に、皆は重い腰を上げて、鞄を取る。
「東郷さん。そろそろ……」
友奈ちゃんが私の肩に手を置く。
「ーーなんでよ」
分かっている。ずっと、ここに居られない事も、そろそろ学校に行かなきゃ行けない事も、分かっている。
「なんで……」
けれど、ここを離れたら、もう先輩は帰って来ない。そんな予感があった。
だから、
「目を覚さないんですか。先輩!」
私は先輩に叫んだ。
「目を覚まして下さい先輩!何時かじゃない。今、ここで目を覚まして下さい!」
「……東郷さん」
「……東郷」
「私は耳が聞こえる様になりました。友奈ちゃんは味を感じられる様になりました。樹ちゃんは声を、風先輩は視力を取り戻しました!足だって動く様になったんですよ。私自身の足で、先輩を起こしに行く事だって出来るんです。誰よりも美味しそうに、幸せそうに、先輩の料理を食べる友奈ちゃんは先輩の料理を待ち遠しく思っています。樹ちゃんは夢に向かって歩んでます。風先輩は副部長の先輩が居なくて忙しそうです。夏凛ちゃんは先輩の料理が忘れられないそうですよ。何時もまたあの料理食べたいわねって、ぼやいてますよ」
友奈ちゃんが居て、私が居て、風先輩が居て、樹ちゃんが居て、夏凛ちゃんが居る。後は先輩が帰って来るだけだ。それで何時もの、勇者部に戻れる。だから!
「帰って来て下さい。先輩!」
「……東郷さん。うん。そうだね。シロー先輩!朝ですよ!起きて下さい!」
「……こりゃ後で大目玉ね。部長命令よ。起きろ、寝坊助士郎!アンタが居ないと、今日の演劇失敗よ!」
「し、士郎さん。お、起きてぇぇぇ!」
「全く、人の為になる事を勤しんで行う勇者が、人に迷惑掛けてちゃ、世話ないわね……すっ〜、起きろ、衛宮!正義の味方なら、勇者なら、誰も悲しませるな!起きて、皆を笑顔にしろぉぉぉ!」
私達は叫んだ。ここが病院である事も、早朝である事も忘れて、ただ、先輩を起こす為に、力の限り叫んだ。
【5】
ーーそこは決して生命が立ち入る事の出来ない荒野。
ーー吹き付ける風は既に風と呼べる代物ではなく、それは絶望そのもの。
ーー鋼の壁が、俺と言う存在を押し潰そうとしている様だ。
ーーこんな物を食らえば、無力な人は立ち待ち遥か彼方へと吹き飛ばされるだろう。
けれど、俺の体は一歩たりとも退く事は無い。
一歩でも退けば、俺と言う存在は直ぐに散漫し、消え去る。そんな予感が……いや、確信がある。
だから、俺は一歩前へと進む。
一歩前へ、もう一歩前へと、俺は歩みを止めない。
一歩進む毎に、俺の中で何かが崩れる。
ーー体は硝子の様にひび割れ、意識は砂の様に無感情に崩れて行く。
前へ。
ーー何の為にここに居る。
それでも前へ。
ーー何の為にこうなった。
あの向こう側に。
ーー何の為に歩みを止めない?
左眼が潰れた。
ーーこのまま風に身を任せれば、楽になる。
風鳴が鼓膜を破る。
ーーなのに何故?
体は既に限界だ。
ーー何の為に、俺は……
意識は薄れ、視界は闇に閉ざされる。
ーーああ、ここまでか。
そう思った瞬間。
『帰って来て下さい。先輩!』
ーー声が聞こえた。
『朝ですよ!起きて下さい!』
ーー少女の声が聞こえた。
『部長命令よ。起きろ、寝坊助■■!』
ーー誰かを呼ぶ、声が聞こえた。
『士郎さん。お、起きてぇぇぇ!』
ーー士郎?
『起きろ、衛宮!』
ーー衛宮……そうだ。俺は衛宮士郎。
讃州中学三年。勇者部副部長の衛宮士郎だ!
閉ざされた視界が燃える。
限界を迎えた体に熱を込める。
手足を剣を振るう様に動かす。
ーー彼女達が待つ光へ。
この風を、俺と言う存在を押し潰そうとする絶望そのものを、切り裂く様に、俺は駆け出した。
ーー彼女達が呼び掛ける場所へ。
俺は風を超えた。
ーーそして。
「ただいま」
俺は帰って来た。
【6】
讃州中学文化祭。
午前の部、午後の部が滞り無く進み、もう間も無く、讃州中学名物である勇者部。その演劇が始まろうとしていた。
「本当に大丈夫なんですか?」
「そうですよ。シロー先輩は病み上がりなんだから、無理しないで下さいね」
「大丈夫……とは言い切れないが、今日、この舞台の為に皆頑張って来たんだ。俺が居なきゃ、演劇は失敗らしいからな。多少の無茶はしなきゃな」
「うぐっ」
士郎からは皮肉めいた視線が、他からは責める様な視線が風に集中する。
「しょ、しょうがないじゃない。士郎を起こす為に必死だったんだから……」
「ああ、何せ部長命令だからな。副部長である俺は逆らえないよ。やれやれ、今朝目覚めたばかりだと言うのに、勇者部の部長は人使いが荒い」
風に集中する視線の鋭さが増した。
「うぇぇぇん。士郎が虐めるぅぅぅ!」
「あははは、士郎さん。その辺で」
その視線に耐えかねた風は樹に抱き付き、およよよ。と泣いた。
その光景に、皆微笑みを浮かべた。
「なんだか、やっと日常に戻ってこれた気がするね」
「そうね。友奈ちゃん。これが
「ま、悪くは無いわね。所で衛宮。本当に大丈夫なの?体の調子は勿論。台本読みも演劇の練習もまともに出来なかったでしょ?」
「珍しいな。三好が俺の心配をしてくれるなんて」
「別に、同じ勇者部として、当然の事でしょ」
士郎は驚いた。
てっきり、別に、アンタを心配したんじゃなくて、演劇の心配をしてるのよ。だとか、何とか言って誤魔化すのかと思いきや、素直に自分の身を案じた事を認めた三好に。
そして嬉しく思った。
「心配してくれて、ありがとな」
「……本当に、心配したんだからね」
頬を染めて、照れる夏凛。
それに対して、友奈は夏凛ちゃん素直に成ったなぁ〜と嬉しく思った。
美森、風、樹は陥落した!?と危機感を募らせた。
「まあ、心配は無用だ。台本は来る途中で目を通したし、演劇の雰囲気は何となく掴めている。あれだけ、側で練習されたからな」
「「「「「っ!?」」」」」
「微かだけど、それでもちゃんと、聞こえていたぞ。お前達の語り掛けや、演劇の練習を」
士郎は笑みを浮かべた。
それは失敗するという不安は一切無く、成功を確信した様な、そんな不敵な笑みだった。
「さぁ、行こう。俺達、勇者部の復活劇を始めに」
この日、勇者部の演劇は大成功を収めた。
【終】
ーーどうやら、君の目論みは外れた様だな。
そこは樹海の最奥。守護者のみが立ち入る領域。
ーー英霊システムの多用による、衛宮士郎の守護者化は失敗だ。まあ、元より、成功確率は低いものではあったが。
そこで彼は、神樹に語り掛ける。
ーー失敗の要因は二つ。一つは私と奴が別人だった事。
確かに、私と奴は同じ衛宮士郎だ。だが、同一人物ではない。衛宮士郎という括りの別人だ。
神樹は黙って、彼の分析を聞く。
ーー例え同じDNA、同じ体を持とうと、どんな環境で育ったのか、どんな経験をしたかで、その後の人生は大きく変わる。
奴がどんな環境で育ち、どんな経験を得たかは不明だが、私と奴が別人たらしめる物こそが、奴が持つ衛宮切嗣の魔術刻印だ。
あれは私が持たず、そしてどんな選択を取ろうと、私が持ち得ない代物だ。切嗣は私に魔術を教えるのを最期まで拒んでいたからな。そんな切嗣が私に魔術刻印を継承する事など、絶対に有り得ない。
神樹は彼の意見に同意する。
ーーそしてその魔術刻印こそが、もう一つの失敗要因だ。
あの魔術刻印が触媒となり、本来は守護者エミヤとしての能力のみを生来させる筈が、別のエミヤを生来させる事となり、衛宮士郎の体を完全に守護者エミヤに置き換える事が出来なかった。
神樹は問う。
ーー確かに、あの時君が
だが、と彼は続ける。
ーー最後には、奴の人格を塗り潰す為、奴と戦う運命にあった。奴と戦うのも、奴が魔術刻印を覚醒させるもの、早いか遅いかの違いしかない。結果は変わらない。
神樹は落胆した。
ーーそうだな。勇者にも、守護者にも成らなかった。その成りの果てがあの抜け殻の完成だ。
最早、衛宮士郎の体は死を待つだけの肉人形でしかない。その筈だった。
彼はいやはや、と肩をすくめた。
ーー人の、いや、勇者部の絆とやらは私達が思った以上に硬いらしい。
彼女達は必死に抜け殻に成った奴に語り掛け、呼び掛けた。奴は後一歩で崩壊する寸前で耐え続け、彼女達の呼び掛けに答えようと、前進を続けた。
ーー終わりの見えない道だった筈だ。本当にゴールがあるのかも、自分の進む道が正しいのかさえも分からなかった筈だ。それでも奴は進み続けた。
ーーその精神力と絆は称賛に値する。私が奴の立場だとして、同じ事が出来たかは怪しいからな。
神樹は彼に言う。謙遜が過ぎると。
ーー謙遜?嘘偽りの無い本音さ。
そんな事はないと、神樹は言った。
ーー君は私を買い被りすぎだ。君も、奴と彼女達の絆を見たからこそ、供物を彼女達に返したのだろう?
神樹は反論した。
ーー全く、君も素直ではないな。
神樹は怒る。
ーー分かった。そう言う事にしておこう。
神樹は問う。
ーーそうだな。私は暫く、奴が歩む道を見守るとしよう。
彼は微笑んだ。
ーー私とは違う。衛宮士郎が歩む。新たな道を。
やあ、皆改めまして。
時が経つのは残酷だね。
何度も最終話を書こうとしたけれど、やる気が出なくて、気付いたら2年も経過していたよ。
そんな僕が続きを書こうとした経緯
・まどマギ本編の続編が決定してテンションUP
まどマギ熱が再燃する。
・まどマギの二次創作を書きたいと、創作熱UP
・世界ではなく、キュゥべえと契約したエミヤとか、面白くないかな?と思いUBWを見てエミヤ成分を補充。
・そんな時、新着アニメにゆゆゆがラインナップしてるのを発見し、クリック。あれ?1話しかアップされて……ゆゆゆ3期……だと!?これは書くしかない!と思い書き上げました。
人は切っ掛けさえあれば、変われるのだなと、実感した出来事でした。
何はともあれ、これで衛宮士郎は英雄と成るは無事に完結!
しません!
勿論続き書きます。
自分が完結と定めた、わすゆ編と勇者の章を書き上げて、本作を完結させますので、応援お願いします!
本作が面白い。続きを読みたいと思った方は励みになりますので、高評価と感想をお願い致します!
では次は本作の過去編に当たるエミヤの章でお会いしましょう。