【4】
二週間に及ぶ鍛錬合宿終了の翌日。
第二の敵が現れた。
それ自体は神託の通りの出来事であった。
然し……
「これはこれは……」
「敵が二体」
「あわわ〜、嫌なサプライズだ〜」
現れた敵は
「師匠。今までに、バーテックスが二体同時に現れた事はありますか?」
「ああ、西暦の時代
「……神世紀の時代では?」
「初めてだ。少なくとも、神世紀に入ってからは、二体同時に現れた事はない」
「つまり、イレギュラーって事ですか〜?」
「そうなるな。激戦が予測される。心して掛かれ」
その言葉に須美、園子、銀の三人は固唾を飲んで緊張する。しかし、その瞳には強い闘志が宿り、敵に臆する様子は無かった。武器を握り締め、何時でも行動出来る様に前傾姿勢を取っていた。
エミヤはその様子に満足すると、二体のバーテックスを並んだ。
(一度の襲撃に一体のバーテックス。神世紀に入ってからの原則が破られた。天の神が
何方にせよ。やる事は変わらない。
エミヤは黒弓を投影した。
その直後、ライブラ・バーテックスが動いた。
「このタイミングで回転?」
エミヤは疑問符を浮かべた。
バーテックスとの距離はまだある。ここで回転を始めてもライブラ・バーテックスの暴風はエミヤ達の元に届かない。防御面で考えれば、通常の矢は弾けるだろう。しかし。
「これならば関係無いな」
エミヤは螺旋剣を投影し、弓に番えた。
ドーンッ!
そのタイミングを狙ったかの様に、カプリコーン・バーテックスが地震を発生させた。
「わわ!」
「これが地震を引き起こす能力か!」
「思ったより強力だわ」
勇者組三人は、カプリコーン・バーテックスが引き起こした地震に若干バランスを崩しかけながらも、武器を構えながら悠然と立っていた。
「でも」
「耐えられない程じゃないな」
「あの合宿を耐えた私達に、不可能なんてないわ!」
これが合宿前なら、踏ん張る事すら出来なかっただろう。けれど、大人も逃げ出すであろう地獄の合宿を達成し、勇者の身体能力や体の使い方、基礎的な技術や高等技術まで、多くの事を学んだ三人にとって、地震の揺れを堪える事など造作もなかった。
そんな三人を横目に見たエミヤは、合宿の成果に満足し、ブレのない動作で弓を引いた。
「I am theーー」
その直後、ライブラ・バーテックスから重りが投擲された。
(投擲!?今までそんな攻撃方法は無かったぞ!)
想定外の攻撃に驚愕するエミヤだが、その状況分析は速い。
投擲された重りは四つ。小型の重りが三つに、大型の重りが一つ(小型と言っても、大型トラックに相当する大きさで、大型は小型の三倍程の大きさ)それが疑似台風を引き起こす程の回転力と遠心力が乗った速度で投擲された。狙いは全て勇者組の方に向かっている。
(嫌らしい攻撃をしてくれる)
判断は一瞬。
「
エミヤは弓矢を放棄し、勇者組の前に立つ。
「ーー
直後、展開したアイアスに小型の重りが着弾する。
ビキッ
一つ目の重りはアイアスに罅を入れた。
ビキビキッ!
二つ目の重りが着弾し、アイアスの罅が大きく広がる。
バギン!
三つ目の重りが着弾し、アイアスが一枚破られた。
「くっ!」
バギン!
そこに大型の重りが加わり、二枚目のアイアスが破られる。
(防ぎ切ったか)
攻撃を凌ぎ切った事による安堵感。それによって生じたほんの一瞬の気の緩み、それを狙ったかの様に重なり合った重りは連続して爆発する。
ドカッ!ドカッ!ドカッ!
「くっ!」
思わぬ追撃に、更にアイアスが二枚破られ、結果として四枚のアイアスが破られた。
「まさか、アイアスを半壊させるとはな」
エミヤは投擲した重りの再生を開始したライブラ・バーテックスを睨み、その脅威度を上方修正した。
「
エミヤは再度、黒弓と螺旋剣を投影して矢を番えた。
狙いは当然、投擲攻撃の準備を整えるライブラ・バーテックスだ。然し。
「
「師匠!」
「山羊座が動きました!」
エミヤが螺旋剣を放とうとした直後、カプリコーン・バーテックスが四本の足を束ね、ドリルの様に回転させながらエミヤを攻撃した。
「ちっ」
過去に前例のないバーテックスの連携。それにエミヤは舌を打ち、標的をライブラ・バーテックスからカプリコーン・バーテックスに変更した。変更せざるを得なかった。
「
エミヤの放った
「成程。束ねた足をカラドボルグの放つ螺旋方向とは逆方向に回転させ、カラドボルグの能力を相殺しているのか。考えた物だな」
ならば、とエミヤは
ボーン!
「■■■■■!!」
カプリコーン・バーテックスは声にならない悲鳴を上げた。
壊れた幻想によって引き起こされた巨大な爆発は、カプリコーン・バーテックスの四本の足を全てを吹き飛ばし、本体にも大きなダメージを受けた。
「あと一押し!」
エミヤがそう叫んだ直後。重りを再生し終えたライブラ・バーテックスが回転を始めた。
「ちっ、須美、園子、銀。天秤座は私が相手をする。瀕死の山羊座は君達に任せる」
「「「はい!」」」
エミヤの指示に三人は即座に答え、カプリコーン・バーテックスに向かって駆け出した。
直後、エミヤはライブラ・バーテックス目掛けて大きく跳び、ライブラ・バーテックスが巻き起こす暴風の届かない上空から無数の矢を放つ。
その矢の全てが外れる事なく、ライブラ・バーテックスの体に吸い込まれる様に次々と命中し、爆発する。
「■■■■!」
無数の箇所にダメージを負ったライブラ・バーテックスはその動きを止め、傷の再生を急ぐ。だがそんな隙を見逃すエミヤではない。
「
片手を掲げ、投影するのは大英雄の武器。
「
それは本来ならエミヤが振るうどころか、持ち上げる事すら不可能な超重量の斧剣。その全長は並の成人男性の身長を上回り、その狂剣の一振りは、有りと有らゆる物を両断する事すら可能だろう。
そんな武器を、エミヤは長年培った経験と技術で、使い手である大英雄の経験を、そしてその腕力もを読み取り、自身に憑依・投影させる事で使用可能とした。
「
ここからはエミヤのアレンジだ。
狂人と化した大英雄の武器から読み取れるのは、対人戦が精々だ。大英雄が成した怪物殺しの技量までは読み取れない。
「
十分だ。
大英雄の武器から読み取った経験と技術に、エミヤの経験と技術を加え、ライブラ・バーテックスに最適な攻撃方法と手順を模索、剣技の最適化を行う。
「
そうして振るわれた斧剣は、傷付いたライブラ・バーテックスに最適かつ最も効果的なダメージを次々と繰り出し、ライブラ・バーテックスの体を斬り刻む。
「捉えた!」
エミヤの
エミヤは即座に斧剣を放棄し、黒弓と螺旋剣を投影。
「
ライブラ・バーテックスの御魂は通常のカラドボルグⅡよりも更に劣る、
・
一方の勇者組三人も、盾役の園子を先頭に、銀と須美が続き、エミヤの攻撃によって瀕死のカプリコーン・バーテックスとの距離を詰めていた。
「ちっ、思ったより再生が速い!」
「このままじゃ、敵に辿り着く前に足が再生しそうだよ〜」
想定よりも速い速度で、欠損した足を再生させるカプリコーン・バーテックスを見て焦る銀と園子。
そんな二人に須美は「任せて」と声を上げ、立ち止まる。
「火力も速度も、お師匠には遠く及ばないけど、私だって弓兵!援護くらいしてみせるわ!」
須美は素早い動作で弓を引き、矢を連射した。
毎秒一発。弓とは思えない速度で連射された矢は、その連射速度からは考えられない程、的確な命中精度でカプリコーン・バーテックスの体に次々と命中し、爆発。再生途中のカプリコーン・バーテックスに無視出来ないダメージを与え続けた。
「っ!銀!そのっち!」
「分かってる!」
「後衛を守るのは、前衛の仕事だよ!」
そんな須美を脅威と判断したのか、カプリコーン・バーテックスは再生途中の足を使い、須美を攻撃した。
「友達を傷付けようとする奴は許さないんよ!」
園子は普段ののほほんとした言動からは考えられない、俊敏な動きでカプリコーン・バーテックスの足を弾き飛ばした。
「須美を傷付けようとした報いを受けろ!おんどりゃぁぁぁぁぁ!」
園子が弾き飛ばした足を、銀が身の丈と同じくらいの斧剣を振るい、断ち切る。
「■■■■!」
再生させたばかりの足を再び失い、悲鳴を上げるカプリコーン・バーテックス。
「怯んだ!」
「今がチャンスだ!」
「畳み掛けるよ!」
そんなカプリコーン・バーテックスに須美は矢を放ち続け、銀と園子は追撃を加えようと駆け出した。
「っ!バーテックスが逃げる!」
「逃すか!園子!」
「アイアイサー!」
カプリコーン・バーテックスは、三人の追撃から逃れようと急浮上しようとするが、その動きを察知した三人は即座に連携を取った。
須美はカプリコーン・バーテックスの頭上に矢を集中させ浮上を牽制し、園子は浮遊する刃でカプリコーン・バーテックスまでの階段を構築した。銀は園子の作った階段を駆け上り、カプリコーン・バーテックスに向かって跳躍し、斧剣の間合いまで詰め寄った。
「勇者は、気合と根性ぉぉぉぉぉ!」
その小さな体からは想像も出来ない怪力と速度で繰り出される嵐の様な連撃が、カプリコーン・バーテックスの体を斬り刻む。
「オラオラオラオラオラオラオラ!」
エミヤが振るった斧剣が精密機械だとすれば、銀の振るう斧剣は暴力の嵐。敵を殺すまで攻撃の手を緩めない獣の剣。
その剣は肉を断ち、骨を断ち、遂には体の奥深くに隠れていた
「師匠の手を借りるまでもない!私が、倒す!!」
御魂目掛けて斧剣を振り上げる。その瞬間。
プシュゥゥゥゥ!
御魂から紫色の霧が噴射され、銀は霧の勢いに吹き飛ばされた。
「ちっ、最後の悪あがきか!こんな霧、大した事ーー」
ない。そう続けようとした銀の口から溢れたのは、言葉ではなく、大量の血だった。
「ゴホッ!」
銀は吐血して倒れ、毒霧に呑まれた。
「銀!」
「ミノさん!」
須美と園子は毒霧に呑まれた銀の名を叫び、毒霧に入ろうとした。だが、そんな二人の前に、戦いを終えて合流したエミヤが立場だかり手で制する。
「迂闊に近付くな!恐らく毒霧だ」
「でも、銀が!」
「分かっている!」
焦る須美に、エミヤは怒鳴る様に答えると、数本の矢を放つ。毒霧によって視界が遮られた中、エミヤの放った矢は視界不良を感じさせない的確さで御魂に命中。御魂は爆散し、それと同時に御魂から吹き出した毒霧が晴れ、自身の血流の中で疼くまる銀の姿が露わになった。
須美と園子はすかさず銀の元に駆け付けようとするが、再度エミヤの手で静止された。二人は反射的にエミヤを睨み、抗議しようとするが、その前にエミヤは二枚の布を二人に差し出して言った。
「まだ毒霧が晴れ切っていない。耐毒効果のある礼装だ。近付くなら、これで顔を覆ってからにしろ」
エミヤの言葉に、二人は黙って礼装を受け取り、早る気持ちを抑えてながらも、素早い動作で礼装で顔を覆い、今度こそ銀の元に駆け付けた。
「銀!大丈夫!?」
「しっかりしてミノさん!」
「須美……その、こ……ゴホッ」
「銀!」「ミノさん!」
須美と園子の呼び掛けに応えようとし、吐血する銀。その様子に須美と園子は顔を青くして銀の名前を呼んだ。
「くそっ、私がいながら何たる失態」
エミヤは悪態を吐きながら、銀の体に触れた。
「
須美と園子はエミヤならなんとかしてくれると、期待を込めた眼差しでエミヤを視た。然し、エミヤの表情は険しいものだった。
(いかん。呼吸器系がやられてる。糜爛性の毒か?いや、この感じは毒というよりも、呪詛に近い。それも高位の呪詛だ。並の礼装では効果が無い)
「……お師匠?」
「……ミノさん。助かります、よね?」
「ああ、私がいる限り、誰一人と戦死者は出させない」
不安そうな表情を浮かべる二人にそう答えると、エミヤは自身の胸に触れ、黄金の鞘を取り出した。
「わぁ〜」
「……綺麗」
それはかつて、騎士王と謳われた英雄の鞘。
あらゆる傷を癒し、呪いを跳ね除ける効果を持つ至高の宝具。その名は、
「
本来の持ち主であるアーサー王の魔力無しでは、その真価を発揮しない。だが鞘に魔力を込めれば、ある程度の治癒能力を発揮する。少なくとも、エミヤの半端な治癒魔術よりもよっぽど効果がある。そう判断し、エミヤは黄金の鞘を銀の体に埋め込んだ。
そして有りったけの魔力を注ぎ込む。神樹から魔力提供を受けているエミヤの魔力量は無限と言っていい。その膨大な魔力を注ぎ込んだアヴァロンの治癒能力は、銀の体に残る毒と呪詛を祓い、傷付いた内臓を再生させた。
「ケホッ、ケホッ」
「銀!」「ミノさん!」
「もう大丈夫だ。完治とまでは行かないが、重要器官は治癒した。山場は越えたと言っていい」
エミヤの言葉に須美と園子は「ほっ」と安堵の息を吐いた。
(バーテックスの二体同時の襲来。天秤座の投擲に、山羊座の毒霧という今までに無かった攻撃。そして連携……今後の戦いも今まで通りの展開とは行くまい)
今後の戦いに一抹の不安を残しながらも、こうして第二の戦いは終わった。
【以下解説】
是、星殺す百頭(ナインライブズ・スターブレイク)
簡単に言えば、バーサーカーの斧剣から読み取った技術と、エミヤの経験と技術をいい感じにブランドしたバーテックス殺しの剣技。
全て遠き理想郷(アヴァロン)
騎士王の愛剣の鞘。
あらゆる傷を癒し、呪いを跳ね除ける。
騎士王の魔力が無ければ真価を発揮にしないが、本作では騎士王が提供する魔力の何十倍もの魔力を提供すれば同様の効果を発揮する設定。
本作のエミヤはセイバーに鞘を返さず、生涯持ち続けた。
この作品が面白い。続きを読みたいと思った方は励みになりますので、高評価と感想をお願い致します!