衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

6 / 41
英雄の章(ゆゆゆ編)
第1話 プロローグ


【1】

 

 讃州中学勇者部。それは五人で構成された、人々のためになることを勇んで実施する事を目的とした部活である。まあ、言ってしまえばボランティア部であり、名前以外は他校に存在するボランティア部の活動と然程の違いはない。

 今回の活動は幼稚園での人形劇。

 脚本兼ね監督は勇者部部長の三年、犬吠埼風。

 

『昔々、人々に嫌がらせをする魔王が居ました。魔王の力は絶対で、誰も魔王に逆らえませんでした。そんな中、人々を苦しめる魔王を退治すべく。勇者が立ち上がりました。勇者は数々の困難を乗り越え、やっと魔王の城に辿り着きました。勇者は魔王に剣を向けて言いました」

 

 ナレーションは二年、東郷美森。

 BGMなどを鳴らす演出は一年、犬吠埼樹。

 

「とうとう辿り着いたぞ魔王!もう人に嫌がらせをするのは止めろ!」

 

 勇者役は一年、結城友奈。

 

()を怖がって悪者扱いしたのはお前達だろう!」

 

 魔王役は勇者部副部長であり、三年の()()()()

 以上五人が、讃州中学勇者部の部員である。

 

「だからって嫌がらせは良くない!話し合えばきっと分かり合える!」

「話し合い?そんな事をしても、また俺を悪者にするだけだ!何も変わらない!」

「そんな事は絶対にさせない!話し合いをすればきっと平和な世界がくる!だから!」

 

 と、そこで熱意の入った友奈が誤って人形から下、つまり演技をする友奈と士郎を隠す板を叩いてしまい、板が園児達の方は倒れてしまった。

 幸いにも、園児達は板から十分距離を取っており、怪我人はいなかったものの、人形を操る友奈と士郎(中の人)と園児達との間に微妙な雰囲気が流れる。

 

「うぅぅ……勇者キック!」

「なんでさ!」

 

 そんな中、友奈(勇者)士郎(魔王)パンチ(キック)を食らわせて言った。

 

「ええい!分からず屋め!こうなったら力尽くでも話し合いする気にしてやる!」

「話し合いをするんじゃなかったのか勇者!?ええい、ならば喰らえ、魔王パンチ!」

「勇者バ〜リア!」

「なんでさ!そんなの在りかよ!?」

 

 アドリブで戦いを始める勇者と魔王。

 それを見た監督()は口角を上げた。

 

「良いね良いね。面白くなって来た!樹、ミュージック」

「ええ!?」

 

 突然の監督命令に戸惑う樹。慌ててボタンを押すと、それは勇者がピンチになった時に流す様の魔王テーマだった。

 

「ええ!?此処で魔王テーマ!?」

「ふははは、所詮私達が共に手を取り合う世界など理想でしかない!そんな理想を抱いたままでしか生きられないというならば、その理想を抱いて溺死しろ勇者ぁ!」

「し、魔王がいつになく本気だ!?」

 

 困惑する友奈。役に乗った士郎。

 そんな二人を見た美森は閃いた。

 

『皆、勇者を応援して!みんなで勇者を応援して元気を分けて上げて!』

(ちょっ!?それ言っちゃダメな奴じゃないか!?)

『がーんばれ!がーんばれ』

「「「がーんばれ!がーんばれ!がーんばれ!」」」

 

 美森(ナレーション)に続いて園児達も声援を送る。

 すると勇者は両手を上げて。

 

「おおお、なんかみんなの元ーー」

「うぉぉぉ!みんなの声援が、私を弱らせる」

 

 士郎は言わせねぇよと、オーバーに苦しみの演技をした。

 

「むぅ……」

 

 友奈は頬を膨らませて士郎に不満げな視線を向けるが、士郎は早く締めろとアイコンタクトを送る。

 友奈もしょうがないなとばかりに気持ちを切り替え。

 

「勇者パーンチ!」

「痛ぁ!」

 

 ちょっと本気目のパンチを魔王に食らわせた。

 

『皆の元気が込められたパンチを受けた魔王は改心し、祖国は護られたとさ、めでたしめでたし』

 

 最後にナレーションが締め、途中でトラブルが有ったものの、人形劇は無事成功に終わった。

 

 

【2】

 

 

 日もすっかり沈んだ夜。

 人形劇が終了してから、勇者部一同は士郎の家で打ち上げを行い、士郎と風の手料理、デザートに美森のぼた餅に舌鼓を打ったのはつい先程の出来事。

 今は後片付けも完了し、其々の家に帰った後。

 士郎は蔵で日課の鍛錬を始めようとしていた。

 

同調開始(トレース・オン)

 

 一本のパイプを持ち、士郎は小さく呟いた。

 すると、士郎の手から幾つもの青白い線が血管の様に現れる。線は士郎の手を伝い、パイプに浸透する。

 

「基本骨子ーー解明」

 

 士郎は線を通じてパイプの骨組みを理解した。

 

「基本材質ーー解明」

 

 次に材質を理解した。今や士郎以上にこのパイプの事を知る人間は存在しない。

 

「基本骨子ーー変更」

 

 パイプの骨組みをより強固なものへと変更した。

 

「基本材質ーー補強」

 

 次に材質をより強固な物へと補強しようと試みるが、結果は失敗した。

 パイプから浮き出た青白い線は、エラーを起こしたかの様な赤い線に変わり、それが士郎の手にも浸透し、士郎の手に浮き出た線が赤く変わる。

 

「ぐぁぁ……」

 

 士郎は短い悲鳴をあげると共に、反射的にパイプから手を離す。

 カランカランと音を立てて落ちるパイプ。そのパイプにももう先程まで浮き出ていた線は存在しなかった。

 それは士郎の手も同じで、今は火傷を負ったかの様に手を抑えて蹲っていた。

 士郎が先程まで使っていた物の正体は魔術。

 西暦の時代では、中世紀頃は世界中幅広く使用され、後世紀頃からは徐々に一般には秘匿されていった技術であり、新世紀のこの時代では、魔術の使い手は殆ど居なくなった失われかけている技術である。

 士郎が行なったのは、単純な強化魔術の鍛錬だったが、それでも、一歩間違えれば命に関わる様な危険な鍛錬だ。

 

「くそ……また失敗かぁ……」

 

 激痛を少しでも和らげようと呟く士郎。だが、その効果は全くと言っていい程効果は無く。

 その後も暫く痛みに悶える苦しみ、漸く痛みが薄れていくと士郎はそのまま気を失うかの様に眠りに就いた。

 

 

【3】

 

 

 それは綺麗な満月の夜だった。

 見慣れた家の縁側で、俺は誰かと共に月を眺めていた。

 

「士郎」

 

 その誰かは、俺の名前を呼んだ。

 俺は誰かの顔を見るが、その誰かの顔には霧のような物が掛かっていて、顔が見えない。

 

「僕はね、正義の味方に憧れてたんだ」

 

 誰かの表情は見えない。けれど、その声のトーンから誰かが男である事と無念さか、或いは悲壮感を感じさせる何かが伝わった。

 

「なんだよ、憧れてたって。諦めちゃったのかよ?」

 

 それが誰の声か、俺は一瞬分からなかった。

 周囲を見渡そうとするが、俺の視線は男の顔に固定されたまま、全く動く事は無かった。

 

「……うん。正義の味方は期間限定でね。大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんな事、もっと早くに気付いてれば良かった……」

 

 けれど、男は声を発した誰かではなく、俺を見てそう言った。

 

「そっか、ならしょうがないな」

 

 そして俺は悟った。これは俺と男以外の誰かが発した言葉じゃなく。俺自身が発した言葉だと。

 

「うん。そうだね……本当に」

「……しょーがないな。だから、俺がなってやるよ」

 

 夢の中の俺さ、今の俺よりも数段高い、幼い少年の声で言った。

 

「爺さんは大人だから、もう無理だけど。俺ならまだ大丈夫だろ?」

「……そうだね」

 

 男の表情は相変わらず見えない。だけど、その雰囲気から何か重たい雰囲気が取れた様な気がする。

 

「だから安心しろよ。爺さんの夢は、俺が……」

 

 その後の会話は聞こえない。

 

 

 

【4】

 

 

 

「ぱいーーせーんぱいーーシローせーんぱい」

 

 士郎は誰かに揺すられる揺れと、士郎を呼ぶ少女の声によって目を覚ました。

 

「んんん……誰だ……」

 

 士郎は少女に手を伸ばした。

 それは意識せず、ただ無意識に少女に手を伸ばした行動にも特に意味はなかった……筈である。

 少女も士郎の手に何の危機感も無く。避ける事も止める事もしなかった。その選択が後の悲劇を起こすとも知らず、士郎は少女に手を伸ばし、少女は何のアクションも起こさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ?」

 

 少女は今し方起こった事を理解出来ず、暫し固まる。

 

「んん?なんだ……柔らかい?」

 

 固まった少女に関係なく。士郎の指は動き、少女の胸に埋まった。

 

「ひゃん」

 

 少女は一瞬色っぽい声を上げると、次第に状況を徐々に把握していき、見る見る内にその顔を真っ赤に染め上げた。

 

「んん、あれ?友……奈?」

 

 一方の士郎も寝惚けた視界がクリアになっていき、少女の姿とその少々の胸に自分の右手が触れている……と言うよりも揉んでいる状況に気付くと、少女……友奈とは対照的に、その顔は見る見る内に真っ青に血の気が引いていった。

 

「あ、あの……友奈……これは……その……」

 

 士郎が弁解するよりも早く(と言うか、この状況は弁解出来ないだろうが)友奈は右手を振り絞り。

 

「ゆ、勇者パァァァァァンチ!!!」

 

 その手を士郎の腹部目掛けて突き出した。

 

「ぐぼぉぉぉぉ」

 

 寝起きに強烈な一撃を受けた士郎は、一瞬で目が覚めたが、直ぐに気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ども、読者その1です。
基本1話辺り、3000〜4000文字以上を目安に書いてます。

この作品が面白い、続きが読みたいと思いましたら、高評価又はコメントお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。