衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

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第3話 勇者になった日

【8】

 

 

 それは、午後の授業での出来事だった。

 授業の最中、士郎のスマホからアラーム音が鳴り響いた。

 

「誰だ?授業中にアラームをセットしたのは」

「す、すいません。俺です」

「衛宮、授業中は電源を切るように」

 

 士郎は「はい」と返事をしながら、ポケットからスマホを取り出した。

 

「可笑しいな。アラームなんてセットしてなかった筈なんだけど……って、なんだこれ」

 

 そうぼやきながら、士郎はスマホを取り出したが、その画面には赤い枠に【樹海化警報】という文字が表示されていた。

 

「って早く止めないとな……って、止まんないぞ、これ」

 

 アラームを止めようと、電源ボタンやホームボタンを押すが、その画面に変化はなく、依然鳴り響くアラーム。

 

「故障か?……しょうがない」

 

 士郎は周囲に目をやり、スマホが死角にやるように隠して、同調(トレース)と呟いた所でアラームの音が止まった。取り敢えず魔術を使わなくて済んだ事、アラームが止まった事に安堵し、ホッと息を吐いた。

 

「あはは、すいません。止まりまし……」

 

 軽く笑いながら周囲を見渡した時、士郎は茫然とした。

 

「……え?なんだこれ……」

 

 士郎の目に映ったのは、まるで時が止まったかの様に固まって動かないクラスメイトと教師の姿だった。

 これがただ、クラスメイトと教師が動かないだけならドッキリの類だと士郎は思っただろう。

 けれど、教師が落としたチョーク。隣の席の女子生徒が落とした消しゴム。窓際の生徒が風に吹かれて捲られた教科書のページや髪が時が止まった様に固定されているのを見て、これがドッキリの類ではなく、何かしらの異常事態が発生していると気付くのに時間はかからなかった。

 

「何が起きて……」

 

 そう呟くのとほぼ同時に、隣の教室からガラガラと扉が勢いよく開く音がした。

 この停止した世界に取り残されたのが、自分だけでないと知った士郎は感じていた不安が薄れ、自分以外の動ける人物を確認すべく教室の扉を開け廊下に出る。

 すると其処には焦った様子の風が立って、周りを見渡していた。

 

「風!」

「士郎!」

 

 士郎は自分以外に動ける人物が風だった事に安堵し、ほっと息を吐いて肩の力を抜いた。

 だがそれも束の間の出来事、風は士郎の手を引いて、廊下を走り出した。

 

「ちょっ、風!?」

「説明は後!今は樹達と合流するのが最優先だわ!」

「樹って、樹もこの空間で動けるのか!?」

「そうよ!私達が当たりだった!私達勇者部が!」

「どういう事だよ!ちゃんと説明してくれ!」

「説明は後って言ったわよね!早く合流しないと!大変な事になる!」

「!!」

 

 大変なことになる。風のその言葉に士郎は、この異常事態を知る様子の風を問い質したい欲求を抑え、風の言葉に従い、樹と合流するのを最優先にした。

 士郎と風は登りの階段を上がり、一年の学年が集まる階に到着すると、廊下で一人不安そうに周囲を見渡す女子生徒、樹を見つけた。

 

「樹!」

 

 樹の姿に気付くと、風は樹の名前を呼び駆け付ける。

 

「お姉ちゃん!」

 

 風に気付いた樹も、不安そうな表情から安堵の表情に変わり、風の元に駆け付けて姉妹は抱き合った。

 

「良かった。お姉ちゃん無事だった」

「一応俺も居るんだが……」

「あ、士郎さんも無事だったんですね!みんな様子が変で……みんな固まって動かないし、動けるのは私だけだし……私、不安で……不安で……」

「樹!もう大丈夫だから、よく聞いて、士郎も」

「ああ、説明してくれるんだろ?」

「ええ、私は……」

 

 風が次の言葉を発する前に、三人に大きな揺れが襲った。

 バランスを崩して廊下に膝をつく三人。

 士郎がふと、外の様子を眺めると。空間に黒い亀裂が入り、その中から溢れ出た光を目にした。

 亀裂は徐々に広がり出し、亀裂が広がるに連れて、揺れはより大きなものへとなっていき、その光も強くなっていった。

 

「風!樹!」

 

 士郎は咄嗟に窓側に立ち、二人を庇うように抱きしめた。

 やがて、強烈な光は三人を飲み込んだ。

 そして光が止むと、其処には七色の巨大な木の根が生い茂った世界が広がっていた。

 

 

【9】

 

 

 士郎、風、樹の三人は七色の巨大な木の根が生い茂った世界、樹海に飛ばされた後、同じく樹海に飛ばされた友奈と美森と合流し、風から説明を受けていた。

 勇者部に入部した際、風に言われてダウンロードしたアプリがこの世界、樹海に転送される事態が発生した時に自動的に機能する隠し機能が存在する事。

 風が神樹を奉る大赦から派遣された人間である事。

 自分達が幾つか存在する班から選出された事。

 今いる世界が神樹によって作られた結界である事。

 神樹に選ばれた自分達は、この結界内で敵と戦わなければいけないこと。

 

「来たわね。ノロマな奴で助かったわ」

 

 ある程度の説明を終えた風が、士郎達の背後にある何かを見てそう呟いた。

 士郎達も風に釣られて背後を振り向くと、其処には凡そ五〇メートルもある巨大な物体が浮遊して士郎達の方に進行していた。

 

「あれは?」

「あれはバーテックス。世界を殺すためにやってくる世界の敵」

「世界の?」

「バーテックスの目的はただ一つ。この世界の恵みである神樹様に辿り着くこと。バーテックスが神樹様に辿り着けば世界は滅びる」

 

 風の言葉にゴクリと唾を飲む勇者部一同。

 

「風。戦うって言ってもどうすれば良いんだ?まさか素手で戦えなんて言わないだろうな」

「勿論よ」

 

 風はスマホのアプリを開いて語る。

 

「この勇者部に入った時にダウンロードしたアプリ。このアプリは私達が戦う意思を示せば、アプリの機能がアンロックされて、戦うための……勇者としての力を発揮出来る様になる」

「勇者……」

 

 風の説明を聞いて、士郎はスマホに視線を落として考えた。

 神樹様を破壊し、世界を滅ぼすバーテックス。それを迎え撃つ勇者。それはまるで……()()()()()みたいではないかと。

 あの夢の中に現れた男が憧れ、そして諦めてしまった正義の味方(ゆめ)の様なものじゃないかと。

 俺には()()()()()()()()()()()()。あれは本当にただの夢かもしれない……けれど、もしあれが夢じゃなくて、過去で交わした約束、その記憶なら。

 あの男と自分(少年)が交わした約束を今、果たせる時が来たと、士郎は考えた。

 

「皆!あれ!」

 

 美森がバーテックスを指差して叫んだ。

 士郎は咄嗟に視線を上げ、バーテックスを見ると、バーテックスが尾と思わしき部分から、巨大な火の玉を自分達の方へ発射したのが見えた。

 それを見た士郎は反射的に走り出した。

 

(戦う意志?そんなもの出来てる)

 

 士郎はアプリを開き、タップする。

 すると士郎の体を紅い無数の花弁が包み込み、花弁が晴れる頃には、士郎は赤い外装に身を包んでいた。

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

 バーテックスが放った火の玉が命中するまで残り数秒。

 赤い外装に身を包んだ士郎は友奈達を守る様に前に立ち、右手を火の玉に(かざ)して叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると、士郎の左手に浮き出た花模様の形をした五つの枠。その一画が埋まり、翳した右手からは巨大な五枚の花が咲き誇り、士郎達を守る盾となった。

 次の瞬間、アイアスとバーテックスが放った火の玉とアイアスは衝突し、爆発した。

 爆発による衝撃波と土埃が友奈達を襲うが、誰一人として怪我を負うことはなかった。

 そして爆炎が晴れると、其処には傷一つ付いてないアイアスと右手を翳して立つ士郎の姿を目にする友奈達。

 

投影重装(トレース・フラクタル)

 

 士郎はアイアスを消し、代わりに弓とドリルの様に捻れた剣を投影(つくり)、捻れた剣を弓に番えてバーテックスを狙って弓を引いた。

 

我が骨子は捻れ狂う(I am the bone of my sword.)

 

 再び詠唱した直後、士郎の周辺から青白い風が吹き荒れる。

 

「きゃ!」

 

 その風を受け、風は樹を抱き寄せながら手で顔を庇う。

 友奈は風から美森を守るべく、美森の前に立つ。

 美森は車椅子にブレーキをかけつつ、士郎の姿を目に焼き付ける様に視る。

 バーテックスは再び火の玉を発射し、士郎は力を溜め終えた矢から手を離した直後、左手の花模様の一画が、また一つ埋まった。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 士郎の放った矢はバーテックスが放った火の玉と衝突するが、矢は火の玉を螺旋状に切り開いて貫通し、そのまま威力が衰えぬままバーテックスに命中すると。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 大爆発を起こし、バーテックスは大ダメージを負った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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