衛宮士郎は英雄と成る【ゆゆゆ編完結】   作:読者その1

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まさか、二日でバーに色がつくとは思わなかった……
高評価をくれた方々、本当にありがとうございます!

追記・9月16日
後半のシーンに文章を追加しました。


第4話 最初の戦い

「す、凄い……」

 

 そう呟いたのは誰だったのかは分からない。

 けれど、そう呟いたのが友奈だろうと、美森だろうと、風だろうと、樹だろうと関係ない。

 何故なら、四人全員が同じ感想を抱いていたからだ。

 士郎が放ったカラドボルグは、バーテックスの上半身を吹き飛ばし、中から逆三角形の核の様な物を曝け出させる程の威力だったからだ。

 そして、この中では風だけが知っている。あの逆三角形の物こそ、御魂と呼ばれるバーテックスを倒す為には必ず破壊しなければ行けない核である事を、御魂を出させるには本来、封印の儀と呼ばれる儀式を行う事でやっと出させる事が出来るという事を……それを封印の儀を行わず、力尽くで御魂を出させた士郎の異常性を、風だけが理解していた。

 

「ふ、風先輩。勇者の力って、あんなに凄いんですか!?」

 

 友奈が興奮気味に風に尋ねた。

 風は首を横に振って答えた。

 

「いいえ、確かに勇者の力は凄まじいけれど、士郎程ではないわ……」

 

 風は事前に大赦に聞いていた。

 衛宮士郎の勇者適性は()()()()だと、本来は少女からしか選ばれない筈の勇者。それでも尚、史上初の男性勇者として選ばれた上、その適性は歴代最大の勇者の一回りも二回りも上の適性を持つ、史上最強の勇者だと。

 

(最初は半信半疑だった。けど、今確信した。大赦の言っていた事は事実だった)

 

 最初のバーテックスから自分達を守った紅い光の盾。その後に放った捻れた剣による攻撃。

 その防御力も攻撃力も桁違いだと、勇者としての力を何度か使った事のある風は理解した。

 

「ちっ、仕留めきれなかったか」

 

 だが、士郎は己が果たした戦果に舌を打ち、悪態を吐いた。

 風は何を不満に思う事が有るのかと考えながら、視線を士郎からバーテックスに移す、すると再生を始めるバーテックスを見て風は理解した。

 

(そうだ。まだ戦いは終わってない。それどころか始まってすらいない)

 

 風は立ち上がり、勇者アプリを使い勇者へと変身しようとしたが、そこで再生するバーテックスの方に向かって走り出した士郎に驚く。

 

「ちょっ、士郎!?」

「トドメを刺してくる!」

「ま、待ちなさい士郎!士郎!」

 

 風の制止も聞かず、風の視界から消える士郎。

 

「ああ、もう!」

 

 風は地団駄を踏んだ後、勇者アプリを使い、勇者へと変身した。

 

「友奈。東郷を連れて逃げて」

「で、でも、風先輩……」

「早く!今は士郎がバーテックスに大ダメージを与えたから良いけど。またバーテックスが攻撃を始めるかも知れない!その前に出来る限り遮蔽物のある場所に逃げて!」

「は、はい!」

 

 風に気圧され、美森の車椅子を押し始める友奈。

 

「樹も付いて行って」

 

 樹は首を横に振って、風に言った。

 

「い、嫌だよ!お姉ちゃんを残して行けないよ!」

「樹……」

 

 樹は決意した表情でスマホを構えていた。

 何時もとは違う樹の表情を見た風は、説得は無理だと悟ると小さく息を吐くと、口元を若干緩ませた。

 

「良いわ、なら来なさい」

「うん!」

 

 風の言葉に、今度は首を縦に振る樹。

 でも、と風は続ける。

 

「ついて来れるかな?」

「ついて行くよ!何処までも!」

 

 そう宣言すると共に、樹はスマホをタップして緑色の花弁に包まれた。

 

 

【10】

 

 

 一方、士郎は再生途中のバーテックスを追撃すべく、巨大樹の根から根を跳んで移動していた。

 移動の最中、士郎はバーテックスの再生を遅らせるべく、何度か矢を放ちダメージを与えていたが。

 

「くっ、遅かったか」

 

 御魂が隠れる程度に再生したバーテックスは再び、攻撃を再開した。

 尾から放たれる砲撃は、最初の様な威力の高い火の玉ではなく、白い卵の様な何かだった。それも一つや二つではなく、一度に六つの卵を生み出し、それは士郎の方は飛んで行った。

 

投影開始(トレース・オン)!」

 

 士郎は即座に数本の矢を投影、投影した矢を弓に番え放つ。それを六度繰り返し、六つの卵を撃ち抜いた。

 撃ち抜かれた卵は爆発を起こし、空中に黒い花を咲かせた。

 

「爆弾か!」

 

 そう呟いた直後、バーテックスは更に六つの卵を生み出し、士郎に放つ。

 

「同じこと!投影(トレース)……ぐっ」

 

 士郎が先程と同じく矢を投影しようとした所で、右腕に激痛が走り投影を止め、右腕を抑えた。

 

投影(これ)は、そう何度も使えないって訳か……」

 

 だが、卵は依然と士郎に向かってくる。

 士郎は咄嗟にその場から跳び去って卵を回避する。卵は先程まで士郎が居た場所に着弾し、爆発を起こす。そして再び、卵を生み出すバーテックス。

 

「撃ち落せないなら、斬り捨てる!投影開始(トレース・オン)

 

 弓を消して、白い剣と黒い剣を投影する士郎。両手に一本ずつ剣を握りしめ、向かってくる卵を擦れ違いざまに斬り捨てる。当然卵は爆発するが、その頃には士郎は爆発の範囲から離脱している。

 撃ち出される卵を斬り捨てながら、バーテックスと距離を詰める士郎。近付くに連れて卵の数が増えていくが、士郎はそんなの関係無いとばかりに侵攻速度を落とすことはなかった。

 

「あと、少し」

 

 そう呟いた直後だった。

 士郎の腹部に布の様な触手が叩き付けられたのは。

 

「がぁ!」

 

 咄嗟の出来事に反応出来なかった士郎は、そのまま数十メートル先まで吹き飛ばされ、やっと止まった頃には背後の根に巨大なクレーターを作っていた。

 

「ごほっ」

 

 口の中から()()()()()()()()士郎。遠のきそうな意識を気合いで繫ぎ止めると、士郎はふらつきながら立ち上がった。だが、それが限界だった。

 士郎は()()()()()()()()()()()()()を撃ち落とすなり、斬り捨てるなりの余力は残っていなかった。

 

(ここまで……か)

 

 士郎が朦朧とする意識で覚悟を決めた直後、士郎の体はまるで()()()()()()()()様にその場を離脱した。それで士郎は一瞬気を失ったが。

 

「全く。言わんこっちゃない!」

「士郎さん!士郎さん!しっかりしてください!!」

 

 ドサッと地面に叩きつけられる衝撃と、怒りと悲しみが混じった風と声を震わせながら体を揺さぶる樹によって意識を取り戻した。

 

「……ああ、悪りぃ……助かったよ風」

 

 士郎は二人に、声を振り絞って答えた。

 

「全く。助けたのは私じゃなくて、樹よ。お礼なら樹に言いなさい」

「そう……なのか?ありがとう。樹」

「べ、別に私は、私に出来る事をしただけです。無事で良かったです」

「今の士郎が、無事と言えるかどうかは兎も角。士郎。アンタは此処でじっとしてなさい」

「そんな、訳には行かないさ」

 

 そう言いながら、立ち上がろうとする士郎。だが直ぐに膝から崩れ落ちた。

 

「アンタは無茶のし過ぎよ。()()()()()()()()()()程の攻撃を受けておいて、これ以上戦える訳ないでしょう!」

「精霊……バリア?」

「そうよ。私達をサポートしてくれる精霊。まあ、詳しい事は後で話すわ。今はバーテックスが最優先よ。行くわよ樹!」

「うん!あ、士郎さんはちゃんと休んでで下さい!絶対にですよ!」

 

 そう言い残すと、風と樹はバーテックスの方へと跳んで行った。遠去かる二人に手を伸ばしながら士郎は呟く。

 

「ま、待て……俺も」

 

 もう誰も居ない場所で、立ち上がろうとする士郎だったが。動こうとする度に走る激痛に顔を顰め、座り込んだ。

 

「無茶、し過ぎたかな……」

 

 そのまま、士郎の意識は暗転した。

 

 

【11】

 

 

 次に士郎が目を覚ましたのは、風と樹。そして途中参戦した友奈の三人で封印の儀を行なって御魂が剥き出しになった状態の時だった。

 士郎は最初程ではないものの、痛みが走る体に鞭打って立ち上がって封印の儀を見守る。

 

「くそっ、あいつ等が戦ってるってのに、俺は何も出来ないのかよ……」

 

 悔しさに歯を食いしばる士郎。

 スマホに視線を落とすと、勇者アプリの中に通話機能という物が存在するのを発見する。

 士郎は一度、封印の儀を行なっている最中の三人を見る。

 距離は四キロは軽く離れているにも関わらず。士郎の目には友奈達の表情どころか、周囲を舞っている花弁の数すら目視出来た。

 

「これも戦う力の一部か?」

 

 そう呟きながら、士郎は御魂を攻撃している友奈と風を見つめる樹に電話を掛けた。

 プルルルル。プルルルル。

 数回のコール音の後、樹が通話に出た。

 

『は、はい!もしもし犬吠埼です。どちら様でしひょうか?』

「ああ、俺だ。士郎だ」

『し、士郎しゃん!?』

 

 二度も噛んだ樹だったが、士郎は気にせず会話を続ける。

 

「樹。今、どんな状況だ!」

『い、今ですか?今はえっと……封印の儀って奴でみたま?って奴を出して破壊しようとしてる所ですけど……』

「けど?」

『その御魂が……あ、バーテックスの核の様な物なんですけど、お姉ちゃんと友奈さんの二人掛かりでも壊れない程硬いんです』

「そうか、分かった。友奈と風にそこから離れる様に言ってくれるか?」

『士郎さん?まさか、また無茶を!?』

『士郎?樹、アンタまさか士郎と通話してるの!?ちょっと変わりなさい!士郎!アンタは怪我人でしょ!大人しく休んでなさい!』

 

 風の怒鳴り声に、思わずスマホを耳から話す士郎。

 

「安心しろ……少し寝たら楽になった」

『全然安心出来ないわよ!アンタなんか居なくても、私達で何とかするから!アンタは大人しく休んでなさい!部長命令よ!』

「……俺の体を案じてくれるのは嬉しいけど、それは出来ない。時間が無いんだろ?」

『っ!』

 

 返事は無い。だけど、その沈黙が図星だと確信する士郎。

 

「無茶はするけど、無理はしない。上手く行けば俺の一撃で方が付くし、付かなくても、それなりのダメージを与えられる筈だ」

『方が付かなかった場合は、私達でトドメを刺せって事ね……』

「ああ」

『………………』

 

 数秒の沈黙。

 そして風は士郎の説得を諦め、大きく溜息を吐いて言った。

 

『分かったわ。正直言って、士郎の火力が欲しい所だし、こうして口論してる時間も惜しい』

 

 だけど、と風は続ける。

 

『一撃だけよ!それ以降は私達に任せなさい!良いわね!?約束しなさい』

「ああ、分かった。約束する」

『で?私達は取り敢えず避難して置けば良いのね?』

「ああ、巻き込まれるかも知れないからな」

『最初の火力を見たから、洒落にならないわね。どの位距離を置けば良い?』

「みたま?って奴から離れてくれるだけでいい。今回のは最初に使った奴より攻撃範囲が無い」

『そう、分かったわ』

 

 風がそう言い残して、通話が切れた事を確認すると士郎は呟いた。

 

投影開始(トレース・オン)

 

 士郎は今まで一瞬で投影を完了させてきたが、今回は時間をかけて投影をする。

 バチバチと赤い稲妻が士郎の手から放電する。その激痛から、投影を中止しようとしてしまうが、気合いで痛みに耐え、投影を続ける。

 投影するのは、剣ではなく槍。それも、友奈と風が二人掛かりで破壊出来ない御魂を破壊出来るだけの威力を持つ槍。

 今の士郎は疲弊しきってて、四キロ先の目標を正確に射抜く力など無い。ならば、狙わずに御魂(しんぞう)を射抜く事が出来る槍が必要だ。そんな条件を満たす槍など、一本しか存在しない。

 

「全工程……投影……完了……」

 

 士郎の今持てる力全てを費やして、一本の紅い槍が完成した。

 

(気を抜けば、意識を失いそうだ。はっきり言って立ってるのも辛い)

 

 今の士郎は全身から大粒の汗を流し、息も上がっている。だが、足元はふらつきながらも、腰を低くて弓を引く様に槍を構える。

 そしてクラウチングスタートの様に走り出した。

 

 

 

 

 

突き穿つ(ゲイ)ーー」

 

 

 

 

 

 士郎はめいいっぱい槍を引き絞った。そして……

 

 

 

 

 

死翔の槍(ボルク)!!」

 

 

 

 

 槍を投擲した。

 その槍は因果逆転の呪いの槍。心臓を射抜いたという結果を出してから、槍を放つ。放たれた槍は既に心臓を射抜いたという結果を出してから放たれた為、回避しようと心臓を穿つまで標的を追跡する。御魂(しんぞう)を穿つという点において、この槍以上に相応しい武器は存在しない。

 然し、今回は本来の使用方法である突きではなく、投擲による使用方法を使った。前述の確実に心臓を穿つという効果はかなり薄れるものの、何度回避されようと、標的を貫くまで追い続ける。更にその威力は前述の使用方法で放つより格段と威力が増し、トロイア戦争で大英雄の投擲を凌いだロー・アイアスさえをも破壊する程の物だった。

 

「ここ……までか……」

 

 士郎はその投擲による戦果を確認する前に、気を失い倒れた。士郎が身に纏っていた勇者服が消えるが、その直前、士郎の左手に浮かんだ花模様の形をした枠は三面まで埋まっていた。

 そして、士郎が力を使い果たして放ったゲイボルクは御魂の中心に深く突き刺さり、破壊された。

 尚、御魂が破壊される直前に風が「士郎の嘘吐きぃぃぃ」と叫んで吹き飛んだのだが、その声は士郎に届く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うん。3000〜4000文字を目安に書いてたのに、気付けば5000文字……
チェック大変だった……

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追記
ゲイボルク使用シーンについて、感想欄で指摘があったので、修正しました。
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