深い森に騒々しく草を掻き分ける音が走る。
物音の主である男は、、一心不乱に何かから逃亡をしているようだった。
しかし、追っている者達は獣などの類ではなく、人間のようだ。
そして、追われている男も人間ではなく、人間が持つ筈の肌や髪の毛などはなく、本来目がある箇所は暗い闇の中に紅く光っている、所謂「骸骨人間」であった。
小時間程人間達から逃亡をしていた男だったが、不意に後ろの人間が携えていた得物に切りつけられ、無様にも地面に倒れ込んでしまった。
「まったく手間取らせやがって…」
「お前がもっと早く切りつけりゃ良かったんじゃねぇか?」
「バッカお前、それじゃ『狩り』の意味がねぇじゃねぇかよ。やっぱり相手が逃げ惑う状況を愉しんでこその『狩り』なんだからさぁ!」
地面に倒れ込む男が存在しているこの世界は、実際には現実のものではなく、現在流行中のDMMORPG『ユグドラシル』と呼ばれるゲームにおける世界である。
様々な種族や職業など、幅広く楽しむことができることもこのゲームでの売りの一つである。骸骨のアバターの種族は、この世界では「異形種」と呼ばれており、人間種プレイヤーから忌み嫌われている種族でもある。
異形種といってもその種類は様々で、見た目が異形そのものの様な姿であったり、一見人間種と同じ姿をしていようとも、吸血鬼などの「人間を辞めた者達」や、不死や何らかの力で「人間を超越した者」も、この異形種のグループに入る。
骸骨のアバターを操る男はこのゲームを始めたばかりの初心者であり、ゲーム内で散策をしていたところであった。しかし運が悪いことに、ユグドラシル内では人間種等が異形種を一方的に攻撃する「異形種狩り」と呼ばれるPK行為が横行しており、何も知らずに異形種を選んだ初心者プレイヤーに対しての被害が特に大きくなっていた。
そんなことは露も知らず、異形種を選んだ男は何故襲われたのかも分からないまま、異形狩りの被害に遭ってしまった。
「な、なぜこんなことをするんですか…っ!」
「…チッ、まだ生きてやがったか」
「教えてください…何故こんな酷いことを平気で行えるんですか…っ!」
「グダグダうっせーんだよ!おらぁ!!」
「ぐあっ…!」
イラついた男から体に蹴りを入れられ、骸骨の男は思わず呻いてしまう。
「なぜ?理由なんてねーよ。もしあるとしたら、それはお前が異形種ってことだけだ」
「そ…そんなことで…?」
「そーだよ。俺らだけじゃなく、みーんなやってることなだけだし、だから俺達もやってるだけってこと」
「そんな…そんなのことでこんな…!」
「なぁ、もういいだろ?早いとこそいつ殺して次の奴狩りにいこーぜ」
「それもそうだな。じゃあな骸骨君!恨むなら異形種を選んだお前自身を恨むんだな!」
目の前の人間種プレイヤーはそう吐き捨てると、各々の得物を振り上げた。
「ただお前が異形種だから」
骸骨の男は、こんな理不尽が罷り通るこの世界に怒り、そして目の前のプレイヤー達を倒すだけの力を持たない自分に対して怒りを感じていた。
しかしながら、怒りを感じるだけで今この状況を打破することはできないことは既に理解していた。
そして、無慈悲にも人間種プレイヤー達が一斉に得物を振り下ろす…筈だった。
「つまらぬ」
骸骨の男の目には、何かが一瞬のうちに目の前のプレイヤー達の体を通り抜けるように見えた。
もし何かに例えるとするならば…
一閃。
まさにその言葉通りだった。
何が起こったのか分からないまま、骸骨の男を狩ろうとしていたプレイヤー達は体を両断され、そのまま消え去ってしまった。
骸骨の男も状況を掴めていなかったが、そんなことを考える暇もなくなる。
彼の目の前には、人間種プレイヤーに変わり、全身に堅牢な鎧を纏ったプレイヤーがが立っていたのだ。
鎧の男の手には剣が握られていた。しかもよく見れば、それは普通の剣ではなく、よく侍などの職業が装備している刀であった。しかしながら、刀の刀身はひび割れ、遂には砕けてしまった。どうやらただ砕けてしまったのではなく、鎧の男の放った一閃に刀が耐えられなかったようだ。
しかし、鎧の男は砕け散った刀を悲しむどころか、そのまま放り捨ててしまった。どうやらそこまで思い入れのある装備ではないように思えた。
更に男を見やると、腰には奇妙な形状の巨大な鞘の様な装備が付けられており、そこにも刀が2刀据えられていた。
「おーい!ゼノスさーん!!」
目の前で佇む鎧の男の出で立ちを観察していると、森の奥からまた別の男が現れた。
そして現れた男もまた、全身を鎧を纏っていた。
なんなのだろうか、ユグドラシルでは全身鎧が流行っているのだろうか。
呑気な事を考える骸骨の男を他所に、目の前の鎧男達は会話を始めだした。
「ふむ、たっちさんか、遅かったな」
「いやー、急に走り出すからどうしたのかと思いましたよ〜。それで、何があったんです?」
「なに、狩りの本質を履き違えた者共を消しただけよ」
「あー、なるほど。また異形種狩りですか、最近本当に増えましたよね」
「全くだ。まさか俺の目の前で異形種狩りを。そしてあろうことか、弱き者を狩ろうとしていたとはな。やはり狩りとはなんたるかを全く心得ておらぬ輩ばかりではないか」
「まぁそう言わずに。ゼノスさんのお陰で初心者さんが狩られずに済んだんですから。」
「しかし、それでもつまらん。やはり狩りを愉しむのであれば、たっちさんの様な強者でなければ退屈で仕方がない…」
「そう思ってくれるのは嬉しいです。ところで、いつまで超越者モードのままなんです?」
「ん?…あちゃ〜、またスイッチが入ったままでしたか。すみませんたっちさん」
「いいってことですよ。その超越者モード、俺は好きですし!」
…なんか前の変な鎧2人組が談笑し始めた…
骸骨の男は、変化しまくる状況に頭を抱えるが、取り敢えず助けてもらった礼は言わねばならないと思い、思い切って発言することにした。
「あ、貴方は…?」
「おっと、放置してしまってすみません。大丈夫ですか?」
「えぇ、お陰様で助かりました。ありがとうございます」
「お礼を言われる筋合いはありませんよ。困っている人がいるなら、助けるのは当たり前ですし。そうですよね、たっちさん?」
「その通りですとも!」
「あの、もし良ければ、貴方方のお名前を教えては下さいませんか?私はモモンガと申します」
骸骨の男…モモンガは、自身を救ってくれた目の前の男の名を教えてもらおうと声を掛けた。
「えぇ、勿論。こちらは俺の友人であるたっち☆みーさんです」
「たっち☆みーです。気軽にたっちと呼んでくださいね!」
「そして俺が、ゼノス。ゼノス・イェー・ガルヴァスといいます。
長いのでゼノスとでも呼んでください」
そしてこれが、後に「不死者の王」と呼ばれる者と「超越者」との出会いとなった。