オーバーロード -不滅のトランセンダー-   作:ボンズリ

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ゼノス・イェー・ガルヴァスを操るプレイヤー…妙蓮寺瀬名(みょうれんじせな)は転生者である。

元の世界ではごく普通の一般家庭に生まれ、週末には家族全員でゲームを楽しむほど家族間の仲が良く、充足した日々を送っていた。

そんなある日、友人に都内のゲームセンターで遊ぶ約束をしていた彼は、突然歩道に突っ込んできた車に刎ねられ、命を落とした。

薄れゆく意識の中で、どうして自分がこのような目に遭わないといけないのかと、自分の運命に絶望しつつ、静かに目を閉じた。


そして、次に目を開けた時には、知らない男性と女性が目の前に立っていた。

こうして悲運な最期を遂げた彼は、妙蓮寺瀬名という名ともに新しい世界に転生したのだった。


第1話 -『退屈』な世界の終わりー

「つまらん…」

 

 

新しい世界で過ごす瀬名が抱いた感情は、『退屈』だ。

 

 

彼はいわゆる富裕層の家庭に生まれ、何不自由ない生活を送っていた。

しかし、この世界での富裕層という存在はほんの一握りであり、残りの者達は明日を生きることさえままならない状況であった。

 

また、現在の家庭環境も冷え切っており、家族間での関りも無いに等しい。

 

そして彼の『退屈』な感情を更に加速させたのが、義務教育がないということだった。

以前まで過ごしていた世界は違い、学校にも通う必要すらなく、富裕層の生まれのため働く必要もない。

 

何より、妙蓮寺家は他社とのコミュニケーションすら隔絶された環境だったこともあり、こうして彼の心には『退屈』の二文字が常に鎮座するようになった。

 

しかし、『退屈』な日々を過ごしていた瀬名がたまたまネットサーフィンをしていた時、あるゲームの広告が目に留まった。

 

 

「何だこれ…DMMORPG?」

 

 

それが『ユグドラシル』である。

 

前の世界では無類のゲーム愛好家であった瀬名にとって、最初はどこにでもあるようなゲームのように思えたが、実際のプレイ画面や自由度の高い世界観など、今の瀬名の『退屈』な心を埋めるに足る内容であることを知り、すぐさまゲームを購入。そのままユグドラシルの世界にのめり込んでいった。

 

外部ツールを使用することで自分の思う通りのアバターを作ることを知った瀬名は、前の世界で最も愛着のあるキャラクターを模したアバターを作ることにした。

 

アバターに選んだのは、ゼノス・イェー・ガルヴァスである。

 

 

前の世界において、彼はファイナルファンタジーシリーズを特に好んでプレイしていたが、オンライン作品系にはなかなか手を付けることはなかった。

 

そんな中、彼がプレイするディシディアファイナルファンタジー、通称DFFに突如として彼が全く知らないキャラクターが参戦することになった。

 

そのキャラクターこそがゼノスだ。

 

 

彼は非常に刹那的な性格をしており、異常なほどに「戦い」に執着している。仮に彼の前で降伏など許されない。そして、戦うためなら敵の家族や無抵抗な民を殺すことに一切の躊躇もない。また、ただ戦いのみに殉ずる戦闘狂というわけでもなく、世界に争いは尽きぬものと考えている。そんな世界だからこそ、「戦いを愉しめばよい」という達観した面を持っている。

 

初めてゼノスを見たときは、「なんだこのおでこにおできがある男は…」と思っていたが、調べれば調べるほどに彼の魅力に惹かれてゆき、最終的には全シリーズを通して最も愛着のあるキャラクターとなっていた。

 

 

早速アバター制作に取り掛かるが、ゼノスを模して製作するのは並大抵のものではなかった。彼が纏う鎧の意匠や腰に携えた巨大な回転式の鞘のギミックなど、制作時間は予想以上にかかりはしたものの、2日間昼夜を問わず作業を進めたことで、自分に納得のいくレベルの再現度で完成することができた。

 

 

「ひっさしぶりに2徹したな…でも、これはほぼ完璧に再現されているのでは?」

 

 

思わず自分でも惚れ惚れする出来だった。

 

 

 

そして妙蓮寺瀬名は、ゼノス・イェー・ガルヴァスとしてユグドラシルの世界に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから幾らかの時が過ぎた。

 

長く愛され続けたユグドラシルは、遂にサービス終了と相成った。

 

楽しかった日々はあっという間に過ぎ行き、ユグドラシルで出会い、貧富の垣根を超え、称えあったかつての友人達はユグドラシルから去っていった。

 

それは仕方のないことだった。誰にだって生活はある。それも、自分のように働かなくてもいい人間ばかりではないのがこの世界での現実だ。

 

そして、今日がユグドラシルのサービス最終日。

 

瀬名はサービス初期から最後まで居続けたプレイヤーの一人として、この世界の最後を見届けようと考えていた。

 

ユグドラシルをプレイするためにPCを開くと、1通のメールが届いていた。

 

 

「このメールは…モモンガさんからか」

 

 

メールの差出人はモモンガからだった。

 

モモンガとは最初に会ったあの日以来交流を続けており、今ではたっちさんに続く、この世界での親友である。

 

彼は今、「アインズ・ウール・ゴウン」と呼ばれる異形種ギルドのギルドマスターをやっているらしい。

 

そんな彼から、最後に会うことはできないだろうか、という旨のメールが届いていた。

 

現在時刻は23時。サービス終了まであと1時間しかない。

 

 

「やっべ!急がなきゃな…!」

 

 

 

 

急いでユグドラシルを立ち上げた瀬名が、ゼノスとしてモモンガの元に向かおうとするが…

 

 

「うーん、あそこに行くなら衣装を変えたほうがいいかな」

 

 

瀬名はそう呟くとコンソールを開き、慣れた手つきでゼノスの第2衣装を選択し、決定する。

一瞬のうちにゼノスは鎧姿から、豪華な意匠が施された白いコートを両肩に羽織う式典用礼服へと姿を変えた。

これから向かう場所は、瀬名にとって、そしてゼノスにとっても思い入れのある場所なのだ。

最後くらいはビシッと決めたいと思い、この姿を選択したのだった。

 

 

「さーて、待っててくださいよモモンガさん!」

 

 

そしてゼノスは一瞬のうちに姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ―――

 

 

 

 

ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの本拠地「ナザリック地下大墳墓」では、この墳墓の主がいつか来る友人たちを今か今かと待ち続けていた。

 

 

 

「これで最後…かな」

 

 

そして今しがたギルドメンバーの一人と対面し、別れを告げたところである。

 

 

「結局、来なかったなぁ…ゼノスさん」

 

 

巨大な円卓の席で疲れた声を発する骸骨姿の男。この男こそが、かつてゼノスに救われた異形種プレイヤー、モモンガだ。

かつての姿とは異なり、今は豪勢なフードを身に纏い、様々なマジックアイテムを装備する強大な魔術詠唱者(マジックキャスター)となっていた。

 

 

ゼノスが来なかった事実に悲しみと若干の憤りを感じつつも、彼には彼の人生があると割り切り、大きなため息を一つ吐いた。

 

 

「おや、どうしたんですか?ため息なんてついちゃって」

 

 

予想していなかった声に、モモンガは思わず後ろを振り返ると…

 

 

「いやー、遅れてすみません。家族共をあしらうのに時間かかっちゃいました」

 

 

モモンガが待ち望んでいた親友、ゼノスの姿がそこにあった。

 

 

「ゼノスさん…来てくれたんですね…良かった」

 

「本当に申し訳ない!でも、最後に貴方に会えてよかったです」

 

「それは俺もです!」

 

「さぁて。立ち話もなんですし、円卓に座って思い出話としゃれこみましょうや」

 

「えぇ、是非!」

 

 

そこからの時間はあっという間だった。

 

残された時間はあと僅かだというのに、そこでの語り合いは実際の時間以上に長く感じられた。

それだけ、彼らがこのユグドラシルを愛してプレイしていたのかを物語っていた。

 

 

そして、残り時間5分を切ったところで、ゼノスがある言葉をモモンガに投げかける。

 

 

「モモンガさんすみません、俺はそろそろお暇します」

 

「え!?…って、そうでした。そういえば貴方の終わりの決め方がありましたね」

 

 

ゼノスの終わり。それはこの世界の終焉と共に終わりを迎えることだ。

 

最期を迎えるには最もこの世界が見渡せる場所。即ち、彼の「居城」でなければならない。

それはユグドラシルがサービス終了を告知する前から決めていたことであり、平時から周囲にも自分の終わり方について話していた。

勿論、モモンガもそのことを聞いており、寂しく思うところはあるものの、彼なりのポリシーだということを理解していた。

 

 

「すみません、これだけは曲げられないんです」

 

「謝らないでください!普段から言われていたことですし、誰も引き止めませんよ!」

 

「…ありがとう、モモンガさん」

 

 

ゼノスは円卓から立ち上がりると転移魔法を発動させ、目の前には彼の居城へと続くゲートが開かれた。

 

 

「さよならは言いません。また会いましょう、モモンガさん」

 

「こちらこそ、また何処かで、ゼノスさん!」

 

 

二人は固い握手を交わし、別れではなく、再会を誓う言葉で互いを送り出す。

 

ゼノスはゲートを通り、モモンガの前から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ゼノスの居城

 

 

 

 

居城とはいうものの、辺り一面に広がるのは草原のみ。

 

ここは、ゼノスが自身の最後の為に占拠しておいた場所であり、この草原の眼下にはユグドラシルの世界が広がっていた。

 

この光景だけがユグドラシルの世界の全てではない。ここは、ゼノスが初めてユグドラシルの世界を訪れた際に、初めて見た光景がこそがこの草原から覗く雄大な景色であった。

 

最後に終わるなら、自分にとってのユグドラシルの始まりの場所こそが相応しい。

 

原作のゼノス・イェー・ガルヴァスであれば、それこそ「つまらぬ」と一蹴されてしまうだろうが、この世界でゼノスを知るのは自分のみ。ならばこそ、自分の思うように生き、思うように終わるのもいいのではないかと考えたのだ。

 

ゼノスは草原に腰を下ろすと、ゲーム内タイマーをコンソールから開く。

既に残り時間は1分を切っていた。

 

 

 

「あ~あ、またあの『退屈』な世界に戻んなきゃいけないのか…

 

 

いっそのこと、このまま別の世界に転移してくれないもんかねぇ」

 

 

そんなことあるわけないと思いつつも、この世界を名残惜しく感じたゼノスは、

 

 

「つまらん…」

 

 

と短く呟くと、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

そして、ユグドラシルは正式にサービス終了を迎えた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「…うん?一体どうなってんだこりゃ」


ゼノスが驚くのも無理はない。
彼が再び目を開くと、そこに広がっていたのは深い闇ではなく、あの草原のままだったのだ。


「しかもよく見りゃ、ユグドラシルの世界とは全然違う景色になってるなこれ…」


そう、先ほどまで覗かせていたユグドラシルの世界ではなく、ただ草原がずっと広がっているという、全く別の景色へと変わり果てていたのだ。


「まさかこれ、ゼノスのまま別の世界に来ちまったってことになるのか…?」


ゼノスの予想はまさに的中していた。
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