Fate/IronAvenger   作:デイガボルバー

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Episode21:戦士と、戦士と、戦士

  

2004年 1月下旬 夜

 

冬木市 新都 ガリアスタ・マンション

 

非常階段・結界内部

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…!」

 

 

よろめく脚に、精一杯の力を込めて立つ。

 

 

『やあ…此方のナノ・マシン残量も、思いの外減ってしまった。

お互い、中々に消耗してしまったものだね。

ミス・マクレミッツ。』

 

 

鎧の巨躯を誇るガリアスタが、無機質な仮面の向こうで快活に笑った。

互いの現状を鑑みれば、それは皮肉にも程があるというもの。

 

私の体は散々打ち据えられ、防御に酷使した左腕など、もはや感覚も無い。

対して、アトラム・ガリアスタは戦闘開始時と然程(さほど)変わらぬ威容で立っていた。

奴の言うように、鎧を構成するナノなんたらという素材こそ、私の拳打にて幾らか破壊できたのだろう。

しかし、それだけだ。

その総量すら推し量れぬほど、奴の鎧は新品同様の光沢を放ち続けていたのである。

 

 

『しかし、これである程度は証明出来たと思うね。

君程の武闘派魔術師に、我が礼装は引けをとらない。

十分に、他の参加者連中を打倒可能だろう。』

 

 

男は、ゆっくりと前進する。

拳を構え、臨戦態勢の私の元へ、少しずつ。

 

 

「…早くも後の戦いの算段とは。

もう、私を倒したつもりにでもなっているのですか?」

 

 

拳に、力を込める。

しかし、身に秘めた“神秘”を引き抜こうにも、それによる勝利の確信が無い。

一撃必殺でなければ、私の刃は意味を成さない…。

 

 

『いや、実際決まったようなものだろう?

何せ、君の“魔剣”は私に対して発動しないだろうからね。』

 

 

「……っ!」

 

 

この男、我が家の秘伝をも識っている…!?

 

 

『驚くコトじゃないだろう。

この戦争における君の参戦は、私よりもずいぶん早い段階で決定していたんだ。

何せ時計塔選抜における、この聖杯戦争の()()こそが君だったのだからね。』

 

 

嘲るように笑うガリアスタ。

その嘲笑は、誰に向けられたモノなのだろう。

 

 

『封印指定執行者。伝承保菌者。古き()()の末裔。

君は自分の知名度というモノを、もう少し理解すべきではないかな。

斯様に強く格調高い魔術師の詳細を、猶予のたっぷりあった私が隅々まで調べ尽くさないとでも?』

 

 

…にじり寄る奴の、何処に拳打を叩き込んでも通用するイメージが湧かない。

迅さでも、力でも、体格でも、魔力総量ですらも、奴は私を上回っている。

それらを発現するのは、奴の礼装。

しかし…その発動に、私の“魔剣”は()()()たる感を察知しなかった。

 

 

『対して、君のリサーチは随分と甘かったと言わざるを得ない。

私という魔術師の人となり程度は把握していた様だが、サーヴァントを召喚し1ヶ月の準備期間を儲け、工房まで誂えた魔術師を相手取るにしては、随分と杜撰(ずさん)な突撃だったな。』

 

 

奴が近付く。

倣って、私は後退る。

 

 

『君の奥の手である魔剣は、相手の切り札にカウンターを合わせるコトで十全に効力を発揮する類いの()()だと言う。

魔術師を相手にするならば、成る程、確かに強力な効果を持つだろう。

その性質上、この聖杯戦争に於いてはサーヴァントにすら打ち勝つ強さを秘めている。

だが…どうなのだろうね。』

 

 

後退する踵が、壁を蹴った。

もはや退路は無い。

 

 

『その発動の目を徹底的に潰すほど()()()()()()()()を有する相手に対しては、果たして有効なのかな?

君の魔剣…“斬り抉る戦神の剣(フラガラック)”は。』

 

 

巨躯が陰り、その無機質な眼光が此方を見下ろす。

 

 

『そも、我が礼装の起動段階で宝具が発動しなかったコトに違和感を覚えなかったのかね?

これ程の礼装、従来の魔術師連中ならば十分に奥の手と呼べる代物だ。』

 

 

奴の手が伸びる。

活きた利き腕で打ち払おうとするが、その手すら阻み掴まれてしまう。

 

 

『だのに、カウンターを発する条件が満たされなかった事実が指し示す結論。

それは、私が纏う礼装は切り札でも何でもない代物だというコトだ。

F.R.I.D.A.Y、壁面を開示してくれ。』

 

 

延びた手が、私の胸ぐらを掴んだ。

体は容易く持ち上がる。

その最中、展開される周囲の壁面が視界に入る。

其処には…

 

 

「そ…んな……!?」

 

 

無数の、巨人が立っていた。

展開された壁面の全てに、()()()()()()()()()()()()()()と同型の鎧が並ぶ。

 

 

『“設計図”は完成しているのでね。

量産型軍団(ナノ・アイアンマン・ディオ)は、あらゆるアーマーの特徴を再現できる。

つまり、このソーバスターは君達が散々破壊してきた鎧の一形態に過ぎないというワケだ。

戦闘力の違いは、単純に魔術回路の有無と、有人による臨機応変さの違いでしかない。

これらは全て、自動化(オートメーション)された工房にて均一量産可能な代物なのさ。』

 

 

…私は、一体何と戦っているのだろう?

魔術師?

魔術使い?

そういう括りが、通用する輩なのか…?

 

 

『コレと同様の機能を持つアーマーを、()()()()()で即時に使用可能だ。

無論、先程君達が見落とした事実からも分かる様に、平時は魔力を発生させない。

故に、接触するまでは探知などまず不可能。

理解したかね?』

 

 

否…こんなモノが、魔術決闘儀式と呼べるのだろうか?

こんなモノは───

 

 

 

 

 

 

『大量生産された武装兵器の前に、君の魔剣などは無力なのだよ。』

 

 

 

 

 

 

ただの、“戦争”ではないか。

 

 

 

 

 

「──…“後より出て先に断つ者(アンサラー)”ぁァアッ!!!」

 

 

渾身の力を振り絞り、魔術詠唱を叫ぶ。

我が()にて精製した、一族に刻まれた魔剣の励起。

利き腕に強化魔力を集中し、拘束を無理矢理引き剥がす。

肉と骨が軋む。

構わない。

雷光にも似た魔力の本流と共に、我が水晶体礼装が姿を表した。

刀身体が現出し、切っ先はガリアスタに向いて輝く。

 

 

『…やれやれ、意外だな。

君程の術者が、やぶれかぶれに術式を行使するとは。

だが、この状況で成立するとでも思うのかい?』

 

 

私の体は、そのまま壁面の鎧に叩きつけられた。

後ろから羽交い締めにされ、魔剣を携えた拳が揺らぐ。

 

 

『その剣を先手で撃つ場合、どうなるのかという一点については興味があったがね。

今の状況で優先すべき項目でもない。

受けてやるワケにはいかないな。』

 

 

「がっ…!

ふ、“斬り抉る(フラガ)戦神の剣(ラック)”……ッ!』

 

 

それでも魔剣は発動し、ガリアスタにはカスリもせず全くの別方向へ飛んで行った。

 

 

『ふぅ…残念極まる無駄な足掻きだな。

さて…ここで積み(チェック)だ、ミス・マクレミッツ。

どうするね?

正直、君という人材を失うコトは惜しいと、私は思っているんだ。

降伏し、私への恭順の意を示すならば…このまま、その細く美しい首をヘシ折る必要も無くなるのだがね。』

 

 

せせら笑い、機械の巨腕を私の首にかけるガリアスタ。

鎧の眼光は依然無機質なままだが、その色に値踏みするような気味の悪さを感じ、鳥肌が立つ。

 

 

「……後免、被ります……貴方は、強いが…下衆な男だ。

私が、敬愛する…戦士の、姿には…程、遠い…!」

 

 

絞り出すような悪態。

しかし、私自身は既に抵抗する術を失っていた。

情けないが…事実に向き合った上で、それでも奴を否定する。

 

 

『ほう…?

それはまた、見解の相違だな。

私は私なりに、戦人(いくさびと)たるガリアスタの男として強く生きた末に今が在る。

それを否定されたとあっては…もはや、我々はきっと理解り合えない。』

 

 

首にかかる手に、力が込められ始めた。

ゆるゆると、じっくり殺すつもりだろうか。

今までも散見された彼の嗜虐性が、強く垣間見えた瞬間でもあった。

しかし…一思いに殺してしまわない、土壇場でのツメの甘さ。

それこそが、この男の“小ささ”であると理解出来た。

故に───

 

 

「その点については、全く…同意です。

だから、貴方に…見せて、あげましょう…!

尊敬に値する、戦士の……姿を!」

 

 

意識を魔力に。

回路を廻し、腕先に込める。

体が熱くなる…それは、我が身に刻まれた、英雄との繋がりを示す“刻印”の発動であった。

 

 

『……っ!』

 

 

「令呪を持って、命ずる!

来なさい、ランサーッ!」

 

 

瞬間、目映い光が周囲を包んだ。

魔力の発現。

奇跡の行使。

英霊契約の際に、聖杯より三画のみ与えられる、サーヴァントへの絶対命令権。

その命令がシンプルであればある程、確度を増し…その力は、魔法にも近い奇跡の実現すら可能とする。

 

 

『バカな、令呪だと…!?

この結界内部で、それを発動するのは不可能なハズ──』

 

 

奴が、ハッと気付いて後方を振り返った。

そこには、壁面を貫く小さな()

 

 

『しまった!

さっきの魔剣か…っ!』

 

 

気付いた時には、もう遅い。

確かに先手で撃ち放つ魔剣の一撃は、ただ速く鋭いだけの光弾に過ぎない。

一定以上の実力者が相手ならば、躱されてしまうのも道理だ。

だが、今回に限ってはそれであっても構わなかった。

壁面を穿ち、壁向こうまで貫通するコトさえ出来れば、そこから結界外部への魔力干渉が可能となる。

ほんの小石程度の幅のみを貫く我が宝具だが、貫通力という一点のみに於いては十分に信頼できる。

その信頼に、我が血は見事に応えてくれた様だった。

 

 

 

 

「我が主相手に随分とやってくれたな、ガリアスタ。」

 

 

 

 

我が僕は…偉大な英雄(クー・フーリン)は、“来い”という命令に対して即座に参上した。

空間を跳躍し、あらゆる障壁を飛び越えて現れる。

刹那の間に繰り出されるランサーの槍撃に対して、しかしガリアスタは即座に反応した。

 

 

『ぐぁっ……っ!!』

 

 

槍による薙ぎ払いを、刃からズレた柄を受けるコトで斬撃を躱す。

しかし、英霊の筋力をモロに受けたコトで吹き飛んでしまった。

相当な衝撃であろうに、飛んだ先で即座に体勢を立て直すガリアスタ。

 

 

「反応が早い。

やはり相当に戦い慣れていやがるな、テメェ。」

 

 

私を即座に救出し、空間中央に位置取るランサー。

 

 

『くっ…おのれ!

F.R.I.D.A.Y、アーマーを全て起動しろ!

奴らを逃がさず、討ち果たせ!』

 

 

何者に呼び掛けてるのか、ガリアスタの号令と同時に周囲を囲んだ鎧達が起動する。

軍勢が、私達を包囲しようと(うごめ)く。

 

 

「…無事、とはいかねェ様だな、マスター。」

 

 

「…貴方、もね。」

 

 

よろめく私を支え、片手に槍を構えるランサー。

その霊基(からだ)は、経過時間の相応以上のダメージを受けている様だった。

相手方のサーヴァントと戦闘したのだろう。

やはり、其方も強力な存在であったコトが伺える。

 

 

「ともあれ…貴方が来たなら、形勢逆転…です。

相手のマスターを倒せば…私たちは──」

 

 

{いや、ここいらが潮時だろう。

俺も、キャスターの野郎を仕留め切れなかったからな。}

 

 

私の言葉を遮る、念話による返答。

それは、意外な言葉。

かの勇敢なる大英雄の口から発せられたとは思えない内容に、私は思わず彼の顔を見上げてしまう。

目が合う。

ランサーは私の姿を一瞥した後、再び戦場に向き直った。

 

 

「宝具を使う。

()()を喫するなら、それが必要不可欠だ。

構わねェな、マスター?」

 

 

…ああ、そうか。

彼は、まだまだ戦える。

原因は、私だ。

弱った私を抱えて、戦う事実を彼は危惧したのだ。

私の命を、案じたのだ。

確かに我々は継戦能力の高さを自負していたが、拠点における補給を受け続けられるガリアスタ陣営が相手ではジリ貧になる。

相手方のサーヴァントも健在であるなら、尚更だ。

それ故の…全力を籠めた一手。

そのための、宝具解放。

 

 

「…ええ、良いでしょう。

魔力の全てを持って、突き穿ちなさい…ランサー!」

 

 

頷く私に、彼は柔らかく笑いかける。

 

 

「おう、行くぜ!

ガリアスタ、これで終いだ!」

 

 

彼が、槍を払う。

先程まで途切れていた魔力パスが、著しく活性化しているのを感じた。

 

 

『この魔力の奔流…門を破壊した一撃を放つつもりか!!

くっ…F.R.I.D.A.Y!

全力で阻止しろ!』

 

 

壁面が変形してガリアスタと我々を遮った。

此方の切り札を知るが故の、護りの一手。

魔力の流れを見るに、結界の堅牢さの全てをその壁面に集約している様だった。

今までの戦闘での強度から想像しても、確かにランサーの宝具に抗し得る可能性を持っているコトが伺える。

 

合わせて、こちらの妨害を行おうと動き出す鎧の軍勢。

しかし、そんなものは歯牙にもかけぬといった風情で英雄(ランサー)が獰猛に笑った。

 

 

「ハ、面白ェ!

キャスター陣営が誇りし強靭なる拠点結界!

そいつに刃が突き立つかどうか、改めて見定めてやらァ!」

 

 

鎧の光線、光剣、弾幕。

あらゆる全てを、ランサーは跳躍にて回避する。

魔力の奔流は昂り、その猛りが集約した槍が放たれた。

 

 

 

 

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 

 

 

 

対決の火蓋を切った魔槍の輝き。

同様のそれが、結界壁面に突き刺さる。

 

 

『なっ…!?』

 

 

ただし、対象はガリアスタを護る防壁ではなかった。

穿たれたのは、()()()()()()()()()()()

戦場は、元々非常階段に相当する空間である。

であれば、壁向こうに外部が広がるのは道理であった。

 

 

『バカな…逃げるつもりか!?

偉大なる、ケルトの戦士ともあろうものが!』

 

 

大いなる破壊。

それにより、冬木市の夜闇と街明かりが(あらわ)となる。

 

 

「おう、逃げるさ。

主の命を護るためならば、躊躇無くな。

キャスター(アイアンマン)のクソったれには、よろしく伝えといてくれや。

次にツラ見たその時は、この俺が必ず殺すってな。」

 

 

不敵に笑うランサー。

穿たれた大穴を潜り抜け、我々は夜闇の冬木市へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

『…なんとも、腹立たしい程に鮮やかな手際の良さだ。

なるほど、あれこそが“戦士”の英霊。

メドゥーサとも、ギルガメッシュとも、スタークとも違う。

その戦働きによって星に召し上げられた英雄の魂…か。』

 

 

ボクは、ランサー陣営の去った穴を見据えて呟いた。

全く、派手に破壊してくれたモノだ。

門に、外壁に…ライダー陣営すらも弾いた結界を、いとも容易くやってくれる。

しかし…この出費に見合う成果は得られた。

 

 

『F.R.I.D.A.Y、ランサー陣営にセンサーはセット出来たかい?』

 

 

『はい。

音声、魔力量の観測、共に発信源を探知可能です。』

 

 

ライダー陣営の時と同様だ。

ギルガメッシュの場合はマスターも周囲に見られず、そもそもそれを考慮する暇もなかったので実行できなかったが。

現状、ギルガメッシュと並んでトップクラスに危険な陣営であるランサー陣営を監視下に置けたという事実は大きなアドバンテージであると言えた。

 

 

『そいつは結構。

では、キャスターの方はどうか。

ランサーに対してそれなりのダメージは与えられたようだが…。

ともかく、奴の現状把握と情報の擦り合わせを行いたい。

通信は開けるかね?』

 

 

私の質問に、いつもの平坦な調子で応える。

 

 

『スターク様は、現在通話が困難な状況にあります。

スターク様からの伝言を預かっております。

ガリアスタ様は、至急ラボラトリー・スペースにお越し下さい。』

 

 

『…何?』

 

 

美しく、坦々とした口調から紡がれる、不穏な言葉。

ボクは、妙な胸騒ぎを覚える。

 

 

『…直ぐに向かうと伝えろ。

マンションの破損箇所には、ナノ・マシンによる応急処置を施せ。

それとサジョウ君とカウレス君にも、必要とあらば即座に行動出来るよう準備させる様に。』

 

 

『畏まりました。』

 

 

それだけ伝え、ボクは進み出した。

鎧を解くコトもせず、ジェット噴射に任せて、迅速に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧いただき、ありがとうございます!
というわけで、ひとまずキャスター陣営VSランサー陣営は終了です。
ライダー陣営とギルガメッシュに続いて、また勝負の結果がフワフワした感じになりましたが…まあ、まだ運命の夜にすら至ってない開戦前なのでね。
イメージとしては、キャスターはランサーに弱いですが、アトラムはバゼットに強い…みたいな感じ。

ここからは、本編時間軸に大分近づくのではないかな、と想ってます。
まだ未登場のキャラも沢山いますしね。

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