本来の世界に帰ってきた料理人   作:北方守護

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修行開始
第15話 修行 その1


食事を終えた皆が休んでいるとリョウが気になっていた事を武昭に聞いた。

 

「そういや武昭が研究所を出た後の部屋を俺が掃除をしてたんだけどよ、こんな物が落ちてたぞ」

リョウがポケットからツクシの様な物の燃えかすを出して見せた。

 

「あぁ、悪かったなリョウ、綺麗にしたつもりだったけど少し残ってたか」

 

「うーん?なぁ武昭、これってか普通のツクシと違うのか?」

 

「もしかして、これも向こうの世界の物なのかしら?」

 

「あぁ、コイツは【たいまつくし】って奴でな【食義】の修行に使ってた奴なんだ」

 

「その食義ってなんだ?」

 

「食義って奴は向こうの世界では小学校から普通に授業に組み込まれてて簡単に言うと食に対する礼儀と作法なんだ」

武昭の説明に3人は軽く頭をひねっていた。

 

「さっき俺が師匠から教わった事と少し似てるんだけど 食に感謝するって事は即ち命に感謝をする事……

そして常に心の中心に万物への感謝と敬意を据え付けておく事、それが食義の基本の構えなんだ」

 

「けど、そんな事をして何か意味があるのか?」

竜胆が疑問に思っていた事を尋ねた。

 

「あぁ、食義は精神面だけでなく技術面でも生かされるんだ」

 

「例えば、どんな風になるのかしら?」

 

「食への感謝を繰り返す事で目の前の対象物に対する集中力が増して、それに伴って集中力が向上して動作の素早さと正確性が上がるんだ」

 

「じゃあ武昭の調理中の作業が早いのって……その食義を覚えてるからなのか?」

 

「リョウの言う通りだな、最も俺の食義は上級の途中までなんだ」

 

「おいおい、あの腕前で途中だって言うなら……それを完全にマスターしたらどうなるんだ……」

竜胆の言葉にリョウとアリスは軽く冷や汗をかいていた。

 

「食義を完全に極めた料理人だと泳いでる魚が捌かれて頭と骨だけで何年も生き続けたって言う伝説があるぞ」

 

「泳いでいる魚を……それって生きたままって事なのか!?」

 

「そうだぞ、魚も捌かれた事に気付いてないみたいなんだ」

武昭の話を聞いた3人は、それぞれ何かを考えていたが……

 

「なぁ武昭、その食義って……俺も習う事は出来るか?」

 

「ちょっとリョウ君!そういう事なら私だって習いたいんだから!!」

 

「待てよ!ここは年上の私に譲れよ!!」

3人が武昭に迫ってきた。

 

「うーん……俺が貰った物の中に食義の修行に使う食材とかはあるから、やろうと思えば出来るけど……

俺も全部マスターした訳じゃないから俺が教えるにしても途中までにもなるぞ、それでも良いのか?」

武昭の言葉に3人は激しくうなづいた。

 

「そうか……じゃあ俺が食義を教えるけど……俺が習った奴はかなり厳しいけど、本当に良いのか?」

 

「あぁ!断る位なら最初からこんな事言わねぇよ!!」

 

「これでも私は薙切の一族なのよ!なめないでほしいわね!!」

 

「へっ!私だってな世界中の色んな所に行ってるんだぜ!そんな事でビビるかよ!!」

 

「分かったよ……じゃあ俺が出来る限りの食義の修行を教えるよ……まぁ、まずは戻るとするか」

武昭はそう言うと船を港に戻した。

 

それから数日後……

武昭達は宗衛と共にある島に来ていた。

 

「宗衛さん、本当にここの島を俺が自由にして良いんですか?」

 

「あぁ、ここは以前薙切で買い取った島なんだが、ちょっと交通網がね……」

 

「なるほど…けど、これくらいの大きさだったら問題は無いですね……

それで宗衛さんに以前渡した宝石なんですけど、その中からこの島の代金を支払っといてください」

 

「あぁ、そういう事なら構わないよ……それでここで何をするんだい?」

 

「えぇ、ここで俺が向こうの世界でしてた修行をするのに場所を作ろうと考えたんです」

 

「なるほど、けど資材かはどうするんだい?」

 

「それなら問題はありませんよ」

武昭がポケットから取り出した一粒の種を地面に埋めてピアスの一つから中の液体を一滴かけると直ぐに芽が出て空を覆う様にそのまま大きくなった。

 

「武昭君、これもやっぱり向こうの世界の物なのかい?」

 

「えぇ【アンブレラツリー】って言われてる奴です、あとは()()()だな」

次に武昭がポケットから取り出したのは手に乗るほどの四角形で幾つかのボタンがあった。

 

「コイツはアッチで作ってくれたダイスハウスって奴で好きな大きさの家を建てれるんですよ」

武昭がボタンを操作して地面に置くと四角形が光り輝き光が収まるとかなりの大きさの家が出来ていた。

 

「ふむ……向こうの世界の技術は凄い物だな……」

 

「本当ならコイツはこっちで家が見つからない時に使う様に渡されたんですよ……

けど、宗衛さん達に出会えたんでずっと使わなかったんです」

 

「武昭君、あと私に何か出来る事はあるかい?」

 

「いえ、とりあえずは大丈夫です、けど何かあったら手を貸してください」

 

「あぁ、私は構わないからいつでも頼って来なさい」

 

「ありがとうございます、じゃあアリス達を呼んで来ます」

武昭はアリス達を呼びに向かった。

 

 

武昭に呼ばれたアリス達は一緒にダイスハウスの中に入った。

 

「うわぁ……結構な広さだな……」

 

「それに、壁も凄い硬いわよ」

 

「武昭、ここで修行をするのか?」

 

「あぁ、まずはこれに着替えてきてくれ。リョウはこっちの部屋、竜胆とアリスは向こうの部屋だ」

皆は武昭から修行着を受け取ると着替えに向かった。

 


着替え終わった3人の前に武昭が立っていた。

 

「じゃあ、これから修行を始めるけど、まずはこれからだ」

武昭は3人の前に5m程の長さの箸と豆が山盛りに積まれたお椀をそれぞれの前に置いた。

 

「最初は、その箸でその豆を食べて貰おうか」

 

「本当に……こんな事をするのか?」

 

「あぁ、信じられないかもしれないけど、これはまだ基礎コースの中の一つだからな」

 

「なっ!?こ、これで基礎コース……しかも中の一つって……」

 

「皆が、それをしてる間に俺は次の用意をしてくるから」

武昭は、その場を離れた。

 

武昭が居なくなって……

 

「くっ……この箸を持つだけでも……かなりの力を……あっ!」

 

「長いから持てても……豆を……キャッ!」

 

「よしっ!何とか……掴めた……チキショウ!」

竜胆とアリスは箸を持つだけでも苦労しておりリョウは豆を持ってもすぐに落としていた。

 

(難しいけど、武昭はこれをしてあそこ迄なったんだ……だったら)

3人は苦労しながらも新たな決意をしていた。

 

 

 

 




オリジナル道具。
ダイスハウス
IGOが作り出した大きさを変えられる住宅の発明品。

サイコロ状の四角形で大きさは15cm四方。
サイコロの1の面に幾つかのボタンがあり、それを操作して自由に大きさを変えられる。

但し水道や電線が繋がってない為、別に発電機や水タンクなどが必要。

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