本来の世界に帰ってきた料理人   作:北方守護

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第18話 修行 その4

皆が武昭から食義の修行を教わり始めて1週間目……

 

「ふーん……大分皆もたいまつくしが保つ様になってきたな」

 

「当たり前だ……何となくだけど武昭が言う感謝の意味が分かってきたぜ……」

 

「私も、こうしてると今までどれだけ騒がしかったのかが感じるわ……」

 

「あぁ、アリスの言う通りだな……私も以前と違うのが感じるぜ……」

 

「確かに……炎の燃える時間も伸びてきてるし、だいぶ感謝も出来る様になったからな……じゃあ違う修行をするか」

 

「あぁ……何でもこい」

 

「どんな修行だとしてもクリアしてあげるわよ」

 

「私達から受けさせてほしいって頼んだからな」

 

「ふむ……そうか、なら庭に来てもらう」

武昭は3人を連れて外に出て行った。


庭に出ると武昭は3人の前に植木鉢を置くと植物の種を1人ずつ渡した。

 

「そいつを土に植えて見守るんだ……それが今日の修行だ」

 

「これって……向こうの世界の物?」

 

「あぁ、ローズハムって言うバラの様なハムの花を咲かせる植物の種だ」

 

「バラの様なハムの花を咲かせる……何かしながらするのか?」

 

「特に無いぞ……発芽して花が咲くまで見守るだけだからな……()()()()でな」

 

「なっ!?不眠不休って……これはどうしたら咲くんだ?」

 

「くれぐれも感謝の念を忘れない様になしか言えないな……咲いたら今日の修行は終わりだ」

3人は指示通りに感謝の念を持って座禅を開始したが……

 

「なぁ武昭、この花ってどれくらいで咲くんだ?」

 

「さぁ?……強いて言うなら……感謝の念が強くないと……しか言えないな」

 

「念が強くって……どれだけなのかしら?」

 

「人、それぞれだな……あぁ、言っておくけどそれが咲かないと食事は無いからな」

 

「んなっ!?嘘だろって……今までの修行を受けてるから本当なんだろうな……」

 

「分かってくれたなら、感謝の念を込めた方が良いぞ……」

武昭はその場を離れた。

 

武昭が離れて3時間程経って……

 

「思ったけど……本当に料理の腕前が上がってるのかしら?……」

 

「確かにな……たいまつくしが長く点く様になって、お礼の構えをとって色んな物を食べて……」

 

「じゃあ武昭が何の役にも立たない事を教えてるって言うんすか?」

リョウの言葉にアリスと竜胆が黙ってうなづいた。

 

「ハァ……何か久し振りに包丁が握りたくなってきたぜ……」

 

「じゃあ武昭の所に行って何か料理をさせてもらいましょうよ」

 

「そんな事してて良いんすかねぇ……」

 

「別に良いじゃない、私達は悪い事をする訳じゃないんだから」

 

「今回ばかりはアリスの意見に賛成だぜ、なら行こうぜ」

 

「アッ、全く……しょうがないか……」

リョウは渋々2人の後をついて行った。

 

3人が武昭の所に行くと凄いスピードで料理をしていた。

 

「ん?どうしたんだ皆?こんな所に来て……って多分、本当に料理の腕前が上がってるか気になったんだろ」

 

「あぁって……俺達が、そう来るってわかってたみたいだな……」

 

「俺も食義の修行をしてて、そう思った事があったからな まぁちょうど良いか よいしょっと」

武昭は自分が料理してる所と違う調理台に3人分のまな板と包丁を置くとキャベツを冷蔵庫から取り出した。

 

「こいつはエナメルキャベツって呼ばれてる特殊調理食材でな、これを千切りにしてくれ」

 

「フッフーン、良いわよこんなキャベツ位簡単に「ちょっと待ったお嬢」何よーリョウ君」〈プクー〉

アリスが切ろうとしたのをリョウが止めた。

 

「武昭はコイツを特殊調理食材って言ってましたって事は、ちゃんとした調理をしないと味が落ちると思うんす」

 

「なっ!?なぁ武昭!リョウの行った事は本当なのか!?」

 

「ハッハッハッ、分かったか、リョウの言う通りだな、そのキャベツは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ある細さって……それを探せって事か?」

 

「いや……自分から探さなくてもわかる筈だぞリョウ……俺はグルメ世界である人に言われた事があるんだ」

 

「どんな事を言われたのかしら?」

 

「俺達料理人が食材を選んでるんじゃない 食材が客や料理人を選んでるんだってな……」

 

「食材が客や料理人を選んでるんって……どういう事だ?」

 

「その人は、こうも言ってたよ……「その日々、食材にその日の気分を尋ねてるんだって」……」

 

「じゃあ、料理を作るのに凄い時間がかかるじゃない」

 

「そうだなアリス だから、その人の店が開くのは月1で早い方だからな」

 

「月1で早いって……どれだけかかるんだ」

 

「まぁ、向こうは そう言う世界だったからな……ほら話してる暇があるなら調理をしてみろ 俺は違う作業をしてるからな」

武昭に言われた3人は、それぞれまな板の前に立った。

 

「確かに、こんな手触りのキャベツなんか触った事は無いぜ……」

 

「けど、決まった細さってどれ程なのかしら?」

 

「あっちの食材だから美味しく食べたいんだけどな……ん?」

キャベツを手にした竜胆が何かを感じていた。

 

「(なんだ、この感じ……何か手が勝手に……)バシュバシュバシュ……嘘だろ…」

 

「えっ!?なんで切れてるの!?」

 

「しかも、凄い細いぜ……」

アリスやリョウ、竜胆自身もキャベツが切れた事に驚いていた。

 

「いや……私も分からないんだ……触ったら体が勝手にって言うか……無意識に……

もしかして、これが食義って奴なのか……?」

 

「おぉ、どうやら竜胆は食義の基本が出来てるみたいだな。どれ……うん鮮度も落ちてないな」

竜胆が戸惑ってると武昭が来た。

 

「どうだ?直感的に、その食材にあった切り方が出来る事を体感して」

 

「これが……食義……あぁ、最初は戸惑ったけど、今なら分かってきた感じがするぜ……」

 

「だったら、ローズハムの芽も出せるかもな」

武昭は竜胆に種が入った鉢植えを渡した。

 

「うん今なら分かる筈だぞ?感謝するって事が……」

 

(修行する前に武昭が言ってたな……食に感謝するって事は命に感謝するって……)ピルピルピル バサッ!

 

「凄いわ!本当にハムの花が咲いたわ!!」

 

「しかも凄い速さだったぜ……」

 

「ほら2人もキャベツを切ったらやってみろよ」

武昭が促すとアリスとリョウもキャベツを0.8mmに切れてローズハムの花も咲かせる事が出来た。

 

「やったわ……私も咲かせれたわ……」

 

「それにキャベツもどれだけの細さに切れば良いのか分かったぜ……」

 

「どうやら、3人とも食義を身に付けたみたいだな……」

 

「あぁ……けど、まだ先があるんだろ?武昭」

 

「そうだな、今の皆はまだスタート地点に立っただけって所だな」

 

「面白いじゃない、すぐに武昭に追い付いて抜かしてあげるんだから!」

 

「今度こそ料理対決で俺が勝ってみせるぜ!」

 

「ハハハ、そうこないとな。さて、皆も俺が出した課題をクリアしたから夕飯にするか」

武昭は、そう言うと食事を開始した。

 

その後、修行を開始して2週間程経った頃……

 

「うん、たいまつくしの炎も2時間は保つ様になったし水にも濡れなくなったわ」

 

「よしっ、今朝はこれだけ取れたぜ」

 

「次は俺の番だぜ」

 

(うん……そろそろ3人も食義が身についてきたから……修行の卒業として()()()()()()()()をご馳走するか)

武昭は3人の様子を見ながら何かを考えていた。

 

 

 


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