本来の世界に帰ってきた料理人   作:北方守護

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十傑との出会いと再来。
第19話 フルコースの存在と証


アリス、リョウ、竜胆が武昭から食義を教えてもらって2週間経った日の朝……

 

「今朝は武昭から修行しなくて良いって言われたな……」

 

「うーん……もしかしたら、違う事でもするのか?……」

 

「別に何だって良いわよ、私達はただ武昭から指示された事をするだけなんだから」

 

「おっ、皆起きてたのか」

3人が話してると武昭が来た。

 

「なぁ、武昭、今朝は修行をしなくていいって言ってたけど、何をするんだ?」

 

「簡単だよ竜胆、今日は皆に俺が向こうの世界で食べた店のメニューの一部と()()()を食べてもらうだけだ」

 

「向こうの世界で食べた店のメニューって……それってもしかして、食義が関係してるのか?」

 

「あぁ、これから出すメニューを食べるには食義が必要なんだ」

 

「じゃあ、それを食べる事が今日の修行なのかしら?」

 

「まぁ、その事は食べてから話すよ、とりあえずは食堂に行くぞ」

3人は武昭に連れられて食堂に向かった。

 

食堂に行くと、3人はそれぞれの席に座った。

 

「じゃあ、料理を出して行くから皆は、それを食べて行ってくれ……まずは椀物として、昆布石という石から出汁を取った吸い物だ。

本来ならば昆布酒として食前酒にするんだが皆は未成年だから吸い物にした」

 

「これが向こうの世界の食材で作った料理か……武昭、こいつを食べる時の注意はなんだ?」

 

「水面に波を立てずにゆっくりと動かす事だ、少しでも立たせると……こうなる」

武昭が透明な入れ物に入れた昆布石の出汁を軽く波立てただけで蒸発したのが3人には見えた。

 

「それに如何なる場合でも感謝、そして、一礼だ」

武昭が3人の前にお椀を置くと皆は両手を合わせて一礼をして食事を開始した。

 

「今までの私だったら、急いで飲もうとして消えてたかもしれないけど、今なら分かるわ……こうして食べる物もあるんだって……」

 

「時間はかかるけど、それだけの旨さがこの汁物にはあるぜ……」

 

「俺が今まで飲んだ汁物の中でも1番だ……それに胃が覚醒したのを感じる……」

 

「どうやら食べれた様だな次はサンシャインチーズだ……これは窓際に行って太陽の光を当てながら食べてもらう」

 

「うん、私が知ってるチーズとは全然違うわ……凄いトロリとしてるけど歯ごたえもしっかりあるわ……」

 

「次はミリオントマトだ。その名の通り千枚の皮を一枚ずつ丁寧に剥いた奴で潰さない様に慎重に食べるんだ」

 

「うわっ!こんなに小さいのに物凄く味が凝縮されてる!!」

 

「次は刺身だ これから先の幾つかはその店のメニューとは違って俺が師匠と一緒に捕獲した事がある食材を使った料理で今回はフグ鯨と呼ばれてる物だ。これは食義関係なく食べれる物だぞ」

 

「おいおい、なんだよ綺麗な身は……俺も沢山の魚介類は捌いて来たけど、こんな身の魚は初めてだ……」

 

「次は焼き物として兎鷺(ウサギ)の塩釜焼だ」

 

「これは鶏肉みたいだけど、獣肉みたいでもあるわ……そして両方の良い所を兼ね備えてるわ……」

 

「次は食義が必要で星米のご飯で、これを食べる時は一瞬でも瞬きをしたら味が一気に落ちる」

 

「一粒一粒が輝いてるぜ……星米って言う意味が分かったぜ……」

3人は食義を駆使しながら料理を食べて行った。

 

そして……

 

「そして、デザートとしてチェリンゴとホワイトアップルを使ったフルーツタルトだ」

 

「フゥ〜……この甘さが一息つかせてくれるぜ……」

 

「けど、甘いだけじゃなく酸味もあって対比が良いわ……」

 

「これが向こうの世界での材料を使った料理なのか……」

 

「どうだ?まぁ、俺が食べた店のメニューとは一部違ってたけどな」

 

「だとしても凄い美味しかったわよ」

 

「あぁ……今まで私達が食べて来たのが何だって思う位だぜ……」

 

「ん?なぁ武昭、ある物を食べてもらうって言ってたけど、それって食べた物の中にあったのか?」

 

「いや、あの中には無かったな……何故ならそいつは、これから出すんだからな」

武昭は厨房に行くと寸胴が乗ったワゴンを持ってきた。

 

「こいつは俺が、こっちの世界の食材で作った向こうの世界の料理だ……」

武昭が蓋を開けると中には()()が入っていた。

 

「武昭……これってただの水じゃないの?」

 

「あぁ、どう見ても水……って言うかちょっと沸かした位だな……」

 

「けど、武昭が作ったって言うなら……なっ!?」

匂いを嗅いだリョウは驚いた。

 

「お嬢!竜胆!この()()()の匂いを嗅いでみろ!!」

 

「匂いを嗅いでみろって……えっ!?」

 

「嘘だろ!?どう見ても普通の水にしか見えないのに……?」

 

「まぁ、まずは味わってみるんだ、今の3人なら分かる筈だぞ?」

3人は武昭からスープを注がれると言われた通りに味わった。

「うおっ!なんだこの味は!?」

 

「凄く透明なのに、色んな食材の味がするぞ!!」

 

「けど、どれもケンカしてなくて、それぞれが引き立て合ってるわ……ねぇ、武昭、このスープは何なの?」

 

「あぁ、こいつはセンチュリースープと呼ばれてるスープなんだ……けど、まだ未完成なんだ」

 

「嘘だろ……これだけの旨さなのに武昭の腕前で未完成だって言うなら、完成したらどれだけの旨さなんだよ……」

 

「完成形のセンチュリースープは鍋の蓋を開けたと同時にオーロラが浮かび上がるんだ……

そして、味は極めて濃厚でありながら喉越しはしつこくなくて飲んだら美味しすぎて顔がにやける程なんだ……」

 

「それだけの味わいがするって言うのか……けど、武昭はなんでこれを私達に出したんだ?」

 

「それは皆に俺の目標を話したかったからだ」

 

「武昭の目標って何かしら?店を出す事じゃないの?」

 

「それもあるけど最終目標としては【人生のフルコース】を完成させたいんだ」

 

「人生のフルコース?ってなんだ?」

 

「人生のフルコースって言うのは美食家がその人生をかけて作り上げるメニューの事なんだ。

内容としては前菜(オードブル)、スープ、魚料理、肉料理、主菜(メインディッシュ)、サラダ、ドリンク、デザートの8つからなるんだ」

 

「武昭は、そのフルコースのメニューは全部決まってるのか?」

 

「いや、まだ一つも決まってないんだよ……本当に入れたい物が見つからなくてな……」

 

「あ……もしかして、このスープって……武昭がフルコースに入れようとしてるの?」

 

「いや、こいつは今の俺で何処まで再現出来るか作った物で……3人への食義の修行の終わりとして作ったんだ」

 

「えっ?……修行の終わりって……」

 

「簡単に言うと俺が教えれる事はここまでなんだ……だからこれで修行の終わりとする」

武昭はアリスの言葉に、そう答えた。

 

「そうだろうな……武昭がしてきた修行も俺達がしてきた事と変わらないんだろ?」

 

「あぁ、リョウの言う通りだな……けど、俺は()()()を教えてないんだ」

 

「ん?そのある事ってなんだよ」

 

「俺は皆に食義を教える時にランクみたいな物を言ってたけど覚えてるか?」

 

「あぁ、確か基礎コースと上級があるって言ってたな」

 

「実は皆が今日までやってたのは俺が受けた上級コースと基礎コースが混ざった物で名付けるなら中級コースって所なんだ」

 

「なっ!?そうだったのか!?」

 

「まぁ3人なら出来ると思ってやらせてみたんだけど、やっぱり皆は乗り越える事が出来たな」

 

「もーう、どうりで厳しかった筈ね!けど、そのお陰で食義を身に付ける事が出来たのだから感謝するわ」

 

「ありがとうな、アリス、それで皆に修行終了の証として、これを渡す」

武昭は小さな箱を3人に渡した。

 

「何が入っているんだ?……かなり短いけど……これって箸か?……」

 

「けど、金で出来てる様に見えるんだけど……」

 

「そいつは向こうの世界の物質のグルメマテリアルって言う物で作った奴だ」

 

「軽く触っただけでも何か感じるぜ……」

 

「そいつは旨味で出来てて何万年使っても摩耗しないんだ」

 

「おい武昭……旨味って言ってるけど……まさかこれを使えば美味い料理が作れるのか?」

 

「答えを言えば作れるけど、それに頼ると成長はしなくなるぞ?」

 

「そうね……武昭の言う通りだわ……私は帰ったらこれを金庫にしまっておくわ」

 

「俺も自分が信頼がおける人の所に保存しておくっす」

 

「私は無くさない様にいつでも持っておくぜ」

 

「そうか……じゃあ、ここで宣言させてもらう……食義の修行!中級コース!これで終了する!!」

 

「「「ありがとうございました!!!」」」

3人は武昭に頭を下げた。

 




オリジナル食材

兎鷺 うさぎ 鳥獣類 捕獲レベル10
見る方向によってウサギにも鷺にも見える鳥。
臆病な性格で敵意を感じるとその脚力で距離を取って高くジャンプして、そのまま空を飛んで逃げる。
距離を取られると肉の中の毛細血管が切れて血抜きが難しくなる特殊調理食材。

ちなみにレベルの高さは見つけるのが難しいからで本来はレベル1以下。

毛皮はジャケットやマフラーなどにされる事が多く、その品物はそれなりの値段がする。

骨からは良い出汁が取れ人によっては血と混ぜてソースなどにする人もいる。

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