奇跡的にセリウス中佐率いるチベとムサイは戦闘宙域を脱出し、グラナダ一歩手前に迫っていた。
「グラナダまであと、八時間か。」
セリウス中佐がナカタ少佐に問いかける。
「はい。ですが、随伴のムサイのエンジン出力が少し落ちていますのでもう少々かかるやもしれません。」
随伴のムサイは動力系統に打撃を受けておりエンジンに不調が出てきていた。しかし、航続には問題なく、自艦の整備員のみで解決可能な問題だと報告を受けていた。
「リーデン。ゲルググの調子はどうか。」
セリウスは格納庫でゲルググの調節を行っているリーデンに通信で呼び掛けた。戦闘宙域を抜けた艦橋内では全ての艦橋要員がノーマルスーツを脱いでいた。
それに対して格納庫のリーデンは自分専用にカスタマイズされたノーマルスーツを着ていた。
「はい。極めて順調であります。」
随伴したムサイには三機のゲルググが搭載されていた。そのうち一機をチベに配置移動しリーデンが操縦することになった。学徒兵が操縦するよりは。ということであった。
リーデンの操縦するゲルググ1機は一般兵のゲルググ10機に勝る。
「総司令部より打電です。」
通信兵が声をあげる。
「何か。」
ナカタ少佐が応答する。
「はい。ジオン公国軍総司令部発。任命令。本日現在を持ってセリウス中佐を突撃機動軍司令代行に任命する。これにともないセリウス中佐を二階級特進させ准将に任ずる。早急に残存突撃機動軍を統率せよ。以上です。」
という命令文を通信兵が読み上げる。
「は?」
セリウス中佐、いや、准将は声を上げる。
階級が上がることはセリウスにはまだ理解できていた。
先のア・バオア・クー戦で多くの将官を失ったジオン軍には今、高級指揮官が圧倒的に足りていなかった。そのために大佐や任官されてから時間が経っている中佐を将官に無理矢理任命して軍の統制を図っているのだろう。と。国家、軍を指導するミネバ以外のザビ家の全滅、軍指導層である将官の多数が戦死。これは、ジオン軍の組織が実質崩壊したことを示していた。しかし、それは、【ジオン軍】として見た場合である。確かにドズル中将とコンスコン少将など名だたる指揮を失い、ソロモン戦で主力部隊を失った宇宙攻撃軍やア・バオア・クーで主力とギレン総帥を失ったギレン配下の軍は崩壊しただろう。しかし、突撃機動軍は違う。確かにキシリア閣下と虎の子ニュータイプ部隊の多くを失いはしたが、まだ、グラナダに総兵力の半分を残し、グラナダ艦隊司令のノルド少将やグラナダ基地司令のルーゲンス准将がいらっしゃる。まだ、突撃機動軍は組織的活動が出来るはずだ。だからこそ、セリウス准将はグラナダに向かっているのだった。
だからこそ、【突撃機動軍司令代行に任命する】ということがわからない。私よりも階級が上の軍人がいるはずだ。しかも、【統制せよ。】だと。確かに混乱はしているだろうが、わざわざ、総司令部が出すような司令ではない。
この疑問がセリウスの喉元に引っ掛かり「は?」という声を上げさせた。
「リーデン。すまんが艦橋に上がってきてくれ。」
セリウスは副官を呼び寄せる。
「セリウス閣下。どうしますか。」
ナカタ少佐が命令を求める。総司令部からの電報にどう応答するか求めている。セリウスはナカタに閣下をつけて呼ばれたことに少し動揺した。
「了解した。そう伝えろ。」
「わかりました。伝えろ。」
「は!」
取り敢えずは了解を伝えることにした。
総司令部からの命令に異議を唱えることは良しとはされない。
「ムサイのエンジンはどうか。」
ナカタ少佐に問いかける。
「修繕は完了しています。」
そう答えた。
「ムサイを先行させろ。グラナダの様子を確認せよ。」
セリウスはグラナダのことが気がかりであった。
なぜ、自分がノルド少将やルーゲンス准将を差し置いて司令代行になったのか。そして、グラナダの兵力はどうなってしまったのか。
そこで、高速のムサイを先行させた。
後ろの自動ドアが開きリーデン大尉がノーマルスーツ姿で艦橋に入ってきた。
「准将殿。参りました。」
さっきの命令文の内容を格納庫で聞いていたようでセリウスのことを准将と呼んだ。
「ご苦労。率直に聞く。どう思う。」
「はい。やはり、司令代行というのが気になります。」
リーデンもセリウスと同じ意見だった。
「だな。私もだ。ともかく、グラナダに行かねばならんことは変わらんな。」
「はい。」
「新情報です。」
通信兵が声を上げた。
「ズムシティにて未明にギレン総帥親衛隊と首都防衛師団所属首都防衛大隊が戦闘。結果、ズムシティは首都防衛師団及びダルシア・バハロ首相が掌握しました。」
「なに!」
リーデンが驚きの声をあげた。
「続けて、急報です。グラナダ陥落。繰り返します。グラナダが陥落しました。我らのグラナダが陥落!」
「そんな!馬鹿な!」
セリウスは動揺した。
グラナダには突撃軍の半分が温存されていたはずだ。
しかも、艦隊指揮に優れるノルド少将が指揮官として残っていたはずだ。ア・バオア・クーで主力を使っている連邦軍が片手まで落とせるほど軟弱な拠点ではないはずだ。
「連邦軍の大部隊がこんなところにいるはずがない。」
補給路から考えてもそうだ。
通信兵が情報を付け加える。
「グラナダはダルシア・バハロ首相が連邦軍小規模部隊と共にグラナダを攻撃したようです。」
ダルシア・バハロの売国奴め。とセリウスは思った。
連邦の大部隊ではなく首都防衛師団、つまり、本来味方であるはずのジオンの大部隊が攻撃したのか。
しかし、それてもなおおかしい。
たかが首都防衛師団程度で用意に落とせるはずがない。
ノルド少将に限って…。なるほど、ノルド少将だからこそか。あの方は武人気質だア・バオア・クー陥落と共に降伏でもしたのだろう。味方とは戦いたくなかったか。
「グラナダ残存部隊は他の残存部隊同様に秘匿宙域カラマポイントに向かったようです。」
通信兵が情報を吐き出し終えた。
実際ノルド少将は漢だった。
ジオンの敗北を悟りながらも、友軍がア・バオア・クーで戦ってる間は首都防衛師団と連邦軍部隊と交戦していた。
しかし、ア・バオア・クーが陥落すると、すぐさま降伏した。彼の戦闘の意義はア・バオア・クー陥落とギレン、キシリア両名の死で失われたのだった。
そして、グラナダ残存部隊の内、継戦を望む部隊は密かにカラマポイントに脱出させたのだった。
「わかった。我らもカラマポイントを目指す。目指す他あるまい。先行させたムサイにもそう伝えろ。」
「はっ。針路をカラマポイントへ。」
セリウスの命令を聞いたナカタは船の針路を変えた。
「前方に確認できるだけでザンジバル1、チベ3、ムサイ7、パプア4の艦隊です。」
観測兵が報告した。
「まさか首都防衛師団か?!」
ナカタが声を上げる。
仮に首都防衛師団だったならば、交戦か降伏かを迫られるわけだ。
「落ち着け、航路とグラナダからの距離から考えても首都防衛師団ではない。あれは恐らくア・バオア・クーの残存突撃軍艦隊だ。回線開け。」
「は!」
通信兵が答える。
「こちら、セリウス准将だ。このたび、突撃軍司令代行の任についた。そちらの所属は。」
チベの艦橋の天井部分についたモニターに軍服姿の漢が映って話した。
「こちらは、ア・バオア・クー派遣残存艦隊です。私は指揮官代行のバルダ大佐です。探しておりました。」
大当たりだった。
しかも、バオア大佐と名乗った男の階級章は少佐のままだった。彼も野戦昇進で大佐になったのだった。
バルダは続けて話す。
「グラナダは陥落しました。入港は降伏と引き換えだと言われましたが、受け入れられず、セリウス准将をさがし、来た時の航路を戻っていたところです。」
セリウスも答える。
「なるほど、理解した。我々はカラマポイントを目指す。貴官の艦隊も合流せよ。」
「了解しました。」
「合流に伴い艦隊の戦力を報告してくれ。」
「は。我が艦隊はザンジバル1隻。チベ4隻。ムサイ8隻、補給艦6隻。MSは、ゲルググ22機、ドム13機、ザク7機、特務MS計3機です。」
「了解した。力強い。合流ありがたく思う。以上。通信終了。」
こうして通信は終了した。
「これだけの戦力が残っていたとは。」
リーデンが感動でもしたかのように言った。
「ああ、だな。ゲルググが多いのも嬉しい。これだけの戦力があれば任務遂行も用意であろう。デラーズの馬鹿にも嘗められずにすむだろう。ジークジオンだな。」
「ええ、ジークジオンですね。」
こうして、セリウス率いるア・バオア・クー派遣残存艦隊はジオン残党の合流地点、秘匿宙域カラマポイントへと向かうことになった。