カラマポイントには宇宙中と言っても過言でないほどのジオン残党軍が集まっていた。
すでに頭となるべきザビ家の人間をことごとく失ってしまっていたジオン軍残党は今後の方針を決めるに当たって主要人物による【話し合い】という古典的な方法をとらざる終えなかった。
ジオン軍残党といっても一枚岩ではない。
この最終局面、いや、再出発局面になってもなを一致団結などという考えは毛頭なかったのである。
このカラマポイントに集まった主要勢力。
デラーズ中将率いるギレン親衛隊以下ギレン派の軍。
マハラジャ・カーンにいつの間にか纏められているグラナダ残存軍を中心にした残存軍。
ラコック大佐率いる旧宇宙攻撃軍閥。
セリウス准将率いるア・バオア・クー派遣突撃機動軍。
の四勢力が今後の方針について【意見交換】を行った。
グワジン級戦艦グワデンに四勢力の代表が集った。
グワデンに限らずグワジン級戦艦は全て、ザビ家延いてはジオン軍の象徴となる船である。そのため、内装は異常なまでに豪華絢爛である。そして、無駄に部屋が多い。現に、この集いのために用意された大部屋も本来の作戦行動や戦闘に必要のないものだった。壁にはギレンの自画像が飾ってあった。
【ジオン公国軍戦略方針最高指導会議】
これが、この集いにつけられた大層な名前であった。
「今後の方針であるが、再起を図るべきだろう。」
マハラジャ・カーンがもっとも先に口を開いた。
彼は政治家であるからこの会議の主導権を軍人よりも先に手にする必要があった。そして、この政治局面において自分が主導権を握ることは当然だと考えていた。
「貴殿の意見には賛成である。」
デラーズはその考えに賛同した。
そして、続けた。
「しかし、貴殿らと共に行動する気は毛頭ない。」
そう言いはなった。
「デラーズ中将。どういうことか!」
マハラジャ・カーンは声を上げた。
誰が考えてもそうだが、この期に及んでは協力するよりないはずだ。
「カーン殿。我らはギレン閣下の意思のもと真のジオン再興のために行動する。貴殿らのような賊と共に行動できようか!」
デラーズも声をあげた。
ギレンはキシリアに暗殺された。これが、デラーズの見解であった。もっとも安全な場所にあったギレンを暗殺でき、更にそれによって得するものはキシリア以外に考えられなかったからだ。
そして、マハラジャ・カーンはジオンでキシリア派の人間として名が通っていた。そんな人物とは何があっても行動を共にしたくない。というのが、正直なところだった。ギレンの大志を輝かせずにキシリア派に取り込まれるなど容認できなかったのだ。純粋な数だけで言えばア・バオア・クーですり減ったギレン派よりも主力を温存させていたキシリア派の方が上回っていた。
「ここに及んでは一致団結し再起を図るしかない。私はそう考える。そのために私はアクシズへの撤退を進言する。」
マハラジャ・カーンは提言した。
宇宙の辺境。地球圏の向こう側であるアクシズへの撤退。そうしたならばさすがの連邦軍でも追い縋れまいと考えての提言だろう。
「私は賛同する。」
ラコック大佐が賛同した。
ソロモン戦で戦力の殆どと頭を失った宇宙攻撃軍の残党は彼のもとに集っていた。まだ戦える部隊はア・バオア・クーに引き抜かれ、彼のもとに残っていたのは首都防衛を名目に残された満身創痍の兵士と艦艇のみだった。そんな彼は最大の勢力と財力・資源を誇るマハラジャ・カーンにつくしかなった。彼もすでにマハラジャ・カーンに懐柔されていたのだ。
「ラコック大佐。賛同ありがとう。」
「地球圏外への脱出など容認できん!貴様らに誇りはないのか!スペースノイド未来のために地球圏で抵抗してこそジオンである!地球圏に住むスペースノイドを全て見捨てるというのか!それこそ我らはジオンの求心力は地に落ちるぞ!なぜそんなこともわからん!」
デラーズは叫ぶ。
彼の意見にも一理ある。確かにここで遠方に退けば、尻尾を巻いて逃げた。と思われる恐れがある。
今のジオンに有り、連邦に抵抗できる点はスペースノイドへの求心力以外に無い。それを失うのは痛すぎる。
「地球圏に残り、全滅したいのか!」
マハラジャ・カーンも正論を放つ。
求心力を失うことも恐ろしいことだが、全滅は最も避けるべき事だ。
「これは、正義の戦争である!我らの全滅はあり得ない!」
今度はデラーズが叫ぶ。
ギレンの考え方そのものであるなとセリウスは思った。
理論的弱点を無理矢理な理論や精神論で補おうとする。これがギレンの思想の根本的問題であり、そうでありながら論理的で合理的な世界を実現しようとしているところが矛盾であると、セリウスは考えている。
「貴様はア・バオア・クーを見ていないのか!あれが現実ではないか!」
マハラジャ・カーンが叫ぶ。
これは、デラーズの琴線に触れたようであった。
セリウスにも確かにブチッという音が聞こえた。
「貴様!何を言うか!あれは貴様ら売国奴の謀略とキシリアの愚か者によって起こされた惨事ではないか!自身の悪行を棚におき、我等を批判するとは恥を知れ!売国奴が!」
デラーズが叫んだ。
とうとう、キシリア、ザビ家批判を公然とやってのけたのだ。これにはマハラジャ・カーンも黙っていられなかった。
「根拠の無い誹謗中傷もいい加減にしろ!公王陛下を謀殺しておきながら何が売国奴か!何が正義か!貴様らこそ真の売国奴ではないか!貴様と話していても無駄だ!我らは我らで行動する!貴様も勝手にするがいい!」
マハラジャ・カーンは席も立った。
ラコックも立つ。
しかし、セリウスは立たない。
「セリウス殿?!」
マハラジャ・カーンは焦った。
同じキシリア派であるセリウスが自分と行動を共にしないとは思っていなかったからだ。そのため、セリウスには裏工作を行っていなかった。
しかし、マハラジャ・カーンはここで根本的な勘違いをしていた。
突撃機動軍・キシリア派という組織もまた、一枚岩ではないのだ。セリウスは軍人である。彼はあえて詳しく言うならキシリア派の軍人であり、キシリア・軍人派に属していた。それにたいしてマハラジャ・カーンは政治家であり、キシリア・政治派であった。
キシリアには政治家としての一面と軍人としての一面があった。そのため、軍人も政治家もどちらも集まり、どちらも勢力を持っていた。そして、軍人と政治家は相容れない存在であった。グラナダの突撃機動軍はキシリア・軍人派の牙城であったが、戦争の中で多くのキシリア・軍人派の人間が死に、ア・バオア・クー戦の為に参謀副長のセリウスを始め残ったキシリア・軍人派も出払い、ノルド少将が連邦に投降した為に空になったグラナダの部隊をキシリア・政治派が支配下においたのだった。
この行為はキシリア・軍人派の筆頭であるセリウスに対しての宣戦布告であった。
その事をマハラジャ・カーンは甘く見ていたのである。
そして、セリウスという人物も見誤っていた。
セリウスはキシリア軍事顧問的存在として突撃機動軍を参謀副長として戦略的に支え、キシリアの出す無理難題、大戦略を形にしてきた男であった。
そんなセリウスをマハラジャ・カーンは頭はよいが対局眼がない組織の論理に逆らえないキシリアの腰巾着と捉えていた。
そのため、マハラジャ・カーンはセリウスはこの期に及んでは自分について来ると考えていた。
しかし、セリウスは違った。
確かにセリウスは組織に逆らわないようにはしてきた。それは参謀副長としての自分の立場を考えていたからだ。しかし、今となっては違う。今のセリウスは突撃機動軍の実質的最高指導者であり、自分の戦略で戦える立場になっている。今までキシリアに断られてきた自分の戦略でジオンに尽くせる立場となっていたのだ。マハラジャ・カーンの的外れな戦略に付き合う義理も道理もなかった。
マハラジャ・カーンの撤退戦略もセリウスにとっては愚策にしか思えなかった。
時間が経てば連邦とジオンとの戦力差は開き続けるだけである。その上、ジオンの技術おも吸収するであろう連邦に資源にも乏しく人的資源も無いジオンが時間を無駄に浪費する行動をなんの策もなくその場しのぎ的に行うことなど愚かであり、他のスペースノルドへの求心力も捨て去るなど政治的にも軍事的にも取るべきで手段ではなかった。そこがわかっているだけデラーズの方がましだとセリウスは考えた。マハラジャ・カーンは立て直すというが、ジオンが立て直している間に連邦も立て直すのだ。
仮に連邦を圧倒し、地球に迫ったところでアクシズから伸びきった補給線を支えることなど不可能である。その上、今は連邦憎しとジオン・ズム・ダイクンの思想で統率がとれているジオン軍も時間が経てば思想的問題で今よりも更に分裂し内紛が起こるだろう。ミネバ様が今は唯一の後継者として求心力を持っておられるが、時間が経てば他にもザビ家の血を引くと僭称するものも出てくるだろう。歴史がこれらを証明している。もし、これらによって起きる紛争や反乱が連邦との戦争時に起きたらどうする気なのか。私が反乱を起こすならこれを好機に思う。これだけの問題を内包するマハラジャ・カーンの案になど乗れるわけがなかった。
しかし、これをセリウスが口に出さないのには理由があった。すでに四つに別れているジオン軍をこれ以上、分裂させたくなかったのだ。マハラジャ・カーンはプライドが高い男だ。絶対に自身の策を曲げたりはしない。しかし、マハラジャ・カーンがそうだとしてもマハラジャ・カーンを、よく思わない宇宙攻撃軍残存部隊の一部やグラナダ残存部隊の一部などが自分につくかも知れない。そうしたならば下手したらマハラジャ・カーンの軍閥が内部から崩壊するかも知れなかった。最大勢力のアクシズ移動派が崩壊するなどこの局面では避けたかった。
「私は地球圏に残る。貴殿らはアクシズに向かうといい。」
セリウスはそういった。
「しかし、セリウス准将。この期に及んでは。」
「カーン殿の意見もわかるが、私は賛同できない。すまないが、ここで袂を別つしかないようだ。」
「だが。」
マハラジャ・カーンはなかなか譲らない。
セリウスの頭脳と率いる部隊を失うのはあまりにも痛すぎると考えたのだった。
「セリウス准将は決断したのだ!この会議の結果は各自、各自の全力を持ってジオン再興を図る。これで良いではないか!」
デラーズが妥協案を出す。
早い話が早く私の艦から出ていけ。ということだが。
「デラーズ中将閣下。ありがとうございます。それでは、失礼します。」
そういうとセリウスは席を立ち、部屋を出た。
「セリウス殿。本気か。」
マハラジャ・カーンが追い縋る。
「ええ。私には私の使命がありますので。」
「しかし。」
尚も追い縋るマハラジャ・カーンを置いてセリウスはさっさと格納庫に向かった。
向かった先の格納庫でラコック大佐と会うことになった。手すりにもたれ掛かりタバコを吸う、ラコック大佐。
「ラコック大佐。」
セリウスが声をかける。セリウスもタバコを吸う。
「これは、セリウス閣下。これが、最後かも知れませんな」
「はい。ですね。」
ラコック大佐はつい先日までセリウスよりも階級が上だった。しかし、宇宙攻撃軍出身のため冷遇され野戦昇進がなかったのだ。セリウスもつい、敬語になってしまう。
「セリウス閣下のお考えもわかります。しかし、私はアクシズへ向かいます。」
「是非、そうしてください。ミネバ様をお願いします。」
今回、アクシズへ行くこととなったミネバを任せることが出来るのはドズルへの忠誠心に富み、死後も彼の軍をまとめてきたラコックしかいなかった。
実のところラコックもミネバことを考えて、最終的に今回のアクシズ行きを決めたのだった。
「ラコック大佐に話しておかねばならぬことがひとつあります。」
「なんでしょうか。」
セリウスは決断した。
「私はザビ家の皆様の精子と卵子を持っています。」
「なんですと。」
ラコックは小さく驚いた。
セリウスが会議の場でこの事を言わなかったのには理由があった。それは、ミネバの立場と今後のジオンのことを考えてのことだった。ミネバは唯一、サビの血を引くものとして求心力を誇っている。しかし、もし、ロゴスのことが知れたのならばミネバの立ち位置は完全に失われることとなる。そして、ジオンはこの先、更に勢力を失っていくことは見えている。そのジオンがすがり、纏まる中心となるべきザビ家の血がミネバ以外に複数あることも問題だと考えた。少ないジオンが複数のザビ家の後継者を立てて分裂など考えるだけでも嫌気がさした。
それらを回避するためにもこの、ロゴスは会議に出すべきではないとセリウスは考えた。マハラジャ・カーンやデラーズならば必ず、キシリア・ギレンの後継者を望み、争い合うとセリウスは確信していた。
「よくぞ、秘匿してくださいました。」
ラコックが感謝を示した。
恐らくセリウスと同じことを思ったのだろう。
「いえ、ジオンを思ってのことです。」
セリウスの言葉に嘘偽りはなかった。セリウスのジオンへの忠誠心と再興への思いは本物だった。
「して、それは、どうするのですか。」
当然の疑問である。
「ここでは言えません。しかし、ミネバ様を害する気はありませんのでご安心ください。」
「重ね重ね…。ありがとうございます。」
「いえ、ジオンをら思ってのことです。それでは私はここで。移動船の準備ができたようですので。」
タバコを踏み消すとセリウスは移動船のに向かって飛んだ。
「御武運を。」
「御武運を。」
そういって、2人は別れた。
この二人の優れた戦略家はこの先、二度と顔を合わせることはなかった。
こうして、カラマポイントでの会議はなんの成果もなく、各自の主張を確認するのみで終わった。
各艦隊は各自の野望を胸に方々に散っていくのだった。