ア・バオア・クー陥落から一週間後。
ジャブローの薄暗い一室では浮かない顔の将軍たちが肘を付き合わせていた。
「これは事実なのだな。」
ゴップ大将は不必要な質問をぶつける。
「事実ですよ。サイド3に入った書類狂いどもがわざわざここまで持ち込んできたんですから。」
一人の将軍が回答した。
この頃、連邦軍はサイド3に事務方を送り込みジオンの機密書類を漁らせていた。
機密書類の多くは消去されていたが、敗戦時の混乱の中で消去しきれていないものもあった。
その一つが【ロゴス】についての経過報告書であった。
「こんなものに何を踊らさせるものか。放って置けば良いじゃないか。」
「そこ通りだ。生まれたところで誰も信じないさ。」
「しかしなぁ、放置と言うわけにも行くまいよ。ジオンの馬鹿どもはなんにでもすがりつがる。」
「ミネバ・ラオ・ザビだけでこっちは頭が一杯だというのに面倒な。」
将軍たちは次々に意見を出し合い、方針らしきものを決めていく。この会議の実質的指導者であるゴップか口を開く。
「ジオン残党の動きは?」
「大部分はアクシズへと逃亡したようです。地上戦は現在も継続中。」
「そうか。この様子だと、まだジオン残党はロゴスとやらの存在を完全には認知してないようだな。今の内に確保するのが最善だろう。」
ゴップはそう考えた。
ジオンならばミネバを祭り上げるようにロゴスのことも祭り上げる、それがないのであればまだ、周知の事実ではないのだろうと考えたのだった。
「確かにそうですな。」
「今が好機でしょう。」
「ロゴスとやらはどこにある?」
「例のセリウス将軍が持ち出したそうだ。他の残党とは別行動らしいな。」
ジオン残党の中にも内通者はいるのだ。
筒抜けとはなっていないものの情報は漏れるのだ。
その上、セリウスは突撃機動軍の軍事的指導者、キシリアの参謀として連邦軍上層部には名が通っていた。
「キシリアの亡霊が。奴はどこにいる。」
「流石にそこまでは漏れてこんよ。」
「では、どうするんだ?見つけようが無いではないが。」
「それについては、私の耳に情報が入っています。」
最近、准将に昇進したジャミトフが自分の仕入れた情報をこれ見よがしに報告した。
「なるほど、サイド3より向こうの資源惑星に潜伏中か。」
ゴップ大将は面白そうな顔をし、納得した。
当時、慢性的な資源不足に悩まされていたジオンはありとあらゆる宙域から資源のある小惑星をかき集めていた。その一つ、サイド3を臨む位置にある小惑星ににジオン残党が潜伏している情報に疑問はなかった。
「ということは、グリーン・ワイアット中将の管轄か。
」
ゴップの顔が曇る。
彼は決してグリーン・ワイアットのことが好きではなかった。紅茶を何処でも呑むキザな男でありながら、自分と同じ匂い出すグリーン・ワイアットは同族嫌悪的に苦手であった。
グリーン・ワイアットは今、旧ジオン宙域。つまり、ア・バオア・クー、グラナダ、コンペイトウ、サイド3の駐留連邦軍の最高責任者だ。
「そうだ、ゴップ。私の部隊を出そう。」
ジーン・コリニー大将はゴップに提案する。
「例の隊か?」
ゴップは聞き返す。派閥違いのジーン・コリニーに手柄を立てさせるのは癪であった。
「ああ、新型もある。隠密作戦にはもってこいだと思うが、どうだ?」
ジーン・コリニーの溢れんばかりの嫌味な善意で紡がれる言葉にゴップは心底嫌気が差したが「武闘派の子飼いの部下の多くをア・バオア・クー戦で失い、その上旧ジオン宙域をグリーン・ワイアットのキザ野郎に横取りされた身からすれば、まだ話し合えるジーンコリニーに手柄を立てさせてやるのも悪くはない。」という読みもあった。どう転んでもゴップ閥の圧倒的有利に代わりはないのだ。
「わかった。では、この件はお前に一任するよ。」
ゴップは見事、厄介払いに成功した。
そして「何かの間違いで宇宙に上がる前に沈まねばいいがな?」と心のどこかで思うのだった。